6.3.白いキングの応手
6.3.白いキングの応手
『――データ送信を確認。送信先は、内閣情報調査室の秘匿サーバーで間違いありません』
司令室。Nagiが映し出すモニターには、時雨の通信記録が、揺るぎない事実として表示されていた。
私の隣で、静香が腕を組み、冷たい笑みを浮かべる。
「……見事にやってくれましたわね、あの子。私たちの掌の上で踊っているフリをしながら、しっかりと仕事はこなしている。大した役者ですこと」
「うむ。おかげで、確信が持てた。彼女は、ただの学生ではない。内調が、我々の懐に忍び込ませた、最高練度のエージェント……『梟』だ」
『梟』。それは、かつて私が、ある筋から耳にしたことのあるコードネームだった。存在が公にされていない、内調の特殊作戦部隊。その中でも、最も優秀な者にのみ与えられるという称号。まさか、こんな少女が、その『梟』だとはな。
「マスター。どうしますか?これで、彼女を追い出す口実は十分にできましたが……」
静香の問いに、私は静かに首を横に振った。
「いや、泳がせる、と言っただろう。むしろ、好都合だ」
私は、モニターに映る時雨の、儚げなプロフィール写真を見つめた。
「彼女の上官は今頃、送られてきた映像を見て、困惑しているはずだ。彼らが想定していた『危険なカルト教団』の姿は、そこにはない。代わりに映っていたのは、平和で、豊かで、そして、あまりにも理想的な共同体の姿だ。彼らは、さらに情報を求めてくるだろう。もっと『汚い』部分を、我々の『弱点』を暴け、と」
「なるほど……。彼女を、我々と政府とを繋ぐ、逆スパイとして利用する、と」
「その通り。そして、ただ情報を流すだけではつまらん。我々は、彼女という『駒』そのものを、ひっくり返すことを狙う」
私は立ち上がり、窓の外に広がる、野迫川村の静かな夜景に目を向けた。
「静香。君には、燈と響に、この件を悟られないよう、うまく立ち回ってもらう。あの二人の純粋な善意こそが、時雨の心を揺さぶる、最大の武器になるだろうからな」
「……承知いたしました。ですが、マスターは?」
「私か?私は……」
私は、不敵に口の端を吊り上げた。
「キング自ら、盤上に乗り出して、彼女にチェックメイトをかけに行くとするさ」




