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日本社会のノイズに絶望した最強AIエンジニア(62)、俺を「マスター」と慕う天才美少女たちと静かな理想国家を建国する  作者: 春凪一


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6.1.最初の駒

第六部 静かなるチェス


6.1.最初の駒


時雨を保護してから、数日が過ぎた。


彼女の足はComfyの治療で完全に回復したが、私たちは「大事をとって」という名目で、彼女を校舎に留め置いた。表向きは、か弱い遭難者への温情。だが、その実態は、盤上に置かれた駒の動きを、注意深く観察するための時間稼ぎに他ならない。


「時雨ちゃん、こっちの手拭い、お願いできるかな?」


「はい、響さん!」


甲斐甲斐しく時雨の世話を焼いていた響は、いつの間にか彼女をすっかり「お手伝いさん」として懐柔……いや、懐柔されていた。洗濯物を畳んだり、Comfyと一緒に食事の準備をしたり。時雨は、常に控えめな笑みを浮かべ、誰に対しても丁寧に、そして完璧に、与えられた役割をこなした。


「いやー、助かるなあ、時雨ちゃんは!仕事が丁寧だし、気が利くし!うちの燈とは大違いだよ!」


「ちょっと響!聞こえてるわよ!」


音楽室から、燈の抗議の声が飛んでくる。


「ふふっ。私、こういうことしか能がないんです。響さんや燈さんみたいに、特別な才能があるわけではないので」


時雨は、そう言って、少し寂しそうに笑う。


その言葉と表情は、響の庇護欲を的確に、そして更に強く刺激した。


「そんなことないって!時雨ちゃんは、人の気持ちが分かる、すっごく優しい子だよ!それって、何よりの才能じゃん!」


「……ありがとうございます、響さん」


響の純粋な善意は、時雨にとって、最も扱いやすい情報源となっていることだろう。私は、司令室のモニター越しに、彼女たちのやり取りを静かに見守っていた。


時雨は、決して自分からは情報を求めようとはしない。


ただ、ひたすらに受け身に徹し、響たちがお喋りの中で零す情報の断片を、一つ一つ丁寧に拾い集めている。


『燈の実験がもうすぐ新しいフェーズに入る』こと。


『静香が、海外の投資家と頻繁に連絡を取っている』こと。


『私が、毎朝同じ時間に、裏山を散歩する習慣がある』こと。


どれも、単体では意味をなさない、些細な情報だ。だが、それらを繋ぎ合わせれば、我々の活動パターンが、徐々に見えてくる。


(……見事なものだ)


彼女は、スパイとして、完璧な立ち振る舞いをしている。


決して焦らず、疑われず、ゆっくりと、しかし着実に、聖域の心臓部へと浸透していく。その様は、まさに獲物の身体に、ゆっくりと毒を注入していく、美しい蜘蛛のようだった。


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