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日本社会のノイズに絶望した最強AIエンジニア(62)、俺を「マスター」と慕う天才美少女たちと静かな理想国家を建国する  作者: 春凪一


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5.7.静かなるチェス

5.7.静かなるチェスの幕開け


「マスター。彼女を、どうしますか?」


夜。私の司令室に、静香が一人で訪ねてきた。

彼女の表情は、いつになく険しい。


「AIたちの分析では、シロ。だが、君の直感は、クロだと言っている。……違うかね?」


「……はい。論理的ではありませんが、あの少女からは、底の知れない『何か』を感じます。まるで、美しい花瓶に活けられた、毒の花のようです」


「同感だ。だが、今は追い出すわけにはいかん」


「……と、仰いますと?」


私は、チェス盤を挟んで、静香に向かい合うように座った。


「彼女は、政府が我々の盤上に置いた、最初の『黒い石』だ。こちらの正体も知らず、迂闊にこの石を取り除けば、相手に我々の警戒レベルを教えるだけになる。それは、悪手だ」


私は、白いキングの駒を、そっと指で撫でた。


「ならば、どうすべきか。……答えは、簡単だ。彼女を、泳がせる」


「泳がせる……ですって?」


「うむ。彼女が、何を目的とし、何を暴こうとしているのか。その全てを、我々の管理下で、あえて見せるのだ。我々の理念を、我々の技術を、そして、我々のチームワークを」


私は、静香の瞳を、まっすぐに見つめた。


「これは、新しいゲームの始まりだ、静香。情報戦のプロである、君への、最初の試験でもある。あの毒蜘蛛に、我々の『真実』を見せた上で、さて、彼女がどちらに転ぶか。政府に、偽りの報告を持ち帰るのか。あるいは……」


「……あるいは、我々の理念に『共鳴』し、白に寝返るか、ですか」


静香が、私の言葉を引き取った。その口元には、いつもの不敵な笑みが戻っていた。


「……面白い。面白くなってきましたわ、マスター。そのゲーム、謹んでお受けいたします」


「うむ。頼んだぞ」


こうして、私と静香の間で、新たな方針が決定された。


聖域に放たれた一匹の毒蜘蛛。彼女を、あえて客人として迎え入れ、その牙が我々に届くか、それとも、この聖域の静けさに、その毒が浄化されてしまうのか。


静かなるチェスの、本当の幕開けだった。


盤面には、すでに黒と白の駒が並べられている。


最初の、一手は。


さて、どちらから指されることになるだろうか。



――第五部・完――


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