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日本社会のノイズに絶望した最強AIエンジニア(62)、俺を「マスター」と慕う天才美少女たちと静かな理想国家を建国する  作者: 春凪一


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5.5.招かれざる客

5.5.招かれざる客


保健室に改造された一室のベッドに、その少女は静かに横たわっていた。


歳の頃は、響たちと同じくらいだろうか。シンプルな登山ウェアに身を包み、しなやかな手足が痛々しく投げ出されている。艶やかな黒髪が、汗に濡れて白い額に張り付いていた。


気を失っているようだが、その寝顔は驚くほど整っており、まるで精巧な人形のようだった。


「Comfy、容態は?」


『はい、マスター。軽い打撲と、足首の捻挫です。命に別状はありません。すぐに治療を開始しますね』


メイド服姿のComfyが、手際よく少女の足首に治療用のナノマシン・ジェルを塗布していく。


「よかったぁ……。山の中で一人で倒れてて、本当に心配したんだから」


響が、心底ほっとしたように胸をなでおろす。


「しかし、こんな奥深い山に、なぜ一人で……」


燈が、訝しげに呟いた。


「彼女の所持品です」


静香が、小さなバックパックを差し出した。中に入っていたのは、学生証と、少しのお金、そして一冊の古びた本だけだった。


「学生証によると、名前は時雨……。東京の女子大に通う、普通の学生のようですわ。趣味は、史跡巡りと登山、と」


「その本は?」


「『大和古寺巡礼』……。有名な歴史エッセイですわね。この近くにある、平維盛の伝説が残る場所を目指していて、道に迷った……と考えるのが、自然なシナリオでしょうか」


全てが、完璧に「ありきたりな遭難事故」を示していた。


だが、その完璧さに、私は逆に不気味さを感じていた。


その時だった。


「……ん……」


少女が、小さく身じろぎし、ゆっくりと瞼を開いた。


長い睫毛に縁どられた、漆黒の瞳。その瞳が、部屋の中にいる私たち一人一人を、ゆっくりと確認するように動いた。


そして、私の姿を捉えた瞬間、その瞳が、ほんのわずかに、鋭く光ったのを、私は見逃さなかった。


それは、獲物を見つけた狩人の光。


しかし、その光は一瞬で消え、次の瞬間には、か弱い少女の、不安げな眼差しへと変わっていた。


「……あの……私は……?」


か細く、透き通るような声。


「大丈夫かい?君は山で倒れていたんだ。ここは、私たちの学校だよ」


響が、優しく声をかける。


「……学校……?ありがとうございます、助けていただいて……。私、時雨、と申します」


そう言って、時雨と名乗った少女は、ベッドの上で、深々と頭を下げた。


その一連の動作は、非の打ち所がないほどに丁寧で、儚げで、そして――完璧に計算され尽くしているように、私には思えた。


(……来たか)


私は、内心で呟いた。


日本政府が送り込んできた、最初の『ノイズ』。

そして、おそらくは、これまで我々が相手にしてきたどんなものよりも、厄介で、危険な存在が。


こうして、我々の聖域に、一人の美しい毒蜘蛛が、その最初の糸をかけたのだった。


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