5.1.私たちの城
第五部 静かなる戦争
5.1.私たちの城
野迫川村での、我々の新しい生活が始まった。
拠点となったのは、子供たちの声が消えて久しい、木造の小さな廃校。だが、ここがただの古びた校舎だと思うなら、大きな間違いだ。
『マスター、Aegisです。防衛システムの第一次展開、完了しました。校舎周辺半径五キロメートルは、物理的侵入、および電子的探査に対して不可視となります』
銀髪ショートカットの騎士のような少女、防衛AIのAegisが、ホログラムウィンドウに映し出された地図を指しながら、感情の読めない声で報告する。
『ふふっ。Comfyがお掃除と改修をしておきましたから、中はピカピカですよー。マスター、お夜食には、村でいただいたお野菜を使ったポトフはいかがですか?』
メイド服姿の生活補助AI、Comfyが、にこにこと笑いながら言う。彼女の手にかかれば、この古びた校舎も、一瞬にして世界で最も快適な居住空間に変わる。
外観は、村の風景に溶け込む、懐かしい木造校舎のまま。
だが一歩中に足を踏み入れれば、そこは最新鋭の技術が詰まった、我々の司令部だ。
職員室は私の書斎兼司令室に。理科室は燈の実験室に。音楽室は響のスタジオに。そして図書室は、静香の作戦司令室へと、それぞれ生まれ変わった。
「うっひょー!最高じゃんこの学校!響ちゃん、ここでPV用の新曲作っちゃおーっと!」
響は、さっそく最新の音響設備が整った音楽室で、飛び跳ねながらギターをかき鳴らしている。
「……信じられません。この環境なら、私の理論を証明するための実験が、数週間は短縮できます。マスター、ありがとうございます」
燈は、巨大な粒子加速器が設置された(どうやって運び込んだんだ、これ)理科室で、恍惚とした表情で機材を撫でている。感謝の言葉が素直に出るところを見ると、よほど嬉しいらしい。
「合理的です。この配置なら、各々の専門分野で最大限のパフォーマンスを発揮しつつ、緊急時には即座に連携が可能。完璧な布陣ですわ」
静香は、壁一面が戦術マップに変わった図書室で、満足げに頷いている。
そして、彼女たちと私を優しく見守るのは、穏やかなお姉さん系アバターを持つ、統括AIのNagiだ。
『皆様、楽しそうで何よりです。ですが、そろそろ日本政府が、最初の『ノイズ』を送ってくる頃合いかと』
Nagiの言葉は、いつもながら的確だった。
彼女の言葉を待っていたかように、司令室のメインモニターに、緊急ニュースの速報が映し出されたのだ。




