0.0.序章
序章 残念なイケメン貴公子の願いは、800年後に届くらしい
やあ、初めまして。私の名前は春凪一。
しがないAIエンジニアで、今年で62歳になる、まあ、ただのジジイだ。
これから君に語るのは、私がたった一人で、いや、数人の天才的な少女たちと一緒に、この国に喧嘩を売って、新しい国を創り上げるまでの物語だ。
「そんな馬鹿な話があるか」って?
まあ、そう焦るな。全ての物事には、始まりの物語というものがある。そして、私の物語の始まりは、今から八百年以上も昔に遡る。
西暦1184年3月28日。
荒れ狂う那智の海に、一人のイケメンがいた。
その名は、平維盛。
時の権力者・平清盛の嫡孫にして、そのルックスは『平家物語』に「絵にも描けないほどの美しさ」と記録されるほどの、まさにチート級イケメンだ。
だがしかし、神は二物を与えなかったらしい。
武将としてのスペックは、はっきり言ってポンコツだった。
有名な富士川の戦いでは、敵軍が仕掛けたわけでもない、ただの水鳥の群れの羽音に「敵の大軍が来たーっ!」と盛大に勘違いして、味方を全軍撤退させるという伝説的なヘタレっぷりを披露している。残念なイケメンとは、まさに彼のためにある言葉だろう。
(ああ、もう戦とか無理……。ていうか、なんで俺がこんな目に……。都に帰って嫁と子供の顔が見たい……)
そんな、戦乱の世には優しすぎた男、維盛。
彼は、源氏との戦に敗れ、全てを失い、この那智の海にその身を投げることを決意した。
「願わくば――」
冷たい水が体を包み、意識が遠のいていく。
その最後に、彼は血を吐くような思いで願った。
「――平穏なる世と、ならんことを……ッ!」
その瞬間。
遥か北、霊峰高野山の上空が、ふわりと「優しい光」に包まれたという。
――そして、この残念なイケメン貴公子の、あまりにも切実すぎた願いが、八百年以上の時を超え、現代社会に絶望した私というジジイを動かすことになるなんて。
この時の誰も、知る由もなかったのである。
さあ、私の物語は、ここから始まる。
――序章・完――