侵入者(1)
――あぁ、最悪だ。
腰が痛い。
この岩の上で寝たせいで体の節々がバキバキだ。
…………ここ最近で一番最悪な目覚めかもしれない。
これは、質の良いベッドを急いで用意しないといけないな。
まあ、それはさておき。昨日チュートリアルを無事修了して新機能が色々と解放されたんだった。
寝心地は地獄で、気分も最悪だけどとりあえず確認してみよう。
《 アイテム 通話機能 ダンジョン改修機能 ガチャ機能 その他 が解放されました 》
うん。なんか色々増えたっぽい。
これは、これからのダンジョン経営が捗りそうですな。
でも、今の目標はただ一つ。そう、質の良いベッドで寝ることだ。
何が何でもベッドを手に入れなければいけな―――
《 外に出ることが目標では? 》
――おっと、これはシステムさん。じょ、冗談じゃないすか。
本気じゃないですって。
システムに呆れられている雰囲気なので渋々、外に出るための準備を開始する。
まずはこんな現代人の格好をしていたら絶対怪しまれるから《 アイテム 》で異世界っぽい衣装を買って、それからそれから…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……よし。完璧だ」
僕の頭の中にある異世界人風の服装、まあ言っちゃえば中世の服装に着替えた。加えて短剣を持って最低限の防衛も済ませた。
これでようやく外に出られる。
とはいえ、さっき確認したこれが少し気になる。
《 ダンジョンコアを破壊された場合、ダンジョンマスターは死亡します 》
……いやいや、ハードすぎんか?
まさか、命がけでダンジョン経営しろって話だったとは。
でもまあ、ベジタブル1号もいるし大丈夫だろ。
あいつ、見た目はアレだけど案外頼れる。そこら辺の野生動物じゃ負けないし、人間でも来ない限りは問題ない、はず。
ベジタブル1号に近づき、頭を撫でてやる。
「ぎゃごぉぉ♪」
嬉しそうに声を上げながら頭に乗っている手にスリスリとすり寄ってきた。
えッ?何こいつ。めっちゃかわいいんだが。
予想外の可愛さに固まってしまっていたがようやく自分を取り戻す。
ダンジョンに残ってこいつと一緒に居ても良いんだけど、今はベッド事情を改善しないといけない。ついでにこの世界のことを知らないといけない。
「ようやく外に出るぞ」
僕は高鳴る心を抑えながら、差し込む光の先――この異世界の地に、ついに足を踏み出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あたりは薄暗く、湿った木の匂いが鼻をくすぐる。
木が生い茂っていて視界が悪い。
こんなところでモンスターに襲われたらひとたまりもないな。
――はぁ、早く依頼を終わらせて帰りたい。
「ねぇ、アルバスぅ。ほんとに依頼にはここにあるって書いてあるのぉ?」
前を歩いていたスライネが、振り返って不満げに口をとがらせる。
だるそうに脚をぶらぶらさせて、仕草で訴えてくる。
「そう書いてあるはずなんだけどね……」
「今回の依頼はハズレだったのではないでしょうか」
左後ろを歩いていたハルディンの冷静な声が聞こえてくる。
俺達は駆け出しの冒険者パーティーだ。
当然、ろくな依頼はもらえないし、いたずら目的のデタラメ依頼を押し付けられることのも多い。
冒険者の多くはダンジョンで経験を積み、モンスターの素材や見つけた宝で生計を立てている者が多い。
ただ、俺達みたいな初心者パーティーは冒険者業だけで生計を立てるのが難しいのに加え、ダンジョンにも入場料がかかる。だから、こうして冒険者ギルドから与えられる依頼をこなすことでどうにかやりくりしているのだ。
この世界は弱肉強食。
ダンジョンを攻略して宝を手にし、英雄になる――そんな夢を見たこともあったけど現実はただ、今日の食い扶持を稼ぐことで精一杯だ。
はぁ、俺には冒険者が向いてなかったのかもな。
「何しみったれた顔してんのぉ?」
スライネが、いつもの明るい笑顔でこちらを覗き込んでくる。
「お前はほんと元気だな」
「何言ってんのぉ?元気だけがあたし唯一の取り柄なんだよぉ」
「えぇ、僕もその元気を見習いたいぐらいですよ」
そんな会話も慣れたものだ。
詐欺まがいの依頼を受けるのも、もう何度目だろう。
そろそろこんな生活とはおさらばしたいものだ。
「アルバスくん、あそこ。何か見えます」
「え?」
ハルディンが指差す方を見ると、岩肌にポッカリと空いた洞窟のような穴があった。
「洞窟かなんかなのかなぁ?」
「ちょっとあそこで休憩していく?」
「そうですね。結構歩いて疲れましたし……」
肉体的にも精神的にも疲れが来ていたので、俺達はそこで一度休憩することにした。
――その時だった。
「…………二人ともちょっと待ってぇ!!」
スライネの緊張した声が響く。
「ど、どうしたんだ?」
「何か不都合でもありましたか?」
「…………あの洞穴から魔物の気配がするのぉ」
「……ッ!」
俺とハルディンは即座に武器を構えた。
「どうする?」
「行こぉ?こんな依頼だけじゃ大した稼ぎにもならないしぃ。魔物の素材を売れば結構な値段になるよぉ?」
「そうですね。正直暇していたところです。危険だったら戻ればいいですし、このまま行ってみるのもいいかと」
「……そうだな。行ってみるか」
つまらない依頼で落ち込んでいた心が高揚する。
「よし行くぞ!」
緊張と期待が入り混じる中、俺達は一歩ずつ洞窟へと近づいていった。
そこに居たのは――――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――ゴブリンだった。
ゴブリンは駆け出しの冒険者が相手する極めて弱い魔物としてのイメージが特に都市部では強い。
しかし実際は人間よりも優れた肉体性能、強い繁殖力、それに加えて人間には及ばないものの優れた知能を持っている。
駆け出しのパーティーでも舐めてかかるとゴブリン一匹に負けることもあるという。とても危険な魔物だ。
「アルバスぅ!!」
「あぁ、わかってる」
俺たちのパーティーは俺が前衛の剣士、スライネが斥候の盗賊、ハルディンが後衛の弓使いだ。
ゴブリンがこちらに気づき手に持っている棍棒を振り上げ襲いかかってくる。
俺は構えた剣でその一撃を受け止めた――が、重い。
剣が軋む音と、ゴブリンの荒い息遣いが耳に響く。
ゴブリンの膂力が強く、剣を持っている手が痺れる。力勝負は向こうのほうが上なようだ。
しかし、身長は俺のほうが勝っている。
その体格差を活かして、ゴブリンの棍棒を押し払い体勢を崩させる
「今だ!」
スライネがすかさず飛び込み、鋭く攻撃を叩き込む。
「ぎァごォォォォォ!!」
ゴブリンの悲鳴が響くが、容赦はしない。
俺も追撃を加え、ジリジリと追い詰めていく
「アルバス!」
「オッケー!」
俺が一瞬退いた瞬間、ハルディンが狙いを定め、矢を放つ。
――それは正確に、ゴブリンの頭部に突き刺さった。
「ぎゃァァァァァァァアア」
ゴブリンが断末魔を上げて暴れ狂うも、時間が立つにつれて収まっていく。
やがてピクリとも動かなくなり、静寂が戻ってきた。
「…………よっしゃあ」
「やったね、アルバスぅ」
「完璧でしたね」
よし!これでやっと…………
――――シュッッ!!!
一番油断するのは敵を倒したとき。
ゴブリンが死んだことで仕掛けられていた罠が設置者の思い通りに発動したのだった。