チュートリアル(1)
チュートリアル(1)
うぅ……ん……
ふわふわしてて、信じられないくらい気持ちい。あぁ……ずっとこのままでいたいな…………
ゆっくりと頭がクリアになっていく。霞がかっていた思考がだんだんと覚醒していって、幸せな空間にこれ以上はいられないのを悟る。
重いまぶたをゆっくりと持ち上げていくとそこは真っ暗だった。
何も見えない。でも背中からはゴツゴツしたものが感じられる。
少しの間目を開けたままにしていると目が慣れてきたのか少しずつ見えるようになってきた。
目を凝らすと、辺り一帯に岩肌が広がっているのが見えた。無機質で冷たいその様子は人の立ち入ったことのない未踏の地を連想させる。
背中からも硬い岩肌が直に感じられた。
……もしかしなくても僕は洞窟のような場所にいるかもしれない。
というか、なんで僕はこんなところにいるんだっけ。
えーっと確か、白い空間できれいな女の人が…………
あ、そうだ意味分かんないことまくし立ててる神様っぽい人が居てその話を聞いていたんだ。そうしたらなんか暖かい光に包まれて……それで……
あれ、てっきり夢の中のことだと思ったけど…………
これ本当に現実の出来事なのか。本当に?
いや…………でも……
マッドサイエンティストに脳を弄られてこんな夢をみている、と言われたほうがまだ信じられるんだが。
そう、夢にしてはやけにリアルだ。リアル過ぎる。この岩のざらつきも、こもった空気の匂いも……洞窟そのものだ。
夢の中で匂いがわかるってことあるのかな。
未だに自分の状況を把握しきれていないけど、とりあえずここがどんなところなのか周りをぐるりと見渡してみる。すると、岩で囲まれたこの空間に一つだけ穴が空いていて、どうやらそこが洞窟の出口っぽかった。
外は暗い。ただ、月の光のほのかな明かりがこの洞窟に差し込んでいた。
あの神様の話を信じるならここは異世界ということになるけど…………
まあ、いっか。
どうせこんな場所で寝たくないし。とにかく外に出て寝れるところを見つけてからにしよ。
少しひんやりとした地面を左手で押して身体を起き上がらせてからゆっくりと重い腰を持ち上げて立ち上がる。
寝起きで体が重い。
思い切り伸びをすると少し楽になった。朝はこれやらないと始まらないからね。今は夜だけど……
さて、まずはここから出るか。
ゆっくりと出口に向かって歩を進めていく。
出口に差し掛かってようやく外の景色とご対面…………
バチッ!!
「うあッ!!!」
額をなにか硬いものにぶつけた。透明な、壁?
直後、宙に青い文字が浮かび上がる。
《 注意!ダンジョンマスターがダンジョン(仮)の外に出る条件:チュートリアルを修了する、を満たしていません! 》
「ん?」
ちゅーとりある?
何じゃそりゃ?
てか、ここってダンジョンだったの!?
てっきりただの洞窟かと……
あ、でも神様がなんか言ってたような気がする。始めて見るけど、ダンジョンって意外と貧相なんだな。
で、ちゅーとりあるをクリアしないとここをでれないってわけか。
でも、ここがダンジョンってことはこれ僕のダンジョンでしょ?自由に出入りぐらいさせてよ!
《 チュートリアル修了条件:
1.部屋を増築
2.トラップを設置
3.モンスターを召喚
4.ボスモンスターを設定
5.ダンジョンコアを設置
以上5つを修了する 》
うぅ、めんどくさそうだな…………
でも、やらないと出られないし、やるっきゃないか。
やるって決めた瞬間に動かないとやる気なくなってきちゃうから今すぐやろう。今すぐ。
「最初は部屋を増やすのか。えーっと、どうやって増やすんだろう」
こういうやつはだいたい数字か文字をタップすると説明画面に飛ぶっていう暗黙のルールがあるんだけど……
試しに《 1.部屋を増築 》と書かれた青い文字をスマホの画面を押すように触れると、システムパッドの画面が変わる。
《 部屋 》
《 種類 大きさ 形 》
と、3つの選択肢が出てきたのでとりあえず《 種類 》をタップする。
《 種類 》
《 初回大特価!半額セール開催中!! 》
《 1.洞窟 cost:1000dp→500dp
2.石造り cost:2000dp→1000dp
3.??? cost:??? 》
《 所持ポイント:10000dp 》
……うさんくせーこと書いてあるな。
まあ、それはともかく《 1.洞窟 》でいいかな。
まだどこでダンジョンポイントを使うかわかってないから節約できるところは節約しよ。
《 1.洞窟 》をタップすると胡散臭いページから最初の部屋設定の画面に戻ってきた。
なので次の項目である《 大きさ 》をなんとなくタップした。するとまた画面が変わって、縁が青い立方体があって、その下に十字キーのようなボタンが2つ映っている画面になった。
見た感じこの十字キーで部屋の大きさを決めることができるみたいだな。
十字キーをいじっているとその下に消費するダンジョンポイントが表示されていることに気がついた。
どうやら最初の大きさから大きくなれば追加で料金がかかるけどそのままにしていれば《 種類 》の値段だけがかかるっていう感じらしい。
最初だし初期設定でいいか。
気がつけば夢中でいじりすぎて歪な直方体になってしまっていた。慌ててもとの立方体に戻し、システムパッドの右隅に書いてある《 完了 》のボタンを押して前の画面に戻る。
残るは《 形 》だけだ。
先ほどと同じようにボタンを押して画面が移り変わる。
そこには先程の立方体が真ん中に大きく映し出されていた。
他にボタンが有るというわけでもないので、とりあえず立方体を直接触ってみると指に従ってグニョンと立方体が潰れた。
もう一度、今度は親指と人差指でつまんで、先を画面に押し付けてから指を広げてみる。すると先程とは逆に図形が大きくなった。
ただ、一定の大きさになったらもうそれ以上は大きくならないようで何度指を広げても何の変化も起きなかった。
どうやらこの図形は《 大きさ 》で設定した以上には大きくならないみたいだ。
案外この画面の操作が難しくてああでもないこうでもないと結構な時間いじっていた。
その結果わかったのは、うまいこと図形を指で固定してから違う手で一部を引っ張ったり押し込んだりすると凹凸を作るとことができるということがわかった。
上手くやればL字型やT字型の部屋を作ることもできるだろうけど、今の僕ではそういった図形を作ることはできなさそうだ。
後々、この操作に慣れたら最高の寝室を最高の形でお迎えしよう。
なので、とりあえずは最初の立方体まま完成ということにした。
《 通路 》
《 1.洞窟 cost:500dp
2.石造り cost:1000dp
3.??? cost:??? 》
《 所持ポイント:9500dp 》
《 完了 》を押すと次の画面に移り、今度は通路の設定の画面になった。
通路の方はセール中ではないらしい。
これも《 1.洞窟 》を選んで次に進む。
すると地図のようなものが画面に映し出された。
真ん中に僕を表す赤い点があってその周りを囲うように洞窟の壁が記されている。
地図の下にはさっき僕が作った立方体の図形と通路があった。
こうしてみるとタブレットを操作している感覚になってくるな。未来のタブレットってこんな感じで宙に浮くホログラムを操作する、みたいなものになるんだろうか。
ってなると、今まさに未来のものを扱っているというその他人類に対する圧倒的勝者感が……
立方体をドラッグして洞窟の出口の反対側の空間にドロップする。
そしてその間を通路でつなぐ。
最後に《 完了 》を押すと……
ゴゴゴゴゴッ………
出口とは逆の壁が鈍い音を立てて崩れていく。
頑丈そうな岩が所々に小石を飛ばしながら崩れ落ちていくその光景はまさに圧巻だった。
暫くの間、息も忘れて眺めていると少しずつ音が小さくなっていく。
土煙が少しずつ収まっていき、徐々に視界が開けていく。
するとそこには今までなかったはずの大穴が空いていた。
きれいに開いた穴の奥にはさらに大きな空間が見える。
一歩ずつ穴の中を進んでいくと、そこには先ほどまでいた部屋の何倍も大きな空間ができていた。
「すごっ。これくらいの広さだったら家一つは建てられるんじゃないかな」
新たにできた部屋の広さに感動していると目の前に新たな文字が浮き上がってきた。
《 チュートリアル修了条件:1.部屋を増築 をクリア 》
《 チュートリアル修了条件:2.トラップを設置 を始めます 》
あっ…………
そういえばまだ1個しかチュートリアル終わってないんだった。