なんか転生してるんだけど
ん…………?
こ、ここはどこだ?
さっきまで家の寝室で寝転がりながらスマホをいじってたのに。
少しずつ鮮明になっていくあたりの景色を見渡しながら僕は考える。いや、厳密には景色も糞もあったもんじゃない。
見渡す限りなにもない。あたりは白い空間で包まれていて地面も空もない。上下左右の感覚もないから自分が存在しているのかさえ疑わしくなる。
なんか宇宙空間にいるような感じかも。
実は本当に宇宙だったり…………
それはないか。
それじゃあ…………
「…………お目覚めですか、皆さん?」
「……!?」
……誰だ?
声がした方を見ると銀色の髪を後ろで結え、きらきらと輝く布地を織り込んだ服を着ている女性が深い青色の目をこちらに向けて佇んでいた。
僕はとても美しいその美貌に暫くの間見惚れていたが……
っというか「皆さん」ってどういうことだ?
僕の他に誰かいるのか?
それどころではないと気付いた僕はもう一度あたりを見渡した。
すると今まで誰もいなかったであろうその空間に複数の人がコの字に身体を曲げて水に浮かんでいるようにプカプカと漂っている。
そんな中、姿勢を崩さずに先ほどと同じ位置に佇んでいる彼女からは異様な雰囲気を感じた。まるで上下左右の感覚がないこの空間で彼女の四肢が縦横の標となっているような、存在自体がこの世界の中心かのような。
そんな不気味さを感じたのだ。
「…………?………………!?」
「………………?」
まだ起きていなかった人たちが次々と起き上がっていく。
この人たちも自分の状況を理解できていないようだ。
自分だけおかしいんじゃなくてちょっと安心した。
「…………ようやく皆さん、お目覚めのようですね。ご無事でしょうか」
「…………誰なんだ!あんたは!?」
活発そうな少年がこの場を代表するような質問をする。
「…………そうですね。皆さま、疑問はつきぬかと存じますが、まずは私の話をお聞きいただけますでしょうか。ご質問は後ほど承りますので……」
「…………」
活発そうな少年は渋々といった感じで押し黙る。もちろん僕も聞きたいことはたくさんあるが、まずは彼女の話を聞くことにする。
「ご理解感謝いたします。それではまず、私の名を申し上げましょう。私はアルテナ、この空間を司り、転生を統べる神の一柱です」
「……ッ!?」
「………………?」
ん?
何だ? 転生? 神?
全然状況が飲み込めん……
動揺する者、何かを考え込んでいる者、よく分かっていなさそうな者。周りからいろんな様子がうかがえるが、あたりは異様なほどに静かだった。
「……そして、皆さんをここへ呼んだのはある目的のためです。その目的を達成させられた場合は皆さんの願いを一つ叶えることを約束いたします」
「…………何でも?」
「……!?」
ん?
「その目的とは、世界征服です」
「世界征服!?」
「……地球を?」
活発そうな少年が驚き、物静かそうな少女が疑問を口にする。
僕はいまいちこの急展開についていけてない。
「皆さんにはこれから異世界へ行き、ダンジョンマスターとして世界征服を目指していただきます。ダンジョンマスターはダンジョンコアと呼ばれるダンジョンの心臓を守りながら異世界を侵略し、地上すべてを収めていただくことで世界征服を達成することができます」
ん?
えーと、つまりは世界征服しろってことなのか?なるほど……
「皆さんにはそれぞれダンジョンマスターとしての力を授けさせていただくので、それを上手く使って頑張っていただきます」
ん?
もしかして僕達に拒否権ない感じ?
「皆さんの能力、もといステータスは念じると見ることができるので試してみてください。あわせてダンジョンマスターの説明や個人のスキルについてもそちらに記載させていただいてるのでダンジョン関連についてはそちらにお願いします」
ふ〜ん。
あ、確かにステータスって念じたらなんかでてきたわ。
目の前には青い文字列が浮かび上がってきた。
【名前】ハル
【種族】人間
【職業】ダンジョンマスター
【レベル】1
【HP】100/100
【MP】100/100
【筋力】6
【知力】18
【耐久力】9
【敏捷】5
【幸運】12
【スキル】《玉座の恩寵》
【称号】怠け者
《王座の恩寵》ってなんかかっこいいスキルだな。
それに比べて【称号】がひどい。さっきまで何もしないでダラダラしていたからかな。
このステータス画面、結構殺意高いぞ。【称号】の攻撃だけでHPが80は減った気がする……
「な、何だこれ!?」
「すげぇ、マジでゲームみたいだな」
近くにいた男子たちがステータス画面を見て騒いでいる。
というか、「ステータス画面」って直球過ぎてダサいな。
よしっ、これからは「システムパッド」と呼ぼう。かっこいいね、うん。
「さて、これにて一通りのご説明は終わりました。ご質問のある方は、どうぞ挙手にてお知らせくださいませ」
いつの間にか先生と生徒みたいな関係性になってるな。現世に戻ったら神に教えてもらった生徒として一儲けできるかも。
私は神アルテナに使えた由緒正しき信徒です、みたいな感じで宗教始めてただそこにいるだけで募金という名の不労所得が溜まっていくという素晴らしい生活が…………
「……それで俺達が行くっていうその異世界はどんな世界なんだよ」
「はい。剣と魔法のファンタジー世界ですね」
神様が剣と魔法のファンタジーとか言っちゃうと荘厳で厳格な神のイメージが崩れていくんですけど。
僕が馬鹿なことを言っているうちに周りの人たちが次々と質問をしていって神様が答えていく。
ぼんやりと聞いていたから確かじゃないけど内容はこんな感じだった。と思う…………
中世の剣と魔法のファンタジー世界で、勇者や魔王がいる。ちなみにダンジョンマスターが人類圏では魔王と呼ばれているらしい。
そして、元いた世界には戻ることはできない。世界征服が終わった報酬の「何でも一つ叶う望み」で元いた世界には戻れるけどそれ以外の方法では戻れないとのことだった。
異世界にはすでに先輩のダンジョンマスターがいる。彼らに見つかると一瞬で殺されるから気をつけろとのこと。新人のダンジョンマスター同士で連絡を取り合って協力して世界征服をすることもオッケーらしい。
とまあこんなところかな。
というか「元いた世界に戻ることができない」と言われたあたりからみんなギャーギャー言い出して質問を聞くどころではなくなってしまったが……
神様を罵倒する人もいたし、何かをブツブツいい始めるやつもいた。終いには急に叫びだすやつもいて今まで静かだった空間は影も形も無く、もはや動物園状態になってしまった。
みんな神様の御前なのを忘れてお祭り騒ぎだ。いや、お祭りも神様の御神体の前で踊ったりするから同じようなものか。というか日本ってそういった文化があるのかな。
「はい。皆さん落ち着いてください」
神様先生が手をパチンと叩き、皆を鎮める。
大きな声を出したわけではないのに不思議と響く美しい声に思わず聞き入ってしまった。
「そろそろ、異世界へ行く時間になりました。もし問題がある場合は説明を見て考えてください。それでは皆さん、ご健闘を祈ります」
今まで微動だにしなかった神様の手が動き、僕達に向けられる。すると、手の先から眩い光が出てきて幾何学模様の魔法陣を織りなしてゆく。
そのあまりにも美しい光景に僕達は只々固唾をのんで見守ることしか…………
「おい待て!ふざけんな!!ちょ…………ッ!」
活発そうな少年が叫んだのを最後に、僕はきれいな光りに包まれて意識が再び暗闇の中に引きずり込まれていくのであった。
初投稿となります。拙い文章かもしれませんが楽しんでいってもらえたら嬉しいです。
もし「面白い!続きが見たい!」と思っていただけたらコメントや評価をいただけると、とても励みになります。