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10 来る炎

 4月20日。ちょうど悠哉がEODに復帰して1ヶ月。


「予選で負けるようなヘマはしねーよ」


 4月28日に開かれる大会のオンライン予選が始まった。


 総勢一万六千三百八十四人の参加者が1つのマッチプールに入れられており、その中で3勝すれば勝ち上がり。逆に1敗した瞬間に参加資格を失う。


 当たる相手は完全にランダム。不戦勝は存在せず、もし仮に2勝した時点で対戦相手が居なくなってしまったら、3勝の条件を満たせず、そのまま自動的に参加資格が没収される。


 大会に出場登録はしたが、急遽予選に参加できなくなった人が1名でもいるなら、その時点でその没収条件が満たされる。


 簡単に言うのなら、対戦相手が早い者勝ち。そそくさと3勝しなくてはならない。


「1先で慢心するな。文字通りに1回で終わりだぞ」


「慢心? これは余裕というんだ」


「言いたいだけだろ」


 冗談を交えて心を落ち着ける。文字通りに余裕を作ることで安心しようとしているので、啓司の言葉に返せるものはなかった。


「正直、ランクマの勝率は昔より低い」


「なら勝てる相手と当たるといいな」


「バカ言え。優勝狙いなら、誰が相手でも同じだ。むしろ逆、強いやつを疲れる前に、今の万全な状態で捻り潰しておきたい」


「上手く行くといいな」


「あぁ。じゃやるわ」


 仮想現実。見慣れた草原、見慣れた茶会。よく知った姿見に触れると、そこに赤く光る特殊なメニューが乗っていた。


 第一回、エルガレイオン・オーバードーズ公式大会。ラインオーバー参加者用メニュー。


ラインオーバー(一線を越える)ね。なかなかいいセンスだな」


 指でそのメニューを押すと、現在の勝利回数とマッチング開始のアイコン。そして大会の概要などが並んでいた。


 大会の概要を知るのは初めてだったが、しかし別に気になることもない。悠哉はそのままマッチングを始めた。


 早い者勝ちのルールであるため、直ぐに対戦相手が見つかった。


 普通のマッチとは異なり拒否権はないようで、一定時間対戦を承認しなかった場合、即座に負けとなる。


 しかし悠哉はマッチ画面で固まってしまった。


「フラマ?」


 画面に映った相手は彩音の使用キャラクターであり、悠哉にとって複雑な思い入れのあるキャラクターだ。


「終わらせてやるよ」


 負けられない戦いが、より重い意味を持った。


 承認を押すと世界が変わる。


 その先に、燃えるような赤色が佇んでいた。彩音との最後の対戦を思い出す。


 バトル開始まで5秒。冷静に戦術を組み立てる。


 フラマというキャラクターは、端的に言うのなら自傷行為によって強くなるキャラクターだ。イグニスゲージというゲージと体力を消費して身体能力を底上げする。


 イグニスゲージというものは、ルクスのクラルスゲージとは異なり、元々100パーセント溜まりきっているものだ。


 イグニスゲージは炉心融解(インフラマラエ)という自己強化技を使うことでなれる燃焼状態で徐々に減っていき、ゲージは全て無くなると燃焼状態が強制解除される。


 燃焼状態では持続的に体力とイグニスゲージが減っていく代わりに身体能力が大きく上昇し、同時にスキルの発動条件が優しくなり、それに加えて攻撃の全てに燃焼効果を付与する。


 燃焼状態で注意する点は、もちろん体力が減る所もあるが、なによりもイグニスゲージの減少だ。


 なぜならイグニスゲージは、ゲーム中に1度でも0まで減りきると、もう二度とゲージを回復出来なくなるからだ。


 燃焼状態で強くなるキャラクターであるが、しかし裏を返せばその燃焼状態で強くなることを前提としたキャラクターであるということでもある。


 その前提が使えなくなる。キャラクターとして成り立たなくなる。そんな状態で他のキャラクターに勝てるようには出来ていない。


 だからこそ、燃焼状態を1度どこかで解除する必要がある。


 その解除が炉心集炎(フォーカス)というスキルで、炉心集炎(フォーカス)を発動すると、即座に燃焼状態を解除し、その回の燃焼状態で使用したイグニスゲージを半分回復できる。


 イグニスゲージを炉心融解(インフラマラエ)で80%使用した状態で、炉心集炎(フォーカス)を発動させると、燃焼状態を解除してイグニスゲージを40%回復する。するとイグニスゲージは残りの20%と合わせて合計60%になる。


 端的に言うならば、持久走で全力疾走と休憩を繰り返すようなキャラクターだ。


 自分が倒れる前に、息継ぎしつつ相手を倒す。息継ぎのタイミングを突くことがフラマの対策と攻略だ。


 しかしルクスの場合は違う。ルクスが非力すぎるため、未強化状態のフラマと力比べで負けてしまう。そのため、フマラの息継ぎを咎める方法がない。


 ルクスからフラマへのキャラクター対策は存在しない。あるのは人読みだけだ。


「お前はどう動く?」


 バトル開始まで、1秒────0


炉心融解(インフラマラエ)


 炎がフラマから放出される。


 悠哉は即座に後方へ引き続き銃撃を繰り返す。するとフラマは大剣を盾のようにしつつ、左右へ蛇行しながら距離を詰めてくる。


 ノブレスと同じで遠距離攻撃はフラマにはない。しかしノブレスより素早さが高い。


 射撃による攻撃はなんの成果もあげることなく、あっという間に剣がぶつかり合う距離まで接近を許した。


 悠哉は元々射撃に期待していないため、雷鳴閃(フルメン)を発動待機状態にしている。


 剣の間合いに入る瞬間、悠哉は逃げる足を反転させて、突如として切り込んだ。


雷鳴閃(フルメン)!」


 紫電の一閃をフラマが驚いた様子で大剣を盾に受け止める。


 先手を掴み、有利をとる。そこから悠哉は続く攻撃にディレイとフェイントを多分に絡めて、攻撃を繰り返した。


 一言で言うのなら真面目。


 初めから人読みに集中しているからこそ、悠哉は目の前のプレイヤーの行動を短期間で見切ることが出来ていた。


 フェイントにつられ、ディレイを嫌がり、そして無敵技をぶっぱなす。


死水蒸発(エクスハティオ)!」


 ガード不能の白い爆発。それを受けて悠哉は地面を転がる。その勢いを利用して即座に起き上がり、射撃を行う。


 読めているのなら行動に迷いはなく、無駄もない。


 最速の射撃は、攻めから解放されたフラマの心の隙に突き刺さり、ダメージを与えた。


 死水蒸発(エクスハティオ)は自傷技だ。それを使用することは、文字通りに寿命を縮める。そこに射撃と燃焼状態による自傷が重なる。


 相手の特殊ゲージは見えないが、体力ゲージは半分以下まで削れている。


 燃焼状態で受けに回った時間が多すぎた結果だ。


炉心集炎(フォーカス)


 炎がフラマから消え失せる。息継ぎのタイミングだ。残念ながらルクスには咎める手段はない。


炉心融解(インフラマラエ)


 燃焼状態が再燃した。


 悠哉は射撃しながら後退するも、フラマは大剣で弾きながら最短距離を走る。


 考えることを止めたか、全力疾走できる限界が近づいたのか、行動が直情的になった。


 雷鳴閃はまだクールタイムが終わっていないため、踏み込んでも悠哉のターンにはならない。筋力差で受け止められて弾かれるだけだ。


 間合いに入る手前でフラマが走りながら大剣を袈裟懸けに振る。


 それを悠哉はロングソードで受け止める。剣を持った腕が体ごと弾かれる。力ずくで悠哉が体勢を崩されると、その間にフラマの次の攻撃は用意されていた。


 次の攻撃を受け止めるための用意をするだけで、悠哉の行動が終わる。反撃など出来る余力は何一つない。純粋な筋力差。攻撃を受け止めるだけで体が押しやられる。


 そんな苛烈な攻撃を受けつつ、悠哉は試合のプランを考える。イグニスゲージの残量は体感でしか計れないが、60%は残っていると感じていた。


 イグニスゲージが尽きるまで耐えきることは現実的ではない。スキルによる反撃は、そもそも反撃する余力がない。


 しかし何よりも、このまま攻め続けられてどこかで隙を作ってしまい、スキル攻撃で受けることが1番危険だ。


 ならばと、悠哉は手痛いダメージを受ける前に、あえて攻撃を受けることによる状況のリセットを狙うことにした。


 この場合、最も重要になるのはタイミングだ。読まれれば追撃され、状況は悪化する。


 攻撃と攻撃の間で、意識の隙間を狙う。攻撃のブレ、甘えを見抜く。


 そうやって集中している最中、迫りくる大剣を目にして、悠哉は土壇場でそのプランを破棄した。


 甘えだ。避けられる攻撃だ。回避から────ゾクリと直感が働いた。


 悠哉はその直感に素直に従い、回避した後、冷静に止まって相手の行動を見た。


 フラマの片足が後ろへ下がっていた。


 あえて反撃を誘発させて、その反撃にスキルによるカウンターを叩き込む。そんな狙いが見えた。


 直情的で素直だと読んでいた相手の搦め手。当たればほぼ即死の搦め手だ。


「あっぶな!」


 読めてしまえばその後ろへ下がる動きは、ただの後退にしかならない。


 悠哉がバックステップで後ろへ下がると、悠哉にとって有利な距離が出来る。


 雷鳴閃(フルメン)のクールタイムは終わっている。それを圧力にして、殴り合いの状況に持ち込ませない。


「このまま燃え尽きろよ」


 悪態と共に銃撃を叩き込む。普通に大剣で弾かれ、フラマはまた最短距離を走ってくる。悠哉は雷鳴閃(フルメン)のスキルモーションを作る素振りを見せ、フラマの突っ込んでくる動きに迷いを作らせる。そしてその迷いに射撃を挟み込む。それを距離を作りながら数回繰り返す。


 イグニスゲージは体感で残り20%。そろそろ息切れ、どこかで息継ぎの必要がある。


 距離を詰めることを諦めるならそれはそれでいい。射撃を繰り返して体力とリソースを削り続ければいい。もし、詰めてくるなら。


 そう考えた瞬間に、フラマが悠哉の圧力を無視して突っ込んできた。


 残り20%の強化状態。持続力はない。その少ない時間で悠哉の体力を削りきれる訳がない。そして人読みだが、相手は直情的。


 導きだれる答えは無敵技。強制的な仕切り直し。


死水蒸発(エクスハティオ)!」


 突っ込んでくる動きに合わせて、全力で後へ反転して転がり避ける。


 死水蒸発(エクスハティオ)をスレスレで回避することで、攻撃に転じる隙間を作る。


 白い大爆発が収まった瞬間に、悠哉はその爆発の中心にいるであろうフラマへ飛びかかる。


 驚愕の表情を浮かべるフラマへ、無慈悲にスキルを振り抜く。


雷鳴閃(フルメン)!」


 紫電が胴を切り抜け、フラマの体力が0へと到達した。

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