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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第四章
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難破船

草花の甘い香りが漂い、穏やかな春の訪れとともに新しい年が明けた。新年の到来とともに、交易の準備も着々と整い始めていた。


皆、それぞれの馬にまたがり、ギズモグロウブの街に向かう。馬車よりも機動力が高いため、一日半ほどでギズモグロウヴに到着できる。

ランスの指導のおかげで、皆乗馬が上達した。妹のレナも、以前は引っ込み思案で家から出ることすら少なかったが、今では馬を見事に乗りこなしている。


ギズモグロウブの集積所に到着すると、ソニアの兄たち、カルロとニコロが準備万端で待っていた。


皆が船に乗り込むと、いよいよ交易の旅が始まる。小雨が降ったりやんだりするはっきりしない天気だったが、皆の心は目標に向かって一つにまとまっていた。


海に出てしばらくすると、雨がやみ、雲の切れ間から日の光が差し込んできた。


リルとレナは、いつものように魔法で波や風を操っている。ルヴィの話では、マナを操る基礎訓練が魔法の上達に欠かせないとのことだった。

ガルは船の上に寝そべり、あくびをしながらその様子を見ている。オレも二人と一緒に魔法の鍛錬をしようと海に向かって手をかざすとギーヴが声を上げた。


「あれ、船かな?なんだか様子が変だけど...」


ギーヴが指さす方向を見ても何も見えない。しかし、ソニアが声を上げた。

「本当だ。船だけど...難破してるのかな?」


ソニアが舵を操り、交易船と護衛船に近づくと、カルロとニコロに向かって大声で話しかけた。

「カルロ兄さん、ニコロ兄さん、南の方で船が難破してるみたいだから、僕たちで見てきたいんだけど、皆大丈夫かな?」


カルロが大声で返事をした。

「こっちは三艘でミドルポートを目指すから、ソニアは、その船を確認してから追いかけてこい。」


「カルロ兄さん、ありがとう!じゃあ行ってきまーす。」

ソニアがそう大きな声で言うと、舵を南に切った。


しばらく進むと、ついに船が見えてきた。二人の視力にはいつも驚かされる。

向こうの船の上で、こちらに向かって手を振っている人たちが見えた。


慎重に船に近づき、大声でソニアが声をかける。

「どうしたんですかー?」


「助けてくださーい!」

船の上から大きな声が返ってきた。


レアティースを通じて、ルヴィが船を上空から観察していたようで、小さな声でソニアに囁いた。

「本当の難破船のようです。近づいても問題ありませんよ。」


「そっちに行くから、少し待っててくださーい。」

ソニアは大声でそう答えると、難破船に向かって近づき始めた。


その船には、見えるだけで二十人ほどの人が乗っている。

ソニアは船を寄せると、相手の船の網をよじ登り、甲板に上がった。念のため、オレとランスも一緒に甲板に登る。


「何かあったんですか?」


ソニアが問いかけると、年配の男が前に出てきて話を始めた。

「私はこの船の舵手、パスケスと言います。

 大陸からデネリフェ島の港町コラレホに向かっていた交易船なのですが、十日ほど前に嵐に遭い、舵も帆も壊れて難破してしまいました。

 船長と何名かの船員も嵐で流されてしまい、私が船長の代理として今に至っています。ここはどの辺りでしょうか?」


港町コラレホと言えば、デネリフェ島の北東に位置する港町だ。だいぶ南に流されている。

ソニアがパスケスを見て答える。


「南に流されてしまったようですね。ここはデネリフェ島の南にある港町ギズモグロウヴから東に半日ほどの距離です。水や食料は足りていますか?」


「水や食料はあと数日分あります。」

「船の応急処置ができるか確認してみますので、少し待っていてくださいね。」

「ありがとう、助かります。」

パスケスは感謝の言葉を述べると、涙を浮かべながらソニアの右手を両手で握った。


ソニアはそう言ってネフライト号に戻り、ルヴィに問いかけた。


「ルヴィ、この船の舵を見たいんだけど、この船を宙に浮かべることはできるかな?」


「もちろんできますよ。」

ルヴィは簡単に答えると、両手を交易船の方にかざした。すると、交易船がゆっくりと宙に浮かび上がる。

難破船の上から、喜びと不安が入り混じった声が聞こえてくる。


ソニアはネフライト号を、交易船の後方に回り込ませた。そして舵の状態を確認する。


「これなら、なんとか応急処置ができそうです。帆を張って魔法で風を送れば、ギズモグロウヴくらいまでは行けるでしょう。」

そう言うと、ソニアは工具と大きな金具を取り出し、難破船の応急処置を始めた。


修理が終わり、ルヴィが難破船を再び海に浮かべると、ソニアは難破船に向かって声をかけた。

「これからギズモグロウヴまで先導しますので、後についてきてください。」


「皆、ギズモグロウヴまで魔法の風を帆にあててもらってもいいかな?」


するとリルが答える。

「いいわよ。それにしても、ソニアはこの短時間で難破船を修理しちゃうなんて、すごいわね。」


「あくまで応急処置だから...。」

そう言って、ソニアはギズモグロウヴに向かって舵を切った。


皆の魔法で起こした風は、難破船の破れた帆を優しく膨らました。


それから数時間かかりギズモグロウヴの港に到着した。難破船の船員たちは、涙を浮かべて喜んでいる。

その後のことはスタンレーに任せ、オレたちは交易船を追うことにした。


交易船を追いかける際も、魔法で風を起こして船を加速させる。二日後、オレたちの交易船の後姿を捉えることができた。


その後の船旅は順調で、アルヴィアの街に予定通り到着した。


アルヴィアで荷捌きを終え、宿舎に向かおうとすると、リズベック商会のエリオットがオレたちのところに来て。

「ビアンカ様の屋敷に皆で訪問してほしい」

と言ってきた。


言われたままにビアンカの屋敷に向かうと、玄関でビアンカと二人の子供がオレたちを待っていた。

ビアンカはすぐに二人の子供を紹介してくれた。


「こちらは私の子供たち、姉のリーシャと弟のロマリオです。昨年まで王都で勉強をしていました。皆さんに紹介したくてお招きしました。」


オレたちが自己紹介を済ませると、リーシャと紹介された女の子が話し始めた。


「私はリーシャ・リズベック、よろしくお願いします。皆さん、その若さで交易をしていると、お母様からお話を伺いました。中でゆっくりお話ししましょう。」

と言って、屋敷の中へ案内してくれた。


リーシャもロマリオも王都で勉強していたということもあって、商業に関する知識が豊富だった。

その中でも、リーシャは特に交易に興味があるようで、オレたちにたくさんの質問を投げかけてきた。


すると、突然リーシャが言い出した。

「お母様、私もこの隊商に参加して、隊商の一員になりたい。ハウル、どうかしら?私にも手伝わせていただけないかしら?」


「オレたちは構わないけど、君にはリズベック商会があるじゃないか...。」

ハウルの意見に、ロマリオも当惑している様子だった。

「そうだよ、姉さん。リズベック商会はどうするんだ?」


「リズベック商会は、ロマリオがいるから大丈夫よ。お母様もそう思うでしょ?」


リーシャがビアンカに同意を求めると、ビアンカは静かに口を開いた。


「リーシャもロマリオも、これからのことは自分自身で決めてほしいの。リーシャが隊商に夢中になるのは驚いたけれど、ロマリオはどう考えているの?」


「僕は、姉さんと一緒にリズベック商会を継いでい一緒に経営していくのだと思ってた。」

ロマリオがそう答えると、ビアンカは自分の考えを話し始めた。


「ロマリオも今まで、私が道を示して王都で様々なことを学んできてもらいました。

 しかし、これからはリズベック商会にとらわれず、自分自身の進むべき道を探してほしいの。」


「僕はお母様のリズベック商会をもっと大きくしたいと考えて、王都で学んできたんだ。他の道なんて考えられないよ。」

その答えを聞いたビアンカは微笑んで、ロマリオを諭した。


「ロマリオの考えはわかったわ。でも、リーシャが自分の道を進むことを認めてあげてほしいの。」

ロマリオはリーシャに目線を移し、静かに声を出した。


「わかったよ、姉さん。僕はリズベック商会を大きくする。姉さんはハウルたちと隊商を大きくしたらいい。これからリズベック商会の窓口は僕が担当する。」


「ありがとう、お母様、ロマリオ。そういうわけだから、皆さんよろしくね。」

リーシャはそう言って、オレたちたちに微笑みかけてきた。


「それで、リーシャは、いつから商隊に参加されるのですか?」


アデルが問いかけると、リーシャは目を輝かせて答えた。


「今夜はこのお屋敷に泊まっていくでしょう?そうでしたら、明日までに準備しますわ。」


ルヴィが笑いながらリーシャに言った。

「ハハハ、そんなに急がなくても隊商は逃げませんよ。」


「ハハハ、確かにリーシャはリルみたいにせっかちだね。ハハハハ。」

オレが笑いながら言うと、リルがほほを膨らませた。


「私はせっかちじゃないわよ!」


「そう思っているのはリルだけでしょうね。」

アデルがリルに追い打ちをかけると、皆が大笑いした。


翌朝、皆で朝の修練をしていると、リーシャが起きてきた。


「皆、早いのね。毎朝、こんな訓練をしているのかしら?」


「そうですね。これが朝の日課になっています。参加は自由ですが...。」

ランスがそう答えると、リーシャは「今日から私も参加するわ。」と言って、修練に加わった。


修練が終わり汗を流して、ビアンカとロマリオと一緒にゆっくり朝食を頂いた。


その後、オレたちはリーシャと一緒にビアンカとロマリオに挨拶をし、リズベック商会の商館に向かった。

商館の前ではすでに馬車の準備が整っていた。


翌日、エルムリンデンの街に到着し、荷捌きを始めると、レナのところにリーシャが寄り添い、荷捌きの様子を見守っていた。


しばらくすると、何かに気が付いたようで、リーシャが声を上げた。


「レナちゃん、この荷物は、こっちに乗せた方がいいわよ。そして、この荷物はこっち。」


リーシャは荷物の積み方をレナに教えながら、手際よくさばいていった。


「リーシャさん、この荷物はどうしましょうか?」

レナがリーシャに尋ねると、リーシャは荷物を確認して言った。


「この荷物は、大陸の方が需要があるので、後で乗せた方がいいわね。」


レナはリーシャの指示を素直に聞きながら、時々メモを取っていた。


リーシャの知識や手際の良さに、オレは驚かされた。


翌日、デッサウの街でジャックにリーシャを紹介すると、ジャックもその知識と手際の良さに驚いていた。



◇◇◇



順調に旅を終え、ギズモグロウヴに到着すると、スタンレーに呼び止められた。

難破船の船乗りたちが、オレたちが帰ってくるのを待っていたというのだ。

話を聞くと、船は壊れ、船員をまとめていた船長も海に流されてしまったために、新しい仕事を探しているということだった。


「私が仕事を紹介しても良かったのだが、君たちに相談した方が良いだろうと思い、君たちの帰りを待ってもらっていたのだよ。」


スタンレーにそう言われてパスケスたちに会いに行った。


「君たちに救われた命だ。君らのために働けるのなら、少しでも恩を返したい。」


パスケスはそう言ってくれた。

ここに残っている船員たちは皆同じ思いのようだった。そこで、彼らを皆を雇うことにし、カルロとニコロに任せることにした。


その後、オレたちはリーシャを伴い、ギズモグロウヴの南にあるセイレーンとの交易所に向かった。

ウェスタとオケアニスが来ていたのでリーシャを紹介すると、リーシャは目を丸くして驚いた。


パルマスへの帰り道、レナがクラインをリーシャに譲り、レナはギルに乗って帰ることになった。


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