人質奪回
おいらたちは、ユーリとレイズを連れてバジェエルモソの街の商館に向かった。
ルヴィとアデルはそのまま、バジェエルモソの代表者であるノブリチ・ガルディーニの屋敷に向かい、事情を説明するようだ。
おいらは、ユーリと一緒に子供たちが囚われているペルディーニ商会の建物を確認に行った。
その屋敷は、奥まった路地の一角にあり、母屋と離れの二棟だけが立っていて、敷地は大人の身長ほどの塀で囲まれていた。
特に見張りもおらず、屋敷は静まり返っていた。おいらたちが注意深く観察していると、時折、子供たちの声がかすかに聞こえてきた。
その声は離れの方から聞こえており、おそらくそこに囚われているのだろう。
おいらたちは商館に戻ることにした。
商館に戻ると、ルヴィとアデルも戻っていて、今夜、子供たちを奪回する許可を街の代表から得てきたと言っていた。
その夜、おいらたちは子供たちを救い出すため、ペルディーニ商会の屋敷に向かった。
おいらはルヴィとアデル、ハウルと共に、塀を越えて中庭に突入することになった。他の仲間たちは、ランスを先頭に正面から突入することになっていた。
皆が一斉に動き出す。ルヴィは魔法で地面をせり上げ始めた。塀と同じ高さに達した瞬間、ランスが正面から突入した。
正面が騒がしくなったのを合図に、おいらたちは中庭に降り立った。
離れの入り口を見ると、見張りが二人立っているのが見えた。二人はすぐにおいらたちに気づき、一人は剣を引き抜いて襲いかかってきた。
もう一人は離れの中に入ろうとしている。
おいらは、襲いかかってきた男の剣をかわし、その剣を持つ手に強烈な蹴りを放った。剣は手を離れて飛んでいった。
その反対の手をつかんで相手の背中に回し、締め上げると、男は倒れ込んだ。
離れの入り口を見ると、もう一人の男が倒れているのが見えた。おそらく、ルヴィが魔法で倒したのだろう。
急いで離れの扉を開け、中に入ると、そこには四人の子供たちが眠っていた。近くには二人の大人の女がいて、そのうち一人は恐怖に震えている様子だった。
アデルが魔法を詠唱すると、二人の大人の女はその場でくずおれ、動かなくなった。眠ってしまったようだ。
そのとき、この屋敷を制圧したランスたちがやってきた。
屋敷の外では、街を取り締まる者たちが集まり、倒れている者たちを縛り上げていた。
アデルとレナが子供たちを優しく起こすと、その後のことは街の人たちに任せ、おいらたちは子供たちを背負って商館に戻ることにした。
商館に戻ると、ユーリとレイズに子供たちの無事を確認してもらった。
翌朝、子供たちが目を覚ますと、皆でマデイラ島の集落に向けて出発することになった。
子供たちは、ネフライト号での短い旅を楽しんでくれた。
トパーズの集落に到着すると、子供たちの両親が駆け寄り、おいらたちに感謝と謝罪の言葉を口にした。
その後、ルヴィとユーリが難しい話を始めたので、おいらは子供たちと一緒に遊んでいた。もしギルを連れてきていれば、きっと子供たちももっと喜んだだろう...。
ルヴィ達の難しい話が終わると、ユーリとレイズを伴い、パルマスに帰ることになった。
◇◇◇
パルマスの街に戻ると、辺りには秋の気配が漂い、高い空に浮かぶ羊雲が風に揺れているのが見えた。
練兵場では、レイズと一緒に捕まえた二名を解放することになった。
おいらとルヴィは、ユーリとレイズ、それに解放した二名を伴ってダスクウィーバー男爵邸を訪れた。
男爵邸には、街の代表であるヘンドリックも駆けつけてくれた。
男爵に謁見し、レナとフィオラの誘拐事件やギズモグロウブの集積所襲撃の実行犯として、ユーリに詳細を語ってもらった。
さらに、ユーリはその事件だけでなく、ペルディーニ商会から依頼されたさまざまな悪事についても証言してくれた。
その証言を受けて、ダスクウィーバー男爵はペルディーニ商会の解散と、パルマスの街からの追放を宣言した。
パルマスの街から追放されれば、ペルディーニ商会が商会としてやっていけなくなるのも時間の問題だろうと、ルヴィは言っていた。
事件が片付くと、次の交易の旅に出る時期になっていた。今回はギルも一緒に行くことになった。ギルが大陸を見てみたいと強く希望したからだ。
グレートウルフが街に入るのには少し問題があったが、おいらたちの交易隊も次第に名が知られるようになり、ルヴィがそれを許可してくれた。
旅に出ると、街の入り口ではさすがに驚かれるものの、街の中ではおとなしいギルはすぐに人気者となった。
レナもギルを気に入ったようで、荷捌きの際にはギルの背に乗って指示を出していた。
大きなトラブルもなく交易の旅を終え、パルマスに帰ってくると、ペルディーニ商会の商館はすっかり廃墟と化していた。
ミリアーノは、ペルディーニ商会を解雇された人々を選りすぐり、パルマス商会に迎え入れていた。
その中で、こんな話があった。
ペルディーニ商会にアントン・グロゼルという男がいたが、ある日、ミリアーノに面接を申し出てきた。
この男は、以前ペルディーニ商会の規則を突然変更し、高額な税を請求して、ルヴィとハウルを怒らせた人物だった。
その男が、パルマス商会で働きたいと申し出てきたのだ。
ミリアーノはその申し出を断った。すると、男は「ジョルジやリズは雇われているのに、何故私を雇わないのか?」と憤慨し、帰って行ったという。
その話を聞いたリルは、大声で笑いながら言った。
「散々私たちに迷惑をかけておいて、もう忘れちゃったのかしら?ルヴィみたいに記憶喪失になったのかしらね?」
「都合の悪いことはすぐ忘れちゃう人、意外と多いかもしれないね。」
ハウルが言うと、リルはさらに言った。
「次に来ることがあったら、二度と忘れられないようにしてあげようかしら。」
「まあ、あまり手荒なことはしないでくださいね。」
ルヴィが穏やかに言うと、みんなはその話を終わらせた。
パルマスの街に戻った翌日、ダスクウィーバー男爵からおいらに招待の連絡があった。今回もギルと一緒にとのことだ。
旅の後には必ず男爵から招待される。男爵は旅の話を聞くのが楽しみなようだ。今回はギルも同行したため、土産話を一層楽しみにしているに違いない。
以前、男爵に招待されたとき、リルがこう言った。
「ギーヴはいいわね、男爵の屋敷で美味しいものを頂けるんでしょう?今度、私も連れて行ってくれないかしら?」
「リル!」
すぐにアデルがたしなめた...。
その日、おいらが男爵に「余ったお菓子を持って帰ってもよろしいですか?」と尋ねると、男爵は静かにこう教えてくれた。
「そういうことは、この場で言うものではない。君たちは仲がいいんだね。では、お土産を用意しよう。」
それ以来、帰りにその日食べたお菓子と同じものを人数分、箱に詰めて用意してくれるようになった。
それをリルがもらって喜んだことは言うまでもない。それ以来、リルは文句を言わず、おいらたちを送り出してくれるようになった。
ダスクウィーバー男爵は笑みを浮かべて、おいらたちを迎えてくれた。
この日は、静かな部屋の中での会話が続いた。男爵は今回の旅の話に熱中して耳を傾けていた。話が終わると、男爵は矢継ぎ早に質問をしてきた。
話がペルディーニ商会やマデイラ島の集落の話に触れると、ダスクウィーバー男爵の表情は曇り、会話が一瞬途切れた。
しばらくの沈黙の後、ダスクウィーバー男爵はおいらに向かって、自分の過去の話を語り始めた。
◇◇◇
十七年前、ヴォーリオス・ダスクウィーバーは二十七歳という若さで騎士団の一隊長に任命されていた。
王国のために戦うという使命を胸に、彼はその責任の重さを感じながらも、誇りを持って日々を送っていた。
その頃、王国の北方にオリバー男爵家の領地があった、そこは、永遠の凍土に隣接した過酷な土地で、寒冷地特有の厳しい環境が広がっていた。
オリバー男爵はその地で領民を守るために地道に領地経営を行っていたが、王国からの重税に苦しみ、農作物の不作や天候不順が追い打ちをかけ、領地の経済は崩壊寸前に追い込まれていた。
それにもかかわらず、王国の対応は冷たく、オリバー男爵は何度も納税猶予を求めるが、その度に無視され続けた。
耐えきれなくなった男爵は、ついにその年の納税を見送る決断を下す。しかし、この行動が反乱とみなされ、王国から討伐の命が下された。
討伐軍の出発を知ったオリバー男爵は、何度も王国に抗議の使者を送り続けたが、すべては無視され、彼は領民と共に反乱を迎え撃つ決意を固める。
家族や家臣、そして領民たちも次々と立ち上がり、反乱軍は急速に勢力を強めていった。
ヴォーリオスは、討伐の命を受けて北の地へと向かったが、そこで待ち受けていたのは彼が想像していた単純な反乱者の姿ではなかった。
オリバー男爵家の領民たちは戦いたくて戦っているわけではなく、過酷な状況に耐え、ただ必死に生き抜こうとしているだけだった。
初めてオリバー男爵家の領地に足を踏み入れたヴォーリオスは、その光景に心を打たれる。
目の前に広がる凍てついた大地、荒れ果てた風景の中で、領民たちは日々の苦しみに耐えながらも、オリバー男爵家を信じ、支えている姿を目の当たりにする。
ヴォーリオスは、これまで抱いていた『反乱者』のイメージが現実とは大きく異なることに気づき始める。
最初の戦闘では予想以上に反乱軍は強固で、ヴォーリオスの騎士団も多くの苦しみを味わうことになる。
しかし、彼の冷徹で迅速な指揮が功を奏し、戦局を有利に進めることができた。
やがて、オリバー男爵は自ら命を絶ち、その息子が投降してきた。ヴォーリオスは彼を討つことなく捕えた。
そして、反乱を鎮圧するだけでなく、領民たちの苦しみを理解し、王国の秩序を見直すべきだと考えた。
ヴォーリオスは王国に戻り、反乱の真相を騎士団長に報告する。報告書は王国上層部に届き、調査が行われる。
その結果、徴税に不正があったことが発覚し、王国内部で改革の必要性が認識されることとなった。
この事件を経て、オリバー男爵の息子は釈放され、彼の家系は再び名誉を回復し、領地を継ぐことが認められる。
ヴォーリオスは、この功績により男爵の爵位を賜り、名誉を手にすることとなったのだった。
しかし、彼の中で、この事件が、暗く影を落としていたのだった...




