表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もない冒険の物語  作者: 白雉
第四章
87/90

集落の解放

見上げれば、濃密な青空がどこまでも広がっている。今年の夏は、例年にも増して厳しい暑さが続いていた。


今年に入り、交易のために集めた品々を保管する集積所が襲撃された。その知らせを聞いたレナは、悔しさを滲ませながら涙を流していた。

ルヴィたちは襲撃犯の動向を監視し、その背後に潜む黒幕の正体を探っていた。

そして今、ついに黒幕と思われる三名の人物が、このパルマスの街にやってきたのだった。

ルヴィたちは、その三人がペルディーニ商会と接触する瞬間を待ち構えている。


そんな三人を監視しているのは、ルヴィの使い魔であるレアティースとオフィーリアだ。

どちらも大ガラスで、翼を広げれば私の背丈をはるかに超えるほどの威厳ある姿をしている。大ガラスは長命で、五十年から六十年は生きるといわれる鳥だ。

レアティースはオスで、まるで雪をまとったような希少な白い羽を持つ。一方、オフィーリアはメスで、漆黒の羽が闇夜のように美しく艶めいている。

二羽とも知性にあふれ、主であるルヴィに忠実なだけでなく、私たちにもよく懐いてくれていた。


黒幕と思われる三名は、今朝パルマスの街に到着すると、ペルディーニ商会に所属する宿屋に部屋を取り、そこにこもっている。

その宿屋には、自警団のフリオとパメラが潜入し、内部の動きを探っていた。

また、ペルディーニ商会の商館をはじめ、関連する施設もすべて自警団の監視下に置かれている。


夕刻、ペルディーニ商会から一人の男が宿屋を訪れた。彼は周囲を警戒するように何度も振り返りながら、足早に宿の奥へと進んでいく。

フリオとパメラは物陰から静かにその様子を窺い、男が三人の滞在する部屋に入るのを確認した。

しばらくして、その報せがもたらされると、ルヴィは静かに立ち上がり、落ち着いた声で言った。

「これでペルディーニ商会と襲撃犯の間になんらかの繋がりがあることは、間違いありませんね。」

部屋にいた仲間たちが息を呑む。


ルヴィはギーヴに向き直り、静かに言った。

「今夜から明日の朝にかけて、街の南側の街道を封鎖するよう、グレートウルフたちにお願いできますか?」

ギーヴは短く頷くと、傍らのガルに話しかけた。ガルは、すぐに身を翻し、屋敷を飛び出していった。

ルヴィは一同を見渡し、決意を込めた声で言う。

「私たちは明日、例の三人を捕えます。」

夜更けになり、フリオからペルディーニ商会の男が宿屋を出て、商会に戻ったと報せが届いた。


翌朝、まだ空が薄暗いうちに、私たちは街の南の街道に集まった。

やがて朝日が昇り、光が差し込むと、肌にじわりと熱が広がるのを感じる。立っているだけで、額に汗が滲んだ。

隣に立つお姉さまを見ると、相変わらず涼しげな表情を浮かべている。皆で暮らすようになってから、お姉さまが汗をかく姿をほとんど見たことがない。

「お姉さま、いつも涼しそうだけど、自分だけ涼しくなる魔法でも使っているのかしら?」

「そんな魔法はありませんよ。」

冗談めかして問いかけると、ルヴィが代わりに答えた。


街道を少し外れると、背の高い草が生い茂り、その奥に気配は感じないものの、グレートウルフたちが潜んでいるはずだった。

ルヴィが彼らに要請し、襲撃犯たちを確実に捕えるために、南へと続く街道全体を監視させている。

街道を行き交う人の姿が少しずつ増えてきた。


そんな中、街の方から一台の馬車がゆっくりと近づいてきた。その姿を確認すると、ルヴィが言った。

「ようやく来ましたね。」

私たちは慎重に動きを見守りながら、馬車が目の前を通り過ぎるのを待った。車輪が軋む音が響き、馬の蹄が乾いた地面を踏みしめる。

そして、馬車がちょうど通り過ぎた瞬間、ルヴィが手で合図を送る。

次の瞬間、茂みの中に潜んでいたグレートウルフたちが一斉に飛び出し、馬車の進路を塞いだ。逃げ道を封じられた馬がいななく。

ルヴィが馬車の脇へと歩み寄り、落ち着いた声で御者に話しかける。

「あなた方は、マデイラ島からやってきた方々ですよね?」

御者は、驚きの表情を見せたものの、すぐにすべてを悟ったように肩を落とし、静かにうなだれた。


三人を捕えると、私たちは彼らを馬車ごと街の外にある練兵場へと移送した。

この練兵場は、パルマスの自警団と交易の護衛隊が訓練を行うための施設で、比較的広く、人目につきにくい場所だった。


捕えた三人を目の前にし、ルヴィが静かに口を開く。

「あなた方が私たちに協力してくれるのであれば、身の安全は保証します。どうしますか?」

しかし、三人はうなだれたまま、沈黙を守り続けた。

「それでは、仕方ありません。」

ルヴィはそう言うと、護衛隊のレンウィックに指示を出し、それぞれを別々の部屋に監禁するよう手配した。

ギーヴにはグレートウルフたちを祝福の森へ帰すように伝えた。


尋問はルヴィとランスの二人で、一人ずつ丁寧に行ったが、思いのほか抵抗はなかった。

三人は驚くほどあっさりと口を割り、「身の安全を保障してくれるなら、知っていることは全て話す」と言い切ったようだ。


翌朝、私たちは護衛隊から精鋭を二十名選抜し、マデイラ島にある集落の制圧に向けて出発した。


同行したのは、捕えた三人のうちの一人、レイズと名乗った男だった。

自ら案内役を申し出た彼は、移動中も落ち着いた様子で「我々は、もともと盗賊まがいのことをするために集落を作ったわけではなかった」と繰り返し語っていた。


レイズの話によれば、集落への道は南と東の二か所しかなく、北と西には草原が広がっているとのことだった。

逃げようとすれば目立つため、見張りを置くだけで対処できるだろう。


そこで、北と西にはそれぞれ二人ずつ見張りを配置し、出入りのある南と東には八人ずつを配備することに決まった。


朝靄がまだ晴れきらないうちに、私たちはマデイラ島に上陸した。空気はひんやりとしていて、緊張で胸が少し痛い。

ルヴィの指示で、私たちは集落をぐるりと囲むように配置についた。

私は南側を担当することになり、ハウル、ギーヴ、それに自警団の人たち八人と一緒に、小さな街道を静かに北上していく。


歩くたびに、足音が妙に大きく響く気がして、無意識に呼吸を浅くする。

やがて集落が見えてきた。家は十軒ほど、ぽつりぽつりと建っているだけ。でも、まるで時間が止まっているみたいに静かだった。

人の気配がまったく感じられない。まるで空っぽの箱を見ているような、そんな不気味さがある。


集落の入り口に着くと、事前に決めていた通り、そこで私たちは待機した。視線を東に向けると、ルヴィとランスが道を進んでくるのが見える。


ルヴィが集落の中央に進むと、はっきりとした声で呼びかけた。

「私たちはパルマス商会の者です。今日ここに私たちが赴いた理由は、皆さんご存じかと思います。可能であれば平和的に解決したいと望んでいます。」


その声が静まり返った集落に響いた刹那、私たちが立っていたすぐ近くの家の扉が、音を立てて開いた。出てきたのは三人の男。

いずれもこちらを睨みつけ、武器を手に走ってくる。


「来る!」


自警団の人たちがすぐさま前に出て壁のように並ぶ。けれど、私はその隙間をすり抜けて前に出た。鞘はつけたまま、剣の柄を握る。


一昨年前、私は人を斬る覚悟がなかった。けれど、今は違う。必要とあらば、人を斬る決意は、もうできている。

しかし、この男たちは殺す必要はない。ただ、止めるだけでいい。


真正面から向かってきた男の動きが、妙にゆっくり見えた。私は半歩右にずれ、彼の武器の軌道を外すと、その勢いのまま、剣の柄を鳩尾へ突き立てた。

「うっ……!」と短く呻き、男は地面に崩れ落ちて動かなくなった。


視界の端で、左右の男たちがハウルとギーヴに取り押さえられているのが見えた。


すると、静まり返っていた集落に、少しずつ動きが生まれた。

一軒、また一軒と家の扉が開き、それぞれの家から人々が姿を現す。彼らは警戒しつつも、ルヴィの呼びかけに導かれるように、集落の中央に歩み寄っていった。


私たちは、捕らえた三人の男を引きずりながらルヴィの元へ向かう。後ろでは、自警団の仲間たちが集落の外を見張っている。


一人の年配の男が人々の前に出て、ルヴィの前へと静かに進み出た。姿勢は穏やかだが、ただの村人ではないと、一目でわかる風格があった。

「私はこの集落をまとめている、ユーリ・アイゼルと申します。あの三人は、ペルディーニ商会から派遣された者たちです。」


男の声は低く、落ち着いていて、逃げも隠れもしないという覚悟が滲んでいた。


ルヴィが静かに問う。「『トパーズ』と呼ばれている方は、あなたですか?」

「そうです。この集落の長は代々『トパーズ』の名を受け継ぐことになっています。私は三代目のトパーズというわけです。」


やはり、この男が『トパーズ』。ギズモグロウヴの集積所襲撃の黒幕が目の前にいると思うと、私は自然と息が詰まってしまった。


「では、ギズモグロウヴの集積所を襲った者たちは、この集落の方々なのですか?」


ルヴィの問いかけに、男は頷いた。

「はい。ただし、この集落だけでは人数が足りませんでした。各地から協力者を募り、実行に移したのです。」


私は胸の奥でざわつくものを感じながら、ルヴィの横顔を見つめる。彼の表情は変わらず、淡々としたままだ。


「この集落は、いったい何のために存在しているのですか?」

ルヴィの問いに、男は少し間を置いてから口を開いた。


「もともとはペルディーニ商会が情報を収集するために作った拠点です。ここから各地に情報を伝える役割を持つ者が配されていました。

 しかし、数年前から...手荒い仕事を命じられるようになったのです。」


男の声が一瞬だけ沈んだ。


「以前、あなた方の仲間のお嬢さん方を誘拐したのも、情報収集のためにパルマスに滞在していた者たちによるものです。」

その言葉に、レナとフィオラの顔が脳裏に浮かぶ。あの時の出来事が、すべてここに繋がっていたのだ。


ルヴィは一歩前に出ると、静かに言った。

「...それらの件について、パルマスのダスクウィーバー男爵の前で証言していただけますか?」


トパーズ...ユーリは一度、深く頷いた。

「わかりました。ですが、ひとつだけ...この集落の者の子供が四人、ペルディーニ商会に人質として囚われているのです。」


その言葉を聞いた瞬間、私の胸に鋭い痛みが走った。


「囚われている場所はわかりますか?」


ルヴィの問いかけに、トパーズはわずかに目を伏せながら答えた。


「...バジェエルモソの街にある、ペルディーニ商会が所有する建物です。そこに、子供たちが囚われているのを確認しています。」


ルヴィは真っすぐにトパーズを見つめたまま、静かに、しかしはっきりとした口調で言った。


「...そうですか。ならば、早速救出に向かいましょう。」


その言葉に、皆の表情が一斉に引き締まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ