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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第四章
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襲撃者

年が明けると、冷たい北風とともに北方から戦乱の報せが舞い込んできた。

北方の辺境伯フリーデリケ・ドロテア・フォン・ダルムシュタット。

彼は先々代の王弟の孫ベルナンドを擁立し、正統なる王位継承者として即位させ自らが宰相の座に就いたという。

この報せは王都のみならず、各地に衝撃を与えた。

王国北東部は豊かな丘陵地で国土の一割程度を有している。

その統治者であるダルムシュタット家が王家に反旗を翻したとなれば、国の均衡が大きく揺らぐのは避けられない。


私たちの元にもダスクウィーバー男爵から、ペルディーニ商会に不穏な動きがあるので気を付けるようにと連絡があった。

昨年、アデルやミリアーノの尽力により、テルロ、ギズモグロウヴ、サウセスの街に私たちの商館を設立することができた。

今年はさらにテルデとバジェエルモソへの進出を計画している。

ギズモグロウヴを除けば、これらの街にはすでにペルディーニ商会の商館が存在している。私たちの進出が彼らの縄張りを脅かしているのは明らかだった。


すでに、パルマス商会に所属する商人たちからペルディーニ商会による嫌がらせの報告が何度も寄せられていた。

小さな妨害から始まったそれは、次第に激しさを増している。取引先への圧力、荷の遅延、契約の妨害...彼らはあらゆる手段を使って私たちの進出を阻もうとしていた。

このまま手をこまねいていれば、被害はさらに拡大するだろう。

ペルディーニ商会の横暴を許さないためにも、本格的に対策を講じる時が来たと、私たちはすでに覚悟を決めていた。


それから数日後、ギズモグロウヴから緊急の報せが届いた。

何者かによって物資の集積所が襲撃されたというのだ。

被害の詳細はまだ不明だが、積まれていた商品の一部が奪われ、施設にも破壊の跡があるとのこと。

これは単なる盗賊の仕業なのか、それともペルディーニ商会が裏で手を引いているのか...状況を見極め、冷静に対応しなければならなかった。


私は、ハウル、ランス、レナ、カレノール、ギーヴと共にギズモグロウヴへと急いだ。ギーヴはギルを伴っている。

集積所に到着すると、管理を任されているカルロが迎え、事態の概要を説明してくれた。

「襲撃者の数は百名ほどの集団でした。幸い、大きな被害は出ていません。奪われた商品もごくわずかで、施設の損壊も軽微です。

 ただ、迎撃にあたった者たちのうち数名が負傷しました。」

すでにカレノールが負傷者の治療を進めており、深刻な怪我人はいないようだった。


集積所と商品の管理はハウルとレナに任せ、私はランスとともに捕らえた襲撃者たちの尋問を行うことにした。

同時に、ギーヴには祝福の森からグレートウルフを呼び寄せるよう依頼する。

しばらくして、森から駆けつけたグレートウルフの姿が現れると、尋問を切り上げ、捕虜たちを解放した。

その後、グレートウルフの嗅覚を頼りに、解放した襲撃者たちの拠点へと追跡させる。

襲撃者たちの拠点を突き止めると、交易の護衛隊から精鋭を数名選び、彼らの動向を密かに監視させることにした。


日差しが暖かさを増し、肌をなでる風が心地よく感じられる頃になると、交易の準備が整い、春の船を出す時期がやってきた。

今回の航海では、アデルとギーヴがパルマスに残ることとなる。

アデルは、テルデとバヴェエルモソに設立予定の商館の準備を進める役目を担う。

ギーヴは集積所を襲撃した者たちの動向を追うとともに、ペルディーニ商会の動きを探ることになった。

さらに、カレノールの依頼を受け、教会の孤児院から二名の子どもが見習いとして交易に同行し、実地で学びながら手伝いをすることとなった。


交易の旅は順調に進み、前回よりも多くの品物を取り扱うことができた。心配していた治安も、南部ではまだ北方の影響を受けていないようだ。

護衛隊をさらに強化できれば、年二回の航海にとどまらず、より頻繁に船を出すことも可能だろう。

それほどまでに、交易品の集まりは順調に進んでいた。


交易の旅を終え、パルマスの街へ戻ると、新たな情報がもたらされた。

まず、テルデの商館が無事に完成し、すでに業務を開始しているとのことだった。さらに、バジェエルモソの商館も数日中には営業を始められる見込みだという。

ギーヴは、ギズモグロウヴの集積所襲撃事件について調査を進める中で、襲撃犯とペルディーニ商会の関係が明らかになった場合、ダスクウィーバー男爵がパルマスでのペルディーニ商会の営業許可を取り消すことを確約させることに成功していた。

さらに、男爵はテルロ、サウセス、テルデ、バジェエルモソの代表者や監察官にも、商会の不正を厳しく監視するよう働きかけてくれるという。


一方、襲撃犯の動向を追っていた護衛隊からも報告が入った。襲撃を指揮していた者は、トパーズと呼ばれていたという。

しかし、いまだにその正体は掴めていないとのことだった。

この件は長期戦になると覚悟し、焦らず慎重に進めるよう、私は皆に指示を出した。


季節は春から夏へと移ろうとしていた。

ウルリカと出会い、その言葉を胸に刻んでから、私はレアティースとオフィーリアと、心を通わせるように努めた。

すると、二羽はまるで最初から決まっていたかのように、自然と使い魔の役割を受け入れてくれた。

さらに、ある程度の距離なら視界を共有できることも分かった。

隣の街ほどの距離なら問題なく観察できるため、レアティースにはサウセス、オフィーリアにはテルロの街のペルディーニ商会の動向を探らせることにした。


バジェエルモソの商館が間もなく営業を開始するという時期、アデルが現地へ向かうことになり、私とランス、リル、そしてソニアが同行することになった。

バジェエルモソの街はデネリフェ島ではなく、サウセスの街から船で二日ほどの距離にあるバジェ島にある。

この島は、街から南西に細長く広がり、面積こそ小さいものの温暖な気候に恵まれ、農耕に適した豊かな土地を持つ。


バジェエルモソの小さな港にネフライト号を寄せ、私たちはバジェ島に上陸した。

すると、ランスが何かに気付いたらしく、小声で私に耳打ちしてくる。

「あそこに、襲撃犯を監視している護衛隊のマケロンがいます。後を追って、声をかけてみようと思います。」

ランスの視線の先にマケロンの姿を確認し、私は静かにうなずいた。


その後、私たちはアデルに随い商館へと向かい、開業の準備に取りかかる。

しばらくして、ランスが商館へ戻ってきた。

「この島にはマケロンだけでなく、ピケ、ネリナ、ロディオも来ているようです。何かありそうですね。」

「四人も集まっているのですか。襲撃犯もこの街に留まっているのですか?」

「それが、この島出身者が多いようですね。この島の集落は百人規模の小さなものばかりで、探索に手こずっているようです。

 今はロディオが島を回りながら、各集落の様子を探っているようですが...。」

「なるほど。では、オフィーリアを呼んで探索を手伝ってもらいましょう。」


オフィーリアに視覚を共有しながらバジェ島を探索させると、以前尋問の際に見た顔を確認することができた。

一つの集落には三人が住んでおり、さらに隣の集落で別の一人の姿を確認できた。

オフィーリアには三人が暮らす集落の監視を続けてもらい、私たちはパルマスの街へ帰る予定を延期することにした。

その旨をパルマスに連絡すると、五日後にリルとギーヴがガルを伴ってやってきた。


今年の夏はうだるような暑さが続いていた。

そんな猛暑の中、一か月ほどバジェ島に滞在していると、ついに襲撃犯たちに動きが見られた。

監視していた三人のもとにもう一人が合流し、四人は集落を離れて島の南へと向かった。

彼らは海沿いの集落で船に乗ると、目と鼻の先にあるマデイラ島へ渡った。


マデイラ島もまた小さな島だが、農耕が盛んな土地である。

四人が向かった先は、その島にある小さな集落だった。

住人は数十名ほどと少なく、農地はほとんど見当たらない。

しかし、建物の造りは妙に頑丈であり、何か特別な目的があるように思えた。

四人はその集落に一晩滞在したものの、特に目立った動きを見せることはなかった。

翌朝になると、まるで何事もなかったかのように再び船に乗り、バジェ島へ戻っていった。


バジェ島とマデイラ島の監視については、マケロン、ピケ、ネリナ、ロディオの四人に任せ、私たちは一旦パルマスの街へ戻ることにした。

パルマスの街に戻った私たちは、さっそくマデイラ島の集落について情報を集めることにした。

まずは商人や船乗りたちの間で話を聞いてみたが、この集落について知っているものはいなかった。

また、交易に関わる者たちの間でもあまり知られていないようだった。


そんな中、思いがけない人物がこの集落について知っていることが判明した。ギズモグロウヴでスタンレーさんの下で働いているカブスという男だ。

彼はかつて傭兵として雇われ、その集落を訪れた経験があるという。

私はアデルとランスを伴い、ギズモグロウヴへ向かい、カブスから詳しい話を聞くことにした。


カブスの話によれば、彼がマデイラ島の集落を訪れたのは五年ほど前のことだった。

ある商人の護衛として傭兵仲間と共に雇われたが、集落の様子は普通の村とは一線を画していたという。

「外から見れば何の変哲もない小さな集落だったが、中に足を踏み入れると雰囲気が違った。見張りが絶えず巡回していて、住民の多くが武器を扱えた。」

さらに詳しく聞くと、集落の長はトパーズと呼ばれていたという。

「トパーズ自身が前線に立つことはなかったが、集落の者たちにとって絶対的な存在だった。

 指揮を執る者たちは、決定を下す際に常にトパーズの意向を気にしていたな。俺たち傭兵が直接会うことはなかったが、その影響力は明らかだった」

トパーズの名を聞き、私たちは、この集落の正体を突き止めるため、さらに慎重に調査を進めることにした。


パルマスに戻ると、マデイラ島の集落を監視していたピケから報告が届いた。

マデイラ島の集落の男三人が船に乗り、デネリフェ島方面へ向かったとのことだった。

すぐにレアティースにデネリフェ島の海岸線を捜索させると、島の南方で目的の船を発見した。

レアティースに監視を続けさせると、船はデネリフェ島南部の小さな漁村に到着し、三人の男たちは上陸した。

そして、漁村の宿に泊まると、翌朝にはテルロの街へ向かった。

このままいけば、彼らは明日にもパルマスの街に到着する可能性が高い。私はすぐに皆を集め、対応を協議することにした。


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