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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第四章
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ウルリカ

部屋の中は、まるで黄金の海のようだった。山のように積まれた金銀財宝が、魔法の光を受けて輝き、眩しいほどの光を放っている。

その財宝の山の中から、伝説のドラゴンが姿を現した。

赤い鱗に覆われた巨大な体躯。その堂々たる姿は、まさに伝説の存在にふさわしい威厳をまとっていた。


ウルリカはゆっくりと首を伸ばし、右を向いた後、鋭い左の瞳でオレたちをじっと睨んだ。

「吾の知るアンフィトリーテとは、姿かたちが異なるようじゃが...呪いでもかけられたか?」

「わらわには、事情があってこのような容姿をしておるのじゃ。それよりも、この者、ハウルが、そなたの夢を見たというから連れてきたのじゃ。」

「その者が吾の夢を...?」

ウルリカはじっとオレを見つめると、小さく唸った。

「ふむ...資質は備えているようじゃな。ハウルと申したか。汝は、どのような王になりたいのじゃ?」


「お、王様って...!? いや、オレは王様になりたいわけじゃなくて、ルヴィ...いや、ルートヴィヒの家族のことを聞きたくてここに来たんだけど...。」

オレとウルリカのやりとりを聞いていたアンフィが、すかさず割って入る。

「そうじゃったな。ウルリカ殿、このルートヴィヒと申す者は、過去の記憶を失っておってのう。何か分かることはないかのう?」

ウルリカはしばらく考えるように目を細めた後、静かに言った。

「汝もまた、王の資質を備えておるのう...。ネフェリウス=ベアルの末裔であれば当然のことじゃが。」


ネフェリウス=ベアル。


その名を聞いた瞬間、オレは思わず息を呑んだ。それは、かつて世界を恐怖に陥れた魔王の名前だ。

なぜルヴィが、魔王の末裔だというのか?

その疑問が頭をよぎった瞬間、リルがオレよりも先に声を上げた。

「ちょっと待ってよ! 王様とか魔王ネフェリウス=ベアルとか...話の内容が混乱してきたんだけど! 魔王の血族は、皆処刑されたはずじゃなかったの!? なんでルヴィが、その魔王の末裔なの!?」

リルの問いかけに、今度はアンフィが口を開いた。

「そうじゃな...おぬし等は、魔王の血族について、何も知らぬのじゃったな。」


アンフィはゆっくりと語り始めた。

「後の世で魔王ネフェリウス=ベアル・ギレム・ヴォルガリスと呼ばれる王が滅ぼされたとき、一人の魔女が王城から赤子を抱えて逃れたのじゃ...。

 その魔女こそ、スクルドの魔女ヴェガ・エレファンティネじゃ。」

オレは息をのんだ。十三人の英雄の一人、ヴェガ・エレファンティネ...その名は、かつて世界を救った英雄として歴史に刻まれている。


「彼女を助けて逃したのが、同じく十三の英雄の一人、スクルドの騎士アルタイル・ヴァンディールじゃった。」

「アルタイル・ヴァンディール...?」

リルが驚いたように名前を繰り返す。彼もまた、英雄として語り継がれる伝説の人物だった。

アンフィは頷き、続ける。

「ヴェガは王城を逃れると、エルミオン大森林へと奔った。エルフたちの庇護を受けながら、彼女はその赤子を育てたのじゃ。

 しかし、やがて追及の手が伸び、エルミオン大森林にも危険が迫ると、ヴェガは火山の島へと逃れた。そして、ウルリカに庇護を求めたのじゃ。」


ウルリカが、低く唸るように言った。

「ヴェガが吾のもとへ来たとき、その瞳には決意と悲しみが宿っておった。彼女は言ったのじゃ。

 『この子は、生まれながらにして背負うべきものがあまりに重い。だが、この子に罪はない。どうか、未来を託したい』と。」

「その赤子は...?」

オレの問いに、ウルリカはゆっくりと頷いた。

「赤子は、すくすくと成長し、やがてスクルドの青年と恋に落ちた。そして、ヴェガの言葉に従い、その姓を隠しながら、血を代々受け継いでいったのじゃ。」


静寂が訪れる。

その意味するところを、オレたちは理解し始めていた。

「つまり...ルヴィの祖先は...?」

アンフィは静かに頷いた。

「そうじゃ。ルートヴィヒは、魔王ネフェリウス=ベアルの末裔なのじゃ。」

皆が息を呑んだ。

ルヴィは何も言わず、ただ静かにウルリカを見つめていた。


アデルの声が洞窟に静かに響いた。

「そ、それでは、ルヴィのお父様とお母様は、今どこにいるのですか?」

長い沈黙を破るその問いに、皆が息をのむ。

ウルリカは黄金の瞳をゆっくりと細め、低く響く声で答えた。

「その者の父と母については、吾にもわからぬ。しかし、その体に流れる血が、ネフェリウス=ベアルの末裔であることを示している。

 ヴォルガリスの一族は、血と共に知識を受け継ぐといわれておる。汝にも過去の知識が受け継がれておるはずじゃ。」


リルがウルリカをじっと見つめ、いつもの調子で問いかけた。

「ルヴィは色んなことを知っているの。それって、過去の知識ってことかしら? それに魔法もなんでも使えるのよ。それも受け継いだ知識なの?」

ウルリカは目を細めると、低く響く声で答えた。

「多くの知識を持っているのは、確かに受け継がれたものじゃろう。魔法の知識もその一部かもしれぬ。しかし、魔法を扱うということは知識とは別であろう。」


その言葉を聞いていたアンフィが、ふと考え込むように口を開いた。

「ヴォルガリスの一族ということは、人間ではなくスクルドということになるかの? であれば、魔力の豊富さにも納得がいく...。

 それにしても、ルヴィの魔法の熟練度は尋常ではないように思うが...。」

「その者の才と努力の賜物であろう。魔法使いとして大成しておるのじゃな。すでにその者には、その者に仕える二つの翼がおるようじゃ。」

ルヴィは困惑したように眉をひそめ、低くつぶやいた。

「仕える二つの翼...?」

アンフィが首をかしげながら言葉を返す。

「魔法使いに仕える者といえば、使い魔のことじゃな。ルヴィに使い魔などおったかのう?」

ウルリカは静かに笑みを浮かべ、諭すように告げた。

「主人も周囲の者も気づいておらぬとは...仕える者が不憫じゃのう。」

その言葉にリルが何かひらめいたように、ぱっと顔を輝かせた。

「レアティースとオフィーリアじゃない?二羽とも翼を持っているし、きっとそうよ!」

「確かに...。」アンフィも納得したように頷く。「ただ懐いているだけかと思っておったが...あの二羽が、自ら使い魔たらんとしたのであろうのう。」

ウルリカはルヴィの瞳をまっすぐに見つめ、静かに語りかけた。

「レアティースとオフィーリアに会ったら、心を通わせてやるとよい。」


そう言って一度言葉を切ると、ウルリカは黄金の瞳をこちらに向け、鋭く見つめながら続けた。

「しかし、アンフィトリーテ、汝が連れてきた者たちは、ただの子供ではないようじゃな...それぞれが特異な資質を持っておる。」

アンフィが小首をかしげる。

「そうなのかや?」

ウルリカは一人ずつ視線を移しながら、まるで彼らの本質を見抜くように言葉を紡いだ。

「この者は海を支配する資質を持っておる。そして、この者は異質じゃ...人間でありながら、獣の王たる資質を秘めておる。」

皆の目がソニアとギーヴを捉えた。


そしてウルリカの視線は、アデルへと向けられた。

「その者もまた、王の資質を備えておる。」

アデルは目を見開き、自らの胸に手を当てた。

次に、ウルリカの瞳はレナをとらえた。

「その者は、王を支える王佐の才を秘めておる。」

レナが王を支える者?そんなことは考えたこともなかった。だが、ウルリカの言葉には揺るぎない確信があった。

「そして...そちらの者は、己が仕える者を玉座へと導く、武の才を備えておるようじゃな。」

ウルリカの視線がランスへと注がれる。


ウルリカの視線がリルへと移った瞬間、空気が張り詰めた。

「その者は...王を滅ぼす星を持っておる。」

ウルリカの言葉が重く響き、洞窟内に静寂が広がった。リルの顔が青ざめ、目を見開いてその言葉を消化できずにいた。

「わ、私が...王を、滅ぼす?」

小さな声が洞窟内に響く。ほかの仲間たちも息を呑んでウルリカを見つめた。


「どうして...私がそんなことを?」

リルが声を震わせながら、さらに問いを重ねる。アンフィが深く息をつき、言葉を選ぶように答えた。

「王を支える者もあれば、王を倒す者もいる。それが星の巡りあわせというものじゃ。だが、必ずそうなるとは限らぬ。

 わらわもウルリカ殿に『王の資質を備えている』と、はるか前に言われたことがあるが、二百年経てもこの通りじゃ。」

アンフィの言葉が、少しだけリルを落ち着かせたようだった。しかし、リルの心にまだ重いものが残っている。


アンフィがカレノールを指さし、疑問を投げかけた。

「この者には特別な資質は無いのかえ?」

ウルリカはしばし沈黙を保ち、そして静かに答えた。

「その者は、すでに仕える神を見つけて歩み始めておろう。」

その言葉に、カレノールは微かに頷いた。彼の顔には決意と平穏が浮かんでいたが、どこか神聖なものを感じさせた。


洞窟内の静寂を破るように、ウルリカがゆっくりと向きを変えオレ達を正面に見据えると、厳かな雰囲気を纏いながら言葉を発した。

「吾の名はウルリカ。汝らは皆、吾と友誼を交わす資格を有しておる。一人ずつ名乗るがよい。」

その威厳に満ちた声に、場の空気がさらに引き締まる。誰もが息を呑み、しばしの沈黙が訪れた。

やがて、オレは意を決して一歩前に出た。ウルリカの燃えるような瞳をまっすぐに見上げ、名乗りを上げる。

「オレは、デネリフェ島ヴァレノ村の鍛冶屋、デニス・シュルーダーの次男、ハウル・シュルーダーだ。」

オレの名乗りに続き、仲間たちも次々と前へ進み出る。

「私は、デネリフェ島パルマスの街の宿屋、マリア・フェルステルの次女、アヴリル・フェルステルです。」

一人、また一人と名を告げていく。


やがて最後に、ルヴィが静かに前に進み出た。

「私は...」

その声は、どこか覚悟に満ちていた。

「ネフェリウス=ベアル・ギレム・ヴォルガリスの末裔、ルートヴィヒ。」

その名が響いた瞬間、ウルリカが目を細め、満足げに頷いた。そして、ゆっくりと口を開く。

「ルートヴィヒよ。吾の前では、ルートヴィヒ・ギレム・ヴォルガリスと名乗るがいい。」

ルヴィは真剣な表情でウルリカを見つめ、力強く頷いた。洞窟に満ちる空気が、先ほどよりもずっと厳かで、どこか神聖なものに包まれているようだった。


オレ達はウルリカと友誼を交わし、その威厳ある存在に深く敬意を抱きながら、洞窟を後にした。

ウルリカの言葉が胸に残る。ルヴィの血脈、仲間たちの資質...。

黄金に輝く財宝の山を背に、オレ達は再び歩みを進める。洞窟の出口に向かう途中、誰もが無言だった。

それぞれが、ウルリカから告げられた言葉を噛み締めていたのだろう。

外の光が差し込むと、長い洞窟の旅が終わったことを実感する。眩しい陽の光を浴びながら、オレはそっと拳を握る。


これから進む道が、どんなものになるのかはわからない。

だが、ウルリカとの邂逅は、確かにオレ達の運命を大きく動かした。

「行こう。」

オレの言葉に、皆が静かに頷いた。


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