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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第四章
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火山島への旅

夜空には、一ノ月が白く輝き、その少し遅れて、爪の先ほどの細い二ノ月がゆっくりと昇っていた。

上着を重ねなければ凍えるような季節。吐く息は白く、夜の空気は澄んでいる。


先ほどまで、交易の護衛を担当する戦闘員五十名の訓練をしていた。

まだ兵士と呼べるほどの練度はないが、これから訓練を重ね、実戦に耐えられる部隊にしていくつもりだ。

この五十名のメンバーは、アルヴィアの自警団から集めた者たちに加え、足りない人数をパルマスの自警団の希望者から募った人員で構成されている。

秋の交易の際にアルヴィアからパルマスへ移動し、そのまま訓練を続けてきた。


また、元盗賊のレンウィックさんとゼナさん、自警団のサブリーダーだったカイルさんも加わってくれている。

なお、アルヴィアの自警団のサブリーダーには新たにベクターさんが就任した。

ゼナさんとは過去に色々あったが、ルヴィたちの説得のおかげで仲間として迎えることができた。しかし、彼女はまだ過去について語ろうとはしない。

しばらく旅に出ることになるので、今後の訓練はレンウィックさん、ゼナさん、カイルさんの三人に任せることにした。


明日から私たちはハウルが夢に見たドラゴンに会うため、旅に出る。

ドラゴンの所在はアンフィが知っていた。彼女の話によると、ドラゴンはこの群島の最南端にある火山の島ニアカニメ島に住んでいるという。

ニアカニメ島は群島で最も大きな島だが、人が住んでいないと聞く。


翌日、屋敷にイヴァとギルを残し、二両の馬車でギズモグロウヴの街を目指した。

今回の旅のメンバーは総勢十人。ルヴィ、ハウル、アデル、リル、ソニア、レナ、ギーヴ、アンフィ、カレノール、そして私だ。

ギズモグロウヴの街に到着すると、ネフライト号に乗り換え、海を渡ることになる。

航海中はすべてソニアに任せることにした。幸い風は北から吹いており、南へ進むには絶好の条件だ。


船の上では、いつものようにリルとレナが魔法の訓練をしている。

「レナ、魔法の上達、私より早いんじゃない?」

「そんなことないわ。まだまだリルちゃんには敵わないもの。剣技だってリルちゃんのほうがすごいのに...。」

リルは剣も魔法も学ぶことに貪欲だ。魔法の習得は効率が悪いと言われているが、彼女の剣の腕は並の男性以上だろう。

「ねぇ、レナ。もしかしてこっそりルヴィやお姉さまに魔法を教わってるんじゃない?」

「リル。レナが、そのようにリルみたいなことをするわけがないでしょう?」

見ていたアデルが横から口を挟む。


魔法の腕前に関しては、アデルが頭ひとつ抜けている。だが、アンフィとルヴィは別格だ。

アンフィは三百年以上生きているということだから、熟練しているのも当然かもしれない。

しかし、ルヴィには驚かされる。アンフィですら「十歳そこそこで、ここまで熟練した魔法使いには会ったことがない。」と言っていたほどだ。

私の知る、スピネルやクリスタと競わせたら、どちらが優れているのだろう...。


「レナは素直じゃし、魔法の書もよく読んでいるからのう。リルも、もっと書を読めばよかろう。」

「何よ、アンフィの意地悪。本を読むと眠くなるのよ。それでも頑張って読んでるんだから!」

「魔法の書も、もう五冊目ですからね。アデルはもうすべて読み終わったのですか?」

「ええ、読み終わりましたわ。ルヴィが選んでくださった本ですもの。レナは四冊目に入ったところかしら?」

「この旅が終わったら、新しい書を購入しましょう。リルは何冊目を読んでいるのですか?」

「私は...まだ二冊目よ。でも、もうすぐ終わるんだから。それより、ルヴィったらレアティースとオフィーリアをどうするつもりなの?もう、ずいぶん大きくなったでしょう?」


レアティースとオフィーリアとは、ギーヴとイヴァを助けた際に一緒に救った二羽の大カラスの雛のことだ。

白いオスのレアティース、黒いメスのオフィーリア。どちらもリルが勝手に名付けた。

ルヴィは何度か彼らを祝福の森に返そうとしたのだが、すっかり懐いてしまい、どうしてもルヴィの元を離れようとしない。

毎日外へ出しているものの、自由に飛び回り、夜になると必ずルヴィのもとへ戻ってくる。

エサは自分たちで狩りをしているようで、屋敷で食事をとるのはたまにだけらしい。それでもルヴィのそばが居心地がいいのだろう。

リルは「私たちにも懐いてくれればいいのに!」と不満を言っていた。

ルヴィは特に気にする様子もなく、二羽と共に生活することにしたようだ。


ギズモグロウヴを出て七日目にシルヴァリアの街に到着した。シルヴァリアは、群島で二番目に大きな街だと聞いている。

この街がある灰色の島は、群島で二番目に大きい島だが、街はシルヴァリアを含めて二つしかない。

島の九割以上は不毛な砂漠が広がっており、南の火山島から飛んでくる火山灰が混ざった特殊な砂のため、作物は育たないと言われている。


北東に位置するセントラル島を挟んで東側の海域では海賊が横行しているため、この街では軍船を二十隻配備し、航行の安全を確保していた。

そのため、この海域を通る船はシルヴァリアに航行税を納める決まりになっている。


シルヴァリアの街で一泊し、物資を補給することにした。ここから先、船は南の中海へと進むことになる。南の中海にはセイレーンが住んでいる。

翌朝、シルヴァリアの港を出港し、灰色の島を右手に見ながらに南下すると、三日目に五人の若いセイレーンが姿を現した。

ルヴィたちは彼女たちと顔なじみのようで、アンフィ、カレノール、レナ、そして私に紹介してくれた。

その後、五人のセイレーンとともに、南の中海を灰色の島沿いにさらに南東へと進んだ。


五日ほど航海を続けた頃、ジュノが言った。

「ここから先は外海になるから、私たちは一緒に行けないの。気をつけて行ってきてね。」

海を見渡すと、灰色の島から少し離れた場所にそびえ立つ絶壁の島が見えた。灰色の島と絶壁の島の間を通り抜けると、外海へ出るのだろう。

セイレーンたちに一時の別れを告げ、船は外海へと進んでいく。

外海は中海とは異なり、多くのモンスターが生息している、ここから先は気を抜けない。外海へ出ると、船は灰色の島沿いに南西へと進路を取った。


そのまま三日ほど航海を続けると、左手前方に新たな島の姿が見えてきた。

「あれが火山の島、ニアカニメ島じゃ。」

アンフィが指をさして教えてくれた。この島の南西に目的地である火山があるという。

「島内は火山灰で歩きにくいからのう。島を迂回し、南西の火山近くで上陸するのがよいじゃろう。」

「うん、わかった。ここからはニアカニメ島を右手に見ながら進んでいくね。」

ソニアが航路を確認し、慎重に舵を切った。


ニアカニメ島を眺めながら航行すること七日、島の右前方に大きな山が姿を現した。

さらに二日ほど進むと、その山の頂から噴煙が立ち上っているのが見えた。

ここまで小型のモンスターの群れや中型のモンスターに遭遇したものの、大きな問題もなく航海は順調だった。

「あの噴煙が上がっている辺りに、ウルリカは住んでいるはずじゃ。この辺りで上陸し、そこから十日ほど歩くことになるの。」

「と、十日も歩くの?そんなの聞いてないわよ!」

リルが驚いた声を上げる。

「それじゃ、リルは船に残るかい?オレたちは歩いて、伝説のドラゴンに会ってくるけど。」

ハウルが意地悪く笑うと、リルはすぐさま言い返した。

「い、行くわよ!私だってウルリカに会いたいもの!」

こうして、一行はニアカニメ島に上陸した。


しかし、歩き始めるとすぐに、火山灰に足を取られ、思うように進めないことに気づく。

これは、いい訓練になるかもしれないな...そんなことを考えながら周囲を見ると、皆が歩きづらそうにしていた。

リルは特に文句を言っていたが、そっと「いい鍛錬になりますね」と囁いてみると、途端に黙って歩き始めた。


火山灰の大地を四日ほど進むと、地形が変化し、ゴロゴロとした溶岩の塊が散らばる荒れ地へと入った。

さらに翌日には、大地全体が固まった溶岩のようになり、歩きやすくなったものの、剣先のような鋭い突起がそこかしこに立っている。

慎重に進みながら、溶岩の大地をさらに三日歩いたところで、大きな洞穴を発見した。

「この中じゃ。」

アンフィの言葉に従い、一行は洞穴の中へ足を踏み入れた。


中へ進むにつれて、周囲は次第に暗くなり、やがて完全な闇に包まれた。ルヴィが魔法で光を灯すが、それでも洞穴の先は見えない。

洞穴の中の空気は、冬とは思えないほど暖かかった。入り口の方から吹き込んでくる冷たい風が、むしろ心地よく感じられるほどだ。

「まるで春のようね...。」

レナがぽつりとつぶやく。確かに、外の寒さとは別世界のような空気だった。

「この暖かさは、火山の熱が関係しているのだろうか?」

壁に手を当てると、ほんのりとした温もりが指先に伝わる。

「この先に進めば、もっと気温が上がるかもしれぬぞ。」

アンフィがそう言って前を向く。ルヴィの灯す魔法の光に導かれながら、一行は洞穴の奥へと足を進めていった。


半日ほど進んだころ、ようやく前方に微かな光が差し込んでいるのが見えた。

光の下まで進むと、アンフィが足を止めた。

「ここから先に巨大な縦穴があるのじゃが、大きなコウモリのモンスターがたくさん生息しておる。

 賢いモンスターじゃからの、数匹倒して圧倒的な力を見せつければ襲ってくることはなくなるじゃろう。

 そこでじゃ、最初にランスとルヴィとギーヴが飛び出す、続いてレナとハウルとソニアが後に続く、残りが岩陰から援護というのはどうじゃ?」

「そうですね。では、アンフィの作戦で縦穴に出ることにしましょう。」

「それからこの先はもっと暑くなる。ここで服装を変えて進むのがいいじゃろう。」


皆が上着を脱ぎ、軽装へと着替えると、いよいよ縦穴へ出る準備が整った。

「では、行きましょう。」

ルヴィの合図とともに、私たちは慎重に縦穴へ足を踏み入れた。

見上げると、ぽっかりと開いた頭上には淡いすみれ色の冬の空が広がっていた。


その瞬間。


天井にびっしりと張りついていたコウモリたちが、一斉に羽音を立てながら襲いかかってきた。なかには人の大人ほどの大きさのものも混じっている。

「来るぞ!」

咄嗟に剣を構え、迫り来るコウモリの群れを薙ぎ払う。

その横では、ルヴィが炎の魔法を操り、赤々と燃え盛る業火で敵を一掃していた。

左手ではギーヴが素早く跳躍し、鋭いかぎ爪の武器を振るって、次々とコウモリを斬り裂いていく。


すぐにレナ、ハウル、ソニアが後方から加勢し、魔法と剣撃が交錯する。

圧倒的な力を見せつけられたコウモリたちは、やがて敵わないと判断したのか、一匹、また一匹と飛び去っていった。

「どうやら、終わったようですね。」

私は剣を収めながら周囲を見渡す。


「こっちじゃ。」

アンフィがそう言いながら、先頭に立って歩き出す。

縦穴の中を進むと、やがて巨大な横穴が姿を現した。

「この先はどうなっているの?」

リルがアンフィに尋ねると、彼女は振り返らずに答えた。

「横穴に入ると、しばらくはなだらかな道が続くが、気を抜くでないぞ。その先にウルリカがいるはずじゃ。」

アンフィの言葉に皆が頷く。

「よし、それでは行きましょうか。」

ルヴィが静かに言葉を発すると、私たちは再び歩き出した。


横穴を進んでいくと、前方に黄金色の光がぼんやりと輝いているのが見えた。その光は、横穴が左に曲がった先から漏れ出ているようだった。

「あの角を曲がった先に、ウルリカはいるはずじゃ。」

アンフィの言葉に、皆の足取りがわずかに軽くなる。


横穴の角を曲がった瞬間、目の前に広がった光景に私は思わず息を呑んだ。

そこには、まるで山のように積み上げられた黄金が輝いていた。宝石、王冠、装飾の施された剣や盾...まさに伝説に語られる財宝の数々が、無造作に積まれている。

「こ、これは...」

私は思わず目を丸くし、言葉を失った。

「ウルリカ殿、ここにおるのじゃろう? わらわじゃ、アンフィトリーテが会いに来たのじゃ。顔を出してくれんかのう?」

アンフィが静寂を破るように大きな声で呼びかける。

次の瞬間、黄金の山が、ジャラジャラと音を立てて崩れ始めた。


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