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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第四章
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救出

昨日、レナとフィオラが居なくなってから半日、街の中を探し回ったが、痕跡すら見つからなかった。

教会の近くでは、二人の姿を見たという人が数人いたのだが、教会から少し離れると、二人を見たという人すらいなくなった。


オレとカレノールは、教会の近くで二人がさらわれたと確信し、その周辺で聞き込みを行った。

カレノールも神聖魔法を使って痕跡を探していたが、重要な証言も、手がかりとなるような痕跡も、何一つ見つからなかった。


夜になり、オレはカレノールとともに屋敷へ戻った。


ルヴィは、魔法を使ってレナの居場所を探そうとしたが、反応はなかったと言っていた。

さらった相手が、魔法による探知を警戒して、何らかの魔法阻害の処置をしているのではないか、とのことだった。

その点から見ても、街の外に連れ去られた可能性は低いらしい。


アンフィも、もしレナが自分の位置を知らせる魔法を発動すれば、地図の上の布切れが反応してくれるだろうと言っていた。

リルは、ペルディーニ商会が今回の件に関わっていると考えているようだ。


オレも、ペルディーニ商会が関わっている可能性は高いと考えている。だが今は、すべての可能性を探らなければ、大事なことを見逃してしまうかもしれない。


...何故か、こういう時は、どうしても悪い想像ばかりしてしまう。本当は、もっと冷静にならなければいけない時なのに。



ほとんど眠れないまま、朝を迎えた。

今日は四組に分かれて行動することになった。オレはソニアと一緒に、街の西側を中心に捜索することになった。


二人で街に出ると、ソニアが話しかけてきた。


「ハウル、レナはきっと大丈夫だよ。ルヴィも危害を加えられることはないって、言ってたけど。

 それにレナは僕と違って頭がいいし、僕やリルほどじゃないけど、剣だって使える。きっとフィオラちゃんを守って、無事でいると思うよ。」


「ソニアが気を使ってくれるほど、オレはひどい顔をしてるのかい?」

「気を使って言ったわけじゃないけど...でも、ハウルは少し休んだ方がいいと思う。昨日も眠れていないんじゃないかな?」


「ありがとう、ソニア。でも、こうしている間にもレナに何かあったらって考えると、居ても立ってもいられないんだ。」

「それは分かるよ。僕だって同じ気持ちだもの。ハウルは、僕の何十倍も強く、そう思ってるんじゃないかって...。」


「ソニアは優しいね。でも大丈夫だよ。早くレナとフィオラを見つけて、皆で安心しよう。」

「うん。そうだね。」


再び街の中を歩き始める。路地を歩きながら、人を見つけたら聞き込みをする。しかし、まるで手掛かりがつかめない。

人通りがだいぶ増えてきた。日はすでに高く昇っている。


後ろから、オレとソニアを呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、ルヴィがこちらに走ってくる。何か状況が変わったのだろうか?


ルヴィが追いついてくると、魔法でレナの居場所が分かったと告げてきた。

一度屋敷に戻って、今後の方針を考えることになり、皆で屋敷に戻ることにした。


屋敷に帰ると、皆すでに戻っていた。カレノールも来ている。

ルヴィが、机の上に広げた街の地図を使って、レナの居る場所を説明してくれた。


ただ、助け出す方法が難しい。今から大勢で押しかければ、大騒ぎになってしまう。かといって、少人数で出向けば、何をされるか分からない。

ルヴィが皆を見渡して、静かに話し出した。


「今夜、このペルディーニ商会の西の別館に忍び込み、二人を助け出そうと考えていますが...どうでしょうか?」

「どのような作戦で侵入するのかな?」


ランスの質問に、ルヴィが答える。


「まず、この見取り図の前に集まってください。」


アンフィが見ているテーブルの周りに、皆が集まった。


「一ノ月が中天を過ぎたころでしたら、街は眠りについています。この別館でも、見張りを除いて眠りについているでしょう。

 見取り図を見ると、北の通りと東の路地に入り口があります。目的の場所には東の入り口が少し近いようですが、北と東の二手に分かれて侵入します。

 見張りを見つけたら、速やかに倒し、相手に気づかれないよう目的の場所に移動して、二人を救出して退散します。」


「見張りに見つかったり、誰かに気づかれてしまったらどうするの?」


今度はリルの質問だ。


「そうなってしまったら、仕方ありません。強行突破し、二人を救出します。」


ランスが見取り図を指さしながら言った。


「こことここ、それからここの建物には人が居ると思います。何か手を打ちますか?」

「侵入後、速やかに出入口を封鎖してしまいましょう。それから、見つかった場合でも正体が分からないように、顔を隠して侵入しましょう。」


作戦は決まり、北の班と東の班に分かれることになった。


東の班は、オレ、ルヴィ、カレノールの三人。北の班は、ランス、アデル、リル、ソニアの四人と決まった。


「これからのことは決まりましたわね。私たちが準備をしますので、ハウルとカレノールは、夜に向けてゆっくり休んでくださいね。」

「ありがとう、アデル。じゃあ、少し休ませてもらうよ。」


それからルヴィとソニアが屋敷を出て行った。


オレは自室に戻り、横になる。少し安心できたのか、ゆっくり眠ることができた。



夕方、目が覚めてリビングに行くと、カレノールとギーヴを除いて全員が集まっていた。カレノールは、疲れてまだ客間で休んでいるのだろう。


「そういえば、日中からギーヴを見かけなかったが、どこに行ったんだい?」

「今夜、レナとフィオラを連れて街の外に逃げられると困ると言って、ガル達に街の外を警戒してもらうよう、ルヴィがギーヴにお願いしていましたわよ。」

「流石ルヴィだね。ペルディーニ商会も、ルヴィを敵にしたのが間違いだったようだね。」


「ハウルも元気になったようで良かったですわ。」

「アデルにも心配かけたみたいだね。」


日が暮れてから、カレノールが客間から出てきた。


「眠れたかい?」

「ありがとう、ハウル。皆のお陰でゆっくり休めました。」


ルヴィとソニアが、大きな荷物を持ってリビングに入ってきた。

今夜、別館に侵入する際、オレたちの仕業と分からないよう、変装するための服などを買い込んできたようだ。


皆で食事をとり、ペルディーニ商会の西の別館の見取り図を見て、記憶する。


庭に出ると、街は静まり返っていた。空には碧い月が昇っている。

夏といっても、夜の風はまだ肌寒い。


カレノールが庭に出てきて言った。

「ハウル、心配ですか?」

「心配でないと言ったらウソになるかな。でも、ルヴィやランスの計画が失敗することは無いと信じている。」

「そうですか。私はルヴィとランスだけでなく、ハウルを含めた、ここの皆さんが関わることは失敗しないと信じています。」


「ありがとう、カレノール。なんだか慰めてもらったみたいだね。」

「そんなことはないですよ。私は、あなた方と一緒に居ることが、心強いのです。

 レナもこの半年で頼りになる女性になりましたし、フィオラがレナと一緒に居るのであれば心配ないと思っています。」


「レナが、そんなに成長しただろうか?」

「一緒に居ると分からないのでしょうね。元々才能に恵まれた子でしたから、特に交易の旅を終えてから自信が才能を良い方向に活かしているのだと思います。」

「レナの先生のカレノールがそう言ってくれてるんだ。心強いな。」


「夜風に長く当たるのは、体に良くないですから部屋に入りましょう。」

「そうだね。」


リビングに戻ると皆が集まっていた。それから夜更けまで、作戦の細かい部分を話し合った。



夜が更け、一ノ月が西へ傾き始めた。

皆、ルヴィたちが買ってきた黒く染められた動きやすい衣装に着替え、準備を整える。無駄な装飾はなく、動きやすいものだった。


準備が終わると、厩からエクリプスとアズールを連れ出し、ペルディーニ商会の西の別館を目指す。

大通りの途中でエクリプスとアズールを繋ぎ留め、東の班と北の班に分かれてそれぞれ別館へ歩き出した。


東の班は西の別館の東門の前に到着し、少しの間待機する。

北門は少し遠回りになるため、東門より遅れて到着すると想定していた。できるだけ同時に侵入するためのタイミングを図っている。


おおよその時間が経過したところで、ルヴィが動き出した。

ルヴィは魔法を使い、軽やかに門の上へと浮かび上がった。まるで風に乗るように静かに門を越え、音も立てずに別館の敷地内へと滑り降りる。

すると、扉がゆっくりと内側から開いた。


オレとルヴィは、ランスが人がいると予想した建物の扉の前に、魔法で岩の壁を作った。こうしておけば、中から誰も出てこられないはずだ。

北門から侵入したアデルとリルも、同じように建物を封鎖をしているだろう。


慎重に館の庭を進み、レナとフィオラが囚われている建物に近づいた。ランスたちはまだ到着していなかった。

ルヴィの合図で、オレとカレノールは扉の左右に身を潜める。

次の瞬間、ルヴィが魔法で扉を静かに開けた。


オレとカレノールは慎重に建物の中へ足を踏み入れた。

中はひっそりと静まり返っており、人の気配もない。明かりもなく、薄暗い闇が空間を支配している。

ルヴィが魔法で小さな明かりを灯すと、その瞬間、正面の部屋からかすかな物音がした。


オレとカレノールは顔を見合わせ、すぐさま音のした部屋へ飛び込む。

その部屋のベッドの上にはフィオラが横たわっていた。カレノールがすぐに駆け寄り、彼女の様子を確認する。

「大丈夫だ、意識はないが、ケガはないようだ。」

カレノールは安堵の声を漏らした。


部屋の奥にはもう一つ扉があった。

記憶している見取り図では、ここが別館の西端のはずだ。

本来なら、これ以上奥に部屋があるはずはない。だが、目の前にはまだ奥へと続く扉がある。

...まさか、隣の屋敷と繋がっているのか?


オレはカレノールにフィオラを任せ、ランス達と合流するように伝えると、ルヴィとともに奥の部屋へと進んだ。


そこは小さな部屋だった。右手の扉が開いており、そちらへ進むと、生活感の漂う居住空間に出た。

家具が並び、つい先ほどまで誰かがいたような気配すら感じられる。さらに奥の扉も開いており、そこから廊下へ抜けると、やがて外に出た。


左手には厩があったが、馬の姿はない。

やはり、ここは隣の屋敷だ...間違いない。


小さな門を通って通りに出ると、後ろからルヴィが、声をかけてきた。

「まだ油断はできませんが、敵はレナを連れて移動したようです。アンフィが場所を特定してくれるでしょう。」


後ろから、ランスたちがカレノールとフィオラを連れて姿を現した。

「なるほど...こういう造りになっていたのですね。」

ランスが感心したように呟くと、ルヴィがすぐに皆へ指示を出した。


「私はハウルと共に街の南門へ向かいます。ランスは、皆を連れて屋敷に戻ってください。

 もしアンフィがレナの居場所を特定して、南門以外の門へ向かっているようであれば、ランスとアデルはそちらへ急行してください。」


「わかりました。ルヴィとハウルも気を付けてください。」

そう言い残し、ランスはカレノールたちを連れて、静かに通りを屋敷の方へと歩き出した。


オレはルヴィとともに駆け出し、エクリプスとアズールのもとへ向かった。それぞれの馬に飛び乗ると、躊躇なく街の南門を目指して走り出す。

南門を抜けた先の街道には、グレートウルフたちがすでに集結していた。

その中心には、一台の馬車が停まっている。


オレはエクリプスから勢いよく飛び降り、その馬車へと駆け寄った。

馬車の中には、レナの姿があった。


「レナ...!」

その顔に傷はなく、瞳にも力が宿っていた。無事だ!そう確信した瞬間、胸を締めつけていた緊張が一気にほどけていく。

安堵と喜びが、静かに、けれど確かに胸に広がっていった。


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