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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第四章
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ペルディーニ商会

初夏の陽射しが明るく降り注ぎ、街並みは生き生きとしたエネルギーで溢れている。通り沿いには木々が茂り、若葉が揺れて初夏の爽やかな風を受けていた。

葉の間から降り注ぐ日差しが石畳に明るい模様を作り、道を行く人々の影が長く、柔らかく映っている。


市場には、初夏の果物や野菜が豊かに並べられ、赤いベリーや青いプラムが木箱に溢れている。

新鮮な野菜の香りや甘い果物の匂いが混ざり合い、通りに心地よい香りを漂わせていた。

商人たちは明るい声で呼び込み、買い物をする人々が笑顔でやり取りを交わす姿があちこちに見られる。


交易の旅から戻り、しばらく経った頃、ペルディーニ商会から呼び出された。

オレとルヴィ、アデルの三人で商会へ出向くと、案内されたのは応接室だった。しばらく待たされた後、扉が開き、一人の男が入ってきた。

彼はにこやかな表情を浮かべ、丁寧な口調で話し始めた。


「皆さんのご活躍、私も耳にしておりますよ。お若いのに、交易で随分ともうけていらっしゃるとか。」

胡散臭い笑みを浮かべながら、男は自己紹介をした。


「私はペルディーニ商会の税務担当、アントン・グロゼルと申します。本日は交易の利益に対する税額についてお伝えするため、お呼びしました。」

「交易の税?」

ルヴィがすぐに疑問を口にした。


「申し訳ありません。交易に対する税というのは、どういうことでしょうか? 商会の規約は一通り確認しましたが、そのような項目は記載されていなかったはずです。

 また、大陸との交易を考えていると商会に加入する際に話しましたが、その際も一切そのような説明はありませんでした。」


ルヴィの指摘にも、アントンは動じることなく微笑んだまま答える。

「それは、商会の担当者に手落ちがあったようですね。こちらが交易に関する規約になります。」

そう言って、数枚の書類をルヴィに手渡した。

ルヴィは黙って目を通した後、表情を変えずにオレへ渡してくる。オレとアデルも、その書類に目を通した。


そこには、交易に関するルールとともに、次のような条項が記載されていた。

交易を始める際には、事前に計画書を提出し、保障税として年間金貨千枚を納めること。


オレは言葉を失った。

聞いていない。こんなルール、一度も説明されなかった。それどころか、金貨千枚など、聞いたこともない額だ。


ルヴィは少し険しい表情を浮かべながら、落ち着いた声で問いかけた。

「書類には事前に、とありますが、すでに交易は始まっています。私たちは、どうしたらよろしいのでしょうか?」


アントン・グロゼルは微笑みを崩さぬまま、まるで大したことではないというように答えた。

「交易が始まってしまっているのは、仕方ありません。商会側にも手落ちがあったことは認めましょう。

 ですので、近日中に計画書と保障税の金貨千枚を納めていただければ、問題ありません。」


冷静な表情の裏に、揺るぎない圧力を感じる。


ルヴィは一瞬沈黙した後、穏やかな声で応じた。

「そうですか。分かりました。近日中に対応いたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか?」


「ええ、もちろん。では、お待ちしております。本日は、ありがとうございました。」

そう言って、アントンは優雅に一礼し、応接室を後にした。


ドアが閉まった瞬間、オレは込み上げる怒りを抑えきれず、思わず調度品に手を伸ばしかけた。

「...っ!」

ギリ、と拳を握りしめる。


だが、ルヴィの視線を感じ、オレは深呼吸して怒りを飲み込んだ。


オレたちはペルディーニ商会を後にし、無言のまま屋敷へ向かって歩いた。街の喧騒の中でも、オレの胸の中には怒りがくすぶっていた。

我慢できず、オレは口を開く。

「ルヴィ...なんで、あの場で断らなかったんだよ?」


ルヴィは落ち着いた表情のまま、淡々と答えた。

「今はアデルも一緒でしたし、それに...ペルディーニ商会の応接室で、何をされるか分かりませんからね。」


その言葉に、オレはハッとした。

確かに、あの場で下手に反発すれば、何を仕掛けられるか分からなかった。ペルディーニ商会は、表向きは大手商会だが、裏ではどんな手を使うか分からない。


「それにしたって、金貨千枚なんて、ふざけた要求だ。当然、断るんだよな?」

「もちろんです。」

ルヴィは迷いなく頷いた。


「ただ、敵を作るだけでは意味がありません。一度屋敷に戻って、どう動くかを考えましょう。」

オレはルヴィの言葉に深く息を吐き出した。冷静でいなければならない...これは、ただの税の問題ではないのだから。


屋敷に戻ると、どこで聞きつけたのか、ミリアーノさんが駆け込んできた。

「ルヴィ君、商会が動き出したようですね。」

ルヴィ、アデル、オレ、そしてミリアーノさんの四人で、急ぎ対策を話し合うことになった。

議論の末、オレとルヴィ、そしてランスの三人で再びペルディーニ商会に赴き、保障税の支払いを拒否すると伝えることに決まった。


再びペルディーニ商会へ赴き、受付でアントン・グロゼルを呼び出してもらうと、すぐに応接室へと案内された。今度は、ほとんど待たされることなく扉が開く。

満面の笑みを浮かべたアントンが入ってきた。

「お早い対応、ありがとうございます。では、早速ですが...。」

彼が話し始めたその瞬間、ルヴィが手を上げ、言葉を遮った。

「アントンさん、申し訳ありません。保障税の金貨千枚は納めることができません。」


アントンの笑みがピクリと揺らぎ、瞬く間に消えた。

「...それは、どういう意味でしょう?」

「金貨千枚は納めません。そして...ペルディーニ商会を脱会させていただきます。」

アントンの顔が険しくなる。

「そのようなことが許されるとお思いですか?」

ルヴィは落ち着いたまま、冷静に問い返す。

「では、お聞きしますが、過去にこの規則を適用した実例はありますか?」

「...この規則は最近できたものです。ですから、今回が初めてのケースになります。」

「では、その規則はいつ施行されたものなのですか?」


アントンの顔がわずかに引きつった。

「...そ、それは...」


言葉に詰まるアントンを、ルヴィはじっと見つめたまま続けた。

「そのような取ってつけたような規則に従うつもりはありません。もしこの規則が施行されれば、交易を行う商人は次々と撤退し、この街の経済は衰退するでしょう。

 私たちは、そんな悪しき前例の犠牲者になるつもりはありません。」


アントンの目が鋭くなる。

「...この街で、いや、この島で商売ができなくなりますよ。」

露骨な脅しだった。だが、ルヴィは一歩も引かない。

「私たちは新しい商会を作り、そこで営業を続けていくつもりです。」


アントンの表情が、完全に険しくなる。

「つまり、我々に敵対するというのか?」

ルヴィは静かに首を振った。

「できることならば、商業活動を活発にするために協力し合いたいと考えています...しかし...。」


アントンは冷笑を浮かべ、椅子に深く腰掛ける。

「...好きにするがいい。どうなっても知りませんよ。」

彼のその言葉に、オレの中で何かが弾けた。

「それは脅しなのか?」

思わず前に踏み出すが、ルヴィがオレの肩をつかんで止める。


「もう話すことはないようですね。帰りましょう。」

ルヴィの冷静な言葉に、オレもひとまず踏みとどまる。

アントンは何も言わず、ただ冷たい笑みを浮かべてこちらを見ていた。

オレたちは無言のまま、ペルディーニ商会を後にした。


屋敷に戻ると、ルヴィが皆を商館に集めるよう指示を出した。

全員が商館に集まると、ミリアーノさんとルヴィが、これまでの経緯とこれからのことを皆に告げた。


ルヴィの真剣な言葉に、場の空気が一瞬張り詰める。だが、誰一人として動揺する者はいなかった。沈黙の中、やがてヘンリッタさんが口を開く。

「ここで働くことを選んだのは、私たち自身です。危険があろうと、それは変わりません。」


その言葉に、エラルドさん、エリスさんも続く。

「そうだな。今さら逃げるつもりはないよ。」

「私も、このままこちらで働かせていただきたいです。」

次々と肯定の声が上がり、誰一人として商館を去る者はいなかった。その結束の強さに、オレも胸が熱くなる。


話し合いが終わり、屋敷へ戻ろうとしたとき、ふと気づく。

「...レナがいない?」


皆に尋ねると、リルが答えてくれた。

「さっき、教会に行くと言っていたわ。たぶん、カレノールにこのことを伝えに行ったんじゃないかな。」

なるほど、レナらしい行動だ。だが、日も傾いてきたことだし、念のため迎えに行ったほうがいいだろう。

「ちょっと迎えに行ってくる。」


そう言うと、リルがすぐに立ち上がった。

「わたしも一緒に行っていいかしら。」

オレは頷き、リルとともに教会へと向かうことにした。


教会の孤児院に着くと、カレノールが心配そうな表情を浮かべながら、こちらへ駆け寄ってきた。

「ハウル、リル、どうしたんだい?何かあったのかな?」

「カレノールこそ、どうしたんだ?そんなに心配そうな顔をして。」


カレノールは眉をひそめ、少し焦ったような声で答えた。

「実は、所用から戻ったばかりなんだが...先ほどレナが教会に来て、フィオラと一緒に私を探しに出かけたそうなんだ。

 どうやら行き違いになったらしくてね。まだ帰ってきていないんだ。」


オレは嫌な予感を覚えながら、すぐに判断した。

「リルはここで待っててくれ。もしかすると、二人とも戻ってくるかもしれないからな。オレとカレノールで手分けして探しに行く。」

リルは不安そうに頷いた。

「わかったわ。二人とも、気をつけてね。」


カレノールと二人で近くの通りをくまなく探した。しかし、レナとフィオラの姿はどこにもなかった。胸騒ぎがする。

オレはカレノールと視線を交わし、一度教会へ戻ることにした。


教会に戻ると、リルが心配そうな顔で待っていた。

「二人とも、まだ帰ってこないの。」

オレは険しい表情のまま、低く呟いた。

「...嫌な予感がするな。一度屋敷に戻って、皆に協力してもらおう。」


カレノールとリルも頷き、三人で急ぎ足で屋敷へ向かった。

屋敷に戻ると、すぐにルヴィたちに事情を説明した。皆、事の重大さをすぐに理解し、それぞれ準備に取りかかる。


オレとカレノールは一足先に街へ戻り、もう一度手分けして探し始めた。

日が傾き、影が長く伸びる。焦燥感が募る中、カレノールの顔色がますます青ざめていた。恐らく、オレも同じような顔をしているだろう。


...レナ、どこにいるんだ?


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