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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第三章
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弟子

ヴァレノ村に着いたときには、すでに日が西の空へと傾いていた。

初めての旅が、ついに終わりを迎えた。


仲間たちはいつも通り、馬車の手入れや馬の世話に取りかかっている。

その様子を横目に見ながら、オレは一足先に家へ向かい、歩幅を早めた。


「父さん、母さん、ただいま!」


母屋に入ると、午後の家事が一段落したところだったのか、母さんとレナがダイニングでお茶を飲みながら楽しげに話していた。


「ハウル、おかえりなさい。お疲れ様でした。」

母さんが優しく微笑む。


「おかえりなさい、お兄様。お父様を呼んできますね。」

そう言って立ち上がろうとしたレナを、オレは手で制した。


「いいよ、レナ。オレが鍛冶場で挨拶してくるから。」

鍛冶場へ向かい、扉を開けると、鉄を打つ音とともに懐かしい熱気が迎えてくれた。


「ただいま、父さん、兄さん。」

「おお、ハウル。今帰ったのか。その顔を見るかぎり、無事に旅を終えたようだな。」


父さんが槌を止めて、こちらに視線を向ける。


「おかえり、ハウル。」

兄さんも手を休めて、ほんの少しだけ笑みを見せた。


母さんの顔を見て、父さんと兄さんの声を聞いて、ようやく、本当に旅が終わったのだと実感する。


「父さん、話があるんだ。手が空いたら母屋に来てほしい。」

「分かった。すぐ行こう。母屋で待っていなさい。」


鍛冶場を出て、再び母屋へ戻ると、母さんが温かいお茶を用意してくれていた。

オレが旅の出来事を語り始めると、レナは目を輝かせながら聞き入っていた。その無邪気な様子に、オレの口元にも自然と笑みが浮かんだ。


間もなく、父さんと兄さんがダイニングへと入ってきた。


「ルヴィ殿たちは一緒ではないのか?」

父さんが尋ねると、オレは首を振りながら答えた。

「ルヴィたちは馬車の手入れや馬の世話をしてるよ。先に話したいことがあって、オレだけ家に入れてもらったんだ。」


そう言って一呼吸置き、静かに続けた。


「エラムウィンドで、ロレンツォさんやフレデリックさん、それからサンドロさんたちに会ってきた。

 こんな機会をつくってくれて、本当に父さんと母さんには感謝してもしきれないよ。」


父さんと母さんが穏やかに微笑むのを見届けたところで、オレは本題に入った。

「それで、サンドロさんからの提案なんだけど...父さんに弟子を取ってほしいって。」


父さんは腕を組み、しばし考え込んだ。

「弟子か...この家なら、あと数人は暮らせる。そうだな、取ってもいいかもしれん。」


「本当に?実は、弟子になりたいという人を三人連れてきてるんだけど...会ってくれる?」


父さんは苦笑しながらも頷いた。


「サンドロに押しつけられたのか?」

「そんなところかな。」

「分かった。会おう。」


オレは「少し待ってて。」と言い残し、外へ出た。馬車の整備をしていたクローディン、グンダー、ベルナルドを呼び、三人を伴って家の中へ戻る。


「父さん、こちらの三人です。」


クローディンが一歩前に出て、礼儀正しく名乗った。


「デニスさん、初めまして。私はクローディン・バンバーデルと申します。こちらは弟のグンダー・バンバーデル、それからベルナルド・ウォルシュです。

 私たちはヴェロッキオ工房で働いていましたが、デニスさんの製品を見て、ぜひその技術を学びたいと考え、ここまでやってきました。

 どうか、私たちを弟子として迎え入れていただけませんか?」


父さんは三人の顔を順に見つめたあと、静かに頷いた。


「あなた方のことは、先ほどハウルから聞きました。ぜひ、一緒に技術の探求をしていこう。」

「ありがとうございます!」


三人が深々と頭を下げると、オレもほっとしたように笑顔で言った。

「ありがとう、父さん。兄さん、母さん、レナも、よろしく頼むよ。」


そしてクローディンさんたちに向き直る。

「ここで今後のことを話し合ってくれ。オレは外で馬車の手入れを手伝ってくる。」


外に出ると、皆がエクリプスたちを乾いた藁で丁寧に拭いていた。アンフィは馬車の御者台に腰かけ、静かに全体を見渡しながら的確に指示を出している。


エクリプスはランスが、アズールはソニアが、リッキはルヴィが、ライズはリルが、それぞれ大きい身体をぬぐっている。

荷馬車を引いてきた二頭のうち一頭はアデルが担当している。ソニアは馬車の整備をしている。

オレは乾いた藁を手に取り、もう一頭の荷馬車の馬のところへ向かう。優しく声をかけながら、丁寧にその体を拭ってやった。


しばらくすると、母屋からレナが姿を見せた。手にしたトレーには、皆のための湯気の立つお茶が載っている。


「皆さん、おかえりなさい。少し休憩してくださいね。」

レナの温かな笑顔と香り立つお茶に、旅の疲れが少しだけ和らぐのを感じた。


馬車の荷台にトレーを置くと、レナはオレの方へ歩いてきた。


「お兄様、この後はどうなさるのですか?」

「交易の準備とか、やることは色々あるんだけど...まずは皆でパルマスの街に戻ってからかな。」

「お兄様たちは交易を始めるのですか?」


「そうだね。エラムウィンドにいる叔父さんや、従弟のジャックと約束を交わしたし、ルヴィも交易を軌道に乗せたいと考えてると思う。」

「私にも、お兄様のお手伝いができないかしら?」

「人手が足りてないからね。レナが手伝ってくれるなら、皆きっと助かると思うよ。」


「良かった。では、お兄様、私も一緒に連れて行ってくださるかしら?」

「父さんと母さんには話したの?」

「これから、お話してきます。お父様とお母様の許可が頂けたら、連れて行ってくださいね。」

「もちろんだよ。」


オレが頷くと、レナはぱっと表情を明るくし、母屋へ駆けていった。


入れ違いに、アンフィトリーテが姿を現した。


「あの娘はそなたの妹か?気が利くではないか。わらわの側仕えに欲しかったのだがな。」

「それはできませんよ、アンフィ。レナは僕らの手伝いがしたいそうですから。」

「うむ、そうか。では一緒に来るのじゃな。これから、美味しいお茶が飲めそうじゃな。」


「お茶ならアデルも入れてくれるだろ?あいつの淹れるお茶は本当に美味しいんだから。」

「アデルのお茶は確かに美味しいのじゃが、そなたたちと飛び回っていては、お茶を淹れる暇などあるまい。」


なるほど、色々言いたいことがあるのだが...言っても仕方ないだろう。

馬の世話が一段落すると、皆を誘って母屋へと戻った。


室内では、クローディンたちとの話し合いが続いていたようだった。

オレは話の間に入り、ソニアとランス、アンフィを父さんたちに紹介する。


今夜はこの家で一泊し、翌朝にはパルマスへ向かう予定だと伝えると、オレたちは馬車で休むことにし、クローディンたちを優先してもらうよう頼んだ。


外には仮のテーブルを用意し、皆で夕食を囲んだ。父さんはクローディンたちの弟子入りを喜んでいるようだった。

明日からまた、パルマスでの慌ただしい日々が始まる。



翌朝。出発の時刻になると、レナも一緒に加わっていた。

父さん、母さん、兄さん、そしてクローディン、グンダー、ベルナルドに見送られながら、オレたちはパルマスへの帰途についた。


パルマスまでは半日ほどの道のりだった。昼前には、街の東門が見えてきた。


東門から街へと入り、マリアさんの宿を目指す。

宿に着くやいなや、リルが真っ先に馬車を降り、建物の中へと駆け込んでいった。


「お母様、ただいま!」


その声を聞きながら、オレたちはリッキとライズを馬車から外し、エクリプスとアズールと共に厩舎へと連れて行った。

世話を済ませてから宿の中へ入ると、ルヴィがマリアに挨拶をしていた。


マリアのほかに、見慣れない二人の従業員が働いていた。どうやら、アデルとリルが旅に出ていた間に新たに雇われたようだ。


ルヴィはマリアさんに、ソニア、ランス、アンフィ、そしてレナを紹介した。

その流れで、話し合いのために部屋を一つ借りることになり、以前ルヴィが使っていた部屋を再び借してもらえた。


全員でその部屋に集まり、テーブルを囲んで座ると、今後のことについて話し合いが始まった。


最初の議題は、パルマスにおける拠点についてだった。

さすがにこの宿を拠点にするわけにはいかず、人数も増えた今、落ち着いて過ごせる場所が必要だった。

ルヴィ、アデル、リル、ソニア、ランス、アンフィ、そしてオレとレナ...今後さらに人が増える可能性もある。

そのため、午後からは屋敷の下見に出かけることが決まった。


話し合いの途中、アンフィは部屋に置かれた高価ながらも派手すぎない調度品に目を向けていた。


「アンフィ、この部屋に見惚れるのもいいけど、パルマスで探す拠点は、君がこれから暮らす家になるんじゃないかな。」


オレがそう言うと、アンフィは少し気まずそうに答えた。


「も、もちろん。午後からの物件探しには同行するぞ。」


そのやり取りに、場の空気が和やかになる。


「もちろん、わたしとお姉様も引っ越すつもりよ。一緒に見に行きましょう。」

「リル、まだお母様からお許しをいただいていませんよ。」

「後でお話に行くのよ。」


リルによれば、旅の間にマリアは新たに男女一人ずつの従業員を雇い、宿の運営は問題なく続けられているとのことだった。

アデルとリルがこのまま旅を続けることについて、きっとマリアさんも理解してくれるだろう。


話題がそれたところで、次の議題に移った。

パルマスの商会との交渉についてである。


オレは以前、パルマスの商会と取引を試みた際、法外な金額を提示された経験があり、あまり良い印象を持っていなかった。

リズベック商会やドルムント商会のように、友好的に迎えられることは期待できないのではないか...そう思っている。


アデルもまた、地元に住む者として同じ認識のようだった。


とはいえ、交渉を避けるわけにもいかない。

そのため、話し合いが終わったら、オレとルヴィ、それにアデルの三人で商会に出向くことが決まった。


続いて、デネリフェ島とミドルポートを結ぶ交易船の運航を誰に任せるかという話題に移った。

そこで、ソニアが口を開いた。


「そのことなんだけど...お父さまに相談してみてはどうかな?お兄さまたちにお願いすることもできるかもしれないよ。」

「私もそのことを考えていました。後日、クレス村に行って話を聞いてもらいましょう。」


ルヴィの提案により、クレス村を訪れることが決まった。


「その際、セイレーンの人々とも話をする機会を設けて、交易の協力をお願いしたいですね。」

「そうだね。ギズモグロウブに行って、港の利用についても手配する必要があるし...皆でクレス村を経由して、ギズモグロウブまで向かおう。」

「ギズモグロウブまで行くのなら、デネリフェ島の南にあるテルデ、テルロ、それにサウセスにも立ち寄ってはいかがでしょう?」


アデルの提案により、南部にある三つの街を回る方向で決定した。


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