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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第三章
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これからのこと

春にしては、西日の強さが際立っているように感じられた。その眩しさの中を、一団の人影がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。


目を凝らすと、先頭を歩いているのはラヴァンナだった。さらにその奥にも、十名ほどの集団が別に存在しており、道の上には次々と人の列が現れ始めた。


やがてすべての者が集まると、人数は七十名余りに達していた。

レンウィックの案内で訪れた四つの盗賊団に加え、それ以外の一団も自ら姿を現してくれたことになる。


レンウィックとカイルは並んで腰を下ろし、名簿を作成しながら、一人ひとりに希望する職種を尋ねていった。


「...良かった。」


隣でランスが小さく呟いたのが聞こえた。

オレは彼の肩に手を置き、ひと言だけ声をかけた。

「お疲れ様。」


「ありがとう。」

ランスはわずかに笑みを浮かべてそう答えた。


集まった彼らの中には、今後オレの仕事を手伝ってくれる者も出てくるかもしれない。

名簿を作っている間に、ヒルデガルドがスコットを連れて戻ってきた。彼女は名簿がまとまるのを見計らって皆の前へと進み、大きく通る声で語りかけた。


「皆さん、はじめまして。私はヒルデガルド・ミキエレットと申します。アルヴィアの自警団の団長を務めております。

 このたび、皆さんの身柄を、仕事の手配が整うまでのあいだ、自警団でお預かりすることとなりました。

 これから皆さんには、二つのグループに分かれていただき、それぞれ東と北の詰め所へと移動してもらいます。

 詳細は現地で案内係より説明がありますので、ご不明な点があれば、そちらで確認してください。

 それでは、一緒の詰め所に入りたい方同士で、グループを作成してください。」


ヒルデガルドの言葉を受け、元盗賊たちは小さな単位で自然に集まり始めた。

スコットとカイルが手際よくそのまとまりを整え、やがて二つの大きな集団へと分けていく。


一方のグループはスコットが率い、もう一方はカイルが先導して、それぞれの詰め所へと移動を開始した。

すべての移動が完了すると、その場に残っていたのは、オレとリル、ランス、ヒルデガルド、そしてレンウィックの五人だけだった。


「では、私はこれで。」


そう言って立ち去ろうとするレンウィックを、オレは呼び止めた。

「もしよろしければ、レンウィックさんにも話を聞いていただきたいのですが...。」


その言葉に、レンウィックは立ち止まり、わずかに肩をすくめて笑った。

「わかりました。私でよければ、話を伺いましょう。」


五人で、ヒルデガルドの執務室へと向かうことになった。


詰め所の二階にある執務室は、十名ほどがゆったり腰を下ろせる広さがあり、内部は整然としていながらも質素な空間だった。


調度品の類はなく、あるのは執務机と書類棚、そして十数名が囲める長机と、それに添えられたソファ数脚のみ。

実用本位の部屋ではあったが、整った空気がそこにはあった。


ヒルデガルドの執務室に入ると、すでにエスメラルダとルヴィ、アデル、ソニア、そしてジャックが談笑しながら時を過ごしていたようだった。


部屋の空気が少し和やかになっていたが、全員が顔を上げ、こちらに視線を向ける。

オレがルヴィとジャックに目を向けると、二人は無言のまま、静かにうなずいてくれた。


オレは一歩前に出て、皆に向かって声を発した。


「集まっていただいた皆さんに、僕から話したいことがあります。少し、お時間をいただけますか?」


全員がオレに注目し、続きを促すように姿勢を正した。その様子を確認してから、オレは話を続けた。


「僕たちは、デネリフェ島と大陸のエラムウィンドの街とのあいだで、新たな交易を始めようと考えています。

 海上は、デネリフェ島とミドルポートを結ぶ航路を用い、ミドルポートからは陸路でアルヴィア、エルムリンデンといった街を経由し、最終的にエラムウィンドへと至る予定です。

 そこでこの陸路の警護を、アルヴィアの自警団に担っていただけないでしょうか?護衛の規模としては、およそ二百人を想定しています。

 もし了承いただけるのであれば、自警団の運営費については、交易隊の側で負担いたします。如何でしょうか?」


一息で語り終えたあと、オレは周囲の反応を静かに待った。


短い沈黙ののち、ヒルデガルドが口を開いた。

「交易の規模がどれほどのものになるか、分からないのですが...二百人というのは、護衛としては多すぎるのでは?」


それに対して、オレはあらかじめ想定していた答えを返した。


「確かに、相手が盗賊であれば、その人数は多すぎるかもしれません。ですが、交易が順調に進めば、狙ってくるのは盗賊団だけとは限らないと考えています。」


ヒルデガルドは一瞬、驚いたように眉を上げた。


「どこかの軍隊が交易隊を襲う可能性があると? 王都の現状を思えば、まったく想定外とも言い切れませんね。

 そうであれば、護衛隊も単なる警備ではなく、軍としての訓練が必要になってきます。」


「その点も考慮しています。ヒルデガルドさんは、軍での経験をお持ちですよね?

 そしてレンウィックさんも。ランスの見立てでは、お二人とも士官としての訓練を受けていたのではないかと。」


オレの言葉に、今度はレンウィックが応じた。


「なるほど、それで私が呼び止められたわけか。たしかに、私はある伯爵家の軍に所属していたことがあります。

 ちなみに、ロディの盗賊団にも軍隊経験者が何人かいたんだが...今、生き残っているのは、ゼナという女性くらいだろう。」


「その方は、今どちらに?」

「彼女はまだ牢に入っているよ。」


現在も牢に留められている者たちは、降伏を拒み、自ら処刑を望んでいる者たちだけだと聞いている。

今日集まってくれた七十名余りの者たちが、盗賊団の全てであるとは到底思えなかった。

おそらく、投降という選択を受け入れなかった者たちは、既にどこかへと身を隠したのだろう。


今後、盗賊団の出身者たちと対話を重ねていく中で、少しずつ明らかになっていくかもしれない。


「その方を、何とか説得したいものですね。」


ルヴィがそっと言葉を挟んだ。その表情からは、処刑という選択を受け入れずに済むよう、相手の心を動かしたいという強い願いが感じられた。


「オレとランス、それにルヴィの三人で、後ほど説得に行ってみようか?」


そう提案すると、ランスがうなずいて言った。

「私も話してみたい。...三人で行ってみよう。」


場の空気が少し落ち着いたところで、ふと気がかりだった点を思い出した。ヒルデガルドに向き直り、改めて尋ねる。


「ところで、ヒルデガルドさん。交易隊の護衛についてですが、お引き受けいただけるのでしょうか?」


問いかけに、ヒルデガルドは軽く肩をすくめ、表情を和らげて答えた。


「そうでしたね、まだお返事をしていませんでした。もちろん、お引き受けいたします。

 ただし、今日投降した人々の中から護衛隊へ引き抜く人選については、レンウィックさんに一任してもよろしいかしら?」


その言葉に、レンウィックは目を見開き、やや戸惑った様子を見せた。


「...私のような者で、よろしいのでしょうか? ここへ来て、まだ日も浅いのですが...。」


それに対してヒルデガルドは、穏やかな口調で応じた。


「今日一日、ご一緒しました。おおよそのことは分かるつもりです。ハウルくんが、あなたをここへ招いたのも、そうした理由があってのことではないかしら?

 すぐにというのは団の者たちも納得しないでしょうから、時期を見てにはなりますが、私はあなたに四人目の副団長をお願いするつもりです。」


その場の視線が再びオレに向けられる中、ヒルデガルドが続けて尋ねた。


「ところで、ハウルくん。交易の開始は、いつ頃を予定しているのですか?」

「大切なことを言い忘れていました。準備もありますので、交易の開始は来年の春ごろを予定しています。」


オレがそう説明すると、ヒルデガルドが深く頷いた。

「承知しました。では私たちは、来年の春までに百人規模の隊を二つ編成できるよう、計画を立てて進めていきます。」


「ありがとうございます。改めて、よろしくお願いします。」

オレが深く頭を下げて礼を述べると、執務室には穏やかな雰囲気が広がった。


オレはランス、ルヴィ、そしてレンウィックを伴い、アルヴィアの牢獄を訪れた。

現在この場所には、十名ほどの囚人が収容されており、そのうち八名が盗賊団の出身者であると、牢番から説明を受けた。


石造りの獄舎は薄暗く、空気はひんやりとしていたが、意外にも風通しはよく、衛生面もよく保たれているように見えた。

男性用と女性用の獄舎に分かれており、オレたちは女性用の獄舎へと案内された。

そこには、石の壁で仕切られた独房が並び、通路に面した側は頑丈な鉄格子で封じられていた。


やがて、牢番が足を止め、独房の前で振り返った。

「ここが、ゼナという女の独房です。」


檻の前に立った瞬間、鉄格子の向こうから低く張った声が響いた。

「レンウィックか。私に何の用だ? さっさと処刑の段取りを進めるよう、ここの団長に掛け合ってくれないか?」


レンウィックは一歩前へ進み、静かに言葉を返す。

「今日は、あなたに会いたいという者がいて連れてきた。」


その言葉に、ゼナの視線がこちらへと向けられる。そしてランスの姿を目にした瞬間、その表情が一変した。

目を細め、苦々しげに唇を歪める。


「...キサマ。」


ランスは怯むことなく、まっすぐにゼナの視線を受け止めた。


「ゼナさん。あなたが私に対して、怒りや憎しみを抱いておられることは理解しています。ですが、もし可能であれば、一つだけ教えていただきたいのです。

 私は王都の出身で、ランスと申します。ある方よりロディという名を頂きました。そして、あなたが仕えていたという人物もまた、ロディと名乗っていました。

 私と、あなたの主と呼ぶその方に、何か関係があるのでしょうか?」


ゼナはしばらく無言のままランスを見つめていたが、やがて視線を逸らし、吐き捨てるように言った。


「知らぬ。...仮に知っていたとしても、キサマに話すことなど何もない。」

「そうですか...それは残念です。私のことは、それでかまいません。」


ランスはそう言い、やや身を引きながら続けた。

「ただ、彼らの話については、真剣に耳を傾けていただけませんか。」


ゼナは答えず、視線をよそへ向けたままだった。

それでも、オレには彼女がただの盗賊とは思えなかった。何かしらの事情を抱えていたことは、ひと目見ただけで伝わってきた。

佇まいも、言葉遣いも、粗暴な盗賊のそれではない。


オレは前に出て、静かに口を開いた。


「オレはハウルと言います。ゼナさん、正直に言って、あなたが盗賊だったということが、どうしても信じられません。

 なぜ、盗賊という道を選ばれたのか、ここで問うつもりはありません。けれど、あなたがこれからどう生きるかについては、黙っていられない。

 あなたは今、盗賊としての汚名を背負ったまま、処刑されることを望んでいるようですが...それは、あなた自身の本意ではないように思えてなりません。

 ここから出て、ご自身の名誉、そしてあなたがともに歩んできた仲間たちの名誉を取り戻してから、改めて、終わりについて考えても、遅くはないはずです。」


「なぜ、お前のようなガキに、そのようなことを言われなければならない。」

ゼナは低く、押し殺した声でそう吐き捨てた。


オレはまっすぐに彼女の目を見つめながら、静かに応じた。

「オレたちはこれから、ある仕事を始めようと考えています。その仕事を、あなたにも手伝ってほしいんです。」


「...なぜ私に言う。他の者に言えばいいだろう。」

その問いかけに、オレは言葉を選びながら続けた。


「オレは、あなたの経験と才能を活かしてほしいと考えています。あなたの力は、きっと誰かから受け継がれ、磨かれてきたものなんだと思います。

 その恩恵を、今度は他の人々へと分け与えてほしい。あなたの知識と技量が、次の誰かを導く力になると信じています。

 導かれた人がまた誰かを導く、そうして人は成長し、社会は築かれていくのだと思います。だからこそ、あなたにはその一助となってほしいんです。

 そうすることで、あなたの名にかけられた汚名も、きっと晴らされる。

 あなたが望むなら、共にいた仲間たちの汚名だって、返上することができるかもしれません。

 少なくとも、オレはそう信じています。だからこそ、あなたにお願いしている。...考えてもらえないでしょうか?」


ゼナはしばらく沈黙した後、再び口を開いた。


「私たちは、お前たちを襲った盗賊なのだぞ。...分かっているのか?」


「分かっています。」

オレは一度うなずき、言葉を継いだ。


「でも、結果としてオレたちは無事で、あなたの仲間の多くは命を落としました。あなたがオレたちを憎んでいたとしても、それは当然のことです。

 ...けれど、それでもオレには、あなたが本当に盗賊とは思えないのです。何か理由があって、その道を選ばざるを得なかったのでしょう。

 それでも、心まで盗賊に染まりきった人ではない、初めて会ったオレにも、それは分かります。

 今すぐ答えを出せとは言いません。オレたちは明日、この街を発ちます。

 そして、来年の春、再びこの街に戻ってくる予定です。そのときまでに、あなた自身の道をどう歩むか、決めておいてほしい。」


長い沈黙の末、ゼナがようやく口を開いた。

「...ハウルくんと言ったかな。...君の気持ちは分かった。考えておこう...。」


その言葉に、オレは静かにうなずいた。

横に目をやると、ルヴィとランスも同じようにうなずいていた。二人とも、ゼナの返答に満足してくれたのだろう。


オレたちは彼女に挨拶をし、無言でその場を後にした。


獄舎を出ると、ルヴィが微笑みながらオレに声をかけてきた。

「ハウルには、人を説得する才能があるのかもしれませんね。」


その言葉に、ランスが軽く笑みを浮かべ、うなずいた。


この街で果たすべきことは、すべて終わった。明日、オレたちはアルヴィアを後にし、再び帰路につく。


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