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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第二章
53/84

盗賊団討伐

朝日が昇ったばかりの街道には、まだ肌寒さが残っていた。岩肌を抜ける風が、その冷たさをさらに際立たせる。

だが、差し込む光が身体をじんわりと温め、心地よさが一層際立っていた。


街道を進むと、両脇が崖に挟まれたような狭間となり、進むほどに険しさを増していく。

街道が左手へと曲がる、私は周囲を警戒しながら、崖の上に目をやった。ちらほらと影が動く。


やがて街道は右へと大きく折れ、しばらく進むと、両脇を覆っていた崖が次第に低くなり、視界が一気に開けた。

遠くに、朝日に照らされた街の城壁が静かに姿を現した。


追手がいないことを確認し、私は馬を止めた。アズールからハウルが降り、リルが手綱を握る。彼女はたてがみに顔をうずめ、そっと語りかけた。


「アズール、あの街までわたしを連れて行ってちょうだい。」

まるでその言葉を理解したかのように、アズールは小さくいなないてから、迷いなく街に向かって駆け出した。


ハウルが私の後ろに乗ると、私は馬を発進させながら尋ねた。


「リルは、馬と話せるのですか?」

「さあな...でも、リルなら不思議とそんな気がしてくるよ。リルもルヴィも、動物とすごく仲が良いから。」

「そうなのですか。」


そんな話を交わしながら、私たちは来た道を引き返した。崖に挟まれた街道を左に折れ、慎重に進んでいく。

やがて、視線の先に盗賊たちの待ち伏せ場所が見えてきた。すでに戦闘が始まっているに違いない。


「ハウル、準備はいいですか?」

「問題ない、行こう!」


その一言に応えるように、私はエクリプスの腹を軽く蹴る。エクリプスは力強く前脚を踏み出し、盗賊たちの中へと突入した。


戦場に到着すると、左右の崖をはるかに超える高さの塔のような構造物がそびえ立っていた。おそらくルヴィが築いたものだろう。

その頂から、崖上の盗賊たちに向けて魔法による攻撃が放たれている。


突如出現したその構造物に、街道の盗賊たちは動揺していた。混乱の中、数人が塔に取り付こうと集まっているが、一人の力では到底登れない高さだ。


私は馬を降り、剣を抜いて塔に群がる盗賊たちへと斬り込んだ。隙だらけだったこともあり、六人を立て続けに斬り伏せる。

その直後、盗賊団の中から声が響く。


「そのガキは剣士だ!サージェント、ゼナ陣形を組め!」


命令とともに、三人の槍兵に加えて四人の剣士が前に進み出てきた。彼らは私を取り囲むように陣形を整え、左右からの包囲を固めてきた。

こうなると、むやみに手を出せば命取りだ。


リルは無事に街へたどり着いたのだろうか? 自警団は本当に来てくれるのか?不安がよぎるが、もはや考える余裕もない。戦いはすでに始まっている。

ただ、幸いだったのは、ルヴィが的確なタイミングで魔法による援護を送ってくれていることだ。昨日の一戦よりもはるかに戦いやすい。


膠着状態が続く中、ハウルは冷静に敵の動きを見極めながら、ひとりまたひとりと盗賊たちを剣と魔法で確実に無力化していく。

私も、飛び込んできた敵二人を倒し、ルヴィの援護で動きが鈍った剣士一人を仕留める。


丘の上では、アデルとソニアが倒した盗賊を縛り上げて回っているはずだ。全員を拘束するまで、ルヴィも気が抜けないだろう。

それにしても、こんな状況下で仲間の動きにまで気を配り、的確に援護してくれるとは...。ルヴィとは、いったい何者なのだろうか。


そんなことを考えながら戦っていると、盗賊たちの動きに動揺が見え始めた。おそらく、リルが街から援軍を連れてきたに違いない。今が勝負どころかもしれない。


「私はヴァレンタのロディ。この中に、私の名を騙っている者がいると聞きました。何者ですか?」

声を上げると、盗賊の一人が怒りを込めて前に出た。


「なぜ俺が、ガキの名をわざわざ騙らねばならん!貴様こそ、何者だ!」

男の態度からして、彼こそが名を騙る偽ロディなのだろう。

ただ、年齢は明らかに本物のロディより上に見える。そのあたりの事情は後で探ればいい。今は、名を貸してくれたロディに報いるときだ。


「では、一騎打ちで決着をつけるのはどうでしょう?」

「貴様ごときガキが、この俺に挑むだと?身の程を弁えろ、青二才が!」


その時、彼の前に槍を構えた男が一歩踏み出した。


「ロディ様、ここは私が。ガキ如きに直接手を煩わせる必要はございません。来い、小僧。私が相手だ!」


言葉と共に、鋭く伸びる突き。気合のこもった声が、崖に挟まれた街道に響き渡った。


頭部を狙った槍を一歩退いてかわす。だが相手は突き払い、突き上げ、突き込みと立て続けに急所を狙ってくる。

動きに無駄がなく、まるで訓練された兵士だ。盗賊などにしておくのは惜しい腕だとすら思える。


偽のロディと、この男は主従のような関係にあるのかもしれない。だが、それは今は重要ではない。

はっきりしているのは、この男を倒さねば、偽物のロディにはたどり着けないということだ。


突き出された槍を剣で打ち上げ、懐に飛び込む。槍の柄での反撃を予期し、身を低くして潜り込むと、剣先を相手の顎下に向けて突き出す。

相手は仰け反ってかわしたが、その動きを見逃さず、突き出した剣をそのまま頭上に振り下ろした。


槍の戦士はとっさに体を引いたが、鋭い刃は右肩に深く食い込んだ。右腕は、もう使い物にならないだろう。


そのとき、女性剣士の悲鳴が上がった。振り向かずとも、それが彼女の声だと、私はすぐに察した。

頽れた槍の戦士の脇をすり抜け、一気に偽ロディの前に躍り出る。彼の剣を上から力強く叩き落とし、剣を振り上げると、ためらいなく首を払った。

首はあっけなく地面に落ち転がった。


次の瞬間、街道の端からアルヴィアの自警団が突入してくる。

リルが導いてくれた援軍は、均衡を一気に打ち破り、反抗する者も降伏する者も次々に制圧していった。

ルヴィは足場をもとの街道に戻しながら、残った盗賊を次々に縛り上げていく。


やがて、リルが一人の女性を伴ってやってきた。

「ルヴィ、ロディ。こちら、街から援軍に来てくれた自警団の代表、ヒルデガルドさんよ。」


女性はルヴィに微笑みかけ、やわらかく口を開いた。

「あなたがルヴィくんね。リルさんから話は聞いているわ。今回の作戦を立てて、盗賊団を一掃してくださったそうね。」


それに対し、ルヴィは静かに、しかしはっきりと答えた。

「作戦を立てたのはロディです。ロディの正確な情報と提案のおかげで、私たちは上手く立ち回ることができました。」


その言葉に、私は思わず苦笑しながら言葉を返した。

「あの作戦を、本当に計画通りに実行してしまうルヴィの方が、よほどすごいよ。とんでもない力を持ってるね。」


しかし、ルヴィは首を振った。

「しかし、ロディの情報がなければ、私たちは窮地に陥っていたかもしれません。情報がどれだけ大切なものか、改めて実感しました。」


私は静かに頷き、続けた。

「私は...私の名を騙っていた者を、自分の手で倒すことができました。それで、もう十分です。」


こうして戦いは終わった。盗賊団の死者は偽ロディを含めて九名。昨日ルヴィたちが捕らえた十三名を加え、最終的に八十六名が捕縛された。


ヒルデガルドは満足そうに笑みを浮かべ、静かに言った。

「ルヴィくんもロディくんも、お互いに感謝し合って、功を誇らないとはね。そのくらいの心得、自警団の皆にも持ってもらいたいものだ。」


その言葉に小さく頭を下げたあと、私は一つ、済ませておかねばならないことを思い出した。

「そうだ。私に協力してくれた二人の元盗賊と、もう一人拘束している盗賊がいます。迎えに行こうと思うのですが、どなたかご一緒していただけませんか?」


ヒルデガルドは一瞬だけ思案し、すぐに隊の者に目を向けて言った。

「わかった。我々はここでしばらく待機しておくわ。エスメラルダ、カイル、ロディ君と一緒に行ってくれないか。」


私は礼を言うと、エスメラルダとカイルと共に、ミドルポート方面へエクリプスを走らせた。


やがて岩陰に近づくと、私たちの姿に気づいたモルガンとヴェラが顔を明るくした。

彼らの隣では、サイラスがうなだれたまま座り込んでいる。


私は無言のままサイラスに近づき、縄を解いてから彼を馬へ乗せ、鞍にしっかりと結びつけた。

モルガンとヴェラもそれぞれ、カイルとエスメラルダの馬に乗せられ、私たちは一行となって元の場所へと戻っていった。


全員と合流すると、私は皆に向かってモルガンとヴェラを紹介した。

そして、ルヴィとヒルデガルドに視線を移し、改まった口調で切り出す。


「ルヴィ、ヒルデガルドさん。こちらの二人は、モルガンとヴェラといいます。

 今回、盗賊を辞めて私に協力してくれたんです。アルヴィアの街で、仕事を探してほしいのですが...」


ヒルデガルドは一瞬黙り、それから穏やかに微笑んで言った。

「そのことは、私が保証しましょう。」


そのひと言が告げられると、モルガンとヴェラは目を見合わせ、互いに息を飲んだような顔で、やがて安堵の笑みを浮かべた。

胸の内に重くのしかかっていた何かが、ようやくほどけていったかのようだった。


そして、ヒルデガルドの号令が街道に響いた。私たちはそろってアルヴィアの街へと向かい歩き始めた。


アルヴィアの街に到着すると、私はモルガンとヴェラを自警団に引き渡した。


その晩、私はルヴィたちと共に、自警団の夕食会に招かれることになった。

広間には談笑が響きわたり、温かい灯りが壁に揺れていた。食卓には素朴ながら心のこもった料理が並び、互いの健闘を称え合う言葉が交わされる。

夜が更けても宴は続き、皆が笑顔のまま、時を忘れていた。


やがて私も席を立ち、割り当てられた宿所へと向かう。

部屋の扉を開けると、静けさが私を迎えてくれた。窓の外には夜の街が静かに広がり、薄くかかった月明かりが床を照らしていた。

寝台に身を預けると、旅と戦いの疲れがゆっくりと身体から抜けていくのを感じる。私はそのまま、穏やかな眠りへと落ちていった。



◇◇◇



翌朝。

目を覚ますと、ちょうど朝日が屋根の端を照らし始めた頃だった。

簡単に身支度を整え、私は街の外周を軽く走った後、自警団の詰所に戻って剣の素振りを始めた。


汗が額を流れ落ちる頃、不意に背後から声がかかる。

「朝から鍛錬とは、感心だな。」

振り返ると、自警団員のスコットがこちらを見ていた。


「これは、子どものころからの習慣なんです。」

「ほう...戦士の家の出か?この街じゃ珍しいな。」


私は一呼吸おいてから答えた。

「まあ、そんなところです。でも今は、ただの旅人です。」


スコットは頷きながら近づくと、にやりと笑って言った。

「なあ、俺にちょっと稽古をつけてくれないか?」


「私が?いや、そんな。スコットさんに稽古をつけるなんて...」

「剣に年は関係ないさ。強い方が教えりゃいい。それだけのことだろ?」


少し言葉に詰まりかけた私に、スコットは気負いのない動作で詰所の小屋から木剣を二本取り出し、その一本を軽くこちらに放った。


木剣を手に取った私は、一歩後ろに下がって構えをとる。

「わかりました。少しだけ打ち合いをしましょうか。」


割り切った気持ちでそう告げると、スコットが笑みを浮かべながら構えをとった。

お互いに軽く息を整え、数合だけ打ち交わす。剣を交える音が朝の静けさに心地よく響いた。


何度かのやり取りの後、スコットが一歩退いて肩で息をしながら言った。

「どうだい?オレの剣は、やっぱりダメだろう?悪いところを一つか二つ、頼むよ。」


私は少し考えてから、穏やかに返した。

「下半身に力が入りすぎています。走り込みで足腰を鍛えれば、下半身をもっとリラックスさせられるようになると思います。」


スコットは目を細めてうなずいた。

「さすがだな...。この歳になると足腰を鍛えるのもひと苦労だが、少しやってみるか。」


丁度その時、自警団のベクターが通りかかった。自警団随一の剣士と評判の男だ。...嫌な予感がする...


「おう、ベクター。ちょうどいいところに来た。こっちへ来いよ。ロディの剣、なかなかのもんだ。二、三合打ち合ってみろよ。」

ベクターがこちらへ歩いてくると、その後ろからメンフィスがついてきた。

「スコット、本当ですか?ロディがそんなに強いんですか?俺、ベクターが剣で負けたとこなんて見たことないですよ?」


メンフィスが興味津々に言うと、スコットはうんうんと得意気にうなずき、手にしていた木剣をベクターに渡した。

詰所の前庭には、いつの間にか剣を手にした団員たちがちらほらと集まり始めていた。


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