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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第二章
51/84

協力者

馬をとどめ、息を殺して街道脇の闇に身を潜めた。

向こうから男が一人、ゆっくりとした足取りでこちらへ向かってくる。私はその背後に素早く回り込み、後ろ手に手を取り、首元に短剣を当てた。


「声を出すな。質問にだけ答えてもらう。」


そう言うと、男は二回うなずいた。


「あなたは盗賊団に所属しているのですか?」

少し間を置き、男はゆっくりうなずいた。


「あなたの所属する盗賊団の首領はロディという名前ですか?」

首が横に振られる。


「では、カルヴァロスの仲間ですか?」

今度は、はっきりと首が縦に動いた。


「何故ここにいるのですか?声を出していいので話してください。」


男は息を整え、ややかすれた声で答えた。

「...頭が、あのガキどもに捕まって...俺は何とか逃げてきたんだ。」


「あなたはこれからどうするつもりなのですか?」


しばらく黙ったあと、男はぽつりと漏らした。

「...遠くの町で、堅気になって...やり直したい...。」


私は街道脇の岩に綱を渡し、二頭の馬をそこに繋ぎながら問いかけた。


「そうですか。私はロディと申します。あなたの名前を聞いてもよろしいですか?」


突然、男の声が震え、怯えたように言った。


「ま、まさか...おまえがロディなのか...?オレを...どうする気だ...?」

「私は盗賊ではありません。ただ、同じ名前なのです。そのせいで迷惑を被っているので、どうにかしたいのです。」


男は不安げにこちらを見つめながら、少し間を置いて問い返した。


「...ほ、本当に、ヴァレンタのロディじゃないのか?」

「私がその本人だったら、今こうして話をしていると思いますか?」


その一言に、男の肩から力が抜けた。ようやく状況を理解したのか、怯えた様子を残しながらも、声を落として言った。


「...たしかに...そうか...。ロディを付け狙っているガキがいると言っていたが、お前がそうだったのか...。」

「そうです。改めて伺いますが、あなたのお名前を教えていただけますか?」

「あ、ああ。オレの名前はモルガンだ。」


モルガンはようやく素直になったようだった。


「あなたに提案があります。私のこれからの行動を最後まで手助けしてくれたなら、アルヴィアの街であなたの身元を保証し、信頼できる方を紹介しましょう。」

「それで...堅気になれるのか?」


「それはあなた次第です。ただ、少なくとも盗賊として裁かれることは避けられるはずです。」

「...俺は何をすればいい?」

「私は、あなた方が付け狙っていた少年たちが無事に旅を続けられること、そして私自身も安全に旅を続けられることを望んでいます。」


モルガンは小さく首をすくめて苦笑した。


「あのガキたちなら、きっと無事だろうさ。お頭たちを相手に、あっという間に倒して捕まえちまったんだからな。」

「あなたは捕まらなかったのですか?」

「俺とサイラス、それにヴェラは周りの見張りに回されててな。戦いには加わってなかったんだ。」


「なるほど...。それで街道を通って逃げてきたのですね。では、早速行動に移りましょう。」

「何をするのか分からねぇが、俺は戦いは得意じゃねぇぞ?」


「大丈夫です。戦いは私が引き受けます。」

「あぁ、あんた、ドレイクたちを撒いて逃げ切ったんだよな。あいつが強ぇって言ってたな。」


「まずは、あなた方のアジトに案内してください。」

「...いいけど、何かあったらちゃんと俺のこと守ってくれよ?」

「もちろんです。」


そう約束すると、モルガンは黙って歩き出した。

やがて、草木がまばらな丘陵地帯へと差しかかった。空気がひんやりとし始め、モルガンがふいに立ち止まり、小声で言った。


「にいさん、この先は静かに歩いてくれよ。」

元より足音は殺していたが...。


崖のように切り立った地形の一部に、不自然にくり抜かれた場所があった。モルガンが口を開かず、指でその場所を指し示す。

私は頷くと、二人で少しだけ距離を取って物陰に身を潜めた。


「にいさん、あそこがカルヴァロスのアジトさ。けど、もう誰もいないかもな...。」


ここへ来るまでに、カルヴァロスにはモルガンを含め十八人の部下がいると聞いていた。

そのうち二人は、ミドルポートとアルヴィアの街に一人ずつ潜んでいるらしい。


今回、手を結んだロディの配下は十四・五人ほど。ただし、ロディの配下は皆腕が立つという話だった。


「アジトの中を確かめてみます。」と提案したところ、モルガンはやや及び腰で返した。


「にいさん、一人で見てきてくれよ。俺は外を見張ってる。」


それで構わないと頷き、短く「わかりました。」とだけ返してアジトへと向かった。


入り口は大人が立ったまま通れるほどの高さがあり、三人が横に並んで入れるくらいの広さがある。入口は左を向いており、すぐ先で右へと曲がっていた。

曲がり角の先は一段高くなっており、そのまま進むと左手に広間があるようだった。広間の隙間から、かすかに明かりが漏れていた。


一度引き返してその様子をモルガンに伝えると、彼は肩をすくめて言った。


「たぶんヴェラだな。今度は俺が話してくる。にいさん、ここで外を頼むわ。」


そう言い残してアジトに入っていったモルガンは、間もなく私を呼んだ。


「にいさん、ヴェラがあんたと話したいってさ。中に来てくれ。」


警戒を解かず中に入ると、広間の奥にいたヴェラと呼ばれる女性が、どこか思いつめたようにうつむいていた。


盗賊のアジトの内部は意外にも広く、思いのほか快適に整えられていた。

広間の奥には会議用と思しき小部屋が三つ、その脇には首領や幹部たちの個室が五つ並んでいる。

さらに地下には三十を超える寝室があり、岩壁からしみ出す水を利用した井戸もあった。どうやら、かつて何らかの拠点として使われていた場所らしい。


広間の隅、モルガンとヴェラが並んで腰を下ろしていた。

近づいて話を聞くと、どうやらサイラスがロディの元へ向かい、カルヴァロス救出の相談を持ち掛けているとのことだった。

サイラスは、モルガンが戻り次第、二人でロディのところへ向かうよう言づけていたらしい。


ロディとカルヴァロスの盗賊団は、この地域では新参にあたるが、互いに協力関係を結び、しばしば共同で獲物を襲っていたという。

特にロディは、配下に強者を揃え、組織の統制もとれていることから、頭角を現し始めていたという。


ヴェラが不安げな顔でこちらを見上げて問いかける。

「これから、どうすればいいのさ?」


私は静かに応えた。

「いい考えがあります。モルガンと同じ気持ちでいるのなら、力を貸してくれませんか?」


しばらく考えたヴェラは、小さく息を吐いてうなずいた。


「...わかったよ。街で普通に暮らせるなら、何でもやるよ。」

「では、二人に頼みたいことがあります。サイラスやロディたちが、どんな企みを抱えているのか。探ってもらえますか?」


その言葉に、モルガンがやや不安げに眉をひそめた。


「そ、そんなの俺たちにできるのかよ...?」

「難しいことは頼みません。私の指示通りに動いてくれれば、それで十分です。」


ロディがサイラスに手を貸さないのであれば、それはそれで構わない。

しかし、もし協力するつもりならば、他の盗賊団の首領たちにも声をかけ、集団で動くはずだった。

その場合、必ず作戦会議のような集まりがある。その場の情報さえ得られれば、先手を打つことができる。


「で、あたしたちは何をすればいいのさ?」

ヴェラがこちらを見て問いかける。


「サイラスのところへ行ってください。途中までは一緒に行きますので、ご安心を。」


モルガンがやや不安げに口を開いた。

「おれたちが裏切ったってバレやしないか?」


「私の存在に気づかれていなければ、疑われることはないはずです。

 もし不審に思われたら、『お頭たちが捕まってしまったんだよ、平気でなんかいられないよ』と言えば問題ないでしょう。」


二人は頷き、小さく呼吸を整えて歩き出した。


やがてヴェラが足を止め、小声で振り返る。

「この先にロディたちのアジトがあるよ。にいさんも一緒に来るかい?」


「ここからは、私が身を隠して動きます。もし何かあれば『ランス』と叫んでください。」


「...ランス?」ヴェラが首を傾げた。

「合言葉です。」私は簡潔に答えた。


私はその場から距離をとり、草むらや岩陰を使って静かに二人のあとを追った。

やがて視界に、ぽつんと建つレンガ造りの建物が見えてきた。他に目立った建物はない。


モルガンとヴェラが扉の前に立つ。ヴェラは緊張した面持ちで辺りを見渡し、それから扉を軽くノックした。


しばらくして扉が開く。サイラスと姿を現したのは、見覚えのある顔、朝方私を取り囲んだ女剣士だった。


四人がレンガの建物の前でしばらく言葉を交わすと、女剣士だけが中へ戻っていった。

サイラスはモルガンとヴェラを引き連れて建物を離れた。私は音を立てぬよう慎重にその後を追う。


しばらくして建物が見えなくなる頃、三人が人気のない草地に足を止めたのを見計らい、私は静かに近づき、サイラスの背後から短剣を突きつけた。


「ど、どういうことだ?」

サイラスは戸惑いと怒りを滲ませた声で振り向いた。


「私から説明させてください。」

私は冷静に言葉を続けた。

「モルガンとヴェラは、私が保護することを条件に、これから私の協力者として動いてもらいます。あなたはどうしますか?」


サイラスはモルガンとヴェラを見て、目を見開いた。

「おまえら...お頭を裏切るっていうのか?」


その言葉に、モルガンが一歩前に出た。

「俺はもともと盗賊になりたくてなったわけじゃねぇ。このにいさんの話は、悪くねぇと思ってる。」

ヴェラもそれに続いた。

「あたしも同じさ。」


サイラスの表情は強張ったままだ。即座に同意を得るのは難しそうだったが、私は話を進めた。


「それで、これからどこに行こうとしていたのですか?」


問いかけると、ヴェラが代わりに答えた。

「ロディが、他の盗賊団の首領たちを集めて話し合いの場を設けたのさ。うちらはその場に証人として出る予定だったんだよ。」


「なるほど...では、モルガンとヴェラ、あなたたち二人には予定通り証人として向かってもらいましょう。

 サイラス、あなたにはもう少し話があります。ここに残ってください。」


サイラスは苛立った様子で睨み返してきた。

「勝手な真似をして、どうなっても知らないからな。」


「何があっても、モルガンとヴェラは私が守ります。だから心配は要りません。」


目で合図を送ると、二人は頷き、踵を返して歩き出した。私はサイラスの方へ再び視線を戻す。


「逃げ出されたり、大声を出されたりしても困ります。痛い目に遭いたくなかったら、従ってください。」


サイラスは黙ってうなずいた。私は彼の両手を後ろ手に縛り、猿ぐつわを噛ませると、縄の端を握ってその場を離れた。


しばらく歩くと、モルガンがこちらに歩み寄ってきた。

「にいさん、あの岩の上で会合が開かれてるみたいだけど、どうする?」


「二人は予定通り参加してください。私は様子を見て動きます。会合が終わったら、カルヴァロスのアジトに集まりましょう。」


「わかった。にいさんも気をつけてな。」

そう言って、モルガンはヴェラのもとへと走っていった。


私は道を外れ、岩場に向かう途中で、小さな木立を見つけた。サイラスをその中の太い幹に縛りつけ、耳元で囁く。

「帰りに迎えに来ます。それまで、静かにしていてください。」


彼がうなずいたのを確認し、私は再び足音を消して歩き出す。


春の夜に月はなく、辺りは暗いが、星明かりがかすかに地面を照らしてくれる。静かな空気の中、やがて目指す岩が見えてきた。

その岩はかなりの大きさで、自然の傾斜や足場も少ない。普通に歩いて登れるのは、どうやら入り口として使われている一箇所だけのようだった。


私は岩の上の様子をうかがえる場所を探して、岩の周囲を慎重に歩き回った。

すると、途中に苔むした足場をいくつか見つけた。音を立てぬよう注意しながら登ると、やがて岩の上を見通せる位置にたどり着いた。


上にはモルガンとヴェラの姿のほか、十一人の男女が円を描くように腰を下ろしていた。私は息をひそめ、耳を澄ます。


ちょうどモルガンとヴェラの証言が終わったところのようだった。議題は、少年たちの馬車を襲撃するか否か。その是非を巡って激しい議論が交わされていた。

言い争いの末、リーダー格と思われる男が静かに口を開いた。


「では、襲撃に参加する意思のある者は手を挙げてくれ。」


しばし沈黙が流れた後、七人が手を挙げた。


「ふむ。分かった、手を下ろしてくれ。総数で百人を超える人数が集まるな。分け前は少なくなるが、魔法を使うガキどもだ。高く売れる。襲撃を決行する。」

そう言いながら、男は手元の地図を広げ始めた。


「反対の者は立ち去ってくれて構わん。」

その言葉に従い、三人の男と一人の女が静かにその場を去った。


そのときだった。岩の下から、微かに二つの足音が聞こえてきた...。


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