表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もない冒険の物語  作者: 白雉
第二章
50/84

盗賊の罠

東の空が少しずつ白みはじめ、静寂をまとっていた世界に色彩が戻ってくる。

稜線の向こうから差し込んできた一筋の光が、少し肌寒さを覚えていた頬を温かく撫でた、その肌を通して大きな力が体内に入ってくるのを感じた。

空は黄金色に輝き、海もその光を受けてキラキラと輝き出す。

永遠に繰り返されるかのように感じられる、波の打ち寄せる音に魅了されていた。


港では、昨日はあまり船を見かけなかったが、今は船の往来が多い。早朝の漁から戻る船、遠くの港から旅を終えて帰ってきた渡航船。

しばらく船の往来に目を奪われていると、北のほうから大陸沿いに奔ってくる船があった。

渡航してきた船のようだが、他の船に比べると小さい。乗っているのは若い少年二人と少女一人のようだった。


様子を見ていると、少年たちがこちらに気づいた。そのとき、金髪の少年と視線が合った気がした。

不思議と敵意はなく、むしろ私を歓迎してくれているかのような眼差しだった。互いの存在を確かめ合うようなその瞬間のあと、船は視界の向こうに消えていった。


改めて海に目を向け、波の音に耳を傾けていると、雑音のように男の声が耳に入ってきた。


「さっきの船、荷を積んでたな。お頭に知らせておくか。」

「ガキどももいい値がつくだろうよ。...ん?あそこに馬が二頭いるぞ。」

「何だあれ。鞍付きなのに繋がれてないじゃねぇか。...まさか逃げてきたのか?」


二人の男の会話を聞いたとき、私は即座に警戒心を高めた。どうやら盗賊のようだ。岩陰が影になっているため、私の姿には気づいていないらしい。

しかも彼らは、先ほど見かけた少年たちの船を襲うつもりのようだった。


私は迷わず岩陰から飛び出した。一人をすぐさま打ち倒し、岩に上着ごと短剣を突き刺して動けなくすると、もう一人の首元に剣を突きつける。


「あの二頭は私の馬です。連れていかれては困る。それから一つ質問に答えていただけますか?」


汗を浮かべた盗賊が黙って頷いた。私は静かに尋ねた。


「この辺りに『ヴァレンタのロディ』という名の盗賊団の首領がいると聞きました。ご存じですか?」


岩に縫い止められた男が口を開いた。


「な、名前は聞いたことがある。だ、だが、近ごろは二十近い盗賊団がこの辺に集まってきててな。どこにいるかなんて分かんねぇ。」


「そうですか。では、あなた方とあなた方の頭の名前を教えていただけますか?」

「お、俺はドレイク、そっちはサイラス。お頭はカ、カルヴァロスって名乗ってる。多分偽名だけどな。」

「ありがとうございます。それでは、馬には手を出さず、この場から立ち去ってください。」


私は剣を納め、岩に刺していた短剣も引き抜いた。二人は互いを見やると、何も言わずに街とは反対方向へ逃げていった。


二頭の馬を連れて宿屋に戻ると、厩に二頭を繋ぎ、街の中で少年たちを探して歩き回った。

日が中天に差し掛かるまで探してみたが、結局見つけることができなかった。


そこで宿の主人に、交易目的の者たちがこの街を出た後に向かう可能性のある道を尋ねてみた。


「アルヴィアを目指して東に向かう街道しかない。」


そう聞いた私は宿を引き払い、街の東へと向かい、街道近くの宿屋に宿を移した。

旅の荷物を部屋に置き、二頭の馬を厩に繋ぐと、見晴らしのよい場所を探して街道に立った。


街道沿いの小高い丘が、最も見晴らしの良い場所だった。私はその岩陰に身を潜め、街道を見張ることにした。


しかしその日は、街から出てくる馬車は一台もなかった。

夜になり、私はそのまま岩陰で野宿をすることに決めた。持ってきたマントに包まり、冷え込む夜をやり過ごすように眠りにつく。



翌朝、まだ日も昇らぬうちから街道を眺めることにした。

空が薄く明るみを帯び始めたころ、ふと嫌な考えが胸をよぎる。...もしかして、昨日私がここに来る前に、すでに少年たちは旅立ってしまっていたのではないか?


そのときだった。一台の馬車が街から出てくるのが見えた。


私は急いで岩陰を飛び出し、馬車に向かおうとした。だが、その前に三人の男が立ちふさがった。

三人は槍を構え、互いに間隔を取りつつ、私の間合いに踏み込ませまいとする。構えや動きに無駄はなく、並の腕ではないことが一目でわかる。


どう動くべきか考えていると、背後からさらに三人の気配が近づいてきた。

振り返ると、そのうちの一人...顔に見覚えがある。昨日の朝、海辺で会った盗賊だ。確か、ドレイクと名乗った男だ。彼は弓を構え、私を狙っている。


「これだけ距離を取れば、自慢の剣技も使えないだろう。」


ドレイクが嘲るように言い放つと、残りの男女も剣を抜き、間を詰めながら攻撃の構えを取る。全員が隙のない動きを見せていた。


ドレイクが無造作に弓を放ってきた。私は右へ半身をずらしてかわす。矢は足元の岩に深々と突き刺さった。

同時に、槍を持つ三人が動いた。互いに連携を取りながら距離を調整し、こちらに突きを繰り出してくる。


ドレイクはじわじわと位置を変え、街道側へと回り込む。

槍の三人は街との間を固めるように布陣し、剣を構えた二人はドレイクの動きを援護しつつ、私に斬りかかろうとしていた。


「あんた、うちのお頭を付け狙ってるんだって?」

剣を構えた女性が一歩前に出て、私に声を掛けてきた。


「あなたのお頭の名前は、ロディというのですか?」

そう問い返すと、女性は小さく頷きながら、こちらを値踏みするような目で見つめる。


「そうさね。でも、どうしてあんたみたいなガキが、お頭を付け狙うのさ?」

「私は、ヴァレンタのロディと申します」


その言葉に、彼女の眉が僅かに動いた。


「同じ人間が二人もいたら、そりゃ都合が悪いわね。...で、あんた、一体何者なのさ?」


私はもう一度、はっきりと名乗った。

「私はヴァレンタのロディ。悪名を広める偽者を止めたい、それだけです」


剣を構えたまま、女は鼻で笑った。

「つまらないことを聞いたさね。このまま時間が過ぎていっても、あたいらに捕まるだけさね。賢く降参したらどうかしらね?」


確かに、時が経てば疲労は蓄積し、彼らの包囲網を抜けるのはますます難しくなるだろう。だが、何の抵抗もせず捕まるつもりはない。


街道や街の反対方向に逃げたいところだが、罠が仕掛けられている気配もある。

彼らの思惑通りに動かされないよう、できるだけ海の方角に向かいたい。そのためには、まず槍の三人に攻撃を仕掛ける必要がある。


しかし、三人の連携は固い。特に中央に構える男、彼の槍さばきには目を見張るものがあった。

彼は自身の役割をこなしながら、左右の二人の僅かなミスをもフォローしている。このような使い手がなぜ盗賊などしているのだろうか?

いや、中央の男だけではない。左右で槍を構える二人も、剣を持つ二人も、それぞれの得物を巧みに使いこなしている。彼らは、一角の戦士に違いない。


こんなにも高い技量を持つ者たちが盗賊として生きねばならない...この国は、そこまで乱れてしまったのだろうか。

王都で貴族として何不自由なく育ってきた私には、こうした現実に目を向けることなどなかった。


そんな気付きを与えてくれたのは、レオンだった。そして今、私はその実態と真正面から向き合っている。


時は容赦なく過ぎていく。日は既に中天に差し掛かり、影が短くなっている。

いつの間にか、私は街から遠く引き離されていた。疲労も、徐々に身体に染み込んでくる。

昨日、あの小さな船でこの岸にたどり着いた少年たちは無事だろうか。自分自身、この包囲を抜けなければ、どうなるか分からない。


風の流れが変わり、潮の香りが鼻先をかすめた。

波音は聞こえないが、空気の塩気はその存在を告げている。もし海まで辿り着ければ、飛び込んで逃げることもできるかもしれない。


再び剣を握り直し、浅く息を吐く。剣を構えたまま、潮の香りのする方向に背を向け、あえて二人の剣士と向き合った。


女性の剣士へと一歩踏み込むと、彼女は素早く後退し間合いを広げた。それに呼応するように、男性剣士が前に出て剣を振るってくる。

私はその刃を下から跳ね上げ、力強く弾く。剣士は体勢を立て直し、再び距離を取った。


背後から槍が伸びる気配を感じ、振り向きざまに斬り下ろして弾く。

この攻防の繰り返しも、もう何度目か分からない。


中央にいる槍の戦士が右に回り込み、包囲の外に逃がすまいと槍を繰り出してくる。その槍を剣で弾き、槍の戦士の右側を一気に駆け抜ける。

背後から矢が放たれるが、視界の端で捉え、身を翻して避ける。


思考を遮るすべてを捨て、私はただ、海へ向かって走った。盗賊たちの怒声が背後で響く。だが、振り返ることはしなかった。


しばらく走ると、岩肌の丘を越えた先に海が広がった。潮の香りが一層強くなり、風も湿り気を帯びている。

だが、後ろから追ってくる足音は絶えず、気配の数も増えていた。


丘を駆け下りると、視界の先に断崖が現れた。高さはあるが、下には穏やかな海が広がっている。

この高さなら、飛び込んでも命に別状はない...そう思ったその刹那、私はすでに宙を舞っていた。


海に入った瞬間、感覚が一気に曖昧になる。沈んでいるのか浮いているのか、方向すらも分からない。

だが、波に身を預けているうちに、浮いている感覚が戻ってきた。


進行方向に目を向けると、水面らしきところがキラキラと輝いている。そこに向かって足で海水を蹴る。

水面に顔を出すと、冷たい風と共に肺に新鮮な空気が流れ込んできた。


見上げた断崖の上には、もう誰の姿もない。波音と風の音だけが耳に届く。

安堵とともに深く息を吸い込み、断崖を左手に見ながら、注意を払い泳ぎ出す。


このまま進めば、いずれミドルポートの街にたどり着くだろう。しかし、街からどれほど離れてしまったのかは分からない。


ようやくミドルポートの街並みが見えたとき、日はすでに大きく傾いていた。

街に戻り、宿屋で濡れた服を着替え、荷をまとめて宿を引き払う。二頭の馬を引き取り、そのうちの一頭に跨がると、私は迷うことなく街道へと向かった。


西の空が深い藍色に染まる頃、夜の帳がゆっくりと降りてきた。

人影の全くない街道を、馬の歩調に合わせて静かに進んでいると、向こうから人の気配を感じた。


月明かりの下、街道の先から、ひとりの人影がこちらに向かって歩いてくる...。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ