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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第二章
36/84

王立魔法学校

王都は霧のような雨に包まれていた。

私はこうした雨が好きだ。街が静かに沈み込んでゆくような、柔らかな静けさに身をゆだねながら、ぼんやりと雨を眺めていた。


そこへ、後ろからロザーナの声がした。

「魔法学校の生徒が来たみたいよ。講堂に集まってくださいって。」

「わかった。行こうか。」


この六日間で二百名のメンバーを選ぶのは、正直かなり大変だった。


最初の二日間は、レオンの提案で、まずはのんびりチラシを作るところから始めた。

先にアイヴァンたちに人選を進めさせて、残った生徒の中から、公募で精鋭を募るという作戦だった。


アイヴァンたちはさすがで、二日目にはほとんどメンバーを固めていて、残り数名を最終選抜しているようだった。


一方こちらは、三日目に学長の許可をもらって、校内にチラシを貼った。

とはいえ、その内容は、参加希望者を募るというよりは、むしろ厳しい条件を示してふるいにかけるものであった。


そのせいか、応募してきたのはたったの五名。だが、彼らは皆、目に揺るぎない意志を宿した者たちだった。

これでようやく十六名。残り百八十四名を集める必要があった。


四日目からは、気になる学生に声をかけてまわった。けれど、あのチラシの影響で躊躇するものが多く、集まりは鈍かった。

それでも地道に対話を重ね、五日目の終わりには、ついに目標の二百名が揃った。


メンバーはみんな実力者揃いで、結果としてかなり頼もしい顔ぶれになった。


六日目、全員に集まってもらい、参加の最終意思を確認した。驚いたことに、脱落者は一人も出なかった。



講堂に足を運ぶと、すでにレオンとペトルセフ、アイヴァンとレオヴィルが到着していた。

こちら側の主要メンバーは十一名、アイヴァン陣営は八名が集まっている。


やがて、コーデリア学長とワサト教官が姿を現し、ザモーラ王国騎士団長と、一人の気品ある女性を伴って講堂に入ってきた。

彼らの後ろには、王立魔法学校の制服を着た十名の生徒たちが続いている。


講堂前に一同が集まると、学長が騎士団長の隣に立つ女性を紹介する。


「こちらにお越しいただいたのは、王立魔法学校の学長であられるアルシリンダ・ミスティフォーク様です。皆さん、失礼のないように。」


ふと隣に目を向けると、レオンが魔法学校の生徒たちに目礼していた。どうやら、何人かとは旧知の間柄のようだ。


その後、順番に自己紹介を行い、代表者として私とアイヴァンが前に出た。

魔法学校側からも二名が前に進み出てきた。一人はシンディと名乗る女性、もう一人は、先ほどレオンが目礼していたサファイアという名の男性だった。


ここでザモーラ騎士団長が前に立ち、試合に関する編成を発表する。


「今回の御前試合では、ランスロット君とサファイア君が同じ陣営、アイヴァン君とシンディさんがもう一つの陣営を率いてもらう。」


私はサファイアと握手を交わし、軽く言葉を交わした。


陣営に分かれたのち、ザモーラ騎士団長から御前試合の日程が発表された。それから簡潔な説明があった。


・試合形式や詳細なルールは、当日まで明かされない。

・各陣営が幼年学校または魔法学校を拠点に、独自に編成・訓練を進めること。

・初回の訓練は明日から始まり、我々の陣営が幼年学校、アイヴァン陣営が魔法学校を使用すること。


そしてこの後、それぞれの陣営で作戦の打ち合わせを行うため、指定された教室へ移動するようにとの指示が出された。


私たちの陣営には魔法学校の生徒が四名、アイヴァン陣営には六名が参加する形となった。


説明が終わると、私たちはそれぞれの陣営ごとに教室へと移動し、早速打ち合わせに入ることとなった。


教室に入り、私たちは改めて自己紹介を済ませると、全員が互いに固い握手を交わした。


すると、レオンが口を開く。


「ランス、サファイアと僕は幼い頃からの知り合いなんだ。それから、ヘリオドールとクリスタは、サファイアと同じ師匠のもとで魔法を学んでいるんだよ。

 その師匠、イリュミラス・グリーンウィルロウ卿の息子がスピネルで、僕は彼らと何度か顔を合わせたことがある。」


「なるほど、皆レオンの知り合いだったんだね。それはとても心強いな。」


「ヘリオドールは見ての通りエルフで、確か王国の中でも由緒ある家系らしい。

 エルミオン大森林に住む高名な魔法使いの推薦で、イリュミラス様の弟子になったんだ。」


それに対し、ヘリオドールは落ち着いた声で静かに言葉を返した。


「私の家系は、特別に高貴というわけではありません。ただ、代々王家に仕えてきた歴史があるだけです。」


その物腰には静かな品格があり、整った顔立ちとあいまって、まさにエルフらしい気品を湛えていた。


「クリスタはハーフエルフで、少し事情があって、イリュミラス様が自ら引き取り、育ててきたんだ。スピネルとは実の姉弟のように、一緒に育ったらしいよ。」


クリスタはまだ年若く、どこかあどけなさを残しているものの、ハーフエルフ特有の凛とした美しさを備えていた。


そして、スピネルは一見すると人間の少年と変わらないが、スクルドであるならば、常人にはない何かを秘めているはずだ。


そのスピネルが、ふと私の方をじっと見つめてこう言った。

「ランスロット君、君は...」


彼が何かを言いかけたのを察して、私は微笑みながら制した。

「ランスでいいよ。」


スピネルは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑み返し、続けた。


「ありがとう、ランス。君の中には特別なマナが宿っているね。レオンと初めて会ったときも驚いたけれど、君のそれはまったく違う色をしている。」


「そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、僕はそんなに大した者じゃないよ。ただ、少し良い家に生まれただけさ。」


スピネルは静かに微笑みながら、言葉を紡いだ。

「そんな君が、アイヴァンではなくレオンと共にいること、それ自体が、君の本質を物語っているのかもしれないね。

 ただ、ランス。君は少し気をつけた方がいい。強い光には、惹かれる者と、陰に回って反発する者がいるものだから。」


「興味深いね。僕自身、似たような状況に何度も身を置いてきたつもりだけど...何か良い対処法はあるのかな?」


スピネルは少し目を細め、慎重に言葉を選ぶようにして答えた。

「聞いた話だけれど、対処法は二つあるらしい。一つは、自らが皆を導き、反発する者たちを懐柔し、まとめ上げること。

 もう一つは、自分よりさらに大きな存在の庇護下に身を置くことだ。」


「なるほど...。前者は、つまり『王になれ』ってことかな?どのみち僕は人の上に立つような人間にはなれないだろうから、後者を目指すことにするよ。」


「焦る必要はないさ、ランス。僕らはまだ子供だ。道はこれからいくらでも選べる。

 ただ...ランスよりも強い力を持つ存在なんて、この世にいるだろうか?なんて心配はしてしまうけど。」


「ハハ、スピネルの助言に従って、しばらくは気長に構えるとするよ。」


スピネルは一歩近づき、穏やかな声で続けた。

「僕はね、ランス。君がどんな道を進もうとも、ずっと君の友人でいたいと、今思っているんだ。」


「ありがとう、スピネル。」


すると、サファイアが話題を本筋へと戻した。

「私たち魔法学校の選抜メンバーは、日頃から共に研究に取り組んでいる仲間たちだから、意思の疎通や作戦の共有には不安はない。

 そちら、幼年学校の皆はどうなんだい?」


その問いに、レオンが静かに、しかし意外な内容を口にした。

「実は、我々の二百名の中には、間者と思われる者が少なくとも三名は紛れていると考えている。」


「...なんだって!?そんな状態でどうするんだよ?訓練内容や戦術が、全部相手に漏れちゃうじゃないか!」

アークトゥルスが声を上げると、レオンは平然とした様子で応じた。

「だからこそ、その状況を逆手に取るつもりで募集をかけたんだ。相手がこちらの内情を覗いているのなら、その覗かれる情報自体を操作すればいい。」


「ということは...最初に志願してきた五人の中に、間者がいるってことね?」

ロザーナが問いかけると、レオンは頷きながら続けた。

「その通り。バフォメット族のライヒとベルガは純粋な志願者で、間者ではない。

 残るアルベルト、ファビアンヌ、エルドリックの三名は、いずれも伯爵家の出身で、剣の腕も申し分ない。おそらく、アイヴァンたちからの指示だろう。」


そう言うと、レオンは手元の資料を示しながら、編成案を皆に示した。


主将部隊(25名)

主将:ランスロット

主要戦力:レオン、クリスタ、スピネル、ライヒ、ベルガ


副将部隊(分隊)(25名)

副将:ペトルセフ

分隊支援:ロザーナ、レオニス、キファイ、サファイア


第一隊(32名)

隊長:アルベルト


第二隊(32名)

隊長:ファビアンヌ


第三隊(32名)

隊長:エルドリック


第四隊(32名)

隊長:ヴォルカノス


第五隊(32名)

隊長:ラチェット


第六隊(魔法部隊)(36名)

隊長:ヘリオドール


第一隊から第五隊には、それぞれ回復や強化魔法に長けた者を二名ずつ配置する。

また、ペトルセフの率いる副将部隊にも一名を加えることで、全体の支援体制を整える。


アークトゥルス、ポルックス、カストルの三人は機動力を活かし、伝令として大将隊に配置する。


さらに、第一隊から第六隊までは四つの小隊に分割できるように編成し、それぞれに小隊長を任命。

大将隊と副将隊は三つの小隊で構成し、大将隊にはライヒとベルガを、分隊にはロザーナとキファイを小隊長として指名した。


「...ざっと、こんなところかな。どう思う?」

レオンが図上の配置を示しながら提案を締めくくった。


「レオン、いつの間にそこまで考えてたんだよ?」

ヴォルカノスが感心したように問いかける。


「実はね、サファイアがこの試合に参加するって話は事前に聞いてたんだ。それなら、私たちと組む可能性が高いと思って、準備だけはしておこうと思ってね。」


ロザーナが少し眉をひそめて尋ねた。

「でも、どうして間者だと分かってるアルベルトたちを、わざわざ隊長に据えるの?」


レオンは笑みを浮かべて答える。

「彼らをそれぞれ別の隊に割り振れば、互いに連携を取るのは難しくなる。しかも、小隊長たちの目が光っていれば、怪しい動きも取りにくくなるからね。

 志願してきた手前、隊長職を断ることもできないだろうし...それに、この編成自体は特別なものじゃない。戦闘前に知られて困る情報でもないしね。」


レオンの答えに一同が頷く中、今度はペトルセフが口を開いた。


「なるほど。では、どのような戦闘形式を想定してこの編成にしたのですか?」


「今回はあくまで御前試合。だから、遭遇戦や攻城戦といった戦闘形式は、まず選ばれないだろう。

 陣取り戦か、殲滅戦、もしくは大将討伐戦...この辺りが無難な線だと思ってる。」


レオンはそこで私の方を見て、微笑みながら続けた。


「もし大将を討ち取る形式なら、ランスが大将で負ける理由はないからね。」


皆の表情がほぐれたところで、レオンが穏やかに話をつづけた。


「だが、今回に限って言えば、私なら人質救出戦を選ぶかな。人質を救い出すには攻撃を仕掛ける必要があるし、逆に奪われないよう守りを固めなければならない。

 単純なルールのようでいて、複雑な行動を求められる。簡単に攻略できないからこそ、見応えがあるだろう。」


その言葉に、ペトルセフがすかさず興味を示す。


「その場合、どうやって戦うつもりなんですか?」


「まずは、人質を簡単に取り返されないように工夫することだね。その上で、救出チームと防衛チームに役割を分けて行動することになる。」


「だから分隊を設けたのですか?」と、ペトルセフが続ける。


「それも一因だけど、それだけじゃない。試合の形式がまだ決まっていない以上、あらゆるシチュエーションに対応できる体制を整えておくべきだからね。」


そのやり取りを聞いていたラチェットが、おどけたように肩をすくめた。

「ハハハ、さすがレオンだ。脛が痛くなってきたよ。」


それに思わず吹き出すロザーナとヴォルカノス。そして私も、こみ上げる笑いをこらえられなかった。

他の仲間たちは、意味が分からず不思議そうな顔をしていたので、私たちはレイスとの遭遇事件の顛末を語ることになった。


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