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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第二章
35/84

新たな学友

歳が改まり、今年も新入生たちが入学してきた。

今年の新入生は、私と同じ十一歳。これまでの仲間は皆年上で、どこか友人というより、先達として接してきた節がある。

初めて同じ歳の友人ができるかもしれない...そんな淡い期待を胸に抱きながら、私は中庭へ足を運んだ。


中庭では、いつもの面々が談笑していた。

レオン、ロザーナ、ヴォルカノス、ラチェット、レオニス、アークトゥルス、そして双子のポルックスとカストル。

どこか落ち着いた空気の中に、春の芽吹きのような新しい気配が混じっていた。


その輪の中に、新しく加わった二人の少年がいた。

ひとりは、ペトルセフ・アイゼン・リヒター。王国騎士団長であるリヒター伯爵の長男だ。

彼は入学に際して、父から「幼年学校に入ったら、まずランスロット君に挨拶するように」と言い渡されていたという。


もうひとりは、彼の友人キファイ・クロイツベルクシュタインヘッカーシュトラウス。

名の長さもさることながら、その堂々とした物腰と、どこか飄々とした雰囲気が印象的だった。


キファイは初対面にもかかわらず、私に対して敬意を込めた態度を崩さなかった。

入学前から、悪漢を退けた一件、模擬戦闘での勝敗、そして昨年のレイスとの遭遇...すべてを、誇張や尾ひれのついた噂ではなく、事実として正確に知っていた。

「ずっとお会いしたかったのです」と目を輝かせて言ってくれたとき、私は少し照れくさくなったが、それ以上に嬉しかった。


同じ歳の仲間との出会いに、心が温かくなるのを感じた。

そして、ペトルセフを通じて、リヒター伯爵が私に対して好意的な眼差しを向けてくれていることが伝わり、小さな安心と誇らしさを、もたらしてくれた。


そこへ、新たな一団が現れた。

中央に立つのは、私と同じ歳の新入生。その背後には、三人の年長の先輩たちが付き従っている。


少年は堂々とした足取りでこちらへ歩み寄り、私の目の前で立ち止まると、名乗りを上げた。


「私はアイヴァン・クラウス・ツィンマーマン。ランスロット殿と友誼を交わしたく、参上した次第だ。」


一見、丁寧な口調ではあったが、その後に続いた言葉は鋭く棘を含んでいた。


「君は王国において武門筆頭たるイセリオン家の嫡男。いずれは千の兵を率い、戦場に赴く身だろう。

 その君が、このような下級貴族たちと戯れているとは、実残念で仕方がない!

 ましてや、寮ではシュミット子爵家の次男と相部屋とは...もう少し友人を選ぶべきではないだろうか?」


その言葉に、場の空気がぴんと張り詰める。

だが、すぐにロザーナが前に出て、怒りを隠すことなく口を開いた。


「あなた、何のつもり?友人を誰にするかは、ランス自身の自由でしょ。家柄で人を測るなんて、あなたとは根本から価値観が違うの。

 ランスが私たちといるのは、同じ価値観を持っていたから。それだけのことよ。」


しかし、アイヴァンは微笑みながら返す。


「君はアースリンガー男爵家の令嬢だったな。武門を名乗ってはいるが...聞くところによれば、君の家族の武の才はあまり評価されていないそうだ。

 君自身、武を磨くのであれば、もう少し相応しい交友を持つべきではないかと、私は思うがね。」


ロザーナが怒りをあらわにしても、アイヴァンの態度は微塵も揺るがなかった。むしろ、落ち着いた口調でさらに言葉を続けた。


「ヴォルカノス殿とペトルセフはともかく、アークトゥルス殿は三代前に爵位を賜ったブラウン子爵家のご出身。

 ラチェット殿は辺境にわずかばかりの地を領するノビツキー子爵家、武勇はともかく、家柄の重みには欠ける。

 ポルックスとカストル兄弟も、辺境のヴァイス男爵家と聞く。そして、レオニス殿に至っては...入学前は孤児院で育ったのではないかな。

 その後、マックスウェル男爵家に養子入りしたとはいえ、いかにも成り上がりという印象は拭えない。

 正直なところ、こうした面々と友好を深めても、ランスロット殿の将来にとって得策とは思えないのだがね。」


その言葉に、私は静かに、しかし強い口調で答えた。


「あなたは、私の友人たちを貶めるためにここに来られたのですか?

 さきほど、友誼を交わしたいと仰っていましたが...残念ながら、私は、私の友人を侮辱するような人と友誼を交わしたいとは思いません。

 申し訳ありませんが、もし考えを改める機会があれば、その時に改めて声をかけてください。」


言い終えて、少しだけ自分の口調がきつすぎたのではないかと後悔した。だが、それも仕方ない。

レオンを...私の大切な仲間を、嘲るような態度を見過ごすことはできなかったのだ。


アイヴァンは肩をすくめると、どこか余裕を漂わせた笑みを浮かべて言った。


「どちらが考えを改めるべきか...いずれ分かる時が来るだろう。その時まで、今日のことは忘れるとしよう。」


「それは良い考えですね。あと...この学校では敬称は禁止です。」


私が冷静を装って返すと、アイヴァンはふっと笑い、最後に言葉を残してその場を去っていった。


「その校風もまた、私には馴染めない。だが...いずれ変わっていくことを、私は期待しているよ。」


私はこれまで、家柄など意識せず、ただ気の合う友人たちと共に学校生活を送ってきた。

だが、アイヴァンの言葉を聞いて初めて、自分が見ていなかったものがあることを知った。貴族の中にも、さまざまな階層や立場が存在しているのだ。


もしかすると、祖父や父が「学べ」と繰り返し言っていたのは、剣や書の技術だけではなく、こうした現実を知れという意味だったのかもしれない。


それでも、私は今の友人たちとの関係を変えるつもりはない。学んだからといって、誰かを見下したり、切り捨てたりするようにはなりたくない。


「突然やってきた嫌な時間だったけど、簡単に忘れられることじゃない。でも...今のことは、忘れるようにしよう。

 これまで通りの僕たちでいなければ、彼の思うつぼだからね。」


レオンの穏やかだが確かな言葉に、俯いていた仲間たちが顔を上げる。



アイヴァンとの一件の後、学校の空気はわずかに変化した。


かつて私に崇敬の眼差しを向けていた学生たちは、徐々に私たちのもとに集まってきた。

一方、嫉妬を燃やしていた者たちは、今やアイヴァンのもとに集まり、彼の言葉に耳を傾けている。


だが、アイヴァンはその中でも厳しく選別していた。王国で重責を担う家柄でない者たちには、まるで興味を示さず、存在すら無視するような態度を取っていた。


そして、彼に受け入れられなかった学生たちは...再び、冷めた瞳に戻っていった。


こうして、学校内には目に見える形で、派閥のようなものが生まれた。

私を中心としたグループ。

アイヴァンを中心としたグループ。

そして、どちらにも属さず、ただ黙々と日々を過ごす者たち...。


アイヴァン自身は、私たちに強い対抗意識を持っているようには見えなかった。だが、彼の周囲には、私たちを意識し、競争心を燃やしている者が少なくない。


そんな中で、常にアイヴァンと行動を共にしている新入生、レオヴィル・シュルツだけは、周囲の者たちに冷静な態度を保っていた。

対抗心をむやみに行動に移さぬよう、諭している姿を見かけることもあった。


「シュルツ」という家名には覚えがある。

確か伯爵家で、先の反乱鎮圧の際、父と共に幕僚として名を連ねていた人物がいたはずだ。おそらく、彼はその息子なのだろう。


一方、私たちの側でも、レオンやロザーナ、ヴォルカノスが中心となり、対抗意識に囚われないこと、派閥のような行動を避けること、を繰り返し呼びかけていた。


アイヴァンとレオヴィルの剣術の腕は確かだった。

初めはヴォルカノス、ラチェット、ロザーナの三人も押されがちで、苦戦を強いられていた。


そこで、私が二人と対戦した際に気づいた癖や間合いの取り方を三人に伝えた。それから、彼らも次第に互角に渡り合えるようになった。

それでも、アイヴァンやレオヴィルを打ち負かせるのは、今のところ私だけだった。


レオヴィルは剣だけでなく、魔法にも見識が深く、王立魔法学院からの勧誘も受けていたという。

一方、レオンは初級の治癒魔法を使いこなしていたが、レイスとの一件以来、防御魔法や強化魔法の習得にも力を入れている。

ロザーナも、レオニスとともに治癒と強化の魔法の修練に励んでいた。


魔法は強力な手段ではあるが、詠唱に時間を要するのが難点だ。

中には詠唱なしで魔法を使える者もいるらしいが、現時点では戦闘の場面が限られており、そこまでの差が表面化することはない。


アイヴァンとの関係は、結果として派閥を生んでしまったという悩ましい一面がある。

だが一方で、彼やレオヴィルの存在が、私たちにとって剣術や学問における良き刺激となっているのもまた事実だった。


この関係は、悪化も改善もせぬまま、月日とともに流れていった。

空は日ごとに蒼さを増し、木々の緑もいっそう鮮やかさを増していた、ある日のこと、私とレオンは、学長室に呼び出された。



二人で学長室を訪れると、コーデリア学長がいつもの穏やかな笑顔で迎えてくれる。


「ランスロットさんがこの部屋にいらっしゃるのは、もう何度目かしらね?あとお二人来られるので、少しお待ちくださいね。」


ほどなくして、ドアがノックされた。「どうぞ」という学長の声に応じて入ってきたのは、アイヴァンとレオヴィルだった。

私は軽く首を下げて挨拶し、二人も静かに礼を返してきた。促されるまま席に着くと、学長が本題を切り出した。


「来月、王国騎士団の演習場で、御前試合が行われることになりました。

 この御前試合では、幼年学校からそれぞれ二百名で構成された隊を二隊、王立魔法学校の中等科からも五十名ずつの隊を二隊、合計で二百五十名対二百五十名の大規模な模擬戦が行われます。」


学長は一息置き、私たち四人に目を向けて、言葉を続けた。


「現在、この学校の中心となっているのは、あなた方四人です。

 お互いの立場や関係について、好ましいとは言えない部分もありますが、一方で...悪くない、とも思っています。

 だからこそ、今回の御前試合が、あなた方個人にとっても、学校全体にとっても、良い影響をもたらすことを期待しています。」


そして、改めてこちらを見つめながら、学長ははっきりとした声で告げた。


「ランスロットさんとレオナードさんには、協力して二百名を選抜し、一つの隊を編成してください。

 同様に、アイヴァンさんとレオヴィルさんにも、もう一つの二百名の隊を組んでいただきます。人選は各自にお任せします。一週間以内に選抜してください。

 来週の初めには魔法学校から選抜された五十名ずつと合流し、合同の作戦会議に入る予定です。模擬戦の詳細も、そのときに伝えられるでしょう。」


静かながらも、どこか緊張を帯びた空気の中、学長が最後に問いかけた。


「何か、質問はありますか?」


一息置いてから、レオンが静かに口を開いた。


「ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか。学長に尋ねるべきことではないかもしれませんが...なぜ今、我々幼年学校の学生が御前試合を行うのでしょうか?

 御前試合であれば、本来は王国騎士団が演じるべきものでしょうし、魔法学校も高等部ではなく中等科という点も、少々気になります。」


学長は、微笑をたたえたまま、落ち着いた口調で応じた。


「ごもっともな質問です。ですが、その答えを私からお伝えすることはできません。ただ、今回の提案に反対の声は一つもなかったと聞いています。」


そこまで言うと、学長はふと窓の外に視線を投げ、そしてゆっくりと続けた。


「第三次スタンピードから、今年で五百八十八年。誰もが、十二年後のことを考えているのでしょう。

 昨年の魔物騒ぎを、次の災厄の予兆と見る者も少なくありません。そして、その時代を治めるであろう若き人材に、各所が関心を寄せているのです。」


その言葉に、室内の空気が一瞬で重たくなるのを感じた。私たちは思わず俯き、言葉を失った。


...第三次スタンピード。

魔王が討たれた約二千四百年前から、六百年周期で繰り返されてきた、魔物たちの異常発生。特に六百年前の第三次では、王国が滅亡寸前まで追い詰められた。


王都の今の穏やかな景色を思えば、十二年後にそんな混乱が訪れるなど、にわかには信じ難い。

だが、過去の歴史を見れば、それはただの幻想にすぎないのかもしれない。


事実、王国が万全の備えを整えて臨んだ第二次スタンピードの際には、被害を最小限に抑えることができたという。

準備は必要なのだ。十二年という歳月は、決して長くはない。


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