盗賊の襲撃
左右から、四人ずつの盗賊が槍を構えて突進してくる。二頭の馬を狙って、バラバラの位置から一斉に迫ってきていた。
まず、右側にいた四人のうち、近い位置にいる一人へ炎の魔法を放つ。
赤々と燃え上がる火球がまっすぐに飛び、男の胸に命中した。炎は一瞬で衣服に燃え移り、激しく燃え広がった。
男は悲鳴を上げながら地面に倒れ、転がり回りながら火を振り払おうともがく。
続けざまに、残りの三人にもそれぞれ炎の魔法を撃ち込む。それぞれの身体に炎が当たり、地面に倒れこむ。
左側の四人には、走ってくるその足元に向かって岩の壁を発生させた。
現れた壁に一人が正面から激突し、声を上げる間もなく後ろに倒れた。彼はそのまま動かなくなった。気を失ったらしい。
別の男は突き出した槍が岩壁に当たり、そのままぽっきりと折れてしまった。
残りの二人も岩の壁にぶつかってよろめいたが、すぐに体勢を立て直した。顔をしかめながらも、戦意はまだ失っていない。
右側では、まだ動ける二人が火を振り払いながら、再び馬へと走り出していた。
私はその二人に向けて岩の塊を飛ばす。鋭く硬い岩が命中すると、二人はのけぞって地面に崩れた。
左側の壁に弾かれただけの二人に対しても、同様に岩を放つ。岩は正確に命中し、鈍い音を立てて倒れた。
今度は前方から大きな足音が近づいてくる。視線を上げると、槍を構えた首領らしき男が、こちらへ一直線に突進してきていた。
その男に向け、私はより大きな炎の魔法を放つ。爆ぜるような火球が一直線に飛び、男の上半身を包み込んだ。
「うおおおおっ!!」
男は炎に包まれながら絶叫し、そのまま地面に崩れ落ちて転がった。火を振り払うようにもがく姿を見て、私は迷わず追撃として岩の塊を放つ。
重い音を立てて命中すると、男はその場で意識を失い、静かに倒れ伏した。
周囲を見渡すと、アデルはすでに二人の盗賊を制していた。馬車の中から援護していたハウルたちも、二人を昏倒させていたようだった。
残っていた数人の盗賊は、仲間の倒れる様子に恐れをなし、街道脇の岩陰の中へと逃げていった。
彼らの足音が遠ざかるのを確認し、私はようやく魔力の集中を少しだけ解いた。
戦場に残った十三人の盗賊たちは、すべて無力化されていた。
私は順に、倒れている盗賊たちを後ろ手にきつく縛り、腰に巻いたロープで一人ずつ繋いでいった。
その隣で、アデルが彼らに治癒魔法を施していく。命に別状はないことを確認しながら、しかし逃げ出したり暴れたりできないよう、あえて完全には回復させない。
全員を後方へ移動させ、馬車の後ろに取り付けた鎖にロープを等間隔で括りつける。
そして最後に、首領と思われる男を後ろ手から前へ縛り直し、鎖の末端をその腰に固く結んだ。
野営の準備を進める間、リルとハウルは二頭の馬の世話をしてくれていた。
私は馬車の後ろに回り、縛られている盗賊たちのもとへと歩いていく。
十三人分の水と食料をまとめ、最後尾にいる男の前に置いた。彼の手に結んだ鎖を一時的にほどき、かわりに腰に巻いたロープへと繋ぎ直す。
「あなたが皆さんの食事の世話をしてください。食事と水はこれがすべてです。どうか平等に分けてあげてください。」
私の目を見ていた男は、しばらく無言だったが、やがて軽くうなずいた。
私たちは盗賊たちを遠巻きに見張りながら、こちらも簡単な食事を取ることにした。
盗賊たちは不満げに文句をこぼしながらも、どうやら全員、何とか腹を満たすことはできたようだった。
空はすでに茜色に染まり、東の空から夜の色がじわじわと広がりつつあった。明日も天気は良さそうだが、私の胸の内には小さな不安が残る。
この先には、崖沿いを縫うように続く難所がある。そこを抜ければ明日中に次の街、アルヴィアへたどり着ける見込みだ。
だが、安全な迂回路を使うとなると、五日は余計にかかってしまう。
私は見張りの順番を確認し、不審な動きや夜襲への備えを入念に行った。馬車の内外にわずかな結界を張り、武器の確認をしてから、ようやく横になる。
◇◇◇
夜の見張りの番が回ってきたとき、私はハウルとアデル、ソニアから引き継ぎ、リルと共に盗賊たちの監視をしていた。
彼らはすっかり疲れ果てていたのか、誰もが深い眠りに落ちている。いびきのような音すら、時折、夜風に乗って聞こえてきた。
その様子を見て、リルが冗談交じりに言った。
「盗賊たちにも見張りに立ってもらいたいわ。...それとも、起こしてわたしの話し相手になってもらおうかしら?」
「残念ですが、それは却下です。」
私は笑いながら、即座に答えた。
捕えた盗賊たちは、明日アルヴィアで衛兵に引き渡す予定だ。それまでの安全を確保するのは私たちの責任だが、正直、手間がかかるばかりで嬉しい存在ではない。
今後、盗賊と戦わずに旅ができればいい。そう願わずにはいられないが、同時に、その願いが難しいことも分かっていた。
私たちは、盗賊にとっては格好の獲物なのだから。
そんな思いを巡らせていると、アデルたちが起きてきた。
リルが突然、声を上げた。
「誰か来るみたいだけど...誰かしら?」
私は思わず振り返り、朝靄の向こうを見つめた。朝日が低い角度から照らす道の先に、二頭の馬がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。
一頭には少年が乗っており、もう一頭は空馬だった。騎乗している少年は、私たちと同じくらいの年頃に見えたが、しっかりと手綱を握り、馬を巧みに操っている。
私はすぐにハウル、アデル、ソニアに目配せをして馬車の中へと身を引かせた。
少年は馬を止めると、静かに鞍から降り、二頭を引き連れて私たちの前へ歩み寄ってきた。
「私はヴァレンタのロディと言います。あなた方に注意を喚起しに、こちらに参りました。」
彼は礼儀正しく名乗り、落ち着いた様子で話し始めた。
「私はルヴィ、こちらはリルです。デネリフェ島から来た旅人です。注意喚起、というのは少し物々しい響きですね。何かあったのですか?」
「はい。この先の丘陵地で、盗賊たちが待ち伏せしています。
今朝この道を通る旅人は、どうやらあなた方だけのようです。急ぎでなければ、迂回したほうが良いでしょう。」
私はその言葉に少し間を置き、ロディの顔をまじまじと見つめた。
「なるほど。そういうことですか。ところでロディさん、あなたのことを以前どこかでお見かけした気がするのですが?」
ロディは微笑み、軽く頷いた。
「敬称は不要ですよ。ロディと呼んでください。はい、気づいてくださったんですね。
先日、ミドルポートの港で船を眺めていたとき、あなた方と目が合いました。」
「やはり、あの時の...。それにしても、なぜ船を見ていたのですか?」
「実は、私は群島に渡りたいと考えていて、引き返しそうな船を探していたんです。
あなた方の船を見かけた直後、偶然、あなた方を狙っている盗賊の会話を耳にして...。それを伝えたくて、今朝からあなた方の行き先を追っていたのです。
私は少し剣が使えます。護衛としてお役に立てるのなら...と、そう考えていました。」
「それが、昨晩の盗賊だったのですね。」
私が問うと、ロディは静かに頷いた。
「そうです。私自身も盗賊に追われることになり...なんとか彼らを振り切って街道に出たときには、すでに夜になっていました。
そこで、逃げていた盗賊の一人を捕まえて話を聞いたのです。あなた方が無事であることを知ると同時に、新たな企みが進行していることも聞き出せました。
その後、二人の盗賊に助けられながら、皆さんを守るためにここへ来たのです。」
私は彼の瞳を見つめながら、問いかけた。
「なぜ、私たちを助けようと思ったのですか?」
ロディは、少し考えるように視線を落とした後、まっすぐに答えた。
「あなた方は、商売か何かで大陸の街へ向かっているのだろうと考えました。船には荷物が積まれていましたし。
しかし、今回のことでもわかるように、あなた方は盗賊にとって格好の標的にもなりかねない。
それなら、私が護衛として加わり、信頼を得て、いずれ群島に戻る際に、船に乗せていただけないかと考えたのです。」
私は納得したように頷きながら、次の質問を重ねた。
「なるほど...そういうことでしたか。では、その『企み』というのは?」
ロディの声が、少しだけ低くなる。
「私が捕まえた盗賊には、まだ三人の仲間がいました。その一人が、顔見知りの盗賊団の首領にあなた方の話をし、助けを求めたそうです。
その結果、首領は周囲の盗賊団に声をかけ、八つの盗賊団が協力して、およそ百人の襲撃団を組織したようです。
彼らは、この先の街道で待ち伏せをして、あなた方に襲撃を仕掛けようとしている。」
私は静かに息をつき、軽く顎を引いて言った。
「...なるほど。それで、捕まえた盗賊たちが妙におとなしかったわけですね。」
それから、馬車に向かい声をかけた。
「ハウル、アデル、ソニア。出てきてください。もう危険はないようです。」
三人が馬車から出てくると、ハウルがすぐにロディに気づいた。
「あっ、君は...昨日の朝...!」
「ハウルも覚えていたようですね。」
「改めまして、私はヴァレンタのロディと申します。ロディと呼んでください。」
私たちもそれぞれ順に自己紹介をし、ロディに軽く会釈をした。
そして私は、彼から聞いた内容を全員に共有した。
「迂回路を取るという方法もあります。ただ、日数がかかるだけでなく、私たちが標的なのは明らかなので、別の方法で襲撃をしてくる可能性があります。」
リルが腕を組みながら、軽く口元を歪めて言った。
「つまり...ここで戦ったほうが手っ取り早いってことね。」
「私たちが有利な点は、襲撃を受ける場所とタイミング、そして相手の人数が分かっているということです。
それに加えて、ロディが一緒に戦ってくれることで、白兵戦での負担も軽くなるはずです。
大まかな作戦としては、襲撃地点に着いたら、すぐに魔法で地形を変えて、有利な状況を作り出す...という形になります。」
「一つ、よろしいでしょうか?」
ロディが声を上げると、皆の視線が彼に集まった。それを了承の合図と受け取ったのか、ロディはゆっくりと言葉を続けた。
「...私の名を騙っている者が、このあたりの盗賊の中にいるらしいのです。
もし、今回の襲撃団の中にその者がいたなら、その処遇を、私に任せていただけないでしょうか?」
「へえ、ロディって名を騙られるほど、有名人なんだね。」
リルが軽く茶化すように言うと、隣でアデルが小さくため息をつきながら、リルの頭を軽くぽんと叩いた。
ロディは少し笑みを浮かべながらも、真剣なまなざしでこちらを見ていた。
「...皆に異存がなければ、私はその処遇をロディに任せたいと考えています。どうでしょう?」
「僕はいいよ。」
「私も異存ありませんわ。」
「わたしも。」
「オレも異存はない。ただ、今回は昨日みたいに全員生け捕りってわけにはいかないかもな。」
皆の返答を聞いたロディは、ほっとしたように肩の力を抜き、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます。なぜ私の名前が使われているのかは分かりませんが、その不名誉には、自分で決着をつけたいと思っています。
それから...ハウルの言う通り、白兵戦では手加減が難しい場面もあります。
もしもの時には、相手の命を奪う覚悟も必要になる。その点だけ、皆さんにも考えておいてほしいのです。」
私は頷き、皆の顔を見回しながら、改めて問いかけた。
「分かりました。アデル、リル、ハウル、ソニア、どうだろうか?」
「オレはもちろん、その点は覚悟しているつもりだよ。でも...正直、経験がないから、不安なんだ。」
ハウルは正直な気持ちを口にした。
「僕も覚悟はしてる。海に出ると、時にはそういうこともあるって、お父様から言われてたから。」
ソニアも、迷いのない口調で応えた。
「私も、昨日の襲撃を受けたときに、考えました。...昨晩ずっと考えて、覚悟は決めました。」
アデルの声は、どこか静かで芯が強かった。
「わたしは...」
リルは少し言葉を詰まらせてから、仲間の顔をひとりずつ見つめた。その目に、恐れと、それ以上に不安の色が見えた。
魔物と戦うのとは違う。やはり相手が人間となると、どうしてもためらってしまうのだろう。
私はゆっくりと彼女に語りかけた。
「リル、無理をしなくてもいいんだよ。みんなの考えがわかればいいのです。それをもとに作戦を考えれば良いのですから。」
「ありがとう、ルヴィ。」
それぞれの覚悟が、ようやく出そろった。まだ何か見落としていることがあるかもしれない。
けれど、それはこれから作戦を詰めていく中で、自然と明らかになっていくだろう。
私たちの目的は、敵を倒すことではない。生き延び、旅を続けることだ。そのために、必要な行動を取るだけだ。
「それでは、作戦を考えましょう。」




