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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第一章
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リズベック商会

船を停めた場所に戻ると、すでにソニアとアデルも手続きを終えていた。アデルは馬車旅に必要な物資の買い出しに出ているという。


買い物はアデルに任せ、私たちは四人で船の荷物を順番に馬車へと運び込んでいた。

港の空気は朝の喧騒から少し落ち着きを取り戻し、遠くでカモメの鳴き声が響いている。


その作業の合間、ふと思い出してリルに問いかけた。


「そういえば、先ほどの商談の間、リルはずいぶん静かでしたね。何か考え事でもしていたのですか?」


リルは少し口を尖らせながら答える。


「別に...考え事なんてしてないわよ。ただ、話が難しくて入っていけなかっただけ。

 でもね、貸し出しに銀貨六十枚、それに保証金も同額って聞いた時は、思わず文句言いそうになっちゃったわ。」


「まぁ、私たちは子供ばかりですからね。途中で山賊に襲われて、馬車ごとどこかに売られしまう可能性もあるわけですから...

 保証金が高いのも無理はありません。」


「...そうなのかと思って黙ってたけどさ。子供、子供って...好きで子供してるわけじゃないのにね。」


その言葉に、ソニアが笑いながら話に加わった。

「僕のお父様が言ってたよ。子供は、大人になるための修行期間なんだって。リルも僕も、今はしっかり修行して、ちゃんと良い大人にならないとね。」


「ソニアのお父様は、素晴らしいお考えをお持ちなのですね。大人の修行、か...私もしっかり努力しなければなりませんね。」


「ルヴィはもう十分頑張ってるからいいのよ。これ以上差が開いたら、わたし、困っちゃうじゃない。」


そこへ、荷物を担いで戻ってきたハウルが、のんびりと会話に加わってくる。

「でもリル、ルヴィやオレの方が一つ年上なんだから、リルのほうが一年時間が合って有利なんじゃないかな?」


リルはちょっとだけ眉をひそめた。

「ハウルは余裕がありそうだけど、有利とか不利じゃないのよ。来年には、今のハウルやルヴィと同じくらいになってないといけないの。」


「オレだって、来年のルヴィに一年で追いつくなんて、とても考えられないよ。でも、自分で納得できる成長ができれば、それでいいんじゃないかな?」


「そうだよ。リルはちょっとせっかちすぎなんだよ。僕はハウルと同じで、自分のペースでやれればいいと思う。...僕なんか、この中で二番目に年上なんだし。」


それぞれの言葉に、少しずつ笑顔が戻り、空気も和らいでいった。

そうしているうちに、積み荷の移動もすべて終わり、ソニアがスラウスを呼びに行った。


ほどなくして、アデルが買い出しから戻ってきた。


「この街は港町だと聞いていたので、ギズモグロウブくらいを想像していましたが...パルマスよりも大きいですね。

 買い物をしながら商店街を見て回りましたが、半分も回りきれませんでしたわ。」


「アデル、ありがとうございました。何か気づいたことはありましたか?」


「そうですね...物価はギズモグロウブと同じくらいですわね。でも、海産物は品数も豊富で、少しお安くなっているものもありました。

 ただ、鉄製品はパルマスよりも少し高めでしたわ。」


「そうですか、ではハウル、朝食を済ませたら、鉄製品を少し売りに出してみましょうか。」


「そこまで調べてくれたんだね。ありがとう、アデル。ルヴィ、ソニアが戻るまでに準備しておくよ。」


ソニアがスラウスと共に戻ってきて、無事に船の引き渡しも完了した。

私たちは馬車に乗り込み、港町の広場近くで遅めの朝食を取ることにした。


その後、再びリズベック商会に顔を出すと、丁寧に案内された。


鉄製品の販売許可を得た私たちは、大通りの一角に露店を構えることにした。日差しは少し強くなってきたが、風は心地よい。


ミドルポートには、四つの大きな商会が存在し、それぞれの商会が管理する露店区域が定められていた。

私たちはリズベック商会の許可を得て、その区画の一角に小さな露店を出すことになった。


露店は、リルとハウル、そしてソニアに任せることにした。私はアデルとともに、彼女がまだ見ていない市場の南側エリアを確認しに出かけた。


市場は活気に満ちていた。屋台が軒を連ね、人々の声が入り混じり、香辛料や海産物の香りが風に乗って漂ってくる。


陽がだいぶ傾き始めた頃、私たちは馬車に戻った。町は夕刻の空気に包まれ、赤く染まった通りを人々が足早に行き交っている。

夕食にはまだ少し時間がある。私たちは馬車の中で、一日の成果を報告し合うことにした。


「鉄製品、結構売れたよ。」と、ハウルは満足げに言った。

「特に生活用品、鍋とか釘とか、あと農具なんかが人気だったよ。短時間だったけど、手ごたえはあった。」


リルが得意げに頷く。

「やっぱり実用的なものが強いのよ。旅人相手じゃなくて、地元の人も多かったし。」


私たちは、市場での情報を共有した。


「塩は高価な品ですが、ミドルポートでは比較的安価に手に入ります。それに、近郊の田園地帯ではさらに安く、大量に買い付けできる可能性もありますわ。」


アデルの報告に、私も頷いた。


「内陸に運べば、確実に利幅が取れるでしょうね。魚の油も見かけましたが、内陸では好まれないようです。やはり動物性や植物性のものが主流のようです。」


アデルとうなずき合っていたその時、馬車の扉を軽くノックする音が響いた。


日はだいぶ傾いているが、夕暮れにはまだ少し間がある。このような時間帯に訪ねてくる者とは、一体...


馬車の扉を開けると、そこには長身の男性が静かに立っていた。姿勢の正しさと身なりの整った装いから、ただ者ではない雰囲気が漂っている。


「私はリズベック商会、代表ビアンカ様の使いでまいりました。エリオットと申します。ルヴィ様ご一行でお間違いないでしょうか?」


「はい、私がルヴィです。私たちに何かご用でしょうか?」


「はい。主人であるビアンカ様が、皆さまにぜひ一度お会いしたいと申しておりまして。お時間が許すようでしたら、商会までご一緒して頂けないでしょうか?」


突然の申し出に少し戸惑いながらも、私は返した。

「私たちは構いませんが、馬車をどうするべきか...。」


「ご安心ください。馬車ごとお越しいただければ、到着後は当方で責任を持ってお預かりいたします。」


そのしっかりとした返答に頷きながら、私は提案を返した。

「なるほど、そういうことでしたら、エリオットさんもご一緒に馬車へ乗って道案内していただけますか?」


「もちろんでございます。では、早速向かいましょう。」


私が御者台へ移動しようとしたそのとき、ハウルが手を上げて声をかけてきた。


「ルヴィ、これからいろいろ話すこともあるだろうし、ここはオレに任せて。ゆっくり休んでてよ。オレがしっかり商会まで連れていくからさ。」


「ありがとう、ハウル。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいます。」


私は再び馬車の中へ戻り、仲間たちとともにエリオットの案内を受けながら出発した。


先ほど訪れたとき、なかなか大きな商会だと感じた。リルが委縮するほどの規模の商会、その代表が私たちに何の用事だろう?


「アデルはどう思いますか?」


私が尋ねると、アデルは軽く微笑みながら首を傾げた。


「私には想像もつきませんけれど...もしかすると、何か個人的なご趣味、かもしれませんわね。」


「なるほど、まあ、深く考えても仕方ありませんね。すぐに答えはわかるでしょう。」


「ルヴィって、記憶喪失のくせに、ほんと考えすぎなのよ。」

不意にリルがツッコミを入れてくる。その言葉に、皆がくすりと笑った。


「でもね、リル。ルヴィやアデルがいろいろ考えてくれるから、僕たちは安心して旅ができてるんだよ。」

ソニアが穏やかにフォローを入れると、リルはそっぽを向いて言った。


「言われなくても、そんなことくらい...わかってるわよ。」


「ビアンカさんがどんな方かは分かりませんが、リルとソニアがいれば、きっと退屈はしませんね。」


夕方の光が窓越しに差し込み、街並みを金色に染めていく中、私たちはそれぞれに思いを巡らせていた。


馬車が静かに止まり、扉が開くと、外にはハウルとエリオットが立っていた。

二人とも穏やかな表情をしていたが、ハウルのエリオットに対する態度には、どこか敬意がにじんでいた。

御者台で何を話していたのかはわからないが、ただの世間話ではなさそうだった。


しかし、目の前に広がっていたのは、先ほど訪れた商館とは明らかに異なる建物だった。


その佇まいからして、リズベック商会の代表邸に違いない。

建物は洗練されており、外観だけでなく、門から玄関へと続く石畳のひとつひとつにすら品格があった。


エリオットの案内で中に入ると、さらに圧倒された。廊下は磨かれ、壁には穏やかな色合いの絵画や、手の込んだ装飾が美しく並べられていた。

華美ではないが、どれも厳選されたものばかりで、この家の持つ伝統と風格を物語っている。


通された応接室も、まるで静かな美術館の一角のようだった。

四角いテーブルの周囲には柔らかな手触りのソファが並び、壁際にはいくつかの美しい陶器や書物が飾られている。


「どうぞ、おかけください。」

エリオットの穏やかな声に促され、私たちはテーブルを挟んで左右に分かれて腰を下ろした。彼が一礼して部屋を後にすると、扉が静かに閉じられた。


少し間を置いてから、私はふと尋ねた。


「ハウル、ここに来るまでエリオットさんと何を話していたのですか?」


私がそう尋ねると、ハウルは少し照れたように頬をかきながら答えた。

「やっぱり、ルヴィとアデルは気付いてたんだね。」


その声にアデルの方を見ると、彼女も少し肩をすぼめて恥ずかしそうにうつむいた。どうやら、彼女もそれとなく耳を傾けていたようだ。


「実はね、エリオットさんに、作法を学ぶにはどうすればいいか相談してたんだ。

 礼儀や姿勢のこと、言葉の使い方まで、すごく丁寧に教えてくれて...正直、ちょっと感動しちゃった。」


「なるほど、ハウルをそこまで惹きつける方のご主人となると、確かに興味が湧いてきますね、アデル。」


私がそう言うと、アデルはすぐに頷いて微笑んだ。

「ええ、私もほんの短い時間でしたが、エリオットさんの立ち居振る舞いには感銘を受けましたわ。」


「ハウルだけでなく、アデルまで魅了するとは...ただ者ではなさそうですね。」

私が冗談めかして言うと、ハウルもアデルも顔を見合わせて、楽しそうに笑った。


そのやり取りをじっと聞いていたリルが、少し頬をふくらませながらぽつりと呟いた。

「お姉さまが、そんなふうに人を褒めるなんて...ルヴィ、もううかうかしていられないね。」

「リル!」


私たちが穏やかな空気に包まれていると、扉が静かに開いた。

その場に立ち現れたのは、一人の女性だった。


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