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名もない冒険の物語  作者: 白雉
第一章
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四年後の約束

晴天に恵まれた空の下、ダンジョンの破壊作業はついに最終段階に差し掛かっていた。

氷で凍らせ、そこへ破壊の魔法を重ねるという手法を、ひたすら繰り返していく。


アデルは年長である分、扱えるマナの量が多く、その魔法は驚くほど精密かつ強力だった。

彼女の氷の魔法は、ただ広範囲を凍らせるだけでなく、対象の芯までしっかりと凍結させる力がある。


一方のハウルは、アデルほどの精度こそないものの、その回復力と持続力は目を見張るものがある。

まるで呼吸するように自然に、次々と魔法を繰り出し、ほとんど休まずに働き続けている。


リルは少し苦戦している様子だったが、それでも十分すぎるほど健闘していた。彼女の年齢で、ここまで魔法を安定して使える者は珍しい。

何よりも、失敗を恐れず、何度も挑み続けるその負けず嫌いな気質が、着実に彼女を成長させているのだろう。


島から突き出ていたダンジョンの構造物は、ついにすべて崩された。そのとき、ユピテルが声を張り上げた。


「ここで一旦、作業を中断しよう。」


皆が手を止めると、最後まで残っていたモンスターの掃討が完了し、空気が一段と澄んで感じられた。

次の瞬間、ユピテルを先頭に、プロセルピーナ、バックス、ミネルヴァ、マーキュリーの五人が、ダンジョンの内部へと静かに姿を消していった。


しばらくして、マーキュリーが顔を出し、手招きするようにしてウェスタを呼び寄せた。


「ルヴィ君たちは、そのままゆっくり休んでいてくれ。」

微笑を浮かべながらそう言ったウェスタは、ケレスにいくつかの指示を残すと、自身もダンジョンの中へと姿を消した。


そのとき、朝に紹介されたジュノやベスタたち、若いセイレーンの仲間たちがこちらへと近づいてきた。


「やっぱり君たちはすごいな。僕たちも負けていられないよ。」

そう言って先に口を開いたのはアレスだった。その言葉に、ベスタや双子のディアナとヘルメスも静かに頷いた。


「アレス、ユピテルさんたちは、今ダンジョンの中で何をしているの?」

私がそう尋ねると、今度はディアナが明るい声で答えた。


「いつものことだけど、ルヴィたちは知らないよね。これは外壁にあたる階層の攻略なんだ。」


「しばらくしたら、お宝を抱えて出てくると思うよ。それまで時間があるから、僕たちは僕たちで楽しもう。」

続けてヘルメスも笑顔で言った。そのまま、朝の談笑の続きを皆で楽しむ流れになった。


改めて話をするうちに、面白いことが分かってきた。ディアナとヘルメス、そしてリアは同じ歳で九歳。

ソニアとベスタも同じ歳で十一歳、アレスはその一つ下で私とハウルと同じ歳だという。


「えっ、そんなに若かったの!?魔法の扱いがあまりに上手だから、てっきりもっと年上かと...」

ベスタが素直な驚きの声を上げる。


ジュノは十七歳で、すでに北部防衛隊の正式な一員として働いているという。

一方、ベスタ、アレス、ディアナ、ヘルメスの四人は、まだ見習いながらも自ら志願して、調査や訓練に加わっているそうだ。


会話の中で、セイレーンたちの暮らしぶりも少しずつ見えてきた。

彼らの主な生活圏は、南と北の内海、それにその周辺の近海に限られている。

外海には強力なモンスターがひしめいており、セイレーンに限らず、陸の民もまた、そこに足を踏み入れれば命を落とす危険があるという。


だからこそ、セイレーンたちはこの比較的安全な海域を守るため、日々調査隊や防衛隊として活動しているのだった。


「北の群島の間から侵入してくるモンスターを討伐するのが、私たち防衛隊の仕事。征北将軍ユピテルは、その防衛隊すべてを統括しているの。」


ジュノが誇らしげに言った。

そう、彼らが守っているのは、ただの海ではなく、自分たちが生きる世界そのものなのだと、私はその言葉の重みに改めて気づかされた。


征北将軍の他にも、三人の将軍が存在しているという話を、ベスタたちから聞くことができた。


征東将軍は、東の大陸からの侵入に備えた防衛を担い、征西将軍は、西に広がる群島の間からのモンスターの動きに目を光らせている。

そして、少し異なる役割を持つのが征南将軍だ。


征南将軍は、南方の群島に潜む脅威を警戒すると同時に、エルミオン大森林や深緑の島に暮らすエルフたちとの外交も担っているという。

セイレーンとエルフとの関係は、三千年を超える歴史を誇るそうだ。

長い時をかけて築かれたその友好関係は、今も健在であり、南の島々から侵入するモンスターに対しても、エルフたちとの協力体制が大きな抑止力となっている。


これらのことは知識として頭の中にはあったことだが、ベスタたちから直接聞くことで、その現実味が一気に増していくのを感じた。


それにしても、北の内海に『原初のダンジョン』が今なお残っており、セイレーンたちがそれに対応し続けているとは知らなかった。

今回の旅で得た有益な情報のひとつだろう。


ベスタの話によれば、このダンジョンは非常に広大で、まだ安全に踏破できる手段は見つかっていないという。

もしも安全な攻略ルートが確立されれば、セイレーンたちは定期的な遠征隊を編成し攻略する。

そして、ダンジョンから得られる貴重な品々でセイレーンの街はさらに繁栄するはずだが、今のところそれは難しいということだった。


そんな話から自然と、セイレーンたちの都市や暮らしの話題へと移っていった。

話によれば、南の内海には三つの大きなセイレーンの都市があり、そのほかにも数多くの集落が点在しているそうだ。


セイレーンの都市がどのようなものなのか、ますます興味が湧いてくる。

いつか、訪れる機会があるだろうか?いや、そもそも人間である私がたどり着くことができるだろうか?

それでも、もしその時が来たら...その時は、ベスタたちに案内してもらいたいものだ。


どれくらいの時間が経っただろうか。

私たちはすっかり打ち解け、穏やかな笑い声が絶え間なく続いていた。大人のセイレーンたちも輪に加わり、辺りはまるで宴のようなにぎやかさに包まれていた。


その時、不意にダンジョンの入り口方面から声が聞こえ、私たちは一斉にそちらへ視線を向けた。

「やあ、みんな。待たせたね。」


マーキュリーが、ダンジョンから流れ出る川の出口付近に姿を現した。彼はやや汗ばんだ額を軽く拭いながら、手をひらひらと振っている。

「この階層、広すぎてね。攻略するにはまだ準備が足りなさそうだ。一旦戻ってきたよ。」


その後ろから、重たそうなバックパックを背負ったウェスタも現れた。背中にはいくつもの素材や道具が詰め込まれているようだった。


ユピテルがまっすぐこちらへ歩いてきて、私の前に立つと、少し真剣な顔つきで言った。

「ルヴィ君、最後の仕上げを手伝ってもらえないか。このダンジョンの入り口を封鎖してしまうんだ。」


「わかりました。」


私は頷き、アデルたちに魔法で石や岩を積み上げるように指示した。

ベスタ側の仲間も魔法が使える者は次々と作業に加わり、魔法を使えない者たちには小石を投げ入れるなど、できる範囲で協力をお願いしている。


ダンジョンの入り口には、次々と石が積み上げられ、私とユピテルたちは土台から丁寧に固めていく。

まもなく、開口部は完全に塞がれ、ダンジョンは静かにその姿を閉ざした。


見上げると、空にはオレンジ色の夕日が広がっていた。辺り一面が黄金に染まり、風も潮の香りを運んでくる。

ユピテルの指示で、私たちは島の北にある浜辺へと移動した。


波音が静かに響くその場所で、ユピテルは戦利品の分配を始めた。

手渡されたのは、驚くほど希少な海の宝石たち。私たちの手には抱えきれないほどの財宝が贈られた。


リルとソニアは宝石を見つめたまま目をぱちくりとさせ、開いた口から言葉も出せずにいる。その様子がおかしくて、私は思わず微笑んだ。


「こんな高価な品物を、オレたちまで貰ってしまっていいのかな?」

ハウルがそっと私に尋ねてきた。


「ユピテルさんたちのお気持ちですし、遠慮せずいただいておきましょう。資金が増えるのは、今後の旅の助けになりますから。」

代わりにアデルがそう答えてくれ、私は静かに頷いた。


ベスタたちが私たちのもとにやってきた。頬を少し膨らませながら、ベスタがつぶやく。

「ルヴィたちはいいなぁ...こんなにたくさん、おすそ分けをもらえて。」


隣にいたディアナが小さく笑いながら言葉を継いだ。

「私たちはまだ見習いだから、報酬はもらえないのよ。その代わりに、武器や装備は支給してもらえるけどね。」


それを聞いたソニアが、ふと思いついたように提案した。

「それなら、ユピテルさんに頼んで、私たちがたくさんもらった分を、少し分けてもらおうか?」


だが、ベスタは首を横に振って答えた。


「ありがとう、ソニア。でも、気持ちだけで十分。

 だって、私たちはまだ、大人たちがいなければここまで来ることすらできなかったし、戦闘に参加することだって無理だった。

 あなたたちは、自分たちの力でここに来て、大人と肩を並べて戦った。それは、正当に受け取るべき報酬だと思う。」


彼女の目は、まっすぐで清々しかった。


「それにね、今日わかったの。私たちだって努力すれば、いつかルヴィたちみたいに、一人前になれるって。」


その言葉にディアナもうなずき、力強く続けた。

「そうだね、ベスタ。僕たちもルヴィたちに追いつけるように頑張る。四人で協力すれば、一人前の仕事ができるようになるって、今日気づけたんだ。」


その時まで黙っていたアレスが、ふいに出て、真剣なまなざしで私を見つめた。


「ルヴィ、四年後、君が十四歳になったら、一緒にこのダンジョンを攻略しよう。僕たちも、それまでに一人前になっているはずだ。

 エルフの友達も誘って、一緒に挑戦したいんだ。どうだい?」


その真っ直ぐな誘いに、胸が高鳴るのを感じた。


「わかりました、アレス。四年後ですね。

 その日までに、私たちももっと努力を重ねて、それぞれの力をさらに磨いておきます。友達も、きっともっと増えていると思います。四年後が楽しみですね。」


そう言って、私はアレスと固い握手を交わした。

他の仲間たちも、それぞれ言葉を交わしながら、順番に手を取り合っていく。ひとつひとつの握手が力強く結ばれていった。


その様子を静かに見届けていたソニアが、私の肩を軽く叩いて言った。

「ここでの寄り道も、もう終わりだね。今から出発すれば、明日の明け方にはミドルポートの港に着けると思うよ。ルヴィ、どうする?」


私は空を仰ぎ見て、小さく息を吐いた。

「急ぐ旅ではありませんが、ずいぶん寄り道してしまいましたからね。そろそろ、出発しましょう。」


そのとき、少し離れた場所から私たちのやり取りを見守っていたユピテルが近づいてきた。

彼はベスタたちの肩に優しく手を置き、静かに言った。

「ベスタ、アレス、ディアナ、ヘルメス、良い友達ができたな。これからのお前たちの成長がとても楽しみだ。

 それから...ありがとう、ルヴィ君、アデルさん、リルさん、ハウル君、そしてソニアさん。」


いつの間にか、ウェスタも私たちのすぐそばに来ていた。穏やかな微笑みを浮かべながら、優しい声で語りかけてくる。


「ルヴィ君たち、旅の途中に寄り道させてしまって申し訳なかったね。でも、君たちと出会えて本当によかった。今回の旅が、どうか無事に終わるよう祈っているよ。」


「いえ、こちらこそ...ユピテルさん、ウェスタさん。とても貴重な体験をさせていただきました。ありがとうございました。」


私が深く頭を下げると、ユピテルがふと何かを思い出したように言った。

「ああ、そうだ。ルヴィ君、ソニアさん...二人にこれを渡しておこう。」


そう言って差し出されたのは、手のひらに収まるほどの巻貝だった。光沢のある淡いピンク色の殻が、夕日に照らされてほのかに輝いている。


「これは笛なんだ。先日、オケアニスが君たちに渡した『タカラガイ』と同じように、私たちとの連絡手段になっている。

 海の近くで吹けば、その音が私たちに届く。何かあったときは遠慮なく頼ってほしい。私たちは、君たちの友人だ。」


ウェスタがその隣で、少し照れたように言葉を続けた。


「君たちの旅は、商いの旅なんだろう?もしそれを続けていくつもりなら、旅が終わったとき、改めて呼んでくれ。

 君たちとなら、本気で交易を考えてもいいと思ってる。」


「本当に...いいのでしょうか?」


思わず確認してしまう私に、ウェスタはしっかりとうなずいた。


「もちろんだとも。」

「ありがとうございます。私も、商いはまだ続けたいと思っています。この旅が終わったら...ぜひ、その時にまたお話しさせてください。」


ウェスタは笑顔のまま、私の手をしっかりと握ってくれた。


私たちはネフライト号に乗り込み、ソニアが舵をとると、静かに帆を張って港を離れていった。

セイレーンたちが波間から手を振ってくれている。ベスタ、アレス、ディアナ、ヘルメスも、水の中を軽やかに泳ぎながら、しばらくの間、船に寄り添ってくれた。


「皆さん、また会いましょう。」


そう小さく呟いたとき、次に彼らと会うとき、もっと成長した自分でありたい。その想いが、確かな決意となって胸を打った。


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