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天使のたまご

500文字で1つ話を書きなさい。

というのをやったことがありまして。これはその作品をもとに、付け足したり変えたりしたものです。

やっつけ仕事なので中身は粗いですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

ちえは夫の政男の前に朝食を並べながら言った。

「今日の夢はいままでで一番怖かったわ。逃げても逃げても黒い影が追いかけてくるの。もう逃げ場がない、殺される!と思ったところで目が覚めたのよ」

 政男は朝食を口にしながら目線は手元の新聞へ向き、「そうか、それは怖いな」と相槌をうつ。その姿が話を聞いていないように見えても、ちえは話しかけ続けた。

 同級生だった二人が結婚したのは二十二歳の頃。それから十年がたち、慣れた生活の中に埋もれていってしまった愛情は、ここのところ顔を見せてくれない。それはちえにも当てはまることだった。

 新婚の頃は、政男の出勤の時は自分も外へ出て姿が見えなくなるまで手を振って送り出したのに、今では玄関で鞄を渡して「いってらっしゃい」と言うだけにとどまっていた。昔から変わらないことといえば、毎朝ちえが自分の見た夢を話すことだ。

 ちえは、祖母から幼いころに言われたことを行っていた。それは、悪い夢や怖い夢を見たら人に話すこと。そうすれば悪いことは起こらない。もしいい夢を見たら、一番好きな人に話すこと。そうすればいいことが起こる。今朝は怖い夢を話したので、きっと悪いことは起こらないだろう。ちえはそう願いながらも、憂鬱な気持ちになった。

 ちえにはずっと悩みがある。子どもができないのだ。周りのみんなは「いつかできるよ」と優しく気遣ってくれるが、子どもを産める歳にも限界がある。ちえは早く子どもが欲しかった。


 ある日、ちえは夢の中で白い空間にいた。そこにはちえの他にも年齢がバラバラな女性が何人もいた。白い天使が上から降りてきて、バレーボールくらいの卵のようなものを一人の女性に渡した。女性はしっかりとその卵のようなものを抱えるが、重たくて落としてしまった。卵のようなものは割れて、中に入っていた小さな塊が光を失ってどろりと溶けてしまう。それを天使がかき集め、再び手中に収めると上へ飛んで行ってしまった。

そこでちえは目が覚めた。これはいい夢?それとも悪い夢?

 

ちえは政男に夢の話をした。

その日の夜、政男は交通事故に遭った。

 慌てて病院に駆けつけるちえ。悪いことは起こらないはずなのに……。そう思いながら病室を覗くと、もう治療はおわっていて、頭に包帯を巻き、左腕と左足を吊り上げて点滴を打たれて眠る政男の姿があった。涙が出そうになるのをぐっとこらえて、ちえは政男のベッドの隣に静かに椅子を持ってきて、政男の右手を握った。そのまま、こくりこくりと時間が経ち、うっすらと眠りに落ちる。


また白い空間にちえはいた。天使はまた女性を一人選び、卵のようなものをを渡す。女性はか弱そうだったがなんとか持ち続け、卵のようなものが女性の腹の中へ吸い込まれると、ほほ笑んだ。

(あぁ、あの卵は子どもなんだわ)

 ちえはなんとなくそう感じた。

 目が覚めたちえは、眠り続ける夫に夢を語った。


 次の日も病院へ行き、目覚めない政男の右手を取って眠ると、また同じ夢を見た。

 ちえは天使に近づき、

「私にもちょうだい」

 と話しかけたが、声が小さくて聞こえなかったのか、振り向かないで離れてしまいそうになる。もう一度声をかけようとしたら後ろから肩を叩かれ、振り向くと黒い天使が黒い卵を持っていた。黒い天使は卵を片手でポンポン投げては取っていた。ちえは卵を軽々しく扱う黒い天使に怒り、

「いくら天使でも、命を簡単に扱うなんて許せないわ!」

 と言うと、黒い天使は泣き始め、頭のてっぺんからみるみる白い天使へ、黒い卵は白い卵へと変わっていった。まだ泣き続ける天使へ、

「私にもちょうだい」

 とちえが言うと、天使は泣き止み、白くなった卵をちえに授けた。ちえは卵の重さにびっくりしたが、決して落とさないように踏ん張った。けれど、見た目と反してその卵は車一台分……いや、家一軒分もあるかのような重さの卵を持ち続けるのはつらく、落としそうになった。その時、後ろから手が伸びてきて、ちえの手の上から重ねて卵を持ってくれた。振り返ると政男がいて、

「一緒に頑張ろう」

 と言ってくれた。ちえにとって、その言葉がどんなに嬉しかったことか。

 瞳に薄い水の膜ができるのを感じながら、二人で卵をしっかりと抱きしめた。すると卵はちえの腹の中へ吸い込まれていった。

 その様子を見ていた白くなった天使はほほ笑んで上へ飛んで行った。


目が覚めたちえは、自分の右手を握り返す手の力を感じた。ベッドの上の政男を見ると、彼は次第に目を開けてちえの顔を見つめた。ちえは、今までこらえていた涙をこらえることをやめた。

子どものように泣きじゃくって、一番好きな人に、今までで一番いい夢の話をするのだ。


昔、妖怪かなんかの類に、赤子を持たせる代わりに女性の精気をとる。なんていうものがいたな。というのを思い出して、この話を書きました。

近年、少子化が危ぶまれる中、子どもが欲しいのに妊娠できない夫婦もいるよね。ということで、「いいこと」が起こるといいね。と、全国の子ども欲しいけれどできないんです夫婦にエールを捧げます。


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― 新着の感想 ―
しいなここみ様の活動報告から来ました。 ちえの手の上から重ねて卵を持ってくれた。振り返ると政男がいて、 「一緒に頑張ろう」 ここがとても良かったです(о´∀`о) 明日まで「たまご祭り」をやって…
夢と現実が入り混じったような、不思議で素敵なお話でした(*^^*) 黒い天使はなんだったのだろう…… 文章に独自性があって面白く、卵の重さとかびっくりするとこもあって、よくそれ持ちこたえたな、と夫…
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