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短編

原作通りに寝返ってやりますわよ!

作者: 猫宮蒼

 なんかよくわからんうちにできあがってた一品なので突っ込みされても逆にこっちが聞きてぇよってなってる話がこちらとなっております。



 自分がとある作品の悪役令嬢に転生した、と気づいたのは原作が始まるそれなりに前の話。


 現時点、政略で結ばれた婚約者である王子は、こっちが歩み寄ろうとしたところで内心とても婚約者が気に食わない状態で。


 政略だから仕方ない、と頭で理解はしているようだけど、それでもやっぱり心が納得していない、というとても難儀な状況で。


 このまま原作が始まると、なんとヒロインの女の子と恋に落ち、そしてそれに嫉妬する悪役令嬢があの手この手でヒロインに嫌がらせをした結果、それを丁度いいネタだとばかりに王子は婚約破棄とともに悪役令嬢を断罪、そうして悪役令嬢は、転落人生を歩む事となりました。


 という、まぁとてもオーソドックス極まりない話が原作である。

 王子とヒロイン? もちろんハッピーエンドだとも。

 ただの村娘だと思われていたヒロインは、実はとある貴族の娘と判明し、なんだそれなら血筋も王家に入る分には問題ないねとなるのである。作中では。

 そしてそんなヒロインに嫌がらせをした事で、悪役令嬢はただの平民相手なら問題なかったけど手を出したのがあの家の娘だった、という後出しじゃんけんレベルの後出し情報で破滅するのである。


 ヒロインの命を守るために情報を隠していたのもあったから、一介の悪役令嬢にわかれって方が無理だったっぽいんだけども、それにしたって……と思うわけよ。


 ちなみに悪役令嬢はこの後闇堕ちして魔界から悪魔を召喚してヒロインを亡き者にしようとかしたりするんだけど、聖女の力が覚醒したヒロインに返り討ちにあう。

 ここまでくるとテンプレすぎていっそ笑えてくる勢い。


 これから先、このままだと原作通りに自分の人生破滅しますよ、と知ってどうしようかな、と考えたのは数秒だけだった。


 よし、悪魔に魂売ろう!


 数秒後に出た結論がコレだ。


 軽率にも程がないか? と思われそうだが、しかしこれには理由がある。


 なんとこの原作、悪役令嬢を倒してそこでハッピーエンドで終わるかと思いきや、これは第一部の話なのだ。

 第二部では魔王として覚醒した悪役と戦って世界を救う。

 そしてそこでハッピーエンド。


 コッテコテだなと突っ込むのは既に前世でやったので、今はもういいだろう。


 悪魔に魂を売ろう、っていうか実際には魔王の軍門に下ろう、が正しい。


 魔王の正体は既に知っている。

 何せ第一部でもちらっと出てきている人物がそうなので。


 だから私は。


 何食わぬ顔で魔王として生まれてきた相手に連絡を取ったのである。


 ちなみにこの時点で魔王としての自覚はあるけど、まだ力は完全覚醒していないはずで、でもまぁ原作知識を持ってすれば勝ちの目はあるはず……と思っていたのだけれど。




 ……魔王も、私と同じ転生者でした。


 既に覚醒していた。


 このままではお互い破滅と知って、お互い手に手を取って力を合わせて破滅ルートを回避しようとした結果。


 原作が始まる少し前にクーデターなんか起こしちゃって、つい、本当につい、原作崩壊させてしまったのはご愛敬というやつだ。


 国が滅んだので、王子との婚約なんてものは当然なかった事になった。

 というか、王子はその時点で処刑されるはずだったけど、持ち前の運とか実力でもって逃げおおせたらしい。そしてどうやらヒロインも原作が崩壊した挙句身の危険を感じ取ったからか、大分早めに聖女として覚醒したらしい。


 とはいえ、あの二人が私たちを倒そうとしたとして、今日明日にやってくるのは無理だろう。

 何せ国は滅んだし、そうなると王子としての肩書は残っても亡国の、となる。

 つまりは、王子という身分はあってもその身分が何かをしてくれるわけではない。

 魔王を倒そうと考える支援者からの援助くらいはあるかもしれないけれど、自分の財産とかそういったものは一切ない。


 ちなみに、あまりにも多く殺し過ぎると流石に魔王は確実に殺せとなるかもしれなかったから、基本的には犠牲はあまり出さないようにした。

 素直に下るなら良し、そうじゃないなら戦争。そんな感じで。


 生か死か、となれば大抵の人間は生を選ぶ。

 死んだらそこで人生終了だけど、生きているなら反撃のチャンスもあるかもしれないし、どん底から這い上がるチャンスだってあるかもしれないからだ。


 その場で死んだほうが楽になれる、っていう可能性も確かにあるんだけど、大抵の人は死を選ぶ事は案外少ない。楽に死ねるっていうのならともかく、相手に自分の命を委ねた結果とんでもなく苦しんで死ぬ可能性もあるからだ。


 だからこそ、魔王が世界征服に乗り出した割に、犠牲者は思ったよりも少ないのが現状だった。


 そうして数年後には、世界のほとんどが魔王の支配下におかれてしまったのだ。


 原作が完全に跡形も残っていない。



 それでも、そんな中でかつて婚約者だった王子と、そんな王子と結ばれるはずだったヒロインは仲間たちと共に魔王のところへたどり着いたのである。



 ちなみに原作通りにストーリーが進んでいたなら、今頃はとっくに二人結婚して子供が生まれていてもおかしくない年齢である、とだけは述べておこう。

 下手に抵抗しないで生きてる事に感謝してどっか適当なところで結婚しておけば幸せになれたかもしれないのに、と思ったけれど、そうしなかったのはどうやらヒロインも転生者だったからな模様。


 あー、確かに原作通りに行けば幸せハッピーエンドが待ってたのに、完全な原作クラッシュされたもんね。でも聖女としての力に覚醒してるし、王子も何かこう、光の力とかに目覚めたらしく勇者っぽい感じになっちゃったから後に引けなくなったってとこかしら?


 そっか、そりゃいくら魔王が平和的に世界を手中に収めたとしても、聖女と勇者はそこで安心して生活できないものね。魔王の気分次第で世界が敵に回りかねない。


 現在世界のほとんどが魔王の手に落ちたとはいえ、それでも反魔王派というのは存在する。

 要するに今まで甘い汁啜って生きてきたのに魔王のせいで暮らしが厳しくなってしまった相手だ。

 でも自分の力で魔王に対抗できるなんてとんでもなくて、聖女と勇者が魔王討伐して世界をあるべき姿に戻そうとしている、とかいう噂を聞きつけて支援してるような連中ばかりなので、正直脅威度は低い。


 それでも自分たちに賛同して手を貸してくれる人がいる、というのはやはり精神的な力になるのか、王子は聖女の励ましと共にこうしてやって来たわけだ。


 でも、仮に魔王を倒せたとしても。

 原作の第二部だってとっくに終わってる程度には月日が流れちゃってるのよね。

 まぁ、ここで私たちが倒されたとして、第一部も第二部もまとめて終わらせたと考えればハッピーエンドが待ってるかもしれないけど。魔王から世界を救った英雄として。


 ただ、それは魔王が圧政を敷いている場合に限ると思うのよね。


 魔王になっちゃった私と同じ転生者の彼は、正直に言うと政治関連は得意分野だったので。

 ぶっちゃけ魔王が支配する以前より支配した後の方が豊かになった国とか結構増えたのよね。

 それだけこの世界の政治がちょっとダメダメだった……ってコトなんだろうけど。


 だから、下手に以前の政治に戻しちゃうと今度はいくつかの国が反乱を起こす可能性も出るんだけど……そこら辺どう考えてるのかしら? 考えてないかも。




「まさかあなたも転生者だったとはね! 悪役令嬢なら悪役令嬢らしく素直に原作通りに振舞っておけばいいものを!」

「だから、振舞ったでしょう? ただ、原作通りに敵側についたけど、原作通りの破滅をしてやる義理はないので」


 魔王城に乗り込んできた勇者様ご一行の中で、ヒロインが真っ先に口火を切った。

 ずびしっ! という効果音が出そうな勢いでこちらに向かって指をつきつける。


「そのせいで世界が魔王の手に落ちちゃってるじゃない!」

「それの何が問題かしら? 正直、以前より治安は良くなってるし民の生活水準だって上がってるし、衛生面にも力を入れたから流行り病だって大分減ったし、以前に比べれば随分マシになってるのよ?

 それについて異を唱えてるのって、今まで民から税を毟れるだけ毟り取ってロクに仕事はしない駄目な貴族や王族くらいじゃない。今や世界の大半の民たちは魔王陛下の統治下に何の不満も持ってないわよ」


「う、ぐ、それは……ッ! でも魔王だしッ!!」


 反論しようにも、反論できそうな部分が魔王くらいしかない。

 魔王といえば世界を破滅と恐怖と混沌に叩き落すような存在なのだけれど、しかし今の魔王は世界を統治しつつもやってる事は割と善政。むしろ前より生活が楽になったと喜ぶ民多数。

 衛生面や医療面にも力を入れた事で、死亡率だって大分下がったし。

 食料に関するあれこれにも力を入れたので正直今までひもじい思いをしていた民のほとんどが、今では飢えて死ぬこともほぼなくなっている。



「マリアさん、言ったじゃないですか。下手に魔王に敵対するよりは友好的な関係結んだ方がいいんじゃないかって。実際各地で見てきたでしょう? 魔王が世界を統治するようになってからの方が余程平和なんですよ」

「ロジャーは黙ってて!」


 きぃっ! と叫びそうな勢いでマリア――ヒロインである――が喚いた。


「というか、向こうも転生者なんでしょう? じゃあ話し合いで解決できると思うんですよね」

「そうですよ、折角世界が平和になってるんだから、ここで下手に戦って争いの芽を作るより穏便にいったほうが」

「皆転生者だからってなんでそんな及び腰なの!? 転生して! 特別な力を持ったんだからそこは悪を倒して英雄に! とか思ったりしないの!?」

「魔王が悪い奴なら考えたけどさぁ、でもぶっちゃけ魔王いいやつじゃん? 少なくともウチの村は悪徳領主に搾取されてたから昔はそりゃ大変だったけど、魔王が支配下に置いてからは税も普通に戻ったし、不作の時の支援もちゃんとされたし、これ下手に魔王倒して前の生活に戻ったら、ウチなんか親父にぶっ殺されるかもしれないんだけどぉ?」

「そうだよな、反魔王派だから堂々と外歩けないし不便」

「下手に勇者って周囲で持ち上げられると困るんだよな」

「勇者って知られて困るって時点でもうね」


「な、なによなによ!

 アレックスも何か言ってやってよ! こいつらのせいで、国が滅んだのよ!?」

「確かにそうなんだが……」



 やいのやいのと言いあっていた勇者ご一行だったけれど、王子――アレックスはマリアに言われて玉座に座る魔王と、その隣にいる私に目を向けた。


「君が、ジゼルが魔王側に与したのは、私を見限ったから、だろうか?」

「えぇ、そうです」


「確かに、今思い返せば政略で結ばれた相手だからと私は君を蔑ろにしすぎていた。あのままいっても、お互いが上手くいくビジョンはなかった。

 国が滅んだ衝撃で私も前世の記憶を思い出したけれど、そこでようやく自分がいかに王族として相応しくない事をしていたかと気付いたくらいだ。手遅れだったけどね」


「あら、貴方も転生者でしたの。というと先程の会話からして皆さま全員」

「そうだ。こちらも全員転生者だな。前世の記憶を思い出すまでの時間はまちまちだったけど」


 あらま、と思わず小声が漏れてしまった。


 こういう時、悪役令嬢とヒロイン、それから王子あたりが転生者、というケースは前世の創作物で見かけたけれど、勇者の仲間になるキャラまではなかったように思う。


 それが敵味方サイド全員そう、というのは中々にないのではないかしら。


 魔王が魔王らしいムーブしてなかったから、思った以上に敵が生まれなかったって事ね。

 前世の記憶持ち、と一言で括ればこの場にいる皆そうなんだけど、前世が同じ時代生まれかってなるとちょっとわかんないし、下手にこちらが詳しくない分野のエキスパートが敵に回った場合、そこから面倒な事になりかねないし。


 とりあえず原作について文句を言っていたマリアは恐らく私と同じ年代か、そこからそう離れていない時代に生まれてたと考えていいわね。


 他は……どうなのかしら?


 同じ年代だったとしても、そもそもジャンル的に好みが分かれる感じだから、原作? 何それ知らね、って人もいそうなのよね。


 でも、まぁ。



 相手が同じ転生者なら、取り込みやすい。



 そんな風に考えて、私は一連の流れを眺めていた魔王様と視線を交わしたのである。


「それで、どうするんですか?

 ここまでくるのに特に苦労はなかったと思うんですけど。謁見したいな、って手続きすれば会えますからね。本来ならゲームみたいに敵を倒してレベル上げて、って感じで経験積んで臨むはずが、反魔王派って堂々と知られないようこっそりスニーキングミッション。

 魔法に関しては瞑想とか攻撃以外の使い方で熟練度上げるとかできそうですけど、それ以外だと野山で暴れまわる魔獣退治とかくらいしか、戦う機会なかったでしょう?

 そんな状態でここで戦うとなれば……」


「戦う意思があるのなら先に言っておく。戦闘開始時点でドローンに搭載した武器での攻撃があるから気を付けるんだぞ」


 そこで今の今まで一言も喋らなかった魔王様のセリフである。


「は? ドローン!? そんなものまで既に再現してるというのか!?」

 なんて言いつつどこだとばかりにきょろきょろ見回しているけれど。


「あ、光学迷彩使ってるので、肉眼では捕捉できないかと」

「どんだけハイテクなのよ!?」


 私の言葉にマリアが叫ぶ。


「レーザーとかだってロマンあるじゃないですか」

「剣と魔法のファンタジーに近代武器みたいなの持ち込まないでよぉ!!」


 せやな。

 なんて言えばきっとマリアはよりヒステリックに喚くのだろう。

 いやでも、魔王側にも一応数名転生者がいるのよ。私以外にも。

 主に魔王の配下なんだけど。

 その配下の中にはこの原作の悪役令嬢推しの武器マニアとかいうのがいて、私が色んなコスプレをする事で何か知らんがやる気になってくれて色んな兵器を開発したりしていまして……

 原作崩壊させた悪役令嬢とか推していいのか? と思ったけれど、どうやら見た目が好みらしい。そっか、見た目だけが好みなら中身は別に自分に害をなさなきゃどうでもいいって事ね……って感じで私もコスプレには乗り気で協力しちゃったから……


 見た目はファンタジーのくせして魔王城、実は結構色んなところに切り札レベルのあれこれが仕込まれてしまっている。


 なのでここで勇者たちが戦う、という選択肢を選んだとして。


 開幕早々即死レベルの攻撃が飛んでくるのだ。

 ドローン以外にも色々と。

 初見で回避とかまず無理だと思う。初見じゃなくてもちょっと回避難しいんじゃないかしら。

 回避するのに求められるレベルが、初見でS○SU○Eを攻略できるとかだから。


 前世の記憶を思い出したからって、この世界魔王が世界征服に出る以前もそこまで危険じゃなかったから……確かに魔物とか魔獣とか襲ってくる事はあったけど、あれだって人里に率先して出てくるものじゃないし……



「流石に無駄な犠牲を払うつもりはない。戦う気はないよ」

「ちょっとアレックス!?」

「マリア、君もいい加減現実を見るべきだ。勝ち目はない」


 おや? もしかして、前世の記憶を思い出した事でアレックスは本来ヒロインであるマリアとあまり上手くいってないのかしら……?

 確かに魔王を倒そうとしてるのに躍起になってるのってマリアくらいだし、他はとりあえず来たけど、って感じであまり乗り気ではないようね。


「一部で勇者と持ち上げられているようなので、てっきり意気揚々と戦いに挑むかと思ったのですが」

「まさか。確かに国を滅ぼされた復讐をしようと思った事もあったけど。

 でも前世の記憶を思い出してから、各地を巡ってみれば国が滅ぶ前より平和なところが増えてるんだ。

 ここで、国を再建するなんて考えて茨の道を歩き続けるよりは、もっと地に足付けた生活をした方がいいんじゃないかと思うようになっただけだよ。

 それに、正直前世の事を思い出したらもう自分は王族なんてガラじゃないからね」

「そんな!? わたしの王妃としての生活は!?」

「国が滅んだ時点でないし、それ以前に君と私はそんな関係でもないだろう」


 あら、まぁ。


 やっぱりそうなのね。


 流石にこの場では聞けそうにないけれど、恐らくマリアは早い段階で前世の記憶を思い出していたんじゃないかしら。で、自分はヒロインに転生して勝ち組ね! とか思ってた可能性は高い。

 ところが早々に原作崩壊。悪役令嬢の仕業に違いないと怒りを募らせた可能性は充分にある。

 その時点で原作よりも早く聖女の力に目覚めて、王子を焚きつけたんじゃないかしら。そのあたりで王子も前世の記憶を思い出して、えっ、魔王退治!? 自分が勇者!? となったのだとしたら。


 事前準備があるならともかく、前世の記憶を思い出した時点でチュートリアルも何もなしに魔王退治に行けとか国は滅んだ、お前は亡国の王子だ、とか、情報量が多すぎるのよね。しかもかつて婚約者だった女が敵にいる可能性がある、とか言われましても。


 前世を思い出す前の事を思い返しても、そりゃ敵になってもおかしくないだろ、みたいな交流しかしてなかったら敵になるのもさもありなん。


 これで世界が荒廃していく一方ならまだしも、逆に良い方向に進んでるから魔王を倒せ! とか……前世の記憶持ちは果たして思うかしら?

 私なら平和になってるなら魔王だろうがなんだろうが別になんでもいいや、って思うわ。

 何せ前世でも国のトップが変わる事とかよくある話だったし、それが魔王になったからって何? ってなりそう。生活できるなら別に、って思うわ。馬鹿みたいに生活悪くなったらそりゃ文句は言うだろうけど。


「それにね、マリア。よく考えてくれ。

 反魔王派だと大っぴらに知られないよう、私たちは今まで私たちを支援してくれていた人たちの助けを受けていたけれど。

 でもあれ、今まで悪政をしてた連中なんだよ。そういったところのお店で接待を受けたこともあるけど、でも。

 こっそり変装して行った、魔王系列の店で食べた料理の方が圧倒的に美味しかっただろ!?」

「サ○ゼリ○のパクリじゃない!」

「失礼な、再現と言って下さい再現と。結構苦労したんですよ、メニューの味を再現するのはもとより、あのお手頃価格での提供だって」


「そうだよな、反魔王派がやってる店って、今までのままだからぶっちゃけ俺らからすると時代遅れっていうか……前世のあれこれを思い出してからというもの、物足りなさしかないというか。

 バー○ヤンっぽい店とかも再現されてたし、正直あの店入った時点で俺魔王サイドにつきたいって思ったもんな」

「ウチはす○家。再現率が凄すぎた。懐かしすぎて泣くかと思った」


 俺も、僕も、私も、とばかりに勇者の仲間たちが口々に私たちが苦労して再現した店の名をあげていく。


 そう、前世にあったチェーン店を私はまず各地に出すために頑張った。

 前世の記憶を思い出してからというもの、貴族令嬢として食べていた料理は確かに美味しかったけど、でもちょっと物足りなかったので。私以外にも魔王の配下になってる転生者たち協力のもと、少しずつではあるけれど、いくつかの店の再現ができている。

 正直もっと色々と店を出したいけれど、思い返せば前世のチェーン店はたくさんあったので中々思うようにいかないのが難点だけど。何せ私が行った事のない店もあるからね。


「う、う、でも……でも……!」


「勇者として持ち上げられてもいい事なんてありませんよ。反魔王派とわかれば我らが系列のお店は基本出禁ですからね。そしてこのまま反魔王派のままならば、速やかに貴方たちの事は各店に通達。我が系列の店は利用できなくなります」

「それは……困るな……!」

「でも! ここで魔王倒せばわたしたちが全部手に入れられるじゃない!」

「勝ち目があって言ってるならいいですけど、勝って得られる物、ホントにあります?

 というか言ってる事蛮族で草。聖女っていうか強盗なんですけど」

「うっさいわね! あんたが原作崩壊させたのが原因でしょうが!!」

「えっ、でも私以外にも魔王様もそのつもりでしたし」

「当て馬扱いマジ勘弁」


 ちなみに魔王様は原作を前世の妹さんに無理矢理布教されたクチだ。

 興味があったわけでもない作品を強引に読まされて、しかもその世界の魔王に転生したとなればうんざりもするだろう。


「貴方たちが勝って、こちら側のものを根こそぎ奪ったとしてその後それらを維持できる見込みはあるんですか? 負けたからってこっちがそっちの言い分を聞くとは限らないんですよ? そもそも戦いの後で生きてるかも疑わしいですし、ね?」


 負けてヒロインに都合のいい奴隷みたいに使われるくらいならいっそ自爆してやろうかと思ってるし、悪役令嬢ならそれくらいやってもいいでしょ、とか思ってるのが透けて見えたのだろうか。

 ヒロインはぐぎぎ……! と歯を食いしばって呻いていた。ヒロインがしていい顔じゃないのよね……鏡とか見せた方がいいのかしら?


「いっそ魔王の考えに勇者が賛同した、って事で同盟結んでしまえば平和的に終わると思いますよ?

 今まで支援してた奴らとか反魔王派の連中は悪政やらかしてたのばっかなんで、そいつらしょっぴけばいいわけですし。あいつらに騙されてた、とかそういう感じに話流すのも可能ですし。

 反魔王派じゃないって事になれば堂々と我が系列の店を利用もできますし」


「正直その案でいきたい」


 アレックスが即答し、仲間たちがその案に乗っかろうとしているものの、しかしやはりヒロインとして王子と結ばれて王妃になる、とかいう原作展開が未だに捨てきれないのか、ヒロインだけが考えなおせとか言っている。

 うーん、正直マリアだけが何言ってももう皆こっち側に大分傾いてるのよね……


「あ、ちなみに近々再現して出店できそうな店なんですが。

 C○C○壱番屋とミ○ドがまずオープンしますね、城下に」


「その次にできそうなのが確か……び○くり○ンキーだったか」

「天下○品じゃありませんでしたっけ?」

「そうか? マ○ドナルドはどうなってる?」

「そっちはもうちょっとかかるって話でしたが早くて半年、遅くても年内には」

「そうか。ス○バは?」

「どっちかというとド○ールの方がどうにかなりそうな状況ですね。あとサン○ルクカフェも大体同時期になりそうかと」


「ぜんっぶ食べ物屋じゃない!!」


 マリアが叫ぶが、魔王様はきょとんとした顔で言ってのけた。


「そうだが? というか食は大事だぞ」


 まぁそうなのよね。

 実際、色んなチェーン店を再現しはじめたあたりで、ここ魔王城がある城下町とか食の町って言われるようになってきてるし。いずれはもっと幅広い勢いで全国展開させたいところね。一応各地に店を出してはいるけれど、まだやっぱ地方は店が少なくて……


 個人的にはファッションとかもっと充実させたいんだけど……前世のファッションはまだこの世界には早すぎると思ってるから……特に貴族はみだりに露出するような服装とか下品とされてるから意識改革して徐々に徐々に世間に広めないと、一気にやろうとすると即ポシャる予感しかしないのよね……

 食関係で稼いでるから資金はあるけど、それで失敗したら次に新しい事をやる時に資金がない、なんてことになると困るし、確実に堅実にやっていきたい所存。


 他にもあれこれとこれから先に作って出す予定の店をつらつらと述べていけば。


「はい! 俺たちも手伝います! てか手伝わせて下さい!!」


 と、勇者一行の仲間の一人が手を上げて宣言し、他も我も我もと参加すると言い始め。

 アレックスもよし、反魔王派ぶち倒してあいつらが今まであくどいことして稼いだ金回収しようぜ! とか言い始め。

 ……いいのかしら。その裏で汚い事して稼いだ金で支援されてたのに。いえ、いいのか。勇者として担ぎ上げられて騙されてたって感じでいくならいいのかもしれないわね……


 なんて私がちょっと遠い目をしているところに、仲間の一人が質問です! と手を上げた。

「社割はききますか!?」

「…………雇用契約書に一応そこら辺書いてあったと思うから各自で目を通してくれ」


 言いつつ魔王様がついと魔法で契約書を取り出してぺそっ、と勇者一行の前に飛ばせばそれをキャッチして目を通し始める一行。


「やっべ、前世よりホワイト」

「えっ、てか、社食あり!? マジで!? うわ、ボーナス手厚い」

「あっ、俺知ってる、これ、ホワイトすぎて人が余程の事がない限り辞めないから求人とか必要ないタイプで、いざ求人出そうとしても大体職場の人の知り合いが紹介されて絶対ハロワとかで求人出てこないタイプのやつだ……!」

「まぁ出てたら募集殺到するだろ自分なら即応募する」

「俺も」

「ウチもこの条件なら何が何でも面接にこぎつけるわ」


 ひそひそ、ぼそぼそとお互いがそれぞれ言い合っている内容を聞いていれば、何か……そこはかとなく感じ取れるブラック臭。


「は、はぁ!? エステあんじゃん! えっ、これ社員割引きくの!? 嘘じゃないわよね!?」


 そして魔王に与するものかとばかりだったマリアは、それでもやっぱり気になってたらしく、横目でちらちら見てたらしい。そして、とある部分に気付いてしまった。


「本当ですよ。一応食品関係に今力入れてるけど、少しだけど化粧品関係も手を付けていますしそっちも社割ききます」


 まぁ、化粧品に関しては前世と同じようなのは再現できないから、こっちの世界の材料であれこれ研究していい感じのやつだけ、ってのが現状なんだけど。ぶっちゃけカラーバリエーションとかもっと増やしたいのあるけど、材料の確保が難しいのよね、食品と違って。


「…………そうよね、前世で創作だった作品と同じような世界だからって、絶対同じってわけじゃないものね。現実見て生きていかなきゃね……ほへへ……」


「ヒロインにあるまじき笑い方ね」

「うっさいわね! いいじゃない!」


 凄い、さっきまで魔王倒して勇者の妻として国再建して将来的には王妃になるっていう未来を目論んでたヒロインが、揉み手して魔王様にへりくだり始めた。私への態度は相変わらずだけど。


「すみません、今までの事は悔い改めますので、是非ともそちらの傘下に加えていただけると……」


 手のひら返すの速すぎて仲間からもちょっとドン引きされてないかしら? 大丈夫?

 なんて言えばまた逆切れされそうなので、私はあえてその様子を見守った。



 結局のところ。


 勇者一行は全員見事にこちらについた。

 普通だったら魔王に敗北した時点で人類終了のお知らせだけど、そもそもうちの魔王様が人類滅亡を掲げたりはしていないので人類は今日も今日とて労働力としてたくさん働いてお金を稼いでその稼ぎで外食したりして……と、まぁ、やってる事は普通の労働者のそれなのよね。


 こっちの世界お酒関係もあんまり種類がないから、それもじわじわ増やしていってるので年配の方からも少しずつだけど高評価をもらえてるし、このままいけば世界を完全掌握できそう。



 ちなみに余談ではあるけれど。


 この後第二第三の勇者を名乗る相手がやってきたりもしたのだけれど。


 そっちも転生者だった挙句、その頃丁度お店をオープンできそう、ってなったチェーン店にあっさりとこっち側についたのを見て。

「天丼かよ」

 第一の勇者だったアレックスがチベットスナギツネみたいな目で言っていたのだけれど。

 天丼ネタを作るきっかけになった最初の勇者がそれ言ったら駄目だと思うの。


 ちなみにヒロインだったマリアは結局アレックスとくっつきようがないと判断した後は、魔王様――ではなく。

 その配下の一人に狙いを定めて見事ゴールインした。原作以上にたくましいヒロインだったわ。


 同じ陣営に所属するようになってからは、私への態度も多少はあたりが柔らかくなったかもしれない。まぁ仲良しかって言われると微妙だけど。

 ただ、やっぱり大体同じ年代を生きてたらしいので、話はそこそこ合うのよね……


 悪役令嬢として死ぬこともなければ、ヒロインを逆に断罪し返したりすることもなく。

 まぁそのかわり世界が魔王に支配されてるんだけど……むしろ前より経済も回ってるし、雇用も生み出したし、平和だから良しとしましょう。


「ね、ちょっとジゼル、相談に乗ってちょうだいな」

「あらマリア、私に一体どんな相談?」


「今度生まれてくるの男の子ってわかったんだけど、その名前の候補絞りたいのよ」

「そういうの普通旦那さんと相談して決めない?」

「勿論話し合ったわ。

 でもね、候補で出てくる名前全部どっかで聞いた覚えがあるのよ。しかもなんていうか、主にコミュ障かな? ってくらい口数少ないタイプのキャラの名前とかぶりまくっている」

「名前が悪いわけじゃないんだろうけど、出した候補全部それ?」

「そう」

「……一つくらい陽気なブラザー系なのなかったの?」

「なかったの」

「……そう」

「だからもうちょっとマシな感じの名前の候補の相談したいのよ。他の連中もロクな案出さなくて。うちの子は! 人間です! 競馬に出るタイプの子じゃありません!!」

「はいはい、わかったから。あんまイライラするのも胎教によくないわよ」

「ちなみにアレックスにも相談したけど真っ先になんていったと思う? ゴルシよ」

「まぁそれはそれは……」


 悪友みたいなポジションにおさまったマリアだけど。


 そんな彼女から転生した仲間のほとんどのネーミングセンスが壊滅的だったと知ったのは、まぁ……うん、どうしようもないというか、知らなくて良かった事実というか……私と魔王様も何気にあんまネーミングセンスがないと知る事になったのも、マリアのネーミングセンスも色んな意味で酷いと知る事になるのも……あと数分後の事である。


 もしかしてこの世界線、ネーミングセンス酷い奴皆転生者説あったりする?

 なんて思ったのだけれど。


 流石に確かめるだけの勇気も気力もなかったので。

 この後誰が一番ひどいネーミングセンスなのか選手権を開催することでその疑問を封印することにした。


 まぁそんなくだらない事ができるっていうのも、世界が平和な証よね。

 チェーン店でのお勧めメニューや好きなおにぎりの具材とかあれば是非コメントで教えてください。今後の参考にします(作品の参考というわけではない)。


 次回短編予告

 つがいがどうとかいう感じの話。ジャンルは異世界恋愛。文字数多め。

 ざまぁはないよ。ハッピーエンドだよ多分。

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