第九話「カジッキー」
「はぁ、はぁ」
「はははっ!そこの貴公殿よ、この!我!「ラーイト男爵」に手も足も出まいか!」
くそが、こいつは強すぎる。こんなにも調子づいてるくせに実力は本物。
奴のくちばし「カジッキー」には手も足も出ない。
「吾輩のカジッキーと貴公の銃では分が悪い
あぁ、悲しきかな、ただ、名もなく死んでゆきなさい」
黒い降り籠の中、地が崩れ二つの残像。
「人というのは、それぞれが支えあって生きている!
何も知らないあんたは、いつか腐り落ちるよ!」
「行け、爺!」集う霊たち。それは、徐々に実体となり、一人の爺となる。
ラーイト男爵はピクリと体を停止させ、爺の方向へと向かう。
「あんたぁ、やっておしまい!」「あぁ、その老体から繰り出すパンチを見せてみよ!」
能力なし、拳あり。
爺の老体に見合わぬジャブ。光をも超えたんじゃないかというほどの
前に繰り出すパンチ。 「中々良いパンチじゃないか」
だが、ラーイト男爵のファイティングポーズの前では無意味。
股関節を曲げ腰を下ろす。 両足、つま先四十五度。
ジャブを避けられ、その拳から繰り出されるアッパーは敵ながら惚れ惚れとする。
「むぅ、骨のないやつ」 「あぁ、じいさま…」
がくりと膝から崩れ落ち、白く透き通った霊の塊を必死に集めるキク。
「お前ら、終わりだぞ」
あぁ、俺ってやつは、どうにも情けない。
足が震えて、動けないんだ。
「な、なぬ?!」
徐々に光が零れ落ちる。
その光はまるで、俺たちに残された唯一の絶望を打破できる蜘蛛の糸の様。
「お前こそ、終わりだぜ」 「な、何を言うておるのだ」
牢獄から解き放たれ、目の前に現れた眩しい日差し。
そこには、ボロボロな姿のモネ。
いつもとは違う様子、まるで、全ての悩みから解放されたような顔の蓮。
そして、今にも崩れ落ちそうな剣を構える
片腕を欠損していたエリカがいたんだ。
「私、石ころだけど、石ころなりに頑張ったよ」
……………
私が勇者?違うよ、私はただの脇役。
今だって、アドレナリンが出て感覚が麻痺しているだけ。
ちょっと経ったらきっと言うよ。痛い、痛いって。
必死に「パリィ」を使って、触手を退けて
勇者だってのに、主に傷一つすら与えることが出来なかった。
……疲れたよ 「もう、休んでもいいのかなぁ」
「だめだよ、勇者様」 「え、ハクレン…?」
目の奥底が輝いて、その姿は神とも言える。
逆立つ髪は、神の逆鱗に触れたかのよう 「大丈夫だよ、エリカ」
ちいさな手を体に当てられると、体はみるみるうちに治っていく。
腕の欠損も、まるで何事もなかったかのように繋がっているではないか。
「私の目を見てよ」顔を掴まれ、じっと見つめられる。
その目は神にも等しい力を持っていて
私は、気付いたら学校にいた。
いじめっ子と仲良く雑談をしている私がいたんだ。
何これ、こんなのありえないよ。 いじめっ子と仲良くするなんてまっぴら。
…いや、あの子は「元」私の友人だったんだっけ。
元々、いじめられていたのはあの子の方で
当時、正義感の強かった私は、果敢に立ち向かった。
その日から、いじめの対象は私になった。
負けるもんか、こんな悪い奴に!
正義は必ず勝つ!アニメでも、必ずそうだ!
……でも、ここは現実。心が崩れ落ちたのはあの日の出来事。
給食時間、スープの中に虫を入れられた。
くすくすと微弱な笑い声が心を劈く。でも、私は立ち向かう。
苛立つ感情を抑え、上を見上げると、そこには友人だった人がいた。
私が頑張った意味ってあったのかなって。
あの日からだ、私が学校に行けなくなったのは。
噂で聞いたところによると、私がいじめを受けた日から
いじめっ子はあの子と親しい交流関係を強要していたらしい。
当時のあの子はもちろん困ったらしいが、今ではすっかりこのざま。
なんだ、悪だって勝つじゃん。
気付けば、自室にいた。
「なんで、なんであの子は引きこもりなんか」
下の階では、唯一の親から漏れる悲痛な声。
散乱したゴミの数々、埃の積もった布団。
あれ、私ってこんなに駄目人間だったの?
「あの子は、ただ友達を救いたかっただけなのに…!」
………そっか、頑張らないと、ごめんねの一つも言えないのか。
「いっぱい頑張ってさ、皆で疲れたって言って、笑い合おうよ」
そうだね、うん、そうだ。
「頑張ろっか!!!」
現実世界では、数秒も経っていたかっただろう。
だが、その少しの時間が、私には十分すぎるほどの時間で、頑張ろうって。
そう思ったんだ。 「ラッキング」
朽ち果てた剣は輝きを取り戻し、真の姿を現す。
「だから言っただろ?お前こそ終わりだって」
「ぬ、ぬぅ、ラーイト!力を貸せ!」
「はっ!」
「まさか、勇者のお前がここまで他人任せだとは思わなんだ!」
「一人では何も出来ないくせに!我の攻撃一つ避けれないくせに!」
「カラミット砲!」
黒く、螺旋状の炎が目の前を覆う。
でも、もう大丈夫。
「パリィ」
これは、嫌なものから全部守ってくれる剣。
あなたたち、終わりだよ。