第八話「レーフト女王」
ここはどこ、暗くて見えないよ「う、うん?」
「おーい!」「あれ、蓮ちゃん?」モネの声が聞こえる
暗い視界は、瞬く間に消える。黒い球体の内部のよう。
だが、そこにいたのは私とモネの二人のみ。
私が皆を守らないといけないのに、私のせいだ
お母さまに言われたの言葉を忘れたの?私は、人の百倍努力をしないといけないんだ。
「初めまして、勇者一行」
亜空間から闇がこぼれだす。
目の前に現れたのは、上品な立ち振る舞いの女。見事なカーテシー。
だが、ドレスの裾をつまむのではなく、巻き付けているイカの足を代わりに上げている。
「私はクラクラーケン様の左腕「レーフト女王」ですわ」
「でたな、みんなを困らせる悪者め」 不要な考えを遮り、全神経を集中。
こんな悪い奴に負けるもんか。
「およよよ…酷い、酷いですわ、私たちは、ただ」 「あ、えっと」
崩れ落ち目から涙を流すレーフト。罪悪感が心を蝕む。
確かに、生きていくためには食べないといけない。もしかしたら、事情があるのかも。
「じゃあ、話し合おうよ、言葉で伝わるものもあるんだよ」
「ただ、ただ」ぷるぷると手を震わし涙を隠す。
「生き物の死に顔を見たいだけなのに!!」
イカの触手をびゅんと地に突き刺す。
だが、そこには何もない。
「あれぇ?!なんで、なんでいないのよー!!」
顔を真っ赤にして蒸気を発する。
イカなのに、タコみたいに顔を真っ赤に膨らませるもんだから思わず笑ってしまう。
「私の能力は「幻影を見せる」ですからね
Aランクだからって舐めてもらったら困ります」
「ぎぃぃぃ!なんで私だけー!」 触手が暴れ狂い、地がずんと沈む。
一瞬の出来事だった。よく考えると、モネがいなかったら私は死んでいたかもしれない。
あの巨大な触手に押しつぶされるのを想像すると、思わず背筋が凍る。
本当に助かった。でも、それとこれとは別、Sランクの私がモネを守らないと。
暴れる触手を潜り抜けてモネの元へと駆け寄る 「大丈夫?!」
「あ、あまり大人を舐めないでください!」 そうは言うが、ぜぇぜぇと汗を垂らし
迫ってくる触手を避けることしかできていないじゃない。
「で、でも!」
「い、いいですか?人というのはそれぞれに役割があるんです
どんなに、泥臭い役割でも、きっと、それは人の為になるんですよ」
「だ、だから行ってください!みんなを、助けるんでしょう!?」
直後吸盤から鋭く、更に小さい触手が飛び出す。
それは、瞬く間にモネの体へと粘着、そのままモネは飲み込まれてしまった。
「も、もう!どうなっても知らないから!」
もう、モネなんて知らない。私一人でここを打破するしかない。
触手を足場に颯爽と駆け巡る「ちょこまかと、小賢しいのよ!」
「ぎゃあああああ」腹を裂き、悲鳴と同時に口から放出された墨を避ける。
「よ、よくもぉ、よくも美しい私の体に傷を!」
致命傷を負わせたはず。だが、その容態は健康そのもの。
弱点があるのだろうか。いまだ油断できない。
「あぁもう!頭に来た!お前は刺し違えても殺してやる!」
避けたと思っていた墨は、またもや籠となり、それに私は飲み込まれた。
…………
姿が消えて、涙がぽろぽろと。モネも、世界も、皆消えちゃったんだ。
「みんなぁ、どこぉ?」 悲しみがあふれ出しそう。
違うの、私は、こんな世界にいちゃいけないの。
「いつまで、他人に甘えるの、あなたは、特別なんだから皆を幸せにするの」
「お、お母さま?」
「頑張りなさい、あなたは、みんなを守りたいんでしょう?」
「もう、嫌だよ、頑張りたくない」 「あ、あなた!何を言っているの!」
「死んだユリに顔向け出来るの?!あなたは特別なの
頑張って頑張って頑張って、最後は、たくさんの人間があなたの死を嘆くの」
「それが、幸せなの」
分かったよ、お母さま、もっともっともっともっと頑張るね。
人を助けて、いっぱい幸せを配って、あぁ、これが私の幸せなんだって。
でもね、お母さま。
「ここは真っ暗だよ?」
…………
「あなたの、したいことをしなさい」え、モネ?なんでここに…
「特別だなんてまっぴら、それが「人間」なの」
「私は、ただの女の子になっていいの?」 「それが当たり前なのよ」
あぁ、ありがとう。
「なんで、なんで私の術が破られてるのよ!」 「これが、役割というものですよ」
辺りは元へと戻る。ただ、一つ違う。
もう、私は頑張らないんだから!
だから、これが、最後の力。
全てを飲み込み、力をわが物とする。
「ラッキング」
「い、いや、なんで、私はただ殺しが好きなだけなのに
奪わないで!クラクラーケン様の力なのぉ」
私は、本当の私へと生まれ変わる。