第七話「魚介類ぶっ殺しゾーン」
「その主は害を与える存在なんですか?」首をかしげるモネ
「そうですね、主は辺り一帯の魚を食い尽くすのです
この世界は魚介類を主食としているので、このままでは私たち餓死してしまいます」
「もし、倒してくだされば、出来る限りの待遇を尽くします
次の世界の入り口も教えましょう」
皆、うんと悩み頭を傾げる「作戦会議!」
メガホンの音。円陣を組み、一同話し合う。
「主つってもよ、どうせ数メートルの魚だろ?」
「ですが、ここは現実世界ではありません
危険に晒す可能性を踏まえると、出口を手探りに探す方が良いと思いますが」
「でも、主を倒すことが帰る条件だったらどうすんだ」
「そ、それは…」
………
意見が分かれる。モネと私が「反対派」ナズナとハクレンが「賛成派」
「埒があかねぇなぁ…」「ですね…」
ぜぇぜぇと息巻く二人。三十分程経っただろうか。今だ進展あらず。
「もう、キクさんに決めてもらったらどうですかね」
久々に複数人がいる場で声を出せた。
以前の私なら、縮こまり会話が終わるのを待つことしか出来なかっただろう。
一歩前進だ 「そうですね、キクさんはどう思いますか?」
優しく語り掛けるモネに、ふんと鼻を鳴らし自信気に答える。
「スルメが食べたい!」
………
そんなわけで、結局は主を倒すことになった。
「ありがとうございます!」涙を浮かべ、深々とお辞儀をされると
先程までは反対していたことに罪悪感を感じてしまう。
「それでですね、勇者様一行の能力を開示したいと思うのですが
よろしいですか?」 「も、もちろんです!」
思わず声を荒げる。本来空想上のものを自分が扱えるなんて思ってもみなかった。
思春期の少年少女が必ずや夢見る「特殊能力」それらが扱えるのだ。興奮しないわけがない。
「では、えっと、小さい淑女様、こちらへ」「は、はい!」
ハクレンも緊張している様子。女将がハクレンの掌に謎の石を乗せると
何やら、頭上に文字が映し出される。
「なんとSランク!?能力は「最強の身体能力」
ウェポンはクナイです!」 「え、えー?!?!?!」
「私ってそんなにすごかったんだー!」
驚きを隠せない様子。皆も開いた口が塞がらない。
女将はこほんと咳をして、何とか落ち着きを取り戻す。
「そ、それでは美しいそこの女性の方」 「は、はい」
モネも緊張しているようだ。カクカクと歩く姿には思わず笑ってしまう。
「……!Aランクです!能力は「幻影を見せる」
ウェポンは弓です!」 「や、やった」
ぴょんぴょんと跳ねるモネ。やはり緊張していたのか、安堵している。
「やはり勇者様の一行はすごい…!そ、それではそこのおばあさん!」
「はいよ~」 ご老人方は、やはりアニメは嗜まないのだろうか。
興味を持つでもなく、のそのそと掌を見せる。
「Bランクです!能力は「霊を操る」
ウェポンは数珠です!」 「ははっ!なんじゃぁわしが年よりだからか?
死にぞこないには良い能力じゃないか!」
キクは、何かを思い出したように豪快に笑う。
「ガラの悪いお兄さん!」「ったく…はいはい」
「Aランク!能力は「ホーミング」
ウェポンは二丁拳銃です!」 「ホーミングって…チートじゃねぇか」
ゲームのチートと言えばの代表格。
アニメとは逸れるが、それはそれで強そうじゃないか 「そ!それでは勇者様!掌を!」
え?勇者って私だったの?ハクレン辺りかと思っていたが。
もしかしてSランクの上とか?
にやにやが止まらない。「ふぇ…へへ…」へらへらと笑いながら掌を見せて石を乗せる。
「……え?」女将の困惑の声。
皆も固まっている。そうかそうか、そんなに凄いランクだったのか。
「…Eランク…能力は「パリィ」
ウェポンは朽ち果てた剣ですね…」 …え?
「な、何かの手違いのはずなのですが…」あわあわと慌てて何ども石を掌に乗せる。
だが、何度やっても頭上にはでかでかとEの文字。
「…この石は代々受け継がれてきた物、勇者様、あなたのランクはEです…」
…………
「ほ~た~るのひか~り~~まどの~ゆ~き~」
あの後、能力を発動させる呪文や、主の居場所などを教えてもらった。
異世界での主というだけあって、やはり我々が想像していたものとは段違い。
正体は、何十メートルもあるイカらしい。
「もう、エリカさん、元気出してくださいよ」
ハクレンに引っ張られながら、モネに慰められる。
やはり最強の身体能力というのは伊達じゃない。
まるで、小物でも持っているかのように軽々と運んでいる。
「別に、いいんです、やっぱり私なんて出来損ないだから」
「おいおい、そんな自分のこと卑下すんなよ」
あぁ、ここから消え去りたい。ふてくされているというのは自分でも分かっている。
だが、ここまでやらかしてしまっているのだから、もう後の祭り。
「あ、ここですかね」 モネの指さす先には巨大な湖。
どうやら、ここに主がいるらしい。 「ほっ」
モネは湖にエビを放り投げる。といっても、小柄な見慣れたエビ。
こんなので、主というものは現れるのだろうか。 「うまいうまい!」
水が勢いよく跳ね、中から巨大なイカが姿を現す。
「ぐぁはははは!我は海の主「クラクラーケン」様だ!
何用があってここへ来た!」 「あなたを倒すためにだよ!」
「リペイント!」叫ぶと亜空間から武器が飛び出す。
ある者は円陣に宙を舞うクナイを、ある者は二丁の拳銃を。
ある者は透き通った弓を、ある者は多数の霊を操る数珠を。
私は、今にも崩れ落ちそうな剣を構える。
「はははは!来たか勇者一行!だが、我はまぬけではない!」
クラクラーケンは青空へと墨を吐くと、それは二つの籠となる。
籠はびゅんと地に砂埃を舞い上げ、瞬く間に私以外の皆を閉じ込める。
床へと沈み、この場にいるのはただ一人のみとなった。
「さあ!やろうか勇者殿!」