第六話「海だー!」
燦々と煌めく太陽!さざ波の音が心地よい広大な砂浜!あとカニ!
そう!何を隠そうここは!
「海だー!!!」
フリフリとした水着。だが、慣れぬもの。少し恥ずかしい。
あ、そうだった。なんでこんなことになっているのかというと…
……………
「え?別にいいですよ?」
待ってましたと言わんばかりの顔。「それでは!次のステージにいってらっしゃいませ!」
指をぱちんと鳴らすと、空間が歪み、白い雪景色が波打つ海へと変貌。
クジラの潮で虹が掛かり、典型的な煌めく太陽が水を反射している。
「あの、ユウガはあの後どうなったんですか?」
目の前にいるのはこの世界の全知全能。聞きたいことなど山ほどある。
「それは、当事者になってからのお楽しみですよ」
「じゃあさ!なんで起きたら学校にいたの?」
「そんなこと僕に聞かないでください」
「大切なものってなんだ?」
「………あなた方の思い入れのあるものです」
「なぜ、気付いたら食材が補充されていたのでしょうか?」
「…………そういう世界だったのでしょう」
「わしゃの大切なもんは入れ歯じゃ!もうもっとるからかえしておくれ!」
「うるさい人たちですね」
苛立つ感情を抑えているよう。
「…この際はっきりと言いましょうか」こほんと咳をするX。
「一つの世界に、大切なものは一つしかありません」
「じゃあ、老骨に鞭を打った意味はねぇってのかい?!」
杖をカニの歩く砂浜にぼんぼんと突く。 「いいえ、あります」
「大切なものを見つけるには、それぞれが持つ心の傷を克服しなけれなりません」
「今回の場合彼は「学校で皆と行事をすること」が克服する条件だったのでしょう」
「そして、大切なものを見つけた世界には、もう一つの世界へ行くための道が出現します
例えば、植物の葉、カーテンの後ろ、などです」
「次からは各自で探してくださいね」
ため息をつきながらXは光の粒子となり消えた。
………
というわけだ。戸惑いもあるが、今は楽しむのが吉。
といっても、現在砂浜で黄昏中。相変わらず皆の輪に入れないからだ。
遠くで泳ぐナズナが見える。砂浜でお城を作る、大人な水着を着用しているモネ。
どこから持ってきたか、ビーチパラソルを展開して、ビーチベットに横たわるキク。
フィットネス水着を着用しているようだ。
「おーい、エリカー?」 どこからともなくハクレンの声が聞こえる。
振り向くと、生い茂る葉の中からよいしょよいしょと草木をかき分けるハクレン。
可愛らしい水着に少し見惚れてしまう。
「えっと、どうしたの?」 「こっちおいでよ!凄いもの見つけたんだから!」
腕を掴まれ、流されるように、そのまま連れ去られる。
「みんな~!しゅ~うごう~!」
どでかいメガホンを取り出し皆を呼びかける。
本当に、どこから持ってきたのだ。
数分歩いただろうか。コテージのような、どでかい木の家があった。
皆も仰天。これは、個人が作るレベルではない、まるで学校と大差ないほどの大きさ。
「こりゃあ、お城じゃあないか」目を見開き、開いた口が塞がらないキク。
「お邪魔しまーす!」 いつもよりハクレンのテンションが高いように見える。
やはり、子は風の子とでもいうべきなのか。決して寒くはないものの
この蒸し暑い空間では、やる気もでないだろう。
皆も続々と内部へと入ろうとする。
「たすけてー!」ハクレンが扉からどんと飛び出し、私の胸に抱きついてくる。
「わ、ど、どうしたの?」 「ここ怖い!もう帰ろ!」
どこからともなく陽気な音楽。「いえい!楽しんでるぅ~?」
ぱらぱららぱっぱっぱっぱ~
「女将です」「は?」ナズナの、この訳の分からない場には適切すぎる回答。
「女将です」「は、はぁ」困惑するモネ。
こいつあれだな、私と同じタイプだ。
きっとノリを間違えて、後から恥ずかしくなるパターン。
…そんなこともなく、平然とした顔でのおもてなし。
「今日はどういったご用件でしょうか?まさか、雪隠するだけ?」
「むむっ?あなた、掌を見せてください」後ろから召使いのような風貌をした男が姿を現す。
何が何だか、だがその切迫した顔で思わず従ってしまう。
掌が光り、魔法陣のような物が浮き上がってくる。
「こ、これは~?!女将殿!ついに現れましたぞ!千年に一度の勇者が!」
「ま、まぁ~?!」再度陽気な音楽が流れる。
「湯殿用意、くどい説明、それは無しだぜ
、化粧落として、客がいるから気配殺して、男は一階、女は二階
それでいいかい?存ずる世界、拒否権なしで、ちょー危険!」
「いえ~」ダブルピース、思わず尻込み。
陽気な音楽が止まって、煌めく太陽の下、心地よい風の音が鳴る世界に戻る。
一同困惑。「ささっお入りください!当店ご自慢の海鮮料理をご堪能下さい!」
招かれるため、仕方なく内部へと入る。
中は思ったより古風だ。あのラップもどきをする女将なもんだから
内部も煌びやかかと思ったが、歴史ある旅館のよう。
「皆様、話があります」先程とは違い、圧迫感のある空気。
温度差の違いに文句を言いたいが、誰も言えぬ雰囲気。
「この世界には、海の主と呼ばれる生物がいます」
「あなた方勇者様の力で、その異形を倒してほしいのです」