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第五話「きゅん」


まってよ、まだ、私、話したいこと、たくさんあるんだ。

出会ったばっかりじゃないか、ひどい、ひどいよ。


周囲の床が少しずつ、少しずつ、崩れてゆく。

「ユ…ユウガ!俺たち、待ってるからな!帰って来いよ…?」

聞こえぬと分かっていても、必死に叫ぶ。


ついには、足元の床が崩れ、成す術もなく、奈落へと落っこちるのだ。




………


目が覚める。冷や汗が止まらない。

真っ暗な視界の中、些細な願いを込めて、両手を震わせながらユウガの元へと駆け寄る。


乱れた布団、人の形を残した跡。そこにユウガの姿などなかった。

必死に息を整え、自らの心の乱れを落ち着かせようとするも

みるみる内に顔が歪んで、ぎゃんぎゃんと泣いてしまう。「あああん、うわあああん」


体育館の照明が光りを灯す。目に涙を浮かべていたため

さほど眩しいとは感じない


「あいつぁ、旅立ってしまったんさね」


辺りが静寂に包まれる。ただ一つ、悲痛な叫びがこだまするのであった。



……



「作戦会議!」


明朝、一同教室へと集いハクレンの言う通り作戦会議。

司会、ハクレン。書記、モネでお届けする。

ハクレンの新米教師感といったらそれはもう。

ちんまい姿で、眼鏡をくいっと上げる彼女は愛らしい。


「昨晩、ユウガくんが姿を消しました」教卓を叩き怒りのご様子。

その反応はごもっとも。仲間だと思っていた人が、物言わずくらませるんだ。

今では私も冷静だが、あのときは酷いものだった。

慰める者、それら拒み、あまつさえ無関係の者にまで怒りをぶつけたのだから。


だが、見捨てなどしなかった。皆同じ気持ち。やりきれない気持ちを感じていた。


「あの空間、あれは明らかに現実世界の類いとは思えません

そして、記憶の追体験、何か心当たりのある方は?」

追体験、それは、ユウガが死ぬまでの出来事を再現した記憶。

あの後、どうなったかは分からない。海へと飛び込む姿を最後に

意識は途切れ、地が崩れたのだから。


「そういえば、エリカさんってあのとき何を話していたんですか?」


モネの言っている意味が分からない「あのとき、とは?」


「ほら、リレーのとき、ユウガくん泣いていたじゃないですか」

「え、お前年下相手にいびったのか?」


「ナ!ナズナさん!人聞きの悪いこと言わないでください!

私はただ、どら焼きをあげただけで」 ドン引くその顔を見て、思わず早口になる。


「どら焼き、ですか

記憶の出来事、そうですね「ユーカリ」と名付けましょうか」


「あ、私の眼鏡」ハクレンの眼鏡を奪い取り意気揚々に語り出すモネ。


「ユーカリを踏まえて、霧の中で出会った少年、「X」と名付けましょう

Xは言っていました、大切なものを見つけるまでは帰れないと」


「つまり、この校内には、それぞれの大切なものが隠されていて

それを見つければ、然るべき場所へと帰れるということじゃないですか?」


「じゃあ、もしかして、ユウガは死んでぇっねてことかぁ?」「可能性としてはそうですね」

お通や状態だったのに、いつの間にか教室の態度は一変。

「では、それぞれの大切なものを言い合いましょう

それらを校内で探すのです」


「えっとね!私はお人形さんが好きかな!」 「私はお金ですね」

「俺は、そうだな、パソコンかな」 「入れ歯!」

一同それぞれ言い合った後、教室からそそくさと退散。

私は…ゲーム機かな。


………


数時間は経っただろう。


理科室、給食室、体育館、グラウンド、階段の裏。

どれを探しても、一つたりとも見つからない。


「ば、馬鹿な!私の計算では完璧だったはず…!」がくりと膝から崩れ落ちる。


そういえば、天使も同じようなことを言っていた気が…


「私たちって、最初に校内を探索しましたよね?

でも、天使の「ちっとも大切なものを探しやしねぇ」

つまり、ただ探すだけじゃダメなんじゃないですか?」 「な!なにー?!」



………


「せーの!」ハクレンの掛け声と同時にある者は叫び、ある者は唱える。


何故、こんなことになったかというと、「X」を呼ぶためだ。

結論としては、自分たちだけではどうしようもないということ。


だから、ことの発端である「X」になんとかしてもらおうとたくらんでいる訳さ。


ベントラ、ベントラ、スペースピープル!ベントラ、ベントラ、スペースピープル!


「きゅんきゅんきゅんきゅんきゅんきゅん」


傍から見たら、頭のおかしい集団だと思われるだろう。実際、私も思っている。

だが、奇跡は実在しているものなのか、目の前に光の柱が立ち込める。


「あの、何を馬鹿なことをしているんですか?」

目の前に現れたのは、呆れた顔で、物言いたげな顔の少年。別名「X」


「大切なものがある場所に連れてって!」

あっけらかんと、まるで礼儀も知らないのかというほどの無礼。

「ちょっと、蓮ちゃん、私たちはお願いをする立場なんですから、もう少し礼儀を…」

モネのあわあわと慌てている新たな一面。


「X」は口を開く。


「え?別にいいですよ?」


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