第四話「だがらもの」
「良い勝負だったぜぇ」天使は鼻を啜り、握手を求める。
「えぇ、あなたも、とってもかっこよかったですよ」手を握り返し、お互い見つめあう。
「て!てやんでい?!んなぁこと言われたら惚れちまうぜぇ!」
モネの手をばっと離し頬を赤らめる。
「…まぁ冗談はさておき、本当に楽しかったぜ」
「ささやかながら、良い食材を輸入した
飯の時間になったら給食室を覗いてみてくれ」
天使はにこりと笑う。体が発光して、周りも同様白に包まれる。
「じゃあな」
光の粒子となり、皆消えた。
「元気だといいね」ハクレンはグッと涙を堪え、白い天の向こう側へと敬礼するのだった。
「あぁ、きっと、楽しくやっているさ」髪をくしゃくしゃと撫でるナズナ。
その姿が、まるで親子みたいで、少し切なくなるのであった。
まぁ、ともかく
……………
「今日は宴だぁぁ!」一同歓喜の舞い!
食材は中々に良いもであった。とにかく肉!肉!!肉!!!
高そうな肉。ゲテモノの様な肉。普通の肉。
多種多様なのだ。あの天使らしいプレゼント。
「そういえば、お前の名前聞いてねぇなぁ」
ナズナの一言で皆今更気付く。「あ、確かに」「そういえば、そうですね」
「ほんとだー!なんで私忘れてたんだろー!」「肉が噛み切れん!!」
照れくさそうに席を立ち、こほんと咳をする。
「お、おらのなまえは総咲 ユウガだ、みんなぁよろじぐなぁ」
ぱちぱちと、活気づいた拍手。仲も深まったことが一目で分かる。
照れくさそうに笑うユウガ。冗談交じりに笑いあうナズナとハクレン。
肉を細かく刻むモネ。その様子をぼーっと見ているキク。
いつまで経っても、私は口下手なもんで、話しの輪には入れなかったが
その光景が以前の私には考えられない程眩しくて、十分、幸せだった。
………
「みなさん、電気消しますよ」体育館の照明を消す。
でっかい幾つもの照明は、相変わらずいつ落ちるのかとドキドキする。
「おやすみなさーい」一同、そう一言言うと眠りにつくのであった。
今日は楽しかったな。学生なんて、まともに経験していなかったから。
だから、今日は本当に新鮮で、楽しくて。
あぁ、神様、こんな日々を一生続けさせてください。身勝手で
他人のことなんて一つも考えない。そんなお願いをして布団へと潜るのであった。
真っ白い、何もない空間。霧がかかって、少年と出会ったときを思い出す。
「これ、夢?私疲れてるのかな」「あぁ?えぇぇと、あんた名前はぁ…」
そこには、キクがいた「えっと、エリカです」「あぁそんな名前だったねぇ」
もしかして、ここは三途の川か?
だから、キクがいるんじゃないのか?あまり考えたくないが、老衰とかで…
「お、おい!お前らもここにいたのか!」だが、ナズナも迷い込んでいたらしい。
その後、続々とハクレンとモネも見つかった。
だが、ユウガだけは見つからず、皆この空間も相まって不安そう。
「ユウガさん!どこなんですかー!」
「あんたぁ!今すぐ出てこないと尻たたきだよぉ!」
霧の中、闇雲に探すが一向に見つからず、皆も諦めようとしたとき
霧が晴れ、少し先にはユウガはいたのであった。
だが、分け隔てられた、決して行けぬ床の亀裂。
そんな中、彼は呆然と立ちつくし、空を見つめていたのである。
叫んでも届かず。周囲はどんどんと暗くなる。
気付けば、臭くて、ボロボロなアパート。
そこには、私と似た顔立ちの、金髪な凛とした顔の女が、ユウガを殴っていた。
………
おらんぢはがねがなぐってなぁ…まいにぢまいにぢ、ひもじいぜいがつばっかりだった。
ちょっとだけ「とくちょう」があって、かあちゃん、とおちゃん、いつもなぐるんだ。
「おまえはばがだ」「できそこない」「いらないこうんじゃった」
つらかった、くるしかった。そんなこと、おらがいぢばんわがっでる。
そんなんだがら、くらずめいどともなじめながっだ。
ほんとうはながよくしたがった。でも、いいたくないこともいっだ。
こわしだくないものもごわした。きづつげだくないひともきずつけだ。
おらは、いつものまにか、がっこうへいくことがこわくなっていた。
「おまえをそだてるためにどれくらいかけたとおもってるんだ!」
ごめんなざぁい、ごめんなざぁい。
きづくと、くるまにのせられでどこが、どおいどおいどころへとつれていかれだ。
なんじがんがねむっでいるど、ちからいっぱいたたかれて、おこされた。
「きょうからおまえは、ばぁちゃんちでくらしてもらう
きらわれもののおまえらならきっとなかよくできるぞ」
にもつをじめんにすてられて、くるまはきえていった。
ちいさながっこう。はたけ、はたけ、はたけ。そんなたいくつなばしょ。
でも、くるしくないならそれでいい「し、しづれいします」
「はぁ…やっかいものがきたさね…」 「ご…ごめんなざい…」
そんなの、おらだってわかってる。
「ほら、これでもたべてげんきだしぃ」ちいさな、ちいさなどらやき。
なんでぇきらってるとおもったのだろう。そのてはやさしくて、せつなくて。
きづけば、かおをくしゃくしゃにしながらどらやきをほおばっていたんだ。
「おらぁ、ごごでいぎてもいいのがなぁ!」わんわんと、はずがじいほどにないた。
「あたりまえさ、あんたぁここいがいでねるばしょねぇだろ?さぁ、おはいり」
「うん!ばあちゃん!」 いろいろこのちいぎのせいかつについでまなんだよ。
ちいさいげど、がっこうもあるらしい。このひどだけはがなじまぜだくない。
つぎこそは、がんばろう。
いなかだがらか、こうないはせまい。でも、そのぶんひとがすくなくて
がっこうになれないおらにはじょうどいいばじょだった。
みんながでむかえでぐれだ。うれじがった。きっど、ここがおらのいばじょだ。
……いや、ぞんなごとはながった。
なにをずるにもさべつされる。それは、とくちょうのせいじゃない。
「いなかもののおれらばかにしてんだろ?」 「ぶさいくはしゃべんな」
「とうじのおらは、それをじぶんのせいだとおもいこんでいた」
じゅんすいなあくは、いじめよりもつらい。
がまんして、わらって、かげでないて、かくして。
なにかになりたい。だれかみてほしい。
なんにちもはしってはしってはしって
おらには、もしかしたらはしるさいのうがあっだのがもしれない。
でも、ひっしだったおらにはわからなくて
きづけば、おらはうみにいたんだ。
…………
「なぁ、ばぁちゃん」 「なんだい?」
「おら、いまね、ごんなにじあわせなんだ」 「そうかい、よかったねぇ」
「……さびしくなるねぇ…」 「なかないでよ、ばぁちゃん」
「おらのじんぜいは、あのちいさなどらやぎでがわったのがもじれねぇな」
「あんた、てんごくでも、しあわせにいきていくんだよ」 「うん」
「みんな、ばぁちゃん」
「ありがとうなぁ」