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二十二話「王」


「え?」

血の池が辺りに広がる。

鉄の匂い、それは生理的に受け付けないものであり

気付くと吐瀉物が口から溢れ出す。


胎児も、モネも何もいなくなっていた。

それは、存在すら消えて、まるで存在という概念にさえ忘れられたといっても過言ではない。


モネの体験が、脳に流れ込む。

でも、いつものように次の世界に行くことはない。

血の池は、幼い私にとって見るべきものではなく、視界が歪み目の前は瞼と共に幕を閉じる。


本当に、この世界は何かがおかしい。


………


……


……「…おい」


「おい」


「ナ…ナズナさん…?」


見慣れた天井が目に入る。

それとは別に、見慣れぬナズナの涙が頬を伝う。


「モネさんはどうなったんでしょうか」


「…俺にも分からねぇ、あいつの姿、存在は消えたのか

皆に聞いても、あの胎児の事も、モネの事も、すっかり忘れ去られたようだ

ただ一つ、突如として崩壊した床、って今は知られているらしい」


沈黙が流れる、それは当たり前のことであり二人は物言わずともそれを理解していた。

彼の表情はどこか遠くを見つめていて、その瞳には何か言いたげなものが宿っていた。

しかし、言葉は必要なかった。今はただ、ここにいることが重要だった。


お互い、ただいるだけで心地よく感じている。

無言の中に流れる温もりが、二人の距離を縮めているようだった。

どんな言葉も、今の瞬間にはそぐわない気がして

ベットに横たわる私、それを呆然と眺めるナズナ。

お互い、ただいるだけで心地よく、今はお互い一人になんてなれない。


ようやく、ナズナは声を挙げる。


「…俺が、連れ去られた後の話をしてもいいか」


「…えぇ、読み聞かせ程度に聞いておきますよ」


……


「あの後、俺は戦場へと連れていかれた

そこは本当に地獄と言っても過言ではなかったよ

飯はまずいし、いつ死んでもおかしくない

でも、ある時友人と呼べる人に出会った

そいつも、ここに連れてこられたらしくてすぐに意気投合したんだ

楽しかったよ、一緒にまずい飯を食って、銃声の轟く場所で眠りについて

…楽しかった、本当に楽しかったんだ


でも、人が死ぬのなんて当たり前のこと、そいつは、同士討ちしちまって死んだんだ


もうどうでもいいって、俺のことなんて気にしないで、お前らさっさと帰っちまえって」


いかつい髪型、ガタイの良い体格。

だが、今はどうだ、縮こまり、生命という名の本能が拒んでいる。


今分かった、ナズナはいつも強がりをしていたのだ。


本当は、心優しいただの怖がりさん。


「だがなぁ、やっぱり辛く心を閉ざす人を見ると、何かしたくなっちまう」


頬を伝う涙は瞬く間に数を増やす。

その涙こそ、優しさであり、そんな彼に掛ける言葉は決まっている。


「私たち、何があっても生き残ろうね」


「ナズナさん、エリカさん、姫さまのいる場所へと赴いてください」


突如として城内に響く声。


「起きれるか」


「えぇ」


その放送は、何か本能で理解させるものがあった。


きっと、これが最後の戦いだ。

………

二人呼び出される、だが、そこにいたのは姫のみ。

だが、姫は坊に言及するでもなく、いつもの気品ある態度をふるまっている。


瞼をぱちくりと何度も動作させる、機械のように、言葉のように。


何故、この世界は終わらないのだろうか。


「ごほうび、これは、かんぶをころしたごほうびなのです」


手渡されたのは、二丁の拳銃と神々しく光を放つ剣。

見覚えがある、これは、ハクレンの世界で使用した武器。


見覚えがある。この武器はハクレンの世界で使用したものだ。

あの壮絶な戦闘の記憶が、鮮やかに甦る。仲間を守るために振るった剣。

その瞬間の高揚感が心を駆け巡る。

ハクレンの世界で経験した戦いが、今ここに甦る。

これから何が待ち受けているのかは分からない。

しかし、この武器を手にした限り、私は決して一人ではないという確信があった。


「来ますよ」


突如、地が揺れる、それは胎児の時の比ではなく

世界そのもの、異例の巨大地震が発生しているときと同じである。


「サラケダセ ミニクイホンショウ サラケダセ ホントウノカオ」


「きましたね、ひとびとのなやみのしゅうごうたい「王」が」

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