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第十九話「叶え屋」



あの後、色々と注意事項やその他もろもろを聞いて

各自に与えられた部屋へと皆ひとまず解散。

ここは二十階、働く場は一階から十階まで。

職場から近いことは良いことである。


タコ部屋かと思ったが、意外と快適。

一人部屋で、手狭ではあるが生活必需品は一通り揃っており

不便に感じることは今のところない。


男女二人、皆からは「坊と姫」と呼ばれている二人。

そんな二人から言われたのは以下のこと。


仕事の内容はイギー達の悩みを聞くこと。

寄り添うこと。

そして、悩みを解決すること。

数をこなせば褒美が貰えるということだ。

つまり、この次の世界に行くためには以上のことをこなさねばならない。


「朗報です朗報です!」


ぴょん吉は自室の扉を部屋中に響く音で開ける。

現在朝の六時。他の者は寝ている時間帯のはずなのに、そんなこと気にすることもない様子。

たまたま着替えも済ませていたからよかったもの

素肌を晒していたらどうするつもりだったのだ。


「エリカさん!初めてのお仕事です!」


こいつにはデリカシーもくそもない。

人間じゃないからか、気遣いのきの字もないのだ。


…………


「えぇと、「イヤンホホ」さん。本日はどういったお悩みで?」


「この絡まったイヤホンを解いてほしいんです」


現在二十五階である。ここが私の職場。

初客はろくろ首のように伸びる首。

そんな彼は白いイヤホンの塊を差し出す。

「そうですか、辛かったですよね、なんてったって

せっかく購入したイヤホンが使えないのですから」


「えぇ、あなたは分かっていただけますか、この気持ち」


イヤンホホはイヤホンの音が流れるところ、つまりはドライバーから涙を流す。

初めての仕事だが、実際は案外簡単なものだった。


願いを聞く、というのは字面だけで見ると大層なものに見えるが

実際は雑用を押し付けられているようなもの。


坊と姫に会ったあと、裏話としてぴょん吉に教えられたのだが

こいつらイギーは人々の死んだときの未練が具現化した者たちらしい。


つまり、どこかの世界では未練がイヤホンが絡まったこと、という人が存在しているのだ。

馬鹿みたいな話であるが、それとこれとは別、やるべきことはきちんとやらねばならない。


「はい、できましたよ」


そんなことを頭の片隅で考えていると、体は無意識に動いており

いつの間にかイヤホンはすっかりと解けていた。


イヤホンが絡まるというのはよくあること。


現代っ子の私にはこの程度おちゃのこさいさいである。


「ありがとうございます…!本当にありがとう…!

これで、死んだ彼女の歌が聞けるよ……!

また、推させてくれ…」


涙を流したかと思えば、その姿は徐々に透き通り、気付けばそこには何者もいなくなっていた。

ひとまず、初めての仕事は大成功に終わったのだ。


………


赤色のノートの姿をした彼女。

二人目のお客様、名は「オイヤー」という。

ノートの両端には血走る目玉が付いているが、その容姿とは異なり幼げな声をしている。


「私にこの問題を教えてください!」

ノートが風を巻き起こし、ある式の書かれたページへと変わった。


「この、掛ける?ってなんなの?」


問題は三掛ける三、つまり答えは九。

背丈、声、予想するに小学生低学年程度の子に問題を教えるのが今回の仕事。


「掛け算が難しいんだね、私も分かるよ

掛け算って何か、なんか難しいよね」


そう、なんか難しい。

二桁の掛け算になると、大人でも暗算では難しいのだ。


「…違うよ、みんなは簡単って言ってたよ

だから、解けない人はおかしいんだよ」


だが、現に問題を解けていないのも事実。

今になって思うが、人に教えるというのは、ましてやコミュ障の私には難しい。

学校の先生は一人で何十人も相手しているのだ。

問題自体は簡単だが、無知な者に教えるのはそれとこれとは別なのかもしれないな。


「こんな調子じゃ、お母さんに怒られちゃうよ」


「…はぁ」


ため息が出る。


あぁいや、この少女に苛立っている訳ではないのだ。

幸子のことも相まって、小さな子が家族の為に頑張る姿というのは、何だか切ない。


「…お友達っているかな?」


「…うん、愛ちゃんに、あつしくんに、美香ちゃん」


「そっか三人もいるんだね、じゃあ、その三人のお友達にも

それぞれ三人のお友達がいたとしようか」


「愛ちゃんに三人のお友達、あつしくんに三人のお友達、美香ちゃんに三人のお友達」


「じゃあ、合計はいくつかな?」


「…九?」


「そう、正解」


「そっか、ありがとうね、これで、お母さんに心配を掛けないで済むよ」


……


「えぇとぉ…」


三人目のお客様、その姿に思わず絶句する。

生まれたての胎児をそのまま拡大したかのよう。


といっても、胎児は胎児な為、姿は一メートルも越していない。

そんな胎児は、ゆっくりと口を開く。


「僕の悩みを聞いてください」

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