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第十六話「戦場」

あの笑顔に私は何も答えることが出来なかった。

あれは、以前のハクレンの笑み。


人を敬い、人を優先して、人の為に命を張る。


あれは、そういう顔。


だが、そんなことは分かっていても、私には何故あんな表情をしたのか分からなかった。




現在、あの日から数日程経過した。

娯楽は少ないが丁重に扱われる為悪いとは思わない。

今日も牢の中で読書をするところから始まる。


「おい、エリカ」


「あ、なんですか、ヘンリーさん」

私を助けてくれ、色々と良くしてくれる

この悪魔の名前は「ヘンリー」という。

牢も用意して、死を偽造して、本当に頭が上がらない。


「そろそろ人間の世界に帰ってみねぇか?」


……




「本当に、いいんですか?」

ヘンリーは、わざわざ大樹の元へと連れて行ってくれるらしい。

悪魔には羽がある。図体は小さいものの、翼を広げたときには戦闘機にも負けない。

薄く硬く、そんな羽に乗せてもらえるというのだ。


「あぁ、本来俺らは敵同士、もう会わねぇ方が良いんだ」

一言言うとヘンリーは翼に乗るよう促す。

傷跡も多く、本当に、本当に今まで苦労したことが分かる。


「お前さん、ありがとうな」


「なんだよ、キクらしくねぇ」


お互いの性格的に気が合うのか、いつの間にか交流を深めていたようだ。

二人は笑い合い、もう二度と出来ないであろう握手をする。


「あ、そうそう」

分厚い鉄の板、言うなれば盾だろうか。

ヘンリーは人数分の盾をこちらへ投げつける。


「俺らは忌み嫌われているからな、それがねぇと皆死んじまう」





「うおおおおお!」


空から人々の生活を眺めることなど、人生で一度もなかった。

微かに聞こえる子供の遊び声、本来ならばかなりの声量だろうが

こんなにも宙にいると、ここまで小さく聞こえるものなのか。


大樹にものすごいスピードで近付いている。

このままだと、数分で着いてもおかしくはない。


「来たぞ」


ヘンリーの言葉で一同盾を構える。

流石の私でも、そこまで鈍感ではない。

本来人間は敵同士、ならばあ一匹のこのこと上空を飛んでいる悪魔がいれば

それはネギを背負ったカモ同然。


雲をかき分け、一台の戦闘機が背後から現れる。

「スピード上げるぞ!」


戦闘機にも負けないスピードで、ヘンリーは空を飛ぶ。

幾つもの銃弾が翼をかすめる。

そう、私たちの仕事はこの銃弾を跳ねのけること。

機動性はこちらのほうに分があるが、あちらは戦闘機。

当然、弾丸を飛ばせることが出来る。

ただしこちらはただの生き物。


そんな生き物が銃弾を飛ばすことなんてできるわけがない。


「後ろを重点的に守れ!」

その声で皆最後尾を守る。

だんだんと銃弾も届かなくなってきた。

放たれる銃弾は速度を落とし奈落へと落下。


距離も離れ雲の向こう側に戦闘機は姿を眩ませる。


「や、やった」


モネは息巻き、多数の汗が滴り落ちる。


だが、そんな休憩も束の間、目の前の雲をかき分け再度戦闘機が現れる。


ヘンリーですら、こんなこと予想していなかったのだろう。

先端に付いている筒から多数の銃弾が射出される。

盾を下ろし、ぜぇぜぇと息を吐く私たちには、当然成す術もない。


そのまま弾丸が体をかすめ、皆もろとも落ちる。


………はずだった。


唯一、幸子だけが反応していた。


「幸子ちゃん?!」


「最後に、皆を守れて良かったよ」


放たれる銃弾を盾で防ぐ。

だが、そんな至近距離では威力も落ちず、本来の鉛の塊が幸子を襲う。

盾はすぐに壊れ、多数の銃弾が幸子の体を貫通する。


「ヘンリーさん、はやく」


唖然と正面を眺めるヘンリー。

彼も死ぬと思っていたのだろう、目をぱちぱちと繰り替えし動作する。

幸子の言葉で意識を取り戻す。住宅街を焼け野原にした炎を放つ。


戦闘機は瞬く間に溶け去り脅威は過ぎ去った。


幸いにも、幸子のお陰で私たちはかすり傷を負おうだけで済んだ。

だが、幸子だけは体中穴だらけ。


馬鹿な私でも分かる、きっと、これは助からない。


「ねぇ、ちょっと気になることがあるんだけどさ」


ぽつりぽつりと、目の光が完全に消えぬ間に口を開ける幸子。

そんな彼女を、私たちはただ眺めることしか出来なかった。


「おねぇちゃんたちはどこから来たの?」


「私はね、ちゃんと小さいときの記憶もあるし、自分の意志もある」


「でもね、おかしいんだよ、世界が、小さくなっていってるんだよ」


「教えてよ、おねぇちゃんたちが来た世界って、本当の世界なの?」


………そうか、自分の運命を呪い、あまつさえ別世界の住人に、その運命を殺されたのだ。

疑問に思うのも無理はない。


でも、私の答えは決まっている。


「うん、そうだよ、でも、この世界も本物だよ

人の生き様、命の価値、そんなものが偽物なんて、私が許さないんだから」


「そっかぁ、私、生きていたんだねぇ」


…………


「悪かったな、幸子は、俺の方で預からせてもらう」


その後、大樹へと着いた。

辺りは、やっぱり焼けた住宅街、でも、そんなんでも、この景色は美しいと思える。

夕焼けがこの景色には良く似合う。

こういうことを言うのもなんだが、世界の終末のような

まるで、ありのままの世界という感じ。


幸子は……死んでしまった。


だが、私たちは背負わなければいけないのだ。

人々の願い、苦しみ、思い出を。


くよくよしている暇は、ないのだ。


「えぇ、私たちでは手に余ります、丁重に、お願いしますね」


モネは律儀に頭を下げ、その様子につられ私とキクもお辞儀をする。


「おう、じゃあ、元気でな」


空へと舞いあがり飛ぶも、そのスピードは先程の比ではない。

この調子なら、襲われずに逃げれそうだ。


辺りはそよ風が良く通る。

その風は、目の前にあるシートをひらひらと靡かせていた。

白い粉が宙を漂い、雪のように滴り落ちる。それは、液体といっても過言ではない程。

だが、実のところそんなに幻想的なものではない。

花柄のシートの上に朽ち果てた人体の骨があったのだ。


「そっか、大切な「もの」ですもんね」


「結局、何にも成し遂げられなかったなぁ」


「キ…キクさん」


「エリカ、戦争ってのはこういうもんだ、誰も悪くねぇし気にすることもねぇ」


「……じゃあ、先に行ってるからな」


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