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第十二話「被告民」


大樹は目に捉えられているが、現地に赴くとなると話は別。

少し歩いたものの、未だ近付いたとは言い難い。


辺りはだいぶ鎮火されたようだ。

炭となった家、嘆く人々、あまりこういうものは目に入れたくないもの。


「あんたちも、家を失った感じか?」

煤まみれのおっちゃんは絶望に満ちた顔。

この有様を見るに、あまり戦況は良くないのだろうか。


「家が無いなら、あっちに避難所がある、そこへ行けばいい」

避難所か、この世界に来てから何も食わず飲まず。

何かしらの食料を恵んでもらえたら良いのだが。


「おじさんは行かないんですか?」


「あぁ、俺の女房は崩れた家の下敷きになっちまってな

あいつが出てくるとき俺がいなきゃ可哀そうだろ」


…あぁ、本当に戦争は嫌になる。



………


避難所には粗末なテントが幾つかあった。

野ざらしのパイプ製の簡易ベッドの上に寝かされる兵たち。

皆が五体満足ではなく、どこか欠損している。

他の者たちも顔色が優れないようだ。どこかピリピリとした空気。


こんな雰囲気じゃあ、場に圧倒され言いたいことも言えない。


「せめて、どこか炊き出しでもやっていたら良いのですが…」


そんな話を聞いていると、どこからか良い匂いが漂う。

人の声が賑わうため、少しの興味が湧く。

「エリカ、どこに行くんだ?」

ナズナの呼び止める言葉で意識が目覚める。

腹がぐぅぐぅと空くもんだから、思わず皆を置いてけぼりにするところだった。

成長期の私に飯抜きとは過酷なものだ。

いくらどれだけ危ない場所とはいえ、腹の鳴りは収まらない。


「すみません、良い匂いがするものでつい…」


「本当ですね…とても香ばしい匂いがします…」


皆はまるで運命に操られたと言っても過言でない程本能に従う。


煙の立ち込める良い匂いのする場所へと行くと、カレーの炊き出しをやっていた。


「あの、少しばかり分けてほしいのですが…」


「そうかい、金はあるのか?」


調理員のような風貌をしたおっちゃんは

私たちの身なりが特殊であるためか、モネは敵でも見てるんじゃないかというほど凝視される。


「すみません、じゃあいいです」


「あのね、俺らも無償でやってるわけじゃねぇんだ

不貞腐れてんのか知らねぇけどよ、本当に無知で貧乏人には腹が立つぜ

大体、食料に困ってるのなら悪魔の死骸を食えばいい

あとは………」


ねちねちと嫌味を…

このピリついた雰囲気、皆の経済や体調が優れないのは承知の上。

だが、こういう時こそ助け合うべきではなかろうか。


おっちゃんに文句を言いそうになると、キクは

突如として胸元のペンダントをちぎる。




「このペンダントが目に入らぬか!」


何が目に入ったのか、定かではないが、ペンダントを見るなりおっちゃんの態度は一変。


「は、はぁ…!花山院家のご令嬢様でしたか…!」

そそくさとカレーをたっぷりと注ぐと、おじさんは深々とお辞儀をする。

「わざわざこのような粗末な場所へと…

そ…そうだ!少しばかりですが飯の備蓄があるんです!

お気持ち程度ですが…!」


風呂敷に包まれた保存に適している干し肉や野菜

それが、たった一つのペンダントで易々と手に入ったのだ。


「今後とも、私たち平民をどうか、どうか導いてください!」


………


「あの、何をしたんですか」

比較的人の少ない場所で、地に座りながらカレーを頂く。

微量ながら野菜も入っており、やはり、あのおっちゃんも悪い人ではないことが分かる。


「えぇとね、私、実は華族のお嬢様なんだ

あれは華族としての信頼を得る、大切なもの」


皆驚愕。


だが、いつもの、キクの元気溌剌とした声は無くなり

どんよりとした空気が辺りを漂う。


貴族とはいえ、人間皆同じ生物。

キク自身もあまり人に乞食するような真似はしたくないのだろう。


「貴様!」


突如後ろから怒号が鳴り響く 「な、何すんだお前!」



軍人の男たちがナズナの腕に手錠を掛け、連れ去ろうとする。


「健康な男子が戦場に赴かないとはこれ如何に!」


「わ、なんだ!俺は兵じゃねぇぞ!ただの一般市民だ!」


「黙れ非国民が!」

ナズナの頭に拳銃を突き立て、周囲に緊張が走る。

じりじりと後退りする姿に、キクは大声を荒げる。


「お、おい!私は花山院家の者!そんな私の連れを連行するとは

由々しき事態になることが分からないのか!」

皆が止めようとするも軍人は聞く耳持たず。

キクの言うことすら聞かぬとは、本当にどういうことだ?



「おねぇちゃんたちも、ここまで逃げて来たの?」


またもや、軍人とは別に、突如少女が現れる。


女のする格好ではない、まるで、ボロボロの雑巾の様な衣服。

ましてや、幼女がこんなはしたない姿を現しては男の注目を引くだろう。


………だが、その姿はまるでミイラ。

小鹿のような足、くらくらと立ち眩みをしているのだろうか

目元を抑え足元がおぼつかない。



「ここはね、人間と悪魔が戦っているの

こわいよね、だって、捕まったら皆舌を抜かれて殺されるって言ってるんだもん」


「みんなが必死で、もう、この世界は終わりなんだよ」


ナズナはとっくのとうに何処かへと連れ去られ、皆が唖然としている。



「その風貌、どこか行くんでしょ?

私も連れてってよ、もう、誰もいないの、せめて、私だけでも生き残らないと」

幼女は一人でぽつぽつと、独り言にも等しい声量で呟き続ける。

虚ろな瞳、生き残るとは言ったものの、ただ本能で生き永らえようとしているだけ。



連れて行く?何故この世界の住民が?


その瞳が、以前の私と酷似していたため酷く切なくなる。


三人と、この世界の住民との旅が始まろうとしていた。

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