表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/25

第十話「頑張って頑張らない」






黒い渦は海をも飲み込み、気付いたときにはクラクラーケンなどいなくなっていた。

辺り一帯の巨大な爆発跡。これが当たったらと思うとゾッとする。


でも、私は確かに勝ったんだ。

クレーターの中央には、一つのミサンガ 「そっか、私だったんだ」

ハクレンのぽつりと呟く独り言。のろのろと、逆立つ髪を抑えながら

それを、大切そうに腕で包み込む。


「お先に!」


……


「この言葉の流れはマジでスムーズ

海を泳ぐ私はミューズ

サーズを届ける女将は女神


脳内でビートが鳴り響く

リズムに乗せて言葉が刻まれる

君と共に進むこのストーリー

私は女将、君の冒険の旅路


世界の隅々まで届くメッセージ

このラップで感じる知識のエッセイ」


見事な女将のラップ。

主がいなくなったことで、水産業は絶好調。

大広間で他の客も集めどんちゃん騒ぎ。


なんといっても、今日の醍醐味は「クラクラーケン」のイカ焼きだ。

といっても、流石に足の一本のみ。本体は何十メートルもあるのだ。当たり前だろう。

キクはスルメが食べたかったらしいが、いざ口にしてみると中々美味だったらしい。

手が止まらず、本来数十人分はくだらない量だったが、キクは半分近く一人で平らげてしまった。


まぁ、正直、中々に楽しかったよ。


だが、ハクレンがいなくなるのだ。

そんな中で食う飯は喉を通らないだろう。

せめて雰囲気だけでも楽しめという女将なりの気遣いだろうか。


本当に、いなくなるんだなぁ。




数時間程経過した。


星々が輝き一番星が良く照らされている月夜。


心地よい風が広間を覆う。

「寂しくなるなぁ」「あはは、泣かないでよ、ナズナらしくない」

他の皆は眠りこけ、残った者はいつもの五人。

騒いで食べる宴も楽しかったけど、やっぱり、いつものメンバーは落ち着く。


皆が何か言いたげな様子だが、私も同様、言葉が出ないのだろう。


「あの」鼻水がだらだらで、普段のモネからは考えられない。   

いいや、きっとこれが普通の反応なんだ。

愛する者がいなくなること、これがどんなにつらいか。


「もし、もしです、皆がこの空間から生きて帰っていたら、皆でどこか遊びにいきませんか?」


「それは、楽しそうな提案だね」 紙をどこからか取り出し、謎の番号を記述するハクレン。                              


「これ、電話番号、わすれちゃ、嫌なんだからね」

水でびちょびちょになった紙。そこには、滲んだ文字で電話番号が書かれていた。


「うん、皆忘れないよ」  「エリカ、あ、あ、ありが…」



「うわあああん、わあああん」


いつもしっかり者だったから、その嗚咽を上げる泣き姿には感化されちゃって

みんな、みんな子供のように泣きわめいたんだ。



………



私の家族はね、とっても凄い人ばっかりだったんだ!

お母さんはプロのバトミントン選手!お父さんもプロのサッカー選手!


だからね、おねぇちゃんも凄かったの。

ピアノコンクール優勝。中学生陸上日本一位。

で可愛くて、とっても多才な人。


そんな中、私は生まれたの。


おねぇちゃんと比べると劣っている部分もたくさんあった。

野菜は食べれないし音痴だしわがままだし。

でも、みんなね、とってもね、優しくてね、あぁ、これが幸せなんだって。


あ、あとね!あとね!

おねぇちゃん特製ミサンガはとっても出来が良かったんだ!

色とりどりで、おねぇちゃんが言うには

おねぇちゃんと、私を結ぶ大切なものなんだって!


むすんで、ひらいて

てをうって、むすんで

またひらいて、てをうって


たまにひらいて、てをうって、またむすんで

それが、どんなに幸せだったか。


………


「速報です、中学生の白睡 ユリが交通事故で死亡しました」


おねぇちゃんが、子供を守るために死んじゃったんだ。

信号無視の子供を守るために。当時はニュースにも載ってて、いっぱいの人が悲しんだ。


でも、世間はすぐに忘れてしまった。

親は忘れるはずもない、手塩にかけた娘が、あんなに簡単に死ぬなんて思わないもん。


増える小競り合い、怒号の響く声。


だから、私は思ったの。


私が頑張らないとって。


「お母さま、私、おねぇちゃんの分まで頑張ります」


「そう、じゃあ、あなたは人の百倍努力をしなさい」


おねぇちゃんの分、いっぱい頑張ったんだ。

本当は甘えたかった!ぎゅーってしてもらいたかった!

小学生なんだもん!そのくらい当たり前だよねっ!


ひとりで頑張って頑張って、お父さんも、お母さんも笑顔が少しずつだけど戻っていた。


たくさんの賞を貰った。いっぱいお金も貰った。


失われたものもあったけど、これからは前を向いていこう。


でも、ふとしたときに物凄い絶望感に襲われた。

もしかして、みんな、私の才能にしか興味がなくて。

私自身にはこれっぽっちの興味ないんじゃないかって。


「お父さま、私のこと、好きだよね?」


「あぁ、もちろん、お前を世界一幸せな娘にしてあげるぞ」



もしかして、おねぇちゃんもこの呪縛から抜け出したかったのかな。


みんなと何かを成し遂げたかった。


私はただのか弱い乙女。みんなと、何かを成し遂げたい夢見る乙女なの。


この鳥籠から羽ばたきたい。


ゲームのキャラのように、アニメのキャラのように。


いつか、背中に翼が生えて、お空の上で皆を眺めたいな。


あぁ、どこかに轢かれそうな人間いないかなぁ。



…………


「おかあさま、おとうさま」 「まさか、夢にまで化けて出るとは思わなかったよ」


「もう、すなおになってもいいのでしょうか」


「えぇ、蓮、ごめんね、お馬鹿な親で、ごめんねぇ」


「あぁ、せめて、この時間だけは、存分に甘えなさい」


「うわあああん、さびしかったよぉ」 「あぁ、悪かった、本当に悪かった」


「みんなでさ、おねぇちゃんも一緒に、釣りに行こうよ!」


「ははっ!パパが大物釣っちゃうぞ~!」 「もう、調子いいんだから!」


………


「みんなぁ、わたし、もう楽になってもいいのかなぁ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ