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第8話 少女は、猫又を助ける

 謎の家族会議の日があった翌日の昼頃、私は学園の裏にある山に来ていた。

 今日は学園が休日で家で過ごす予定だったんだけれど、スティー君が学園に用があったらしくて、その付き添いで学園まで一緒に行くことにした。

 それに、家に居たらお母様やお父様とかに捕まってしまって、無駄な買い物に振り回されたり、着せ替え人形にされたり、と私の自由な時間が無くなりそうで嫌だったから逃げてきたのもあるんだけれどね。


 学園まで来て、図書室で勉強でもしようかなとも思ったけれど、なんかルナリアちゃんのことが気になってしまって、気づいたら山の目の前まで来てしまっていた。

 せっかくだし様子だけ見ようと思い、山に入ることにした。


 山に入ってみると僅かに霧のようなものが漂っていた。

 空気が澄んでいて、美味しい。

 初夏ということもあって、だいぶ緑が増えてきているようだった。

 よく見ると、あちこちに薬等の材料になる薬草がたくさん生えていることに気が付いた。

 こんなにあるのに、誰も採取しに来ようと思わないから、少しもったいない気がする。


 その理由はとしてこの山には、いろんな噂があって、特に有名なものが二つあるからだ。

 一つ目は、一度山に入ってしまうと出られなくなってしまうという噂。

 もう一つは、山に入ると二度と会えないはずの人やいつ会えるか分からない大切な存在に会えるんだとか。

 でも、大切な人と一緒に長い時間過ごしてしまうと、霊的な存在がいるところへと連れていかれて二度と、現世に戻ってこられないという噂もある。

 この二つの噂の真に怖いことは、昔、本当に行方不明者が出たことがあるということだ。

 そんなこともあって、この山は『幻惑の森』と言われていて、誰も近づこうとしない。


 スティー君は、ルナリアちゃんがこの山の守護者ともいわれているって言っていたのに、なんでこんなことが起こってしまっているのかな。

 ルナリアちゃんと何か関係があるんだと思うけれど……嫌われているから、教えてくれないよね。

 最悪、スティー君に聞いたら教えてくれると思うけれど、それはなんか違う気がする。


 考え事をしながら歩いていると、開けた場所まで来た。

 そこには、白色の小さな花がたくさん咲いていた。

 どうやら、『ルナリア』という花の群生地だったらしい。


 こんなところに、ルナリアがたくさん咲いているなんて。

 あ! もしかして、ルナリアちゃんの名前ってこの花からつけたのかな。

 それにしても、誰も手入れをしていないはずなのにこんなに綺麗だなんて、なんだか『幻惑の森』というよりも『幻想の森』の方が正しい気がする。


 しゃがんで、ルナリアの花を触ってみると少し湿っていた。

 雨は、降っていないはずなのになんで濡れているんだろう。

 そう、疑問に思っていると、突然、声が聞こえた。


「な、なんであんたがここにいるの!」


 声の聞こえた方へと振り向くと、そこには尻尾が二つに分かれている黒猫がいた。


「ルナリアちゃん! えっと、ルナリアちゃんを探して歩いてたらここにたどり着いたんだよ」

「そんなわけない! ここに来られるはずがないのに」

「?」


 相変わらずルナリアちゃんは、警戒心が強く、私に向かって威嚇をしてくる。

 来られるはずがないってどういうこと?

 普段は来られないってことなのかな。でも、私は来られたし……。

 そういえば、今日のルナリアちゃん、この前会ったときとなんか違うような。


「早くここから出て行って!」

「え? で、でも、私、ルナリアちゃんと話したいんだけど。それに、ルナリアちゃんって、もしかして……体調が悪いの?」

「そ、そんなわけない! とにかく、早くここから出て行ってよ!」


 ルナリアちゃんの言葉に反応したのか、霧のようなものが濃くなり視界が遮られた。


「ルナリアちゃん!」


 叫んだ反動で、霧を吸ってしまう。

 どうやら霧? 空気? が変な方へ入ってしまったようで咳を何回かする。

 霧が晴れ、視界がクリアになるとそこには白い花の群生地は――なく、山の麓辺りに居た。

 近くに学園があることから、今日、山に入った場所の辺りに飛ばされたのかな。

 ルナリアちゃんが近くにいないか周りを見渡してみたけれど、そのような影は見えなかった。

 ルナリアちゃん、どうしてこんなことを?

 それよりも、なんだか頭がくらくらして、考えることが出来そうにないな。

 取り敢えず、スティー君に話をしないと――。

 立ち上がろうとして、私は地面へと倒れた。


「――ラ。お~い、レイラ、起きて」

「う~ん、ってスティー君!?」


 目が覚めるとスティー君が私の顔を覗き込んでいた。

 私、ルナリアちゃんと会ってそれから、飛ばされて――もしかして、寝ちゃってた?

 起き上がると、周りには木などはなく、いたって普通の教室に資料が壁沿いにたくさん置いてあった。

 スティー君がいつも魔法を教えてくれる教室に移動させてくれたのかな。


「スティー君、ありがとうね」

「? どういたしまして? あ、それよりもレイラ。何であんなところで寝てたの?」


 そういえば、何で寝ていたんだろう?

 何か、ヒントは――そういえば、霧が強くなったのとそれを吸い込んでしまったことに関係があるかな。


「霧? が関係あるのかな」

「霧って、まさかレイラ、ルナが創った霧を吸い込んだの?」

「え? うん」


 そういうことか、と納得しているような様子。

 ルナリアちゃんが創ったってやっぱりあの霧ルナリアちゃんと関係があったんだ。


「普通なら、あの霧は人を惑わしたり、方向感覚を狂わせたり、幻覚を見せたりするだけのものなんだけど、霧を吸い込みすぎると睡魔に襲われてしまったり、最悪、後遺症が残ったりするんだよね」

「後遺症?」


 後遺症ってそんなに危険なものなのかな。

 後遺症という言葉に私は、少しだけ心配になった。


「例えば、本来いないはずのものが見えるようにたってしまうとかかな」

「それって、スティー君みたいな幽霊が見えるようになるってこと?」

「とは、ちょっと違うかな。僕たちは冥界の人間で一応存在はする。けど、後遺症の方は、その存在すらないものが見えるってことかな」


 それって、私も当てはまるのかな。

 結構、濃い霧を吸ってしまったし。


「レイラは、後遺症は残ってないみたいだから大丈夫だよ」

「そうなんだね、良かった~」


 安堵するのと同時に、なんでわかったのか気になったけれど、スティー君に聞いたところで、これぐらい普通じゃない? って顔をされる気がする。

 うん、聞くのはやめておこう。


「でも、レイラ。何でそんなことになったの?」


 そういえば、話していなかった。

 今日の出来事をできるだけ簡単に要約して話す。


「そんなことが。確かに普段のルナなら感情的になったとしても霧が濃くなったりしないはずだよ。ましてや、ルナのお気に入りの場所である『ルナリア』の群生地に誰かを入れるなんてことはないから。体調が悪いのはあってるかもしれないね」


 やっぱり、ルナリアちゃんに感じた違和感は合ってたんだ。

 だとしたら、今も苦しんでいるんじゃないかな。

 そう思うと、私は立ち上がりドアを開けた。


「いきなりどうしたの?」

「ルナリアちゃんが体調が悪いなら放っておけないし……。それに、確信はないけれどなんだか嫌な予感がするから、ルナリアちゃんのところへ行こうと思って」

「でも、霧がまだ濃くて危険な可能性もある。それに、レイラは人間だ。そこまで体を張ることはないんじゃないかな」


 スティー君も立ち上がると私の腕を掴んだ。

 ルナリアちゃんの元に行こうとする私を止めようとして。

 言い方は優しいけれど、注意しているのがよく分かる。

 私は人間で、本来住む場所も違う幽霊などと関わるはずがなかった。

 それに、霧の後遺症が残ってしまう可能性もある。

 でも、だからと言って見捨てるなんて私にはできないよ。

 だって、私もうルナリアちゃんと関わってしまって、ルナリアちゃんのこともっと知りたいから。

 とはいっても、ただ体調が悪いだけかもしれないんだけどね。


「私は、もし霧が濃くても行くし、人間だけれど種族や住む世界が違うからと言って助けない理由にはならないよ。それに、スティー君も同じことをしてくれたから、人のこと言えないんじゃないかな」

「それは――。はぁ、分かったよ。それじゃあ行こうか」


 少し困った様子で笑うスティー君。

 良かった、認めてくれて。

 それに、スティー君も来るなら万が一何かがあった時にも安心だからね。


 それから、私たちはスティー君の案内の元、ルナリアの群生地へと向かっていた。

 急ぐわけではないけれど、嫌な予感がしていたので走って移動することにした。

 スティー君曰く、ルナリアちゃんは特に何もないと基本的にそこで暮らしているらしい。

 私が眠っていたということもあり、日はとっくに暮れかけていた。


「もうすぐ着くよ」


 私の前を走っていたスティー君がそういうと目の前に白い花が見えた。


「着いた! ってどうしたの?」


 スティー君は、突然立ち止まったかと思うと私の方を見て静かにとジェスチャーを送ってくる。

 それに対して、私は口を両手で塞ぎ、頷いた。

 それにしても、静かにしないといけないようなことがあったのかな。

 病人って、人ではないけれどうるさくしてしまったら良くないからね。

 でも、私の予想とは違ったようだった。


「あれを見て。ルナが人に襲われているようなんだ」

「え? ルナリアちゃんが?」


 スティー君が小さめの声で話すのを見習って私も小声で話す。

 スティー君の視線の先を見るとスティー君が言った通り、ルナリアちゃんが三人の男の人に襲われている様子だった。

 あれ? 学園の制服を着てる。

 ってことは学園の生徒ってことなんだろうけど、なんでルナリアちゃんのことを知っているんだろう。

 そういえば、ルナリアちゃんと出会ったのって学園だったな。

 その時に見られたってこと?

 観察をしていると、その男子生徒に見覚えがあることに気がついた。


「あれって、アルタ君達?」

「知っているの?」

「うん。たぶんなんだけど、私のクラスメイトのラース・アルタ君とその取り巻きってところかな」

「そ、そうなんだ。それにしても、何をしているんだろう? 善行をしているようには見えないけど」


 スティー君が言う通り、どう見てもルナリアちゃんが嫌がっている様子だった。

 二人で木や草むらの中で身を潜めていると、声が聞こえてきた。


「此奴さえ捕まえられれば、レイラよりも成績が良くなるはずなんだ!」

「「「!」」」


 今、私の名前言ってたよね。

 私のせいでルナシアちゃんが捕まりそうになってるってこと?

 でも、なんで? 

 ルナリアちゃんを捕まえた所でルナリアちゃんがアルタ君の事を主として認めなければ、アルタ君の成績にははいらないはずなのに。

 それに、ルナリアちゃんはスティー君の事を主と言っていた。

 だから、アルタ君が主になることはないと思うんだけど。

 それに、アルタ君は、いつも私に向かって突っかかってくるけれど、こんな事をするような人だとは思えなかった。

 だって、仲間思いで、学園の植物とかを大切にお世話しているところだってみたことがあるから……。

 優しい人だと思ってたのに、なんでこんなことを?


「なんで、珍しい属性で魔力が多いってだけで、彼奴がクラスの中で、一番なんだよ!!」

「それは、あんたの努力不足じゃないの? あいつは最近、主の周りに現れてルーも嫌い。だけど、毎日、魔法の練習をして、時間があれば勉強をしている……それだけ、努力しているんだよ! だから、あんたの努力不足を人のせいにするのは間違っているとおもう!」


 ルナリアちゃん、そんな事思ってたんだ。

 嫌いって言われるのに、その言葉が嫌だと思わないのは、なんでだろう?

 きっと、私の事をちゃんと見てからの言葉だからかな。

 それとも、嫌いと言いつつも私の事を認めてくれていたからかな。

 そんな事を考えていると、後ろにいた二人が首輪のようなものを取り出して、アルタ君に渡した。


「確かに、そうだ。だからといって、お前を捕まえない理由にはならないがな! この首輪さえあれば、おまえも俺のものにできるんだから!」


 あの首輪、なんだか変な感じがする。


「あの人たち、なんであんな危険なものを持っているんだ?」

「危険って?」

「あの首輪は、着けられた者は着けた者を強制的に主と認めなければいけなくて、それは他に主がいたとしても、可能なんだ。だから、今のルナの主は僕だけれど、あの人がもしルナに首輪をつけてしまったとしたら、あの人が――いや、あいつがルナの主となってしまうんだ」


 苛立っているのか、普段温厚なスティー君の人に対しての呼び方が荒っぽくなっていた。

 それもそうだよね。

 だって目の前で大切な家族のような存在が奪われようとしてるんだから。

 それなのに、スティー君はこの場から動こうとしない。

 ルナリアちゃんは、青色の高熱の炎を出せるぐらい強いから信じているだけなのか、それともスティー君が魔法をアスタ君に向けてはなっても攻撃をできないからなのかは分からない。

 でも、ルナリアちゃんは人見知りだって言っていたし、なんだか人に対して恐れているような、怯えているような気がして、人に魔法を使おうとするようには見えないから、前者はない気がするんだよね。

 それに、強がりのようなかんじもするから。

 だったら、スティー君が動こうとしないのって後者なのかな。

 私が、ルナリアちゃんを助けないと。

 それに、私の事をしっかりと見てくれたルナリアちゃんを私は、スティー君が先頭を出来る出来ないに関係なく、助けたい!

 だけど、最近まで魔法が使えなかった私が出ていってもいいのかな。

 私が悩んでいると、ずっと逃げていたルナリアちゃんは、転んでしまったようでそれを見かねたアルタ君がルナリアちゃんのことを捕まえようとする。

 それをみて、私は悩みなど関係なく気が付いたら走り出していた。


「私の友達に手を出さないで!!」


 両手を広げて、ルナリアちゃんとアルタ君の間に入ると二人とも驚いているようだった。

 ついでに、いつだか使い損ねた私の兄様に対してはなった竜巻をアルタ君に向けて放ち、アルタ君とルナリアちゃんの距離を遠くさせた。


「うぐ、な、なんで、レイラがここにいるんだ!」

「なんで、あんたがここにいるの!?」


 アルタ君は、魔法を受けたのにも関わらず叫べる体力だけはあったようだった。

 なんで、って言われても嫌な予感がしたからとは言えない。


「あ~、そういうことか。あのお方が言っていたこの猫の近くにいる強力な魔法使いとはレイラのことだったのか」

「何を言っているの? 私が強力な魔法使いなわけがないよ。だって、魔法も最近使えるようになったばかりなんだから」


 それに、きっとスティー君のことな気がする。

 でも、何でアルタ君が言っていた『あのお方』は、スティー君の存在を知っていたんだろう?

 考え事をしていると、スティー君がいきなり叫んできた。


「レイラ! 危ない!」

「え?」


 目の前を見ると、短剣を持ったアルタ君が私に向かって短剣を突き刺してきた。

 アルタ君も、殺すつもりはなかったようで、急所を外して腕を刺してくる。


「ア、アルタ君? 何で刺したの?」


 腕を刺されて正直痛くて、どうしようもなかったけれど、ここで音を上げてしまうのはいけないと思い、刺されていない方の手で刺された部分を抑えながら、痛みをこらえた。


「そんなの決まってる。お前が邪魔だからだよ」

「アルタ君は、私が邪魔だとしてもライバルとかそういう存在だと思ってたのに――」

「そんなこと思ってるのは、お前だけなんだよ」


 私と、アルタ君の様子にルナリアちゃんとアルタ君の取り巻き二人は少し驚いているようだった。

 ルナリアちゃんは、後ろで何で助けたの? って問いかけてくるし、取り巻きの二人は、そこまでしなくても良かったんじゃ、とおどおどしているようだった。

 それよりも、なんだか意識が段々遠のいていくような感覚がする。

 これも、ルナリアちゃんの霧の影響なのかな。

 でも、そこまで長くいなかったし、霧も濃くなかったのに、何でだろう。

 私は、会話の続きをする間もなくその場に倒れた。


「レイラ! やっぱり、毒入りの短剣を刺されたのか」


 スティー君が駆け付けてくれる。

 ルナリアちゃんも心配そうに見つめている。


「どく、入り?」

「この毒、数分も経たないうちに死亡する猛毒だな。なんで、こんな代物をあいつが持ってるんだよ。とにかく今はしゃべるなレイラ」


 少し、口調が変わったスティー君に、驚くそぶりも見せずにルーのせいで、と自分を責めているルナリアちゃん。

 それから、私の言葉を聞いて知ったのかアルタ君が驚いている。


「そんな、これってただの短剣じゃないのか? 毒入りの短剣? そんなわけがないよな」


 俺は、レイラを殺そうと思ったわけじゃないのに、と今更ながら反省しているアルタ君。


「あんた、あんたのせいで、レイが死にそうなの! あんたの我がままのせいで……」

「!」


 今、名前、呼んでくれた。ルナリアちゃんが。

 嬉しいのにそのことを言葉にできないのが惜しい。

 一度、黙ったルナリアちゃんはもう一度口を開く。


「主。ルーは、ルーは主やレイを助けられる力があるのに、ルーが嫌だというばっかりに、使わないで、いなくなってしまうぐらいなら、ルーがこれからいじめられてしまうことになっても、使わないのはもうやめる!!」

「! でも、それだとまた狙われるかもしれないよ。それでもいいの?」


 何を話してるんだろう。

 もう、耳も聞こえなくなってきた。


「うん。もう決めたことだから。それに、ルーが狙われるようなことがあったら、その時は二人が助けてくれるでしょ。昔や今のように」

「そうだね」

「何をしようとしているんだ? もう毒が回って対処なんてできないはずじゃ。それに、誰と話して――」

「誰だっていいでしょ。反省しているなら、後でレイにしっかりと裁きを受けるんだよ」


 ルナリアちゃんがそういうと、周りに咲いているルナリアの花が輝きだした。

 それから、不思議と満月はいつもより輝いているように見えた。


「『エクストラヒール』」


 ルナリアちゃんがそういうと、痛みが引いて、体が軽くなったように感じた。

 それから、なんとなく起き上がれる気がして、上半身を起こしてみると、本当に起き上がることができた。


「あ、れ? 私、数分後には死んじゃうんじゃなかったの?」

「それはね、ルーの魔法でレイを回復させたんだよ」


 それってどういうこと?

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