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第7話 少女は、家族会議に参加する

 今、私の目の前ではスティー君の処遇についての家族会議が行われている。

 というよりも、スティー君に対しての評論会みたいなものだけれど。


「スティーとかいうどこの馬の骨かも分からない若造に、大事な娘を渡すわけにはいかん!!」

「その通りです、父上! いっそのこと、決闘でもして敗者は勝者の言うことを聞かなければならないとかそういったものをやっても良いのではないでしょうか」


 挙手をしながら、発言をする兄様。

 うん。もし、お父様と兄様、弟が三人がかりでスティー君に決闘を申し込んだとしても、スティー君に勝てているイメージがなかなかつかない。

 だから、止めた方がいいと思うんだけれど……。


「うむ。それは良いな」

「ボクも賛成!」


 そこに、加わる、私の弟。

 かれこれ、こんな感じの会話を30分ぐらいされているのにもかかわらず、当の本人はというと、私の入れた紅茶を呑気に飲んでいる。

 というのも、スティー君曰く、生前使っていたものや私が直接触れたものに関しては、持ったり、使ったりするなど干渉することができるんだとか。

 って、それはそうと、なんで、こんなに冷静なんだろう? 結構、ひどいことを言われている気がするのに。


「では、早速決闘ができるように手配して……」

「ちょっといいかしら」


 ここにきて、お母様が話に入ってきた。

 さっきまで、全然話に入ってくる気がなさそうに見えたのに。

 何なら、呆れていて、冷めた目で見ていた気さえするのに。


「何でしょうか? 母上」

「まず、客人に決闘を申し込むのを止めなさい」

「「「でも(だが)!」」」


 男三人の声が重なる。

 スティー君は、その間もあたかも他人事のようにしている。

 姉様も他事を考えているのか、どこか上の空のように見えた。

 それにしても、お母様が止めてくれて良かった。

 スティー君にこれ以上迷惑かけるのも嫌だったのもあるけれど、何よりも誤解されたままなのが嫌だったから。


「『でも』ではありません。これで、もしもこのお方が隣国の大事なお客様だった場合、この対応は外交問題に発展しかねません」

「だが、陛下からは何も聞いておらんぞ」

「そうかもしれませんが、そもそもお客人に対する対応として間違っているのです。貴族として恥ずかしくはないのですか」

「……」


 当たり前のことを言われて、口が出せなくなるお父様。

 お母様がしっかりとしていてよかった。

 私が安堵していると、お母様が席を立ちあがりスティー君に向かってお辞儀をした。


「ということで、私の愚夫と愚息が失礼しました。それでなんですが、名乗っていただけますでしょうか? 貴族の方であればある程度の顔と名前は覚えているのですが、あなたの名前も顔も知らないので……。本当に、申し訳ないです」


 お母様が頭を下げていることに対して、驚きつつも少し不貞腐れたままのお父様たち。

 お母様はというと、顔を上げて椅子に座るとスティー君の様子をうかがっているようだった。

 そんなお母様の様子にスティー君は、持っていたティーカップを机の上に置き、立ち上がった。


「それぐらいで謝らないでください。僕の名前は、スティーリア・ネーヴェです。僕は……」

「ねぇ、レイラ。今、スティー君は話しているの? 口が動いているのは分かるのだけれど、私の耳には声が聞こえてこないの」


 スティー君が自己紹介をしているとそれを遮るようにお母様が私に聞いてきた。

 あ、そっか。声が聞こえるのって私だけなんだよね。

 そもそも、私の家族が見えていること自体、不思議なことなのを忘れていたよ。

 遮られた事を怒る様子も驚いた様子もなく平然としているスティー君に話していいかなとアイコンタクトをとる。

 それで、伝わったのか良いよ、とでもいうように微笑んで頷くスティー君を見て、私は家族に向かってスティー君の素性を話すことにした。


「スティー君は、話してるよ。声が聞こえないのはスティー君の種族って言えばいいのかな。それに、関係があるんだよね」

「スティー君は、人族ではないの?」

「元人族、だけどね。今は、幽霊で一部の人にしか存在を気づかれないんだって。気づかれたとしても、今のみんなみたいに姿だけが見える場合と声だけが聞こえる場合があって、私の場合は特殊なケースっていうのかな。私は、スティー君の姿も声も聞こえるから、本当に気づかれないって事を実感したのもついさっきだったからね。それに、スティー君は、この前まで王立魔法学園の地縛霊だったんだって」


 てっきり、スティー君が『幽霊』とか『地縛霊』だとか言ってしまったら、即刻浄化するぞ! なんて言い出すかと思ってひやひやしていたのにそう言うのはないんだな。

 スティー君に危害が加えられないならそれでいいよね。


「この前とは、今は違うのか」

「うん。今は、私の守護霊になってくれてるんだ」

「守護霊って、やっぱり近づけてはいけない存在だ!」


 なんでー! と思わず叫びそうになって慌てて口を両手で塞いだ。

 守護霊って普通に考えたら私のことを守ってくれるんだから良いはずじゃないの!?

 幽霊とか何にも気にしていなかったのに、守護霊でそんなこと言いだすなんて思わないじゃん!

 私の驚きをよそにどんどん話が進んでいく。


「ボク、光属性持ちだから浄化しようか」

「それは良い案だな。そう思いますよね、父上」

「あぁ、そうだな」


 あぁ、どう考えても力の無駄遣いをしようとしてる。

 本当に、止めて。これ以上、醜態をさらさないで。

 しかも、恩人であるスティー君の前で。

 お願いだから、やめて欲しい。

 私は、あまりの恥ずかしさにその場を逃げたくなってしまう。

 こんな時に使う言葉って確か『穴があったら入りたい』だった気がする。

 カイトさんの本にそんなことが書いてあったような。

 他のことを考えて、気を紛らわしていると私の願いが天に届いたのかスティー君が止めに入ってくれた。


「盛り上がっているところ申し訳ないんだけれど、僕には魔法は効かないよ。あ、ちなみに、幽霊だから物理も当然効かないけどね」

「「「「「――!」」」」」


 スティー君! 止めてくれてありがとう! でも、スティー君の声って誰にも聞こえないんじゃないのかな

 ってあれ? なんでみんな固まってるんだろう。

 私が疑問に思っていると、お父様の口がわずかに動いたのを私の目がとらえた。


「ゆ、ゆ、幽霊が話しただと――!」


 やっぱりそうよね、とお母様たちもお父様の言動に頷く。

 話した? ってことは、スティー君の声がお父様たちの耳に届いたってこと。

 でもそれって、どうやってやったんだろう。


「? どういうこと? スティー君」

「それはね、僕のオリジナル魔法で声帯を作って、皆に聞こえるようにしただけだよ」


 それだけだよ、ってさらっと凄いことを言っているけれど、私は既にスティー君のことは常識はずれの異常人判定していたので、なんとも思っていなかった。

 でも、家族は違ったようで――。


「え、今、魔法を創ったって言ったような。いや聞き間違いだよな」

「そんなことないよ。だって、ボクにもそういう風にきこえたもん」


 等と話している。

 私もついこの前までそっち側だったのに、いつの間にかスティー君側になってしまっていたみたい。


「あ、ちなみに言っておくと魔法を創れるのは僕だけじゃないよ。レイラとか無属性持ちだったら誰でも創れるからね」


 と言ってしまうから、さらにざわつく家族。

 ちょっと、スティー君も少し黙っててもらいたい。


「では、スティー君も無属性持ちということなのでしょうか」

「うん。そうだよ」


 唯一冷静さを保っていたお母様が疑問を口に出す。

 スティー君は、その疑問に優雅に紅茶を飲みながら答えていた。


「でしたら、お願いなのですが、レイラに魔法の使い方を押してもらえないでしょうか」


 お母様――! お母様は、やっぱり子供のことを第一に考えてくれていい親だよ。

 それに比べて、お父様といったら、私の気持ちも考えないで。

 はぁ、とついついため息が出てしまいそうになる。


「それだったら、もう既にやってるから大丈夫だよ」

「あぁ、だからさっき恩人っていっていたのね。それよりも、スティー君のお名前を知りたいのだけど」


 ここにきて、ついに姉様が話に入ってきた。

 さっきまで、何を考えていたのかが少しだけ気になるけど、しっかり者の姉様のことだから仕事のことでも考えていたんだろうな。


「そういえば、名前を言っていなかったね。では、改めて僕の名前はスティーリア・ネーヴェと申します。レイラの守護霊になったので、これからよろしくお願いします」

「そうか、スティーリア・ネーヴェ――だと! なぜ、公爵が幽霊に!」


 ん? 今、公爵って言った?

 誰が、公爵なの? スティー君、確かに貴族だった、って前に言ってた気がするけど、公爵だったなんて聞いてないよ。


「お父様、スティー君のこと知ってるの?」

「知ってるも何も、シルフィード家の秘蔵である魔導書を書いたお方であり、シルフィード家が辺境伯になれたのも、ネーヴェ公爵がいたからだぞ。だが、公爵という爵位はスティー……スティー殿の一代だけだったそうだが……」


 当主の許可がないと読めない秘蔵の魔導書がスティー君が書いていたの!?

 それに、スティー君、一代だけ公爵だったってことは、スティー君が国王様から爵位をもらったってことだよね。

 でも、スティー君って十五歳の時に亡くなったって言ってたし、どれだけ規格外なの。


「えっ? スティー君ってそんなに凄い人だったの!? だったら、気軽に『スティー君』って呼べないね。というか、何でもっと早く教えてくれなかったの」

「まぁ、ね。それと、呼び方も今まで通りで良いよ。教えなかった理由は、教えちゃうとレイラが恐縮してしまって、魔法を教えてもらうのを止めるって言い出しそうだったから、かな」

「それは、反論できない……」

「それはそうと、レイラのご両親方は、こっちに来ていないって聞いていたんだけど、なぜこちらに来ているのですか」


 私の反応に、少し笑ったあと、話を変えた。

 スティー君、私のことを揶揄った? って、さらっと話題変えてる。

 でも、私も気になってたことだからまぁ良いかな。


「それはだな、もうすぐ学園の王立魔法大会があるだろう。それを国王陛下とそのご家族が観戦されるようでな。それで、国王陛下の護衛になってほしいと依頼を受けてここまで来たのだ」

「私も同じような理由ですね」

「ボクはお姉ちゃんの試合の観戦~!」


 お父様、私とか家族が関わらないとしっかりしているのに……なんだか、もったいない気がする。

 って、なんか私出場することになってない!? 最近、魔法をやっと使えるようになったばっかりだってのに、無理だよそんなの。


「そうなんですね。それで、レイラは、試合に出るの?」

「で、出るわけないよ。そもそも、魔法だって少ししか使えないんだから」


 両手と首を左右に動かして否定する。

 それを残念に思ったのか家族全員が落胆した様子だった。

 そんな中、スティー君は一人何かを考えるような仕草をしていた。


「レイラ。それはちょっと語弊があるかも。前提として、レイラは魔力量が全世界を見渡しても人族の中で一番多い。それに、レイラの年代で無詠唱魔法を扱えて、さらに五つの魔法陣を同時に出せるという事は出来る人はそうそういないよ。だから、レイラが魔法大会へ出ると言ってもあまり驚かないし、むしろ僕としては弟子のような存在のレイラが出てくれるだけで誇らしいよ」

「! そっか。だったら、出てみようかな。魔法大会」


 私が俯きながら、自信なさげに言ったのにもかかわらず、この部屋に居た人は全員聞こえていたらしく、家族はというと凄く喜んでいた。

 それは、これからパーティーを始めるぞっといった勢いだった。

 もちろん、それは全力で止めたけれど、こうやって魔法大会に出ると決意できたのも、家族を笑いながら止めているのも全てスティー君のおかげだ。


 スティー君、いつもありがとうね。


 ◆ ◆ ◆


 そこには、暗い路地裏で怪しい話をしている男四人がいた。


「ほぅ。人の言葉を発し、青白い炎を出せる尾が二つに分かれた黒猫か……。確かに、興味深いな」


 フードを深くかぶり、顔の見えない男がそんなことを言うと、王立魔法学園の制服を着た男の一人がすがるようにしていた。


「そうですよね!? 俺達もそう思って、そいつを何とかしてでも捕まえたいのです。なので、どうか、お助けを」

「良いだろう。そうだな……お前にはこの短剣を渡しておこう」


 フードをかぶった男は少し考えると、マントの中から一つの短剣を出す。


「短剣、ですか? これは、猫を捕まえるのに関係があるのですか?」

「あぁ。恐らく、その猫の近くにはお前よりも強い魔法使いがいるだろうからな。保険というものだ」


 誰のことだ? と制服を着た三人の男たちは顔を見合わせたが、この男の言っていることが間違っていたことがないので信用するようにしたようだった。


「そうなんですか……。これだけでは、非力な俺達では、捕まえられない気がします」

「仕方がないですから、後ろの二人には付けたら主人に逆らえないようになる首輪を渡しておく。とても貴重なものだから、くれぐれも大事に扱いたまえよ。捉えられなかったら……分かっておるよな」


 フードの奥から、鋭い眼光が見える。


「「「はい! 存じております!」」」

「ならば良い。失敗するなよ」

「承知しました!」


 フードの男は瞬きをすると既にそこにはいなくなっており、残された三人は、それぞれ散らばっていった。

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