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第1話 少女は、幽霊少年に会う

 学園に入って一ヶ月が経った。

 初夏に差し掛かっているということもあり、日差しが温かい。

 私は、学園に入っても未だ魔法が使えていない。

 なんで、魔法学園に入ったのかすら分からなくなってしまう。


 そんな中、放課後に私は旧校舎へと来ていた。

 何故そんなことになっているのかというと、先生が言うには明日の授業で必要な資料を持ってきてほしいからだそう。


 そして、今私がいる旧校舎では、怪異の噂が絶えない。

 最近だと、白い幽霊を見たという人もいるらしい。

 昔から、目に見えない何かが周りにいる気配を感じることがあったから、この学園に入ってからは、その正体が精霊ではなく、幽霊とかだったんじゃないかなとも思い始めている。


 コツ、コツと私の足音だけが聞こえてくる。

 昼だというのに、室内は薄暗く、いかにも何か出てきそうな気配がする。

 それが恐ろしくて、思わず身震いしてしまう。

  こんな時に、光属性の魔法が使えたら……と思うけれど、ない物ねだりをしてもしょうがない。

 先生に頼まれたものを早くとって、この場から立ち去ろう。


 さっきよりも少し足早に歩いていると突然、水の音がした。

 雨漏りでもしているような音が。

 突然音がしたということもあり怖かったが、そんな事を気にせず進んでいくことにする。

 きっと気のせい、だよね、そう思いながら。

 空耳であることを願っているのに、目的の教室に近づくにつれて、どんどん水の音が大きくなっていく。

 それが恐ろしくて、思わず目をつむって全力ダッシュをしてしまった。


「し、失礼します!!」


 目当ての教室を見つけ直ぐに駆け込みドアを閉める。

 教室に入ってから、ドアを背もたれにして息を整えていると水の音がなくなったことに気がつく。

 さっきのは、何だったんだろうと不思議に思いつつも音がやんだことに安堵する。


 教室は、一部物置のようになっていた。

 先生からもらったメモを見ながら教室の廊下側にある資料と見比べ、先生に頼まれていた資料を取る。

 もう、こんな場所からさっさと帰ろうと思い、窓側へと振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


 さっきまで誰もいなかったはずなのに、十二歳前後に見える男の子が座り込んで水球(ウォーターボール)を魔法で作り出していたのだ。

 驚いて思わず、持っていたものをすべて落としてしまう。

 その音に驚いてか、少年が水球を出すのを止め、こちらを見る。

 私も少年のことを見ていたので当然、視線が合う。

 少年は、信じられないといった様子で目を見開いてこちらを見ている。


 それは、こちらからしても同じことで、この子はどこから入ってきたのだろう? とかさっきまでこの子が手の平の上で浮かべてたのって水球だとしたら、さっきの水の音はこの子だったのかな? とかたくさんの疑問が浮かんでくる。

 そんなことを考えながら、少年を見ていると少年が照れ臭そうにしていた。


「そんなにまじまじみられると、さすがに照れるんだけど……て言っても、聞こえていないんだろうな、たとえ僕の姿が見えていたとしても」

「? そ、そうだよね……初対面なのに見ててごめんね」

「……!」


 最後の方は、なんて言っていたか分からなかったけれど、確かにまじまじ見すぎたかもしれない。

 でも、もしも言い訳をしてもいいのならそもそも、この学園の制服を着ていないこと自体不思議なことだし、この学園は、十五歳から入学できるのに十二歳前後に見える少年がこんなところにいるというのも不思議なことなんだよね。

 だから、疑問と好奇心に負けて初対面なのに見すぎてしまったから……。

 自分のことながら見苦しい言い訳だなと思ってしまう。


 うつむいていると、さっき落とした資料が視界に入り、本来の目的を思い出す。

 そうだった、先生に資料を持ってくるように頼まれて来ていたんだった。

 手早く資料を集め、抱きかかえる。


「さっきはごめんね。用事があるから先に出るね。じゃあ!」


 片方の手をあけ、少年に手を振りながら出入口まで行き、ドアノブに手をかけ、教室を出ようとする。

 が、出る前に後ろから誰かに引っ張られるような感覚がした。


「待って!」


 急に引っ張られたこともあり、驚いて後ろを振り返るとさっきの少年がそこに立っていた。


「どうしたの? もしかして、迷子とかだった?」

「そういうわけではなくて……えぇっと、君は僕のことが見えていて、声も聞こえるんだよね?」

「うん、見えてるし、聞こえてもいるよ」


 この子は、何を当たり前のことを聞いているのかな。

 人間なら、当然のことだと思うのだけれど。

 私の疑問はつゆ知らず、目の前で少年は俯きながら、小刻みに震えている。

 答え方を間違っちゃったかな。


「やっと、やっと会えた!」


 顔を勢いよく上げると、私の両手を掴む。

 青い綺麗なその瞳は、きらきらと輝いていて、まるで欲しかったものを買ってもらえた子供のようだった。

 その瞳の綺麗さに吸い込まれていると、私が一番聞きたくない言葉を言われた。


「もしかして君、無属性魔法の使い手だったりする!?」

「! そう、だよ……」


 なんで、そんなこと聞くの?

 私が、一番嫌いなものなのに。きっと、この子も馬鹿にするんだろうな。

 結局、どんなに努力をして、周りの評価が高くなったところで魔法だけは、どうにもならないんだよね。

 少年が、私の手を離すと私は、罵倒されるであろう次の言葉につい、身構えてしまう。


「そっか〜! だから僕のことが見えたのかもしれないね。珍しい属性だし」

「え? 私のこと馬鹿にしたりしないの?」


 私が予想外の反応に驚いていると、少年の方は私の質問に対してきょとんとしている。


「今、君を馬鹿にする要素ってあったっけ? 馬鹿にするというよりも、褒められる要素の方が大きい気がするのは、僕だけだったのかな」

「褒められる? そんなわけないよ。だって、私の使える無属性魔法は、珍しいだけで何もできない魔法なんだから……」

「それこそ違うよ。大体、他の属性魔法は、無属性魔法があったからできたものなんだし。それに、属性だけで人柄を決めつけて罵るような外道にはなりたくないしね」


 そんなこと言ってくれた人は、初めてだった。

 皆、私の頑張りを見て仲良くなってくれている子が多いけど、初めて会ったとき、殆どの人が私を哀れな目で見てきたり、嘲笑ってきたりしてきたのに。

 この子は、皆とは違うのかもしれないな。



「あの、ね。聞いてほしいことがあるんだけど……」

「?」


 それから、私は無属性魔法の詠唱や魔法陣を知らないこと、魔法書を探してもなかったことなどを話した。


「そっか。話をまとめると、魔力はあるけれど魔法の発動の仕方が分からないってことだよね?」

「うん、合ってるよ」

「っていうか、無属性魔法の魔導書を書いたのに何でないんだよ」


 なんか、言っているみたいだったけれど、私の耳には届かなかった。

 きっと独り言だろうから、触れないでおこう。


「ごめんね。初対面なのにこんなこと話して」

「全然良いよ。それよりもさ、君は魔法を使えるようになりたい?」

「もちろん。魔法を使えるようになって、皆を、大切な人たちを守れるようになりたいし、困っている人を助けられるようになりたい!」

「分かった。じゃあこれはあくまで提案だから、断ってもいいけど……君なら、やるっていいそうだね」



「僕が君に魔法を教えてあげるよ」



 少年は、窓に背を向けて手を差し伸べてくる。

 逆光になっていて、神秘的な光景に目を奪われて、思考が停止したように感じた。

 でも、それは一瞬のことで、すぐに疑問が浮かんだ。

 私と、この子の属性は違うはずなのに、どうやって教えるのかな、と。


「もし、魔法が使えるようになるなら、教えて欲しいって思うよ。でも、さっき水球を魔法で作ってたよね? だから、水属性の魔法使いだと思ってたんだけど、属性が違うと教えるのが難しいって先生がおっしゃっていたから、大丈夫なのかなって」

「魔法を教えるのに、属性は関係ないよ。それに、僕は全属性使えるから大丈夫」


 この子、もしかして嘘ついてるんじゃ、なんて思っていると、少年は何を思ったのか、さっき出した手のひらで魔法陣を構築し始めた。


「なんか、信じていなさそうだから証拠を見せるね」


 少年は、火、水、風、土、光、闇……と色々な属性の魔法を見せてくれた。

 その中には、無属性だと思われる魔法もあって、彼が全属性使えるということは本当だったらしい。


「こんな人、初めて会ったよ。昔、全属性使える人がいたって聞いたことはあるけど……」

「あ~、多分それ僕のことだよ」

「それってどういうこと? もしかして、不老不死だった?」


 それなら、私よりも年下の見た目をしているのに、無詠唱で魔法を使えても、不思議ではないかも。

 そもそも、無詠唱で魔法を発動するには、何年もの修行と実践経験が必要だって先生がおっしゃっていたし。


「確かに、魔法を使えばできなくもないけれど、僕の場合は違うかな。だって、僕もう死んじゃってるし」

「それって、幽霊ってこと?」

「そうだよ。昔、ちょっと事故に巻き込まれちゃって。それで、ね」


 少年をよく見てみると、体が少し透けているように見える。

 それから、光が当たっているのに、影がない。

 それは、少年が実体を持っていないという何よりの証拠だった。


「じゃあ、もしかして最近噂の白い幽霊って……」

「それは僕じゃないよ。大体、僕のことが見えたり、声が聞こえたりすること自体が珍しいことだからね。それに、今まで会ってきた人は、そのどちらかしかできなかったし、皆逃げちゃったから意思の疎通すらできなかったんだよね」

「だから、『やっと会えた』って言ってたんだね」

「そういうこと。それで、どうする? 僕に魔法を教わる件は」


 私は、英雄のように、誰もが憧れるような存在になりたいわけではないけれど、今までもこれからも私のことを守ってくれている両親や、あの手この手で、魔法を使えるように教えてくれた先生方、私が無能な属性の魔法使いでも仲良くしてくれた友達、そういった大切な人たちに恩返しがしたい。

 そのためにも、この魔法にまだ可能性があるなら私は――!


「よ、よろしくお願いします! えぇっと……」

「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕の名前は、スティーリア・ネーヴェ。気軽にスティーって呼んで」

「私は、レイラ・シルフォードだよ。私も、レイラで良いよ」

「じゃあ改めて、これから宜しく。レイラ」


 今度こそ、私は差し伸べられた手を取った。


「うん。よろしくね、スティー君」

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