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婚約破棄の片棒を担がされた妹の話

作者: ありま氷炎

「穢らわしい。兄妹でそんな行為を」

「やはりアルベータの血は畜生の血だったのね」


 昨日までちやほやしていた貴族たち。

 それが手のひらを返していく。

私はファミール王国の王女だった。

 兄である王太子との関係を疑われ、父である王、義理の母である王妃の前で、断罪された。

 未来の義姉と異母兄によって。

 私と兄が不適切な関係にあると。

 兄と私は、前王妃の子だ。

 母は魔女の末裔と呼ばれた赤い目を持つ女性だった。

 王は母に一目惚れし、当時の婚約者である現王妃と婚約破棄をして、母を王妃に迎えた。

 母が私を孕っている時に、異母兄の存在が明らかになった。

 父は、王は婚約破棄後も現王妃との関係を続けており、子までもうけていた。その事実に耐えきれなかった母は私を産んだ後、亡くなったそうだ。

 だから、私には二人の兄がいる。

 母が亡くなり、一年後、父は元婚約者であった女性を新たな王妃として迎えた。そして異母兄は正式に王子となった。

 兄は父に容姿が似ていて、優秀でもあったため、彼の地位は揺らぐことはなかった。けれども私、私は母によく似ていたため、王妃様から冷遇された。もちろん、虐待なんかされたことはない。私のドレスの予算が低かったり、宝石類が用意されなかったり。そんなことだ。

 父は王妃様を寵愛した。まるで罪滅ぼしをするように。

 王太子であった兄は、父に放置され、王妃様に冷遇される私を気にしてくれ、時折父に苦言を申すこともあった。

 それがいけなかったのかもしれない。

 ある日、兄と私は断罪された。

 兄は婚約者に裏切られる形だった。

 

「兄上。ごめんなさい」

「お前のせいではない。泣くんではない。私たちはまだ生きている。首を刎ねられなかっただけよかったじゃないか」


 近隣諸国では婚約破棄を原因に首を刎ねられた王族がいる。

 それに比べると私たちは放逐なので運がいいかもしれない。

 でも、何もしてないのに?

 私たちは、兄と妹として手を取り合って、あの城で生きていただけなのに?


「……そうは行かないか」


 私の手を握ってい兄が、手を離した。


「どうしたの?兄上?」

「ソフィー、逃げろ!早く!」

「あ、兄上?」

「追手がいる。お前と一緒に逃げるは無理だ。私が引き止める。だからお前は逃げろ!」

「そんな!兄上!」

「ソフィー。お前は私の希望だ。頼む。逃げてくれ!」

「兄上、いや、いやよ。私もここで」

「私に最後に希望をくれ。絶望のまま死なさないでくれ。頼む!」


 兄上が泣くのを初めてみた。

 愛した婚約者が裏切った時すら、涙を見せなかった兄上が。


「わかりました!兄上も、生きて、生きてください。いつかお会いしましょう!」


 卑怯だと。

 私の中のもう一人が叫んでいた。

 けれども私はその声を殺して、走った。

 背後から怒声が聞こえ、剣が打つかる音。

 兄上!

 涙が溢れて視界がぐちゃぐちゃになった。

 けれども足を動かし続けた。


「ソフィー!」

「だ、誰?」


 突然現れたその人は、空を飛んでいて、真っ赤な瞳に黒髪の女性だった。

 私と同じ……


「ああ、会ったコトなかったわね。私はあなたのお母さんの妹、レーナよ」

「レーナ?」

「あなたを助けるためにきたのよ。私のところへおいで」

「助ける?それなら、兄上も一緒に!」

「兄上。そういえばもう一人いたわね。どこにいるの?」

「こっち!」


 私は元の道を走り出す。

 すると血に濡れた兵士が数人現れた。


「殺せ!」

「何を言っているのかしら?」

「ま、魔女?」


 レーナさんは私の後を追ってきてくれて、ふわふわを私の後ろを飛んでいた。


「レーナさん、よろしくお願いします。私は兄上を探しに行きます」

「わかったわ!」

「うわっつ」


 兵士たちが突然苦しみ出して、私のことなど構っていられなくなった。

 どうしてなんて、わからない。

 兄上の元へ行かないと!


「あ、兄上!」


 血溜まりの中に兄上はいた。


「どうして、なぜ」


 地面に伏せったままの兄上、ぴくりとも動かなかった。

 腰を下ろして、顔を触る。

 ひどく冷たくて、息なんかしてなかった。


「なぜ、どうしてこんなことに!」


 異母兄、兄上の元婚約者、私たちをさげすんだ貴族たちの顔が次々と浮かぶ。

 殺してやる!


「殺してやる!」


 体の中が熱くなって、一気に力が弾ける。

 ぐわんと音がして、私を中心に爆風が起きた。


「力、力!私には力がある!」


 母上は魔女の末裔だった。

 そして今日初めてみたレーナさんは紛れなく魔女だろう。


「あいつらを殺す!」

「ソフィ!待って今はダメ!」


 突然背後からぎゅっと抱きしめられる。


「れ、レーヌさん?どうして止めるんです!私、魔法を使えるんですよね!あいつらを殺せるはず」

「魔法は万能ではないわ。しかもあなた、本当に魔法を使えるの?」

「使えるはずです。ほらみてください」


 私も周りが吹き飛ばされて、地面が剥き出しになっていた。


「それは魔力爆発。魔法ではないわ。私が魔法の使い方を教えてあげる。それから復讐すればいいわ。私も手伝ってあげる。今闇雲に行っても無駄足よ」

「でも、でも!」

「今はあなたのお兄さんのことを弔ってあげましょう。それから先のことを考えましょう」


 兄上の体は私のそばにあったので、吹き飛ばされることもなく、そこにあった。もう何も言わない。動かない体の兄上。あいつらのせいで!


「ソフィ。落ち着いて。まずはお兄さんを移動させるわよ」

「はい」


 そうして、私はレーヌさんと兄の体を抱えて、森を後にした。


 ☆


 兄上の骸をレーヌさんの家の近くの丘で弔ってから、私は早速魔法の使い方の訓練を始めた。

 基礎も知らなかった私はまず、自分の魔力を操る方法を教わる。それから基礎の魔法を教わって徐々に難しいものを習っていく。

 

「レーヌさん、もういいですよね?」

「仕方ないわね。今まで我慢したわ。計画を練りましょう」


 一年後、私たちはあいつらのいる城を襲うことにした。

 ターゲットは、異母兄、兄とも呼びたくない。

 王太子マグリットとその妃。

 兄上を裏切った女は王太子の妃に成り下がっていた。

 冷静に考えたら、最初からマグリットとあの女が関係があり、私達を貶めたとわかるものなのに、誰一人気づいていない様子。

 気づいても何も言えないんでしょうね。

 父なんて、呼びたくない。

 王も何も思わないのかしら。

 兄上は、あなたにそっくりな容姿で、とても優秀だったのに。

 だから逆に嫉妬したのかな。

 最低な男。

 母を選んだはずなのに、その裏では裏切っていた。

 最初から母を選ばず、添い遂げていたら、何も起きなかったのに。

 それであれば、私も兄も生まれていない。

 でも、こんな風に裏切られ殺されかけるくらいなら、生まれない方がよかったわ。

 そう言うとレーナさんはものすごい悲しそうにする。

 母上は私達を愛していたみたいだから。


「決行は明後日にしましょう。家族の晩餐があるみたいだから」

「家族ね。おかしいわ」


 笑える。

 本当に。

 殺してやる。みんな。


 城の近くまで馬車で移動。それから私とレーナさんは飛んだ。飛行魔法だ。私はあまり入ったことがなかったけど、王族のみ、家族の晩餐が行われる場所は知ってる。

 窓を風魔法で壊して中に入った。


「ひっ、魔女!」


 王妃が悲鳴をあげた。

 窓から入るなんて普通の人間にはできないでしょう?

 護衛はみんな部屋の外。扉に石化の魔法をかけてから、王、王妃、王太子と妃を眺める。


「お久しぶりです。陛下。あなたたちには死んでもらいます。私たちに穢らわしい疑いをかけ、陥れた上、殺そうとした罪で」

「お、お前は、ソフィーナか」

「ああ、気がつきませんでしたか?こんなに母上に似ている私に」

「魔女め!誰か、誰か!」


 王妃が耳障な声で喚いている。


「お前。私達を殺して国はどうするつもりだ。乗っ取るのか?」

「ご心配ありません。あなたたちが死んでも国はなんとでもなります。むしろ邪魔ではないですか?」


 王妃と王太子妃が国庫を疲弊されているのは有名な話だ。

 王は王妃の言うまま、王太子も同様。

 いない方がいいと思う。


「ふ、ふざけたことを言うな。お前が王になるつもりだろう?」

「馬鹿なことを言わないでください。王位なんて興味ありません。もううるさいですね。死んでください」

「ソフィー。本当にあなたがやる気?私が代わりに?」

「いいえ。お師匠様。私が殺します。兄上の仇をこの手で討ちます」

「ひいい!助けて、お願い。そんなつもりはなかったの。ね、私はあなたの姉になるはずだった。助けてくれるわよね」


 兄の婚約者だった女が喚く。


「うるさいですね。私はあなたが一番大嫌いなんですよ」


 それ以上声が聞きたくなくて、沈黙の魔法をかける。

 それから拘束魔法をかけた。


「わ、私が悪かったわ。許してちょうだい。死にたくないの」

「そうでしょうね。私の母も死にたくなかったはずです」


 王妃が泣きながら許しを乞う。

 でも私は知っている。


「母は裏切りによって心を病んで死んだわけじゃないわ。あなたが殺したのよ。毒を盛ったことは知ってるわ。母はそれを知って、どうにか私だけは助けようとした」

 

 母のお腹を切り裂くように産婆に頼み、私はこの世に出ることができた。母は毒が回るよりも先に血を失いすぎて亡くなった。


「私が悪かった。お前があまりにもディアーヌに似ていて苦しかったんだ」

「知ってますよ。そんなこと。だけど、あなたは母を裏切った。母を選んだのに、その女との関係を密かに続けていた」

「俺は、俺は何も知らない」

 

 王太子が今度は声を上げる。

 本当にうるさい。


「あなたが先か、その女が先に仕組んだか、私にはどうでもいいのです。仲良く死んでください」


 もう十分。

 私は火の魔法を放った。


「お師匠様。行きましょう」

「ええ」


 お師匠様は私たちの会話に口を挟むことはなかった。

 愚か者たちの体が火に包まれ、私はそれを見送ってから、お師匠様と一緒に窓から逃げ出す。

 一人、窓から落ちたものがいた。

 だれでもいい。

 助かるわけがない。


 その日、王たちは家族だけで晩餐をし、誤って蝋燭の火を倒して、家族全員が部屋で亡くなってしまった。

 そんな知らせが翌日、国中に広まった。

 王には弟がいて、その弟が次の王になった。

 無駄に使われる予算が減り、国庫は再び潤い、税率もかなり低くなり、国民たちの暮らしは上向いたようだ。


「……本当に女王にならなくてよかったの?」

「当たり前ですよ。お師匠様。王とかそういうのはもううんざりです。私は魔女として生きていきます」

「そうね。それがいいわ」


 私は魔女ソフィとして、お師匠の小屋で暮らす。

 毎日兄上の墓参りをしながら。

 本当は、私を貶めた全てのものに復讐したかったけど、兄上が悲しむと思って国を壊すのはやめた。新しく王になった方は公平で、私と兄上のことも調査してくれて、身の潔白を証明してくれた。だけど、王族に戻るつもりはなくて、私は兄上と共に死んだことになっている。


「兄上。天国で母上に会いましたか?私は元気にしていると伝えてくださいね」


 母上の記憶はない。

 だけどお師匠様から聞いた母上はとても面白い人だったみたい。

 そして優しかったと。

 私は王女ではなくなったけど、魔女ソフィとして、薬を沢山作り、今の王様へ売っている。少しでも人のためになっているといいな。

 

「兄上」


 墓石を撫で、空を見上げる。


「兄上。私はあなたの希望になれましたか?」


 一人で死んでいった兄上。

 希望になってくれと言ったのが最後の言葉だった。

 そよそよと優しい風が私の頬を撫でる。

 それが兄上の返事のようで、心が少しだけ軽くなった。


(おわり) 



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