雪道
完結にしてたのにすみません。最近寒いからほっこりしたくて……。
頭に言い訳すみません。
(二度謝罪)
男の子視点
しんしんと降り積もる雪。
キュッと、それまでずっと握っていた手を更に強く握り直して、ゆっくりと足を前に踏み出す。後ろから付いてくる少女は、この雪に対して何を思うだろう。
もしかしたら、人形のような彼女は何も感じていないのだろうか?
そんな、よく考えれば馬鹿らしい理由で俺は一度後ろを振り返った。そこには変わらずの距離で彼女がいて、その瞳はまっすぐと俺に向いている。
「雪だ」
俺が教えるようにそう言えば、彼女はゆっくりとした動きでコクリと頷いた。
見渡す限り、世界を埋め尽くしたかとさえ思わせるような真っ白な光景に俺は感動に似た感情を覚えたが、彼女はそれでも平然としたかのように落ち着いていた。
俺一人がはしゃいでる、と一瞬恥ずかしさを覚えた気がしないでもないが俺は急いで頭を振るった。それには彼女も驚いたのか、その目を少しだけ瞬かせた。
以前よりは、彼女のことがわかるようになってきたと思っていたが、やはりまだわからないことも多い。以前の通り、彼女が人形でないことがわかっていても心が読めるわけじゃないのだ。
結局、俺も何も変わっていないのかもしれない。
そんな謎の寂しさを感じて、俺はまた一歩踏み出した。
「…………雪、だね」
すると、突然後ろから鈴の音が聞こえた気がした。
慌てて振り返れば、変わらずそこには彼女が立っていて先程との違いといえば、俺ではなく景色を見ているようだった。
俺が「雪だ」ともう一度言えば、彼女もまた「雪だね」と言った。
俺は自分も何も変わっていない、と思ったがそれは間違いだった。自分は、変わっていないのだ。そして、彼女は少しだけ、以前よりも更に人間らしくなった。
一面に広がる雪の地平線を眺める彼女の瞳は、白い雪が反射してかキラキラと輝くように見えた。
それが、なんだかとてもキレイに思えた。
俺たちの元いた地域では数年に一度は雪が降っていた。けれど、これほど積もる姿は見たこともなく、雪道の中どのように歩くのが正解なのかも分からなかった。
後ろの彼女が転ばないかに意識を向けながら、ゆっくりと足を前に進める。
どこか寝泊まりできる場所を早く探そう。自然とそう考えるようになった俺は、周囲を確認しながらも彼女の手を引いて歩き続けた。けれど、ふとそれまで握っていた手がフルリと震えた気がした。振り返れば彼女はこれまで見たことがないほど頬と耳を赤らめ、唇の色は普段の桃色が抜けて白く染まっているように見えた。
俺はその時初めて彼女が寒さに耐性があるのか知らないことに気がついた。
初めての雪国で、半分心が浮かれていた自分を責め、俺は慌てて自身のポケットに突っ込んでいた布切れを彼女の顔に押し当てた。
ポケットに入れていたおかげで布切れ自体は体温の温もりを残していたが、それで足りるとは到底思えなかった。
一面に広がる白い景色。
どこか休める場所も温まれる場所もない。どうしたものかと俺が思考を回していると、彼女は俺がずっと押し付けていた布を押しのけた。
何を考えているんだ、と叱ろうと思って俺が口を開く寸前彼女は俺の手を引っぱって自分の頬をそれに押し付けた。
「っ?!!」
本当に何を考えてるのか分からなくて、俺はそれに抵抗することもできず身動きが取れなくなった。
触れた彼女の頬はその赤さに反して周囲に降り積もる雪のように冷たかった。
「……温かい、ね」
また一つ、鈴の音が鳴ったと思えば、触れていた彼女の頬は少しだけ温もりを取り戻したように感じた。
俺の手のひらは暖が取れるほど体温が高いのだろうか?
そんな疑問を感じながら、俺は気休め程度に彼女の首に先程彼女によって押しのけられた布を巻いた。長さは足りないが、所詮は気休めなのだ。
「行こう」
果てしない雪景色がどこまでも続く中、俺は再度彼女の手を握った。彼女は俺の言葉に従って付いてくるけれど、俺はその冷えた手を意識してもう一度握り直した。強く、彼女が痛がらない程度に強く。
「…………うん」
ふと、後ろから彼女の返事と取れる声が聞こえた。
もしかしたら俺が握り直した手から俺の思考を感じ取ったのか?
しんしんと積もる雪。寒くて凍えそうなほど冷たい雪。
まるで世界に俺たち二人きりのようにさえ錯覚させるような雪。
だからか、この手は離してはいけないと。そう感じた。
これから、雪だけじゃない沢山の景色を二人で見ることになる。きっとそれはとてもキレイだったり、辛かったりもする。それでも、この手を引いていこうと。彼女と二人で歩こうと、俺は彼女の手を握り直すたびに思う。
いいや、きっと思うから握り直すのだろう。
「寒いな」
俺がそう口にすれば、彼女も答えるように口を開く。
「……うん、寒いね」
それに、自然と頬が緩むのはきっと後ろにいる彼女には分からなかっただろう。
二人で歩いて行こう。
俺はまた、強くその手を握り直した。
本当にお付き合いくださりありがとうございます。
二人はまだまだ手を繋いで歩き続けていきます。