恋人つなぎ
女の子視点です。
ふと、視線の先に一組の男女が映った。
それはとても仲が良さそうで、寄り添い合うような姿。
それが何故か、とても気になった。
彼に手を引かれながら、目に映ったその男女の姿が忘れられなかった。
それが何故かもわからず、私はまた彼の背中を眺めた。
ふと、視線は彼の背中からその手に移った。
私を引っ張ってくれるその手の力が、不思議なほど弱くて、何かの拍子に離れてしまうのではないかと思うほどだった。
そしてまた、あの男女の姿を思い出す。
あの人達は、もっと近かったな。
それは、少しばかりの好奇心。
私は彼の手を強く握り返した。
すると、それに反応した彼が一度立ち止まり、こちらを振り返る。
私は、あの男女のように彼の隣に並んだ。そして引かれていた手とは反対の手を彼の腕に添わせる。
彼は不思議なような顔をしたあと、また歩き出した。先程より少しぎこちない歩みが、彼が私に合わせているのだとわかった。
先程よりも近付いた距離が、なんだか嬉しく感じた。
しばらく歩いていると、また男女を見た。
先程とは違う人だと思う。
けれど、先程の人達と同じようにとても仲が良さそうだった。
今、私も同じことをしているはずなのに、彼らのほうが距離が近そうに思えた。
それが不思議で、何が違うのだろうと考えた。
けれど、いくら考えてもよく分からなくて、もう視線の先にはいない男女の姿を何度も思い出した。
すると、一つ違う点が分かった。
それは手の繋ぎ方だった。
あの人達は、もっとこうぎゅっと、手と手を合わせるような、指を絡め合うような繋ぎ方だった。
ようやく謎が解けたような心持ちで、それを真似したくなった。
もっと彼と近づけるのかな。
また、彼に引かれている手を握り返して、彼がそれに反応するのを待った。
けれど、いつもならこちらを伺ってくる彼が、このときは全く振り返りもしなかった。
それを不思議に思って、もう一度強く握り返したけれど、それでも彼の反応はなかった。
もう、いいかな。
私は引かれていた手をモゾモゾさせて、無理やり手を捻った。彼はそれに気がついたようで、こちらにちらりと視線を送りながらも、そのまま歩みを止めることはなかった。
私は無理やり指を動かして、モゾモゾし続けたあと、目的がようやく達成された。
あの男女のように、指と指を絡ませるような手の繋ぎ方だった。
それに大分満足感を覚えた私は、またギュッと彼の手を握り返した。
すると、彼の方がビクリと疼き、またこちらをちらりと振り返った。
その様子を不思議に思って眺めていたけれど、彼とは目が合うこともなく、彼はすぐに前を見て歩み続けた。
ギュッギュッと、何度も確かめるように彼の手を握ると、それが少し楽しく感じ始めていた。
彼は握られるたびに肩を震わせたり、手を離したそうに何度か振ることがあった。
けれど、結局手を離されることはなかったし、歩みが止まることもなかった。
彼がどうしてそんな反応を見せるのかはわからなかったけれど、彼と近づいた距離が、私はとても嬉しく感じた。
何度もギュウギュウと彼の手を握っていると、手が湿ってきたように感じた。
不思議に思っていると、私の普段色のない手は少し赤みを帯びていた。彼と繋がっている手と手の間が熱く感じてきた。
それがなんだか嫌な感じがして、私は手を離したくなった。
彼の手を握るのをやめて、絡めていた指を離した。
けれど、彼が手を離してくれないと、全く離れられないことに気がついた。
このとき、近づいて嬉しく感じていたはずの距離感が、少しばかり不満に感じた。
手を離したい。
これまでそう思うことなんて一切なかった。
ずっと繋いでいたい。そう思っていた。
でも、このときはそう思っていたことを忘れてしまうくらい、離してほしかった。
離してほしくて、繋いでいた手を小さく振ると、彼はまたちらりとこちらを見た。
手を離したい。
そう思いを込めて彼の瞳を見つめた。
けれど、彼はまた視線を戻し、繋いでいる手を離すこともなかった。
いつもは優しい彼が、このときばかりはイジワルに見えて驚いた。
手を離してと、アピールするためにまた何度も手を振ったけど、彼は応えてくれなかった。
どうしてだろう。そう考え始めたとき。
ギュッ。
彼の手が私の手を握り返した。
ギュッ、ギュッ。
それが何度も繰り返され、私はなんだか顔が熱くなるように感じた。
イヤイヤ、と手を振っても、彼はまたギュッギュッと握り返してくる。
これを、さっき自分がやっていたということは、このときはすっかり忘れていた。
それから何度も握り返されて、顔がこれ以上ないほど熱くなってきたのを感じて、私は無理やり彼の手から逃れた。
その時、
「手、離したかった?」
と、言われたときは普段なら絶対しないのに彼を叩きたくなった。
彼の耳が始終赤かったことは、私は知らない。
恋人つなぎが羨ましくなった女の子は、恋人つなぎが恨めしくなった話。
お付き合い下さりありがとうございます。