気付きと成長
男の子視点
最近、彼女の様子が変わったように感じる。
前までは俺が声をかけない限りぼんやりしていた彼女だが、最近は違って思える。もちろん、彼女が普段何も考えてない人形だとは思っていなかったけど、人形みたいだったのは確かだ。
現に本当に彼女が人形だと思った奴らに、たくさんのやっかみを受けている。
でも、この土地に来てからの彼女はなんだか違う。
表情とか、話し声が変わったわけじゃないけど、…………纏う空気が、なんか違う。
以前までは流れに身を任せるような、そんなぼんやりとした空気だったのに、今はそう見えない。
でも、やっぱり何が違うのかはわからない。
雪の降る頻度が減り、外にも自由に出れるようになった俺は、最近は誰かの仕事の手伝いをしながら駄賃を稼いでいる。
俺が文字の勉強をしてることを知ってる人は、偶に文字の書いてある紙をくれたり、やわらかい雪の上になぞって教えてくれたりする。
その分駄賃減らされたりはするけど、文字が読めたら宿の人が一食分オマケしてくれている。
多分、完全にわかるようになったらそんなことはなくなるだろうけど、文字が読めるようになったら俺もここを出ると思う。
まぁ、状況によっては文字が読める前に出るかもしれないが。
「私も、付いていきたい」
昼間は駄賃稼ぎ、夜に文字を読む練習する生活を続けていると、突然彼女からそう声をかけられた。
最近、彼女から声をかけられることも増えてる。
俺なしで他人と喋るし、宿の人が扉を叩いてきたら俺よりも先に開けることもある。
そんな彼女の様子に気がつけば、なんだかおかしな気分になった。
流石に外の連中に話しかけられているときは止めるが、彼女も相手の反応に乗っているように思う。
危ない、そうわかってるのに、なんだか止めることに戸惑う。
「だめ?」
今だって、俺が遊びで外に出るわけじゃないってわかってるのに付いてこようとする。
今まではこんなことなかった。
俺がその手を引けば付いてくるけど、それ以外のときは静かに窓の外を見ていた。
外に出たくても、彼女を取り囲む多くがそれを勧めない。
「わかった」
反吐が出そうな気分を思い出せば、自然と口が動いていた。本当は危ないし、駄目だと言い切るべきなのに。
でも、初めて彼女のわがままを聞いた俺は、こういうときの正しい判断がわからなかった。
せめて、後ろを大人しく付いてきてくれればいい。
そう思って、彼女とともに宿を出た。
「お、ボウズ。今日は嬢ちゃん連れか?」
ここ数日仕事の手伝いをしてる港のオッチャンのとこまで行けば、俺に気が付いたオッチャンが早速そんなことを言ってきた。
俺はそれに適当に返しながら、彼女の様子を盗み見る。そこにはいつもと変わらない彼女が立っている。
何考えてるんだ。
「オッチャン、今日の仕事はある?」
流石に彼女ばかり気にしてはいられない。だから振り切るようにオッチャンに仕事を尋ねれば、オッチャンも「そうだなー」とのんびり答える。
「そろそろ、この港も開港だ。船を出す準備しねーと。今日はそっち手伝ってくれるか?」
オッチャンの言葉に頷きながら、俺はまた後ろにいる彼女のことを考える。船を出すと言うなら、積荷を運ばされたり内外の汚れ落としが今日の仕事だと推測をたてながら、その間彼女をどこで待たせようかと考える。
ちらりと彼女に視線を向ければ、目があった。
「待ってる」
え、と俺が声を出す間もなく彼女はあっさり俺に背を向けボロい小屋のそばで座り込んだ。座ってもなお俺に視線を向けてくるが、彼女はそれでいいらしい。
目があった瞬間、もしかしてまた今朝のわがままを言われるのかと思ったけど、どうやら思い違いらしい。
安心と同時に、やはり心配にもなったが、俺は彼女の視線を振り切ってオッチャンと船入の準備を始めた。昼になる頃には荷を運び入れ、日が暮れる前に外壁の汚れ落としを初めた。
その間も、彼女は静かに俺の姿を目で追っていた。
飽きもせず、ただひたすらに俺を見つめる彼女に、俺は気付かなかった。
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