第1話「クラスで暮らす」
この物語は、自己顕示欲高めの冴えない男・嵜村栄が都会の一角にある私立高校に入学するところから始まる。
六階建ての近代的な校舎。これこそが俺の夢見ていたスクールライフの舞台だ。高校生にもなれば自然と青春なんてできるだろう。だがそれでは満足できない。俺が目指すのは「最高の青春」だ。校舎入口横に貼られたクラス名簿に目を通し、自分の名前を確認、自分がこの高校の一員になったことに安堵する。一年二組の教室は三階だ。階段の運動は多少しんどいが、今日はアドレナリンが出ているためか全く苦ではない。バスから電車、そしてまたバスへ乗り換える段階で何度も階段を使う羽目になるが、ゆくゆくはそれすら避けたいものになるのかもしれないが。
俺は中学の連中のことが好きではなく、いや、多分きっと向こうも俺のことは大して好きでなかったと思うが、兎に角近所の高校への進学という選択肢はなかった。少しでも勉強して偏差値が周囲より高く都会にあるこの新土居高校に入る、という目標があった。そのため、同中の人は学年でも二人しかいない。つまり、あの時の俺を知る者はほぼいない。俺自身をリセットするにはもってこいではないか。逆に言うとこれから先の俺の高校生活が花咲くかどうかは俺の実力にかかっているということだ。
やはりそのような環境にいる所為か緊張し、始業のチャイムより一時間も早く着いてしまった。無論、教室にはまだ誰もいない。俺はただただ大きな窓に映る学校外の景色に目をやった。野球の試合も行われる通称「闘魂ドーム」、県下一番のデートスポットの中央タワー、さらには建設中のタワーマンション、奥には都市高速道路の大きな橋、目の前には新土居公園が眼下に広がる。眺望でここを上回る高校があるだろうか、いやない。
そんなこんなで景色に見惚れているとガララと音がし、一人の男が教室に入ってきた。俺より学ランを着こなした中性的な顔立ちの男だ。服装さえ違っていればボーイッシュ路線の女子にも見えるその男はひとまず「おう」とこちらに手を振った。
「俺は黒井渚だ。よろしくな。」
黒井と名乗る男は俺にこう言った。突然の出来事に頭がフリーズしているのか、明らかに可笑しな挙動をしたに違いない。こんな調子で最高の青春なんて手にできないわ、と刹那に自己嫌悪に駆られる。
「俺は嵜村栄。よろしく。」
巷でコミュ障と呼ばれる様な身振り手振りに目の泳ぎっぷりには流石の彼も驚いただろう。
「いよいよだな、高校。」
「ああ、黒井は何が楽しみなんだ?」
「ああ、俺のことは渚でいいよ。気に入ってるからね。何と言っても部活だなー。」
「わかったよ、渚。渚は部活何してたの?」
「サッカーやってたんだよ。高校ではまた違ったことをやりたくてね。」
一連の会話のうちに渚は運動が好きな男だということが分かった。俺も中学生の頃は運動部にいたけど、運動神経は鈍いままだった。運動が得意ならこんなに悩むことはなかっただろうな、などと考えてしまう。
兎に角、高校で最初の友達はこの渚という男だ。今後の高校生活は彼と共にすることになると思って良さそうだ、と直感的に思った。まあ、幼稚園から小学、中学は基本的に同じ面子で構成されていたわけだから今回もそうとは限らないのではあるが。
いつの間にか辺りには今日からのクラスメイト達が席に着いていて、始業まで残り数分、という時間になっていた。見るからに頭の良さそうな人、少し危険そうな人、上手に形容出来ない程美麗な少女、これから始まるドラマに不足なしの人々が揃っている。そして今、担任と思われる若めの男の教師が前扉を開け、緊張した空気が教室中に一瞬で包み込まれたのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
こちらの物語は私が高校1年生の頃に考えついた突拍子もない物語ですので、結構設定のガバガバな所が多いかと思います。
が、それを敢えて大幅に変えることなくほぼそのままの形で投稿するというのには拘りがありまして。
当時の僕が何を考えていたか、という自分史になるのではないか、というものです。
どうか温かい目で見てくだされば幸いです。