第一話 回復系でも夢を見たい
「生きてみてよかった!」
なんて一度も思ったことはない。
十八歳の少年"ヒナタ"は、そんなことを考えながら服毒自殺の用意をする。
ヒナタが選んだ毒は、シアン化カリウム。通称、青酸カリ。
致死量を摂取すれば、三十分から一時間程度で死に至ると言われている。
「彼女もできない、頭も良くない、友達もいない、それでいて何の変哲もない毎日。何のために生きてんだ全く...!」
青酸カリを摂取してから、死に至るまでの時間で、ヒナタが呟いた独り言は狭いワンルームの部屋にこだました。
時間が経つにつれて、意識が遠のく。
暗い深海に沈むような感覚に襲われて、魂と肉体が引き剥がされていくのを感じる。
「これで、やっと...」
「おーい」
「ん?」
「起きてよー。ねえってばー」
「いや、俺、死んで...」
「回復系が死ぬとか言うなー。縁起悪いぞー?」
目を擦りながら、その声の主の方向を恐る恐る見てみると、身長が30センチくらいで、猫のような姿形をしたマスコットがいた。背中には天使を連想させる羽を生やしていて、宙に浮いている。猫なのか天使なのか分からない。頭には天使の輪っかがついてはいるが。
「君、僕を見るや否や、怖い顔はしないでくれよー。こう見えても僕、幸福をもたらすマスコットなんだよー?」
「いや待ってくれ、頭が混乱してる...ここはどこなんだ...俺は死んだんじゃ...」
「まぁ、驚くのも無理ないよー。死んだばっかなのに、得体の知れない猫と、全く記憶にない国にいるんだからねー。ほら、こうやって見てみると、すごーく綺麗な街だよねん、ここ。まるでRPGだー。」
「猫なのかよ...」
マスコットはそう言うと、ヒナタの悪態を気にも留めず、かしこまった態度でこちらに一礼する。
「改めて、英雄の世界へようこそ。ヒナタ。君が僕の、初めての英雄になるんだ。今はまだ、回復系だけどね。」
ーーー了